軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百三十一話 ゴードンの配下

帝国北部の東側。

ゴードン陣営の西側で籠城するレオたち本隊とは別に、南側でゴードンの軍と対峙する軍があった。

軍部の中でも信頼できると判断された軍。

将軍の名はハーニッシュ。

二十代後半の青年で、元々はエストマン将軍の副官だった。

帝都で起きた反乱時には南部の復興活動に携わっており、エストマン将軍の推薦もあってレオの下へやってきた。

片足を失い、半ば引退状態のエストマン将軍の配下三千と、自らの配下一万。合計一万三千の兵を率いている。

父のように慕うエストマン将軍への仕打ちに怒りを覚え、ゴードンにその怒りをぶつけてやろうと戦場まで出てきたが、今はその怒りを封印せざるを得ない状況だった。

「敵軍に動きは?」

「ありません」

代わり映えのしない返事にため息を吐き、ハーニッシュは対峙する軍を見つめる。

レオが率いる本隊への救援に行きたいところだが、対峙する軍はそれを許さない。

敵軍の戦力はおよそ二万。

率いるのは敵軍総大将のゴードンだ。

「舐められたものだ」

わざわざ総大将が出てきたのはハーニッシュを調略するためと、自らが討たれないという自負があるから。

その自負を打ち破ってやろうかと幾度も思ったが。そのたびに自制してきた。

ゴードンはハーニッシュを抑えているが、逆にいえばハーニッシュがゴードンを抑えているともとれる状況だ。

敵軍二万と総大将。それを引き付けられるなら悪くない。

もちろん状況は改善しないが、いまより悪くなることはない。

「手紙はどうだ?」

「また来ています。ゴードン自らの直筆です」

「リーゼロッテ殿下の直筆なら部屋に飾っておくところだがな。燃やせ、いらん」

「はっ」

最初の一枚こそ読んだものの、それ以後の手紙は一度も読んでいなかった。

ゴードンはなんとかしてハーニッシュを味方に引き入れたいのだ。

理由は当然ある。

ゴードン陣営に加わった帝国軍は意外に少ない。ゴードンの息がかかった軍はまだまだある。

だが、大半は状況を静観していた。ゴードンが帝都での反乱に失敗したからだ。

最大の好機を逸したゴードンについていいものかどうか。多くの将軍が迷っているのだ。

それは皇帝も承知の上。だから信頼できる将軍しか前線に向かわせていない。

しかし、ハーニッシュがゴードンにつけば流れは変わる。

元々、ゴードン陣営に属していないハーニッシュがゴードンにつくということは、それだけゴードン有利ということになる。ゴードン寄りの将軍たちはこぞってゴードンの下へ向かうだろう。

それをゴードンは狙っていた。

「ふん、ふざけたやつだ」

大方、横にいる貴族の提案だろうとハーニッシュは察していた。

ゴードンの軍はレオたちと合流する進路はふさいでいるが、撤退路は封じていない。

調略できないまでも、撤退させることができれば流れを変えられる。

撤退するということはレオを見捨てることになるからだ。

抜け目ない。

政治的な目がなければできない作戦であり、自分たちの有利を自覚している作戦でもある。

時間をかければレオが苦しくなる。

皇国との同盟はすぐにはまとまらない。皇国に旨味がないからだ。

そしてまとめるのはエリク。わざわざすぐにまとめてレオを助けるとも思えない。

「ホルツヴァート公爵め。いらん入れ知恵をしおって」

今頃、ゴードンの横にいるだろう大貴族の名を呼びながら、ハーニッシュは敵軍を睨みつけたのだった。

■■■

「敵軍に動きはありません。ゴードン殿下」

「ふん! だろうな」

ゴードン側の陣地。

そこでゴードンに報告するのは茶色の長い髪が特徴的な壮年の男。落ち着いた雰囲気と冷たい目が特徴的なその男の名はロルフ・フォン・ホルツヴァート公爵。

帝国の名門であるホルツヴァート公爵家の当主だ。

帝都の反乱時、ロルフはゴードンについた。

帝位争いの際、ロルフは安全策としてゴードン陣営には自分が、エリク陣営には次男を送り込んだ。どちらが勝ってもいいようにだ。

ホルツヴァート公爵家はそうやって自らの地位を維持してきた。

だが、反乱時にロルフはゴードンにつくことを決断し、長男のギードと次男のライナーも含めてゴードンの下へ走った。

それを見て、ロルフに続く貴族も少なくなかった。そのため、ロルフはゴードン陣営の中で確かな地位を築いていた。

貴族たちの騎士たちを合わせて、確かな戦力も保持しており、そんなロルフをゴードンも尊重していた。

だからこそ、回りくどいと思いつつもロルフの策に従っていたのだ。

「ホルツヴァート公爵。ウィリアムが敵の補給を許したらしいが、俺たちは悠長に構えていていいのか?」

「状況に変わりはありません。兵糧が来ようとレオナルト皇子にできることは籠城のみ。いくら長引こうと、状況に変化がないかぎりは皇国との同盟はなりません」

「耐えても援軍は来ないということか」

「その通りです。そして時間が経てば我々につく将軍も増えてきます。ウィリアム殿下は兵糧と引き換えに試作兵器の奪取に成功しました。その解析も始まっております。時間は我々の味方です」

ロルフの説明にゴードンは頷く。

今すぐに目の前の軍を叩き潰したいという気持ちはあったが、それをして負けてはしょうがない。

時間をかけても必ず勝つ。

今のゴードンは勝利に飢えていたのだ。

それがわかっているため、ロルフは持久戦を提案していた。敵国に囲まれた帝国にとって、最も嫌なことは戦争が長引くことだからだ。

「そういえば。ヘンリック殿下が出陣を願っておりましたが?」

「ヘンリックか……裏切ると思うか?」

「どうでしょうか。ザンドラ殿下の弟君ですから、性質的には裏切りそうではあります。ですが、すでに帝国には居場所のない身。裏切る度胸はないかと」

「同感だ。コンラートと母上は俺たちと別行動中だからな。駒が足りん。使うのも悪くはないだろう」

「では、部隊の指揮を任せますか?」

「そうだな。ウィリアムにも援軍が必要だろう。その指揮官に任じる。お前の長男も連れて行かせろ」

「かしこまりました。次男のライナーはどういたしますか?」

「あれは優秀だ。ヴィスマールでの内政に必要だから残しておけ」

「はっ」

一通りの指示を出し終えたゴードンは席を立つ。

敵軍は決して動けないとわかっているからだ。

「俺は寝る。よほどのことがなければ起こすな」

「かしこまりました」

そう言ってロルフは恭しく頭を下げる。

その仕草に胡散臭いものを感じつつ、ゴードンはそれを無視した。

どのような思惑があろうと、使えることには変わりがなかったからだ。

裏切るなら結構。

叩き潰すのみ。

ロルフが裏切ったとしても、北部での優勢は変わらずゴードンにある。

「いざというときの切り札もあるからな」

そう呟きながらゴードンは寝る準備に入ったのだった。