軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百八十四話 自信のある物

ラインフェルト公爵が北部にやってきてから数日。

商人たちが運んできた食料は至急、北部全体に届けられた。

食料という点ではこれで困らない。

「さて、これからどうするべきだと思う? ラインフェルト公爵」

「それをお決めになるのは北部を統括する殿下です」

「意見をくれ。自分の考えがあっているか確認したい。あなたならどうする?」

東部の公爵という立場ゆえか、ラインフェルト公爵は積極的に献策する気はないようだ。

あくまで助力しに来ただけ。

そのスタンスを崩す気はないんだろう。

だが、ラインフェルト公爵は傑物だ。

その考えが俺と一致していれば、大きな間違いには至らない。

「では、僕個人の意見を言いましょう。まずは避難民を一つにまとめるべきです」

「それは俺も考えた。避難民の街をつくろうと思っている」

「さすが殿下です。家を失い、何もない彼らには拠り所がありません。このままではどこにも定着できず、中途半端な状態が続くでしょう。彼らに故郷を用意するべきなのです」

「わかった。いくつか場所を選ぶとしよう。そこにドワーフを派遣して、村を作ってもらう」

「すべてドワーフ任せではいけません。自らの手で作ってこそ、愛着は湧くのですから」

「そうだな。避難民の中から有志を選び、ドワーフと共に街づくりをさせる。徐々に数を増やしていけば、混乱も少ないだろう」

「良い考えだと思います」

避難民の話はこれで終わりだ。

あとは実行に移すだけ。

しかし、避難民のことを解決しても北部の復興はならない。

「ラインフェルト公爵。もしもあなたが商人だったら、北部の何を売り出す?」

「お金を回すことをもうお考えに?」

「早いほうがいい。北部は冷遇されていたため、他の地域との接点が薄い。内乱前はそれでよかったが、内乱と大雨で大きなダメージを負った。ここからいち早く立ち直るには、ほかの地域との協力が必要になる」

「そのためには商人同士の行き来が肝要です。今回、僕が連れてきた東部の商人はあくまで一方通行。何もしなければ東部に帰ってしまうでしょう。彼らに北部の物は売れると思わせねばなりません。その物を知りたいのですね?」

「北部の食べ物は美味い。復興したあとは、それを売り出すこともできるだろう。しかし、北部で食べ物が足りないのに、外へ出す余裕はない。食料以外の何かが必要だ」

商機に長けるラインフェルト公爵ならば、北部が今、何を売り出すべきか的確に見抜くことができるだろう。

しかし、ラインフェルト公爵は一度開いた口を閉じた。

そして微笑むと。

「この話はツヴァイク侯爵も交えたほうがよいでしょう。お呼びいただけますか?」

「シャルが? たしかに北部貴族がいたほうがいいだろうが、やりづらくはないか?」

「お気になさらず」

ラインフェルト公爵にそう言われては断る理由もない。

俺はすぐにシャルを呼んだのだった。

■■■

「北部の特産物?」

「そうだ。外の地域と交流を深めるために、まずは商人たちを行き来させたい。しかし、食物は使えない。だからそれ以外の物を売りだしたいんだ」

「それは私に聞くよりは……ラインフェルト公爵に聞いたほうが……」

「これは北部にとって大事なことです。僕が決めるのは良いことではありません」

「しかし、公爵は商才に長けると聞きます。実際、東部の商人たちをあれだけ動かしてみせました。公爵の知恵をお借りできませんか?」

「復興とは他者に手を借りることはあっても、他者に背負ってもらうことではありません。手は貸しましょう。しかし、立ち上がるのは自らで。これは北部が立ち上がるための計略です。かつての北部の柱、ローエンシュタイン公爵とツヴァイク侯爵。お二人の孫であるあなたが考えるべき事案です」

まるで教師が生徒を諭すようにラインフェルト公爵は告げる。

ラインフェルト公爵をあてにしていたシャルは、少し恥ずかしそうにうつむいて謝罪する。

「申し訳ありません……他力本願でした」

「いえ、頼りにするのは悪くありません。頼りきりになってはいけないというだけです。少しだけヒントを。あくまで僕の考えですが」

帝国でラインフェルト公爵ほどの商才を持つのは一握りだ。

そのラインフェルト公爵がいけるだろうと考える物が、そうそう外れるわけがない。

それにラインフェルト公爵の顔には自信が見える。

おそらく隠している答えは、売れるという確信があるんだろう。

「北部で有名な物はなんです?」

それは単純な質問だった。

しかし、そのせいでシャルは困った表情を浮かべてしまった。

あまりに広くて何が正解かわからないのだ。

一応、俺の中にもいくつか答えがある。

だが、わざわざラインフェルト公爵がシャルを呼んだのだ。

シャルが答えるまでは何も言わないほうがいいだろう。

「……」

「わかりませんか?」

「申し訳ありません……世間知らずなものですから」

「確かにそうでしょう。他の地域の者ならすぐに答えられます」

「そんな簡単なものなのですか……?」

「簡単ですよ。では質問を変えましょう。北部が誇れる物はなんです? 心から誇れるというものを聞かせてください」

ラインフェルト公爵くらいの商才があれば、多少売り物が悪くても何とかできるだろう。

しかし、それを扱うのは無数の商人。

確かな質がなければ特産物にはなりえない。

ゆえに北部が誇れる物でなければいけない。

しばらく考え込んだシャルは顔をあげた。

そして。

「答えになっているかわかりません……ですが……私は北部の騎士はどこにも負けないと誇れます。祖父であるローエンシュタイン公爵が亡くなり、武威が衰えたかもしれません。ですが、北部の騎士は先の内乱で見せたように精強です」

「殿下はどうお考えですか?」

「俺も同意見だ。北部の騎士は帝国で注目を浴びている。内乱で活躍したからな。だからこそ、それを売りに出せると思う」

「お見事です。僕もそう思います」

「き、騎士を売り出すのですか!?」

慌てたようにシャルが叫ぶ。

それに対してラインフェルト公爵は首を横に振る。

「騎士を売るだなんて馬鹿な真似はしません。売るのは軍馬です。騎兵戦力として確かな力を見せつけた北部騎士。彼らが扱う北部の軍馬は質が良い。注目されている今、売り出すべきは軍馬でしょう。良馬の産地という印象がつけば、さらに商売はしやすくなります」

「今、帝国は戦争中だ。軍も軍馬は欲しいし、万が一に備える貴族も買い求めるだろうさ」

「では、そういう風に動くとしましょう。東部の商人たちには噂を流します。ツヴァイク侯爵。申し訳ないのですが、騎士たちに演習をさせることはできるでしょうか?」

「それは問題ありません……ただ、軍馬の数が足りるかどうか……」

「北部全体からかき集めれば平気だろ」

「でも、そんなことをしたら藩国との戦争が……」

これから藩国との戦争が待っている。

最低限の軍馬しかない状況では、騎士たちも満足には動けない。

だが、その解決策もラインフェルト公爵が持ってきてくれた。

「問題ない。北部全権代官として、北部の戦力を使わせはしない。東部からあれだけ騎士が来ているんだ。東部の騎士に働いてもらうさ」

「最初からそのつもりで騎士を率いてきたのですか……?」

「いえ、そこまで考えてはいません。ただ、北部の騎士たちの活躍を受けて東部の騎士たちも活躍の場を求めていました。だから各地の領主たちに騎士を借りてきたのです。大義名分はこちらにありますし……なによりあの国には借りがある。帝国を代表して戦えるならこれほどの名誉はありません」

ラインフェルト公爵の瞳に少しだけ怒りの色が見えた。

皇太子の死は多くの関係者に影を落とした。

リーゼ姉上もその一人だ。

その原因となった藩国。

許してはいないということだろう。

「よし、じゃあ動くとしよう」

「かしこまりました」

「わかったわ……それと公爵。よろしいでしょうか?」

「なんでしょうか?」

部屋を去ろうとするラインフェルト公爵をシャルが呼び止めた。

不思議そうにラインフェルト公爵が首を傾げる。

「公爵は東部をまとめる公爵です。その経験と知識を私に教えていただけないでしょうか? 時間は取らせません。どうか未熟者にご教授ください!」

「北部の新たな雷神を未熟者と言う者はいないでしょう。ですが、貴族の仕事は戦うだけではありません。僕が教えられることがあれば喜んで」

そう言ってラインフェルト公爵はニッコリと笑って部屋を出た。

しばらく扉を見つめていたシャルは、いきなり力が抜けたように椅子に腰を落とした。

「すごい人ね……」

「俺の将来の義兄だからな」

あれぐらいでなければリーゼ姉上を捕まえることはできないだろう。

そんなことを思いつつ、俺たちは動き始めたのだった。