軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十七話 幾度も見た光景

「ふぅー……」

アルバトロ公国の城で俺は一人になって大きく息を吐いた。

激動だった。レオに成り代わってから一体、どれほど気を揉んだか。

正直、疲れた。無理して背伸びするのは俺にはしんどい。

「レオどうしてるかなぁ……」

向こうは向こうで心配だ。

エルナがいるから、上手くアルらしい行動をとらせていると信じたいけどな。

俺が演じている以上、向こうも演じてくれなきゃ破綻する。

ただ俺以上に苦戦するのは目に見えている。レオはぐうたらに過ごすのが苦手というか、そういう風に過ごしたことがない。

経験のないことはやはり難しい。

「ま、考えても仕方ないか……」

上手くやっていると信じるしかない。

そのうえで考えるべきは別にある。

海竜レヴィアターノだ。

間違いなくS級超えのモンスター。今考えつく手っ取り早い討伐方法は二つ。

俺がシルバーとして出向くか、帝国側から皇帝の名代を派遣してもらって、エルナに聖剣を握らせるか。どっちかだ。

ただシルバーには南部に来る理由がない。冒険者ギルドにはまだ依頼は来ていないだろうし。

一方、皇帝の名代を派遣するにも行き来に時間がかかる。

どっちもどっち。名案とは程遠い。

「どうするかなぁ」

考えをまとめていると、俺の部屋の扉がノックされた。

一人にしてくれよ、と思いつつ、着崩していた服とぼさぼさの髪を整えてからシャキッとした声で返事をする。

「どうぞ」

「失礼します。エヴァがお礼を言いにまいりました」

そう言って入ってきたのはドレス姿のエヴァだった。

意識が戻ったか。できればもっと早く戻ってほしかった。そうすれば無茶をする必要なかったのにと思いつつ、そんなことは微塵も表情に出さずに甘い笑みを意識して浮かべてみる。

「ご無事なようでなによりです、エヴァ殿下。もう歩いても平気なのですか?」

「は、はい……その……助けていただき、ありがとうございました。皆が口をそろえてレオナルト皇子のおかげだと言っておりました。あなたはとても優しく、勇敢だと」

「過ぎた評価ですね。あなたを含めた生存者の救出に奮闘したのは、我が帝国の乗組員です。称賛を与えられるなら彼らこそふさわしい」

「まぁ……ではジュリオの姉として深くお礼申し上げます。ジュリオのために真っ先に海に飛び込んでくださったと聞きました。海竜がいるかもしれない海に飛び込むなんて、普通じゃ絶対できません。まさしく英雄の行いですね」

「無我夢中だっただけです」

そんな俺の返しにエヴァは優しく微笑む。

それに対して、俺は頬をひきつらせた。

この状況、この光景は幾度も見たことがある。外側からだが。

レオが活躍するたびに熱をあげる貴族の女たち。エヴァの反応はそれに近い。つまるところ熱を上げているのだ。海竜すら恐れず、人命救助をした英雄的なレオに。

そんなに熱っぽく見つめないでほしい。

だって俺はアルだし。困るんだ、非常に。

「そ、そういえばジュリオ公子の容態はいかがでしょうか?」

「さきほど目を覚ましました。皇子にお礼を申し上げていましたよ。あなたは理想の皇子だと。自分もいつかあなたのようになりたいと語っていました」

「そ、そうですか……」

姉には熱を上げられ、弟には憧れられる。

まずい。これ元に戻ったときに面倒なことになるぞ。

どうする? 嫌われるようなことをするか?

いや、無理だ。アルバトロ公国内でアルバトロの公女や公子に滅多なことはできない。それに不自然なことをすれば入れ替わりがバレる可能性もある。

だが、このままレオを続ければ熱は高まり、やがて恋になる。その光景を俺は幾度も見てきた。

エヴァの目はすでにカッコいい大国の皇子に夢中だ。

無理もない。この年代の少女は惚れっぽいし、夢見がちだ。加えてレオナルト・レークス・アードラーはそういう夢見がちな少女の好みにがっちり合うだけのスペックを持っている。

皇子だし、イケメンだし、優しいし、なにより何でもできる。

前半三つは俺も負けてないが最後の一つが俺との違いだな。うん。

同じ顔なのにイケメンとか言われたことないけど。

「レオナルト皇子。立ち話もなんですので、お部屋に入っても?」

「え、あ~……」

意外にグイグイくるな。この子。苦手なタイプかもしれん。

結局、幼い頃のエルナに対するトラウマで俺は活発な女が苦手だ。もちろんエルナも苦手だ。だが、あれは幼馴染だし勝手知ったる相手だ。なんとか対応できる。

けど、こういう知らないけどグイグイくる子はちょっとなぁ。

「あ、お邪魔でしたか……?」

「いえ、その……帝国への報告書を書いていたんです。手が放せないとは思ったのですが、エヴァ殿下の申し出も心惹かれるなと思いまして」

「まぁ……」

エヴァが顔を赤く染めて両手で覆う。

ああもう……。どうすればいいんだ、これ。

街に遊びへ出かけて、女と遊ぶことなんて何度もあった。しかし、言い寄られた経験なんて一度もない。

丁寧な断り方なんて知らないし、レオを演じる以上は好感度を下げることもできない。

「お忙しいところ失礼しました。またお伺いします。次は一緒にお食事でもどうでしょうか?」

「予定が合えばよろこんで」

笑顔で無難な答えを返しつつ、エヴァが帰った瞬間、俺は急いで扉を閉めた。

「まずいまずいまずい……まずいぞ……」

どうレオに説明する?

悪い、公女に惚れられたっていうか?

いやいや、それはさすがに駄目だろ。

なんとか彼女の憧れ混じりの恋慕を断ち切らないと。今は自分や弟を助けた英雄皇子にときめいているだけだ。余計なことはせずにいれば、そのうち気持ちは冷めていく。

「落ちつけ、俺。大丈夫だ、俺。こんな問題よりもっと大きな問題も解決してきたじゃないか。やってやるさ」

そんな決意を固めつつ、俺は机に向かう。

何だかんだ言っても今はレオなわけで、一応は帝国に現状報告の手紙を出さなきゃいけない。

ただどう報告するべきか。

素直に入れ替わったことを報告するか? いやそれだとレオとしてやったことが実は俺だったと帝国の上層部にバレる。それはつまり俺はレオを演じようと思えば演じられるだけの力はあるとバレることに繋がる。

それはよくない。非常によくない。

まだもう少し侮っていてもらいたい。

やはりレオとして報告するしかないか。

「レオならどう報告するかねぇ」

どうせついた頃には事態は変化している。

現状報告をしつつ、先を読んで書くべきだろう。

海竜の出現は帝国に被害を及ぼす可能性大。

アルバトロ公国との良好な関係を保つためにも、全権大使として父上に聖剣の使用許可を願う感じか。

これが届く頃には最悪、南部から一つの国が消えてる可能性があるってのが怖い話だけどな。

「さっさと冒険者ギルドに依頼してくれると助かるんだがな……たぶん無理な相談か」

アルバトロ公国は海洋貿易が発展し、海軍は強力だが陸軍はその分脆弱だ。一方、ロンディネ公国はその逆。陸軍は強力だが海軍はそこまでじゃない。

だからロンディネが攻め込むときは毎回、陸路からだ。

好戦的なロンディネに対して、アルバトロ公国はこれまで仲良くしている国から兵や装備を借りることで対処してきた。そのため、稼いでいるように見えてアルバトロ公国はそこまで豊かじゃない。

もちろん貧乏というわけじゃないだろうが、冒険者ギルドに竜討伐を依頼したらほかの国から兵や装備を借りる場合に問題が生じる。

だからアルバトロ公国はすぐに冒険者ギルドに依頼しないのだ。

これを改善するためにはロンディネ公国をどうにかするしかない。

アルバトロ公国は竜とロンディネに挟み撃ちにされているが、ロンディネをどうにかすれば竜に集中できる。

「とりあえずロンディネをどうにかするか」

方針は決まった。

今後の展開を予想しつつ、俺は帝国に向けての報告書作成に移ったのだった。