軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百四十話 ウィリアムの懸念

「どういうおつもりか? ヘンリック皇子」

ヘンリックの本陣。

そこにやってきたウィリアムは来て早々、そう言ってヘンリックを睨んだ。

傍にいる将軍たちも冷や汗をたらすほどの迫力だ。

怒っているのは明白で、理由ももちろん明白。

ヘンリックがウィリアムたちに渡すはずの兵糧を渡さないからだ。

しかし、そんなウィリアムを前にしてもヘンリックはどこ吹く風だった。剛毅というよりは鈍いだけではあったが、その様はウィリアムのことが嫌いな将軍たちには頼もしく映った。

「いきなり何の御用かな? ウィリアム王子」

「とぼけないでもらおう? 我が軍の不足した兵糧はあなたが持ってくる手筈だった」

「そうだ。しかし、兵糧が足りなかったのだ。我が軍が持ってきたのは我が軍の分だけ。あなたの軍の分はない」

「ふざけるな! 前線で戦う兵を飢えさせる気か!?」

「こちらを責めるのは筋違いというもの。元々、兵糧に関しては連合王国と藩国が困らせないと約束したはず。しかし、届く兵糧は疎らで量も少ない。どういうことかな?」

「それは説明したはず! 藩国で新たな義賊が現れ、我々の兵糧を狙い撃ちにしているのだ! それを踏まえて兵糧の護衛は増やしている!」

「だが成果は見えない。本国に問い合わせてはいかがかな?」

「……私に前線を離れろと?」

ウィリアムはヘンリックの魂胆を察していた。

兵糧を渡さないのはウィリアムにこれ以上、戦わせないため。

ウィリアムが退けばこの場の指揮官はヘンリックとなる。

あからさまな妨害行為だが、兵糧の運搬が滞っているのも事実。

ライナーが上手く運用しているが、そこまで余裕はない。そんな状況でウィリアムは兵糧を焼かれてしまった。

今、ウィリアムへの風当たりは強い。ヘンリックのことを訴えても味方は少ないだろう。

ゴードンも前線での手柄争いとみて、干渉はしない。

ウィリアムには打てる手がなかった。

「あなたは連合王国の竜王子だ。名声もある。ここで退いたとしても誰もあなたが怖気づいたとは思いませんよ」

「そんなことはどうでもいい。私が気にするのは城に籠ったレオナルトだけだ。抑えられるのか?」

「兵糧を得たところで敗戦した軍とその将。僕の敵ではありませんよ」

「では聞くが……戦歴は?」

「初陣は済ませている」

「相手は山賊ではなく、英雄皇子だぞ!? 南方の公国では海竜と戦い、帝国南部では悪魔に打ち勝ち、クリューガー公爵にも勝利した!」

「大規模な軍を率いたうえでの戦功ではない! 個人として優れているのと将として優れているのは別物だ!」

「彼は常に周りと協力して劣勢を跳ね除けてきた! まさしく将として優れている! 実際、包囲網が崩れても城を破らせてはいない!」

「城に籠るくらい誰でもできる!」

「やったことがない者が吠えるな! 食うに困ったこともない皇子にはわからないだろう! 籠城戦は辛く、忍耐の戦いだ! そして籠城戦こそ将の器が問われる! レオナルトの軍から逃げ出す者も裏切る者も出ていない! 彼が全軍を掌握している証拠だ!」

ヘンリックを一喝し、ウィリアムは傍に控える将軍たちに目を向ける。

ウィリアムがここまで食い下がるのは自分のためではなかった。

ヘンリックにこの場を任せ、もしも敗れた場合。

ゴードンの優勢は吹き飛ぶ。

レオは自由に行動できるようになり、ようやく手にした主導権を手放して、防戦に回ることになるだろう。

敵に渡った流れを取り戻すのは難しい。日和見を決めている北部貴族も動くかもしれない。

それをウィリアムは危惧していた。

「あくまで皇子は旗印。軍を動かすには将軍たちだ。包囲を突破されない自信があるのか?」

「敵の狙いは時間稼ぎ。打って出てくることはありません。ご安心を」

「そうです、ウィリアム王子。何も城攻めをするとは言っていません。王子が本国に確認を取る間、包囲を引き継ぐだけです」

将軍たちの言葉にウィリアムは音が鳴るほど歯をかみしめた。

打って出てくることはない。

誰がそれを保証するのか?

手柄欲しさに兵糧を渡さない皇子が、城攻めをしないと誰が言える?

それに追従する将軍が止められるとも思えない。

そうなれば犠牲になるのは前線にいる兵士たち。

ウィリアムの直下には黒竜騎士隊のほか、複数の竜騎士隊とおよそ三千の連合王国の兵士たちがいる。

彼らを撤退させるのは容易い。しかし、それ以外は難しいだろう。

「……いいだろう。私は本国に確認を取りにいく。私の直下部隊と私に従う兵士は後方に下げる。よろしいな?」

「ええ、どうぞ。そんな兵士がいるならですが」

嫌味な笑顔を浮かべるヘンリックを睨みながら、ウィリアムはその場を後にしたのだった。

■■■

状況は深刻だった。

当初、城に籠ったレオの本隊はおよそ二万。しかし敗走した軍であり、怪我人も多かったため戦えるのは半数の一万程度とウィリアムは見ていた。

ゆえにウィリアムは二万の軍で包囲を展開していた。近くに包囲を破れる軍もいなかったためだ。

唯一の懸念である皇族派の軍はゴードンが二万で封じている。

布陣としては完璧だった。しかし、空からの輸送で兵糧が届けられてしまった。

動ける者も増えただろうレオの本隊は、危険度が増していた。

それゆえの援軍。なのにヘンリックはウィリアムと協力する気がまったくなかった。

「状況は話したとおりだ。私の直下部隊は後方に退く。これよりの指揮はヘンリック皇子が取るだろう。従えないという者は私についてこい」

将軍たちに告げながら、ウィリアムは内心でため息を吐いていた。

ついてくる者などいないと思っていたからだ。

しかし、一人の将軍が声をあげた。

「私の部隊には怪我人も多い。ウィリアム王子と共に後方へ下がりたいと思います」

「フィデッサー将軍……」

意外な人物が声をあげた。

戦死したバルテルと共にウィリアムを嫌っていたはずのフィデッサー。

それがなぜ?

疑問がウィリアムを襲った。

「他の者は退かぬのか?」

「フィデッサー将軍。悪いことは言わぬ。やめておけ」

「どうしてだ?」

「ヘンリック皇子はゴードン殿下の弟君。血のつながりは半分ではあるが、こうして重用もされている。逆らえば地位が危うくなるぞ?」

「ふん……命のほうが大切だ。無能な指揮官の下で死ぬのはごめんだ」

そう言ってフィデッサーはウィリアムの傍まで行く。

そして一本の剣をウィリアムに見せた。

「戦死したバルテルの剣です。私はこの剣にゴードン殿下を勝たせると誓いました。無駄死にをするわけにはいきません。私の部隊も連れていっていただきたい」

「わかった。手配しよう」

ウィリアムはそう言ったあと、残る将軍たちに視線を向ける。

誰もがウィリアムとは目を合わせなかった。

仕方ないと諦め、ウィリアムは解散を告げた。

「……あなたは私を嫌っていると思っていました」

「好き嫌いでいえば嫌いですな」

「ではなぜ?」

「戦歴のない皇子にレオナルト皇子は止められません。私やバルテルが攻めた時とは違い、向こうは回復している。あなたがいなくなれば好機とみて動くでしょう」

それはウィリアムの懸念と一致していた。

バルテルにせよ、フィデッサーにせよ、勝算がなくて攻めたわけではない。

結果的に返り討ちにはあったが、敗走した軍を追撃するのは間違った戦術ではない。

実力で将軍まで上り詰めたたたき上げの軍人であるフィデッサーには、ウィリアムと同じものが見えていた。

「彼らで止められると思うか?」

「無理でしょう。ヘンリック皇子の傍にいる将軍たちは、あなたが出陣するときに拒否した将軍ばかり。状況も理解できず、前線で手柄をあげる気もない腰抜けです」

ゴードン陣営にとって誤算だったのは、ゴードン寄りだった将軍が思ったほど参加しなかったことだ。

現在も少しずつ陣営に加わる兵士や指揮官は増えているが、実績のある将軍はほとんどいない。

帝都の反乱に失敗したゴードンに勝ち目は薄い。

優秀な者ほどそう考え、動かない。

ゆえに駒不足が顕著なのだ。

「……大敗は避けなければいけない」

「もちろんです」

「私は実際に後方に下がるが、将軍は部隊を率いて近くに待機せよ。何事もなければいいが、万が一、味方が敗走してきたら助けてやってくれ」

「妙案ですな」

フィデッサーに万が一の場合を託し、ウィリアムは竜に跨る。

兵糧の問題については、いずれウィリアムが確認しなければいけないことだった。

それが早まっただけだと自分に言い聞かせ、ウィリアムは空に上がる。

「まだ決着はつかないようだな。レオナルト」

帝都、そしてここでの一連の攻防。

強敵と見定めた皇子とはどうしても決着がつかない。

しかし、ここでヘンリックが負ければそれはいずれ訪れるだろう。

その時まで勝負は預けると城に向かって呟き、ウィリアムは撤退を報告するためにヘンリックの本陣に向かったのだった。

そして少しして、後方に下がる竜騎士たちをレオたちはしっかり確認するのであった。