軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百二十五話 ただでは転ばない

城の上空で激しい空戦が繰り広げられている頃。

地上でも動きがあった。

「全軍前進! この機に城を落とす! 落としてしまえば兵糧など意味はない!」

指揮官代理を務めるバルテル将軍はそう言って攻撃指示を出した。

それはもちろん戦術的に正しい行動だった。

地上で圧力をかければ、輸送に人員が割けなくなる。さらに食事をして、休息をとることで兵士は回復する。

その休息の時間を与えないという意味もあった。

だが、それとは別にバルテル将軍には焦りがあった。

「くそっ……! ウィリアムめ!」

兵糧基地への出動をバルテル将軍は要請してしまった。

つまり、罠にかかった責任の大部分はバルテル将軍が負うことになる。

ウィリアムは考え込むふりをして、万が一のときの責任をバルテル将軍にかぶせたのだ。

無事に兵糧が運び込まれてしまったら、バルテル将軍は前線から外されるだろう。もしかしたら将軍の地位も危ういかもしれない。

なんとしても兵糧を運びこませるわけにはいかない。

顔をしかめながら、バルテル将軍は次々に指示を出していく。

戦場で武功をあげて将軍に上り詰めただけあり、バルテル将軍はこの事態に柔軟に対処していた。

城の包囲を縮め、攻城兵器での攻撃を中心に敵へ圧力をかけていく。

投石器の攻撃が飛竜に当たることはまずないが、まぐれあたりで輸送部隊に当たるかもしれない。そう敵に思わせるだけで効果はある。

あとは空の結果次第だった。

ウィリアムが敵を抜くことができれば、輸送は中断させられる。

自分に責任をかぶせたウィリアムを頼りにしなければいけない。そのことにバルテル将軍は忌々しさを覚えたが、それを内に封印する。

「全軍にウィリアム王子の名を叫ばせよ。士気をあげれば勝率もあがる」

微々たる効果だ。それでもやらないよりはマシだった。

だが、バルテル将軍は傍に仕える兵士の返事がないことに疑問を抱く。

今、バルテル将軍がいるのは臨時の指揮所。そこには多くの指揮官がおり、バルテル将軍の指示を各部隊に伝達している。

必ず伝令の兵士が待機しており、バルテル将軍の言葉を聞き逃すなどありえない。

「まさか……!?」

バルテル将軍は腰の剣に手をかけ、後ろを振り返ろうとする。

指揮所にいる面々の目は前方の城にある。

後ろの異変には気づきにくい。

やられた。

そう思ったときには、バルテル将軍の腹から刃が生えていた。

「ぐっ……」

「ご明察です、将軍。お命、頂きに参りました」

後ろにいたのは小柄な兵士だった。

だが、バルテル将軍配下の兵士ではない。

もちろんウィリアムの配下でもない。

「このっ……卑怯者め……」

「反乱を起こした者に卑怯者と呼ばれる筋合いはありません。それにだまし討ちも戦術ですよ」

そう言って兵士は剣を引き抜く。

バルテル将軍はその場で大きな音を立てて崩れ去った。

それでようやく指揮所にいた者たちは、バルテル将軍が襲われたことに気づいた。

一気に指揮所が混乱に陥る。

だが。

「落ち着け! 将軍を治療せよ! 我々は刺客を追う!」

近くにいた騎馬隊が指揮所の混乱を抑え、逃げ去った刺客の兵士を追っていく。

指揮所にいた者たちは彼らに追手を任せ、バルテル将軍の下へ駆け寄る。

「将軍! お気を確かに!」

「傷をおさえろ! 出血がひどい!」

「ばか、もの……」

バルテル将軍は側近たちの治療を止める。

もはや助かる傷ではない。

わざとだと直感でわかった。即死ではない程度、しかし出血で手遅れな傷をあえて与えたのだ。

理由はなぜか?

側近たちをバルテル将軍の治療に向かわせるためだ。

その間、地上部隊は指揮官不在となり、混乱に陥る。その時間が長ければ長いほど、混乱はひどくなる。

そして、理由はもう一つ。

「この場に騎馬隊など……おらん……」

血を吐きながらバルテル将軍は呟く。

近場の部隊の配置は把握している。

この場に騎馬隊はいない。すべて前線のはずだ。

つまり。

「あの部隊も……敵だ……」

「はい!? 将軍!? もう一度お願いします! 聞き取れません!」

バルテル将軍はその言葉を聞き、喋ることを諦めた。

もはや後を追うのも難しいだろう。

すべてを諦め、バルテル将軍は体から力を抜いた。

心残りは一つ。

「非力な部下を……お許しください……ゴードン殿下……」

仕えた主の覇道をこの目で見れなかった。

だが、それも悪くないと思えた。

もしも悪い結果のとき、それも見ないで済む。

幸せな夢の中で死ねるなら本望だった。

ゴードンが玉座に座る瞬間を頭の中で描きながら、バルテル将軍はゆっくりと目を閉じたのだった。

■■■

「お見事です。ヴィンフリート様」

「見事なものか。敵が油断していただけだ」

もっと上手くできたはずだと、不機嫌そうなヴィンを見ながらリンフィアは苦笑する。

レオの軍師であるヴィンは自己評価が恐ろしいほど低い。

「ですが、将軍を討って見事な脱出もできました」

「こんなのはアルの猿真似だ。見事というならアルの発想が見事だっただけだ」

ヴィンは奇抜な発想とは無縁な軍師だった。

自分から新しいものを生み出すタイプではない。

それゆえにヴィンは自らを三流軍師と位置付ける。

だが、そんなことはないというのがリンフィアの評価だった。

その証拠にヴィンは三千の精鋭を率いて支城にこもり、何倍もの敵軍を防いでみせた。

使った戦術に目新しいものは確かになかった。しかし、その状況では最適な戦術を素早く繰り出した。

今回のように敵軍に侵入というアイディアを生み出せずとも、それをすぐにアレンジできる力もある。

「自分に厳しすぎるのはどうかと思いますが?」

「自分に厳しいんじゃない。オレは将来の皇帝の軍師だ。多くのことができて当たり前というだけの話だ」

視点を高く設置し、自らの上にいる者たちを基準とする。

それがヴィンという人間の歪んだ点だった。

だが、その強い向上心はレオに通じるものがあった。

臣下は主君に似る。

実は良いコンビなのかもしれないと思いつつ、リンフィアは城へ目をやる。

「ジークは間に合ったでしょうか」

「どうだかな。まぁ戦場で子熊が歩いていても、誰も気にしない。しれっと城に入れるだろ」

敵の竜騎士団が移動を始めた時点でヴィンは奇襲部隊を編成し、敵の将軍を討ちとるために動いていた。

その過程でヴィンはジークを城に向かわせた。

一人くらい手練れがレオの傍にいたほうがいいと思ったからだ。

主戦場は空。いくら手練れでも空は飛べない。

役に立つかはわからないが、いないよりはマシだろう。

そんな考えを抱き、ヴィンは自分の至らなさに苛立ちを覚えた。

もしも役に立たなかったら貴重な駒をみすみす浮かしたことになる。

自分の考えの甘さに嫌気がさし、不機嫌になったヴィンを見て、リンフィアはため息を吐くのだった。

■■■

「今だ! レオナルト皇子を討て!!」

フィンが地上まで下がり、敵の陣形が乱れた。

その隙を逃さず、黒竜騎士たちはレオを狙いに動く。

させるかと、第六近衛騎士隊はレオの周りを固める。

だが。

「違う! 狙いは僕じゃない!」

レオを本気で狙うならばウィリアムとロジャーが真っ先に動く。

だが、二人はレオの視界からいなくなっていた。

本命は違う。

そしてその本命にレオは気づいていた。

「全員、自分の身を守れ! 狙いは魔導杖だ!」

わざわざ負傷した近衛騎士たちを後方に下げたのは、敵にみすみす魔導杖を奪われるのを避けるためだ。

輸送部隊の護衛を多少手薄にしても、それをするだけの価値が魔導杖にはあった。

空での大きなアドバンテージ。

それをウィリアムとロジャーは狙いにいっていた。

第六近衛騎士隊はレオの護衛に動いた。

広がっていた陣形が縮まり、レオを中心として密集しているが、離れたところで竜騎士と戦っていた近衛騎士はそれに間に合わなかった。

一瞬の孤立。

それを見逃さず、ウィリアムとロジャーはその近衛騎士に狙いを定めていた。

「くっ!」

「右だ! ロジャー!」

「了解!」

ウィリアムとロジャーによる挟み撃ちを受け、近衛騎士は身動きが取れなくなった。

そしてもはや勝てぬと悟ると、自ら魔導杖を抱えて天隼から飛び降りた。

渡すわけにはいかなかったからだ。

地面に落ちれば回収できるかもしれない。ここでやられれば確実に奪われる。

近衛騎士らしい忠誠心だった。

しかし、飛び降りる瞬間。

ロジャーの剣が近衛騎士を貫き、魔導杖を持つ腕をウィリアムがつかみ、腕ごと魔導杖を切り落として奪い去った。

「全軍撤退! もはや兵糧輸送は止められん! これ以上の被害は出すな!」

「くそっ! 追え! 竜王子を逃すな!」

ランベルトが指示を出し、第六近衛騎士隊が追撃態勢に入る。

それにフィンも上がってきて加わる。

だが。

「追撃はしなくていい。こちらの被害が増えるだけだ」

「ですが!」

「必要ない」

レオはそういうと一人だけ少し前に出た。

それを見て、撤退に入っていたウィリアムもレオと向き合う。

「兵糧はくれてやろう。その代わり技術はもらう」

「さすがは竜王子。ただでは転びませんね」

「……余裕だな?」

「そう見えますか?」

レオの言葉と表情に変化はない。

それでも絶対の自信がどこからか感じられた。

気を引き締めねば。

ウィリアムはそう決意を新たにして、その場を去る。

「フィン・ブロスト! アードラーの竜騎士! 勝負はお預けだ! 次は必ずその首をもらうぞ!」

そう言ってロジャーもウィリアムの後を追って、その場を去った。

レオはそのまま去っていく彼らから目を離さず、輸送と兵糧の分配を急ぐように指示を出す。

「終わった……」

「いいや、始まりだよ」

「殿下?」

「僕がここにいる以上、ウィリアム王子は自由には動けない。できるだけ彼を引き留める。これからはそのための戦いだ。君にも手伝ってもらうよ?」

「はっ! 必ずお役に立ちます!」

そう言ってフィンは頭を下げる。

こうして兵糧輸送作戦は無事成功したのだった。