軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百八十八話 意外な使者

復興は順調だ。

東部の商人たちによって食料の問題が解決され、彼らが北部の軍馬に目をつけたことで人の行き来も始まった。

避難民の街もドワーフたちの協力によって形になりつつある。

ドワーフの王であるマカールはシャルを中心とした北部の有力貴族たちと協議の場を持ち、ドワーフの入植について話を始めた。

そのドワーフの入植について、俺は父上に手紙を書いた。

届いた返事は使者を向かわせるというものだった。

詳細は何も知らされていない。

「誰が来るのやら」

「陛下の使者なら宰相じゃないかしら?」

「藩国の調略に忙しい宰相が来るのは現実的じゃないわよ。皇子の誰かじゃない?」

エルナの答えにシャルが反論する。

その通りなのでエルナは悔しそうな顔をするだけだ。

口じゃシャルには勝てないだろうしな。

「まぁ皇帝の使者に見合う格の人物だ。失礼のないように」

「アルに言われたくないわ」

「アルも誰かさんには言われたくないと思うけど」

「なんですってぇ?」

「何か文句があるの?」

「アルよりはちゃんとしてるわよ! この前も北部を救ったでしょ!? もっと感謝しなさいよ!」

「アルの作戦でしょ!? それに川を怖がってた醜態は忘れないわよ!?」

「怖がってないわよ! 苦手なだけだって言ったでしょ!?」

また言い合いが始まった。

シャルはどうもエルナとは協調できないようだ。

エルナは自分を尊重する相手には尊重で返すが、そうでない相手には対抗する。

だから二人は相容れない。

まぁ心底嫌い合っているわけではないから良しとするか。

「頼むから使者の前で言い合いはするなよ? 俺の評価が下がる」

「シャルロッテに言って!」

「エルナに言って!」

声が被る。

それに二人して顔をしかめた。

まったく、息が合ってるんだか合ってないんだか。

「セバス、使者の到着はどれくらいだ?」

「そうですな。そろそろ到着してもよい頃かと」

じゃあ出迎えにでも出るか。

そう思いつつ、俺は紅茶を口に含む。

その瞬間、後ろから声が聞こえてきた。

「出迎えは結構。もういるのでね」

「っ!?」

思わず紅茶を吹き出しかけた。

それは後ろから声が聞こえてきたのと、それが聞き覚えのある声だったからだ。

「セバス、勘が鈍ったんじゃないかな? 易々と後ろを取られるなんて」

「老体を揶揄うのは感心しませんな。あなたが気配を絶って近づけばさすがに気づけません」

セバスがいるとき、俺は結界を張っていない。

セバスが気づかないということがほぼないからだ。

だが、例外は必ずいる。

帝国でもわずかな例外が使者としてやってきた。

俺は急いで椅子から立ち上がり、振り向く。

すると窓から部屋に入ってくる桜色の髪の男性がいた。

その瞳の色は翡翠。

「勇爵!? どうしてあなたが!?」

「お父様!?」

そこにいたのはスラリとした中年の男性。

見た目的には三十代といっても通じるだろう。

端正な顔立ちに引き締まった体。しかし、気さくで柔和な笑顔。

間違いなく当代の勇爵、テオバルト・フォン・アムスベルグ、その人だった。

「お世辞にも行儀がいいとは言えない登場の仕方だったのは謝罪しよう。少し君らの様子が気になったのでね」

「心臓に悪いのでやめていただけますか……?」

「はっはっはっ! この程度で驚くほどやわではないだろ? 北部諸侯を率いて敵軍の真後ろに現れたそうじゃないか? 敵のほうがよほど心臓に悪かっただろうね」

「驚かすのは慣れてますが、驚くのには慣れてません」

「それはまずいな。人生は驚いてこそ輝くのだから」

そう言って勇爵はニッコリと笑いながらシャルのほうへ目を向ける。

さすがに勇爵が来るとは思っていなかったシャルは固まったままだ。

「シャルロッテ・フォン・ツヴァイク侯爵だね? 初めまして。テオバルト・フォン・アムスベルグ勇爵だ。新たな雷神にお目にかかれて光栄だ」

勇爵はすっと右手をシャルに差し出した。

シャルはどうしていいかしばらく迷ったが、おずおずと勇爵の手を握った。

「しゃ、シャルロッテ・フォン・ツヴァイク侯爵です……こ、こちらこそお目にかかれて光栄です。アムスベルグ勇爵」

「そんなに緊張しないでほしいね。勇爵といったって何かしてるわけじゃないからね。適当に帝国を散歩しているだけさ」

よく言うよ。

散歩といいつつ、反帝国組織を壊滅させて回っているくせに。

地方になればなるほど皇帝の目は届かなくなる。

だから勇爵は代わりに赴いて、そういう組織を潰しているのだ。

前は近衛騎士たちがその役割を担っていた。しかし、皇帝の警護を重視することになったため、勇爵がその役割を引き受けているのだ。

「さて、もう気づいているとは思うが、私が皇帝陛下からの使者だ。すぐに真面目な話をするかい? アル」

「いえ、少し時間をください……」

「そうかい……じゃあ」

勇爵の視線が今まで避けられていたエルナに向けられた。

エルナは緊張した様子で背筋を伸ばす。

これはあれだな。

説教だな。

「エルナ……私が何を言いたいかわかるかい?」

「……お、お父様に気づけなかったことでしょうか……?」

「わかっているじゃないか。私が刺客ならアルの首は飛んでいたよ?」

「も、申し訳ありません……」

「謝って済むなら近衛騎士はいらない。帝国の状況を考えれば、皇族一人一人の存在価値は高まっている。ましてやアルは北部全権代官だ。いまや皇帝が重用する皇子の一人といえるだろう。だから君がここにいる。仲がいいから君が派遣されたとでも?」

「……」

「もう少し落ち着きを身につけなさい。いまだに君を近衛騎士団長にという声が出てこないのは、そういうところが原因だと心得ることだ」

「はい……精進します……」

見るからに落ち込んだエルナを見て、俺はため息を吐く。

相変わらずだな。この二人は。

エルナは勇爵には頭が上がらない。

「勇爵。エルナはよくやってくれています」

「君はいつもエルナを甘やかす。だからこの子は君の前ではいつも気を抜くんだ。幼い頃だってね」

「お互い様ですから。エルナが護衛でいつも助かっています」

「やれやれ……あまりアルに甘えないように」

「はい……気をつけます」

落ち込むエルナを見て、勇爵は一つ息を吐く。

勇爵から見ればエルナはまだまだという感じなんだろう。

まぁ親だからつい厳しく見てしまうというのもあるはずだ。

「さて、じゃあ私はリーゼロッテ殿下に挨拶でもしてこよう。真面目な話はその後でいいかな?」

「はい。助かります」

「ツヴァイク侯爵。申し訳ないが、案内を頼めるかな?」

「は、はい! こちらです!」

そう言って勇爵はシャルと共に部屋を出ていった。

足音が遠ざかるのをしっかりと聞いて、俺とエルナは同時に深く息を吐いた。

「はぁ~……よりによって使者が勇爵だなんて……」

「寿命が縮まったわ……」

「あの方の前ではお二人とも子供ですからな」

セバスの言葉に俺は嘆息する。

どうしてこう、思い通りにいかない人間ばかり来るんだ。

嫌がらせの匂いを感じる。

しかし、同時にそこまで意味のないことを父上がするとも思えない。

「仕返しと実益を兼ねた人選か……」

勇爵のいう真面目な話はもしかしたらドワーフの件だけじゃないかもしれないな。