軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百十五話 与える条件

「――俺の名前は帝国第七皇子、アルノルト・レークス・アードラー。問おう、竜騎士フィン。戦えるなら……夢を捨てられるか?」

俺の名乗りを聞き、フィンはポカンとした顔を浮かべていた。

その様子に俺が苦笑したところで、フィンは我に返って膝をついた。

「!? で、殿下とは知らず、ご無礼を! 申し訳ありません!!」

「出涸らし皇子に礼儀は不要だ。膝をついている暇があるなら、質問に答えてくれ。夢を捨てる覚悟はあるか?」

「それは……グライスナー侯爵家の竜騎士をやめろということでしょうか……?」

「そういうことだな」

戦う術は与えられる。

だが、それをしたらフィンの夢は叶えられない。

キューバー大臣が発明した六二式。本来ならレオに使わせるつもりだったが、フィンはレオ以上に適任だ。

速度と技術に優れた竜騎士。中、遠距離の射撃兵装との相性はばっちりだろう。

懸念点の魔力も問題ない。

兵器の開発が進めば、戦場の常識は変わっていく。

空戦は近接戦という常識は覆され、飛竜はより小型で機動力を求められていくだろう。

今までは飛竜は魔力の高い人間を嫌うということで、魔力の高い竜騎士は生まれないし、作ろうともしなかったが、これからは飛竜に慣れさせ、そういう竜騎士を作る時代になる。

帝国の魔導杖が今までの竜騎士を時代遅れに変える。

いや、帝国の魔導杖とフィン、そしてノーヴァの組み合わせがというべきか。

今日まで劣等だったフィンとノーヴァは六二式を使えば、これからの見本となる存在になる。飛竜と竜騎士の育成には時間がかかることを考えれば、今後十年は空に君臨できるだろう。

だが、そこに問題がある。

帝国の最新鋭試作兵器を使う竜騎士。しかもそれを使えば圧倒的活躍が予想される。

そんな竜騎士が一介の侯爵に仕えるなど許されない。ただ強いというだけではなく、これからのことを考えてフィンは貴重な存在となるからだ。

だからフィンが戦うことを選ぶなら、グライスナー侯爵家の竜騎士ではいられない。

「夢のために努力した。しかし、その夢はお前にはあまりにも小さい。戦いたいというなら俺の騎士になってもらう。それがお前に戦う術を与える条件だ」

「……」

「出陣には時間がある。とはいえ、いつまでも待ってはいられない。今日中に決めることだな」

そう言って俺は踵を返す。

だが、フィンは俺を呼び止めた。

「お待ちください!」

「……答えは決まってるのか?」

「……決まっています。夢はグライスナー侯爵家の竜騎士となることでした。ですが……このままそれに縋って、ここにいれば俺は後悔することになる。共に育った仲間を助ける力があるなら……どうかこの俺にお与えください」

そう言ってフィンは膝をついたまま頭を垂れた。

すぐに決断したのは大したもんだ。

でも、迷いがないわけじゃない。だが、それでいい。

長年の夢をすぐに諦められるような奴は信頼できない。

仲間の命と天秤にかけてフィンは選んだ。

その覚悟には褒美が必要だろう。

「よく言った。では、今からお前は俺の騎士だ。そして覚悟しろ。お前に与える力は強大で、良くも悪くも目立つだろう。味方は信頼し、敵はお前を倒すことに執念を燃やす。ただ戦場に出るだけじゃない。お前は帝国の武威を背負わされる。少しでも怖いと感じるなら今ここで辞退しろ。そのほうが穏やかに暮らせるぞ?」

「……穏やかに暮らしてなんになりましょう? 飛竜の維持にはお金がかかります。いずれノーヴァは用済みとなり、見捨てられます。俺はそっちのほうが怖い。価値を示さなければ俺は相棒を失う。ここで戦うことを選ばなければ……仲間も、相棒も、自分への信頼も。すべて失います。それに比べればその程度、どうということはありません」

そう言ってフィンは顔をあげた。

その目には強い意志が宿っている。

これからのリスクをすべて飲み込んで、それでも前に進むことを決意した強い目。自暴自棄でも、蛮勇でもない。

確かな自信と決意がその目には見て取れる。

良い目だ。

「ついてこい。さっそく試してもらおう」

そう言って俺はフィンを連れて領主の館へ向かったのだった。

■■■

「六二式魔導戦杖。本来は俺の弟であるレオに渡すはずだった、帝国の最新鋭魔導兵器だ。一本しかないから大事に使え」

「実戦に耐えられる魔導杖が……完成していたんですね……」

感激といわんばかりにフィンは六二式へ触れる。

そしてそのまま持ち上げてみせた。

「重いですね……自由に動くのは難しい」

「だが、竜騎士なら問題ない」

「……素晴らしいアイディアです。これで空戦は変わります」

「考えたのは宰相だ。それに変えるのはアイディアじゃない。お前とノーヴァだ」

空を飛ぶ騎士たちに魔導杖を持たせたら強いんじゃないか?

そんなの子どもでも思いつく。なにせ、空飛ぶ魔導師は強いからだ。しかし、空を自在に飛べる魔導師なんてそうはいない。

近衛騎士団の中にはそれなりにできる者たちはいるが、彼らは特殊だ。

毎回毎回、彼らを前線に引っ張り出すわけにもいかない。

だから魔導杖が開発され、それがまず第六近衛騎士隊に与えられた。結果が良好なら、いずれはターレの竜騎士たちにも与えられただろう。

だが、それは早くても数年後だ。六一式にも改善点は多いからだ。

この段階でフィンがこの魔導杖を受け取るのは異例中の異例。

ぶっちゃけ怒られても仕方ない案件だ。

「……感謝します」

「感謝はいい。感謝で勝てるわけじゃないからな」

そう俺がフィンに伝えると、廊下から騒がしい声が聞こえてきた。

それは領主代理のバーナーと第六近衛騎士隊長のランベルトだった。

二人にはさっき伝令を出していた。

バーナーにはグライスナー侯爵家の竜騎士、フィンは俺が預かると伝え、ランベルトには、面白い竜騎士がいたから六二式を使わせると伝えた。

さすがにぶっつけ本番で戦場には出せないから、第六近衛騎士隊に模擬戦の相手をしてもらうつもりだ。

「なにやら騒がしいですが……」

「領主代理が怒ってるんだろう。自分の家の竜騎士を勝手に取られたから」

そう俺が言った瞬間。

部屋の扉が開け放たれた。

そこには明らかに不満顔のバーナーがいた。

「殿下! 我が家の竜騎士を殿下が預かるというのはどういうことですか!? 詳しくご説明を!」

「そのままだ。フィンは俺が預かる。返すつもりもない。この内乱が終われば正式に皇族直下の竜騎士とする」

「そんな勝手な!? 臣下の騎士を皇族の方が奪うなど!」

「戦力として期待せず、腐らせておくよりはいいだろう。お前たちにはフィンを活かせない。せいぜい偵察と伝令をやらせるくらいだろう? もったいないことは嫌いなんだ」

「それは理由にはなりません! あまりにも勝手です!」

「勝手で結構。言ったはずだぞ? ターレの全戦力は俺が預かる、と。文句があるなら戦後にしろ」

バーナーの訴えを跳ね除け、俺は視線をランベルトに移す。

ランベルトは不満という顔ではない。ただ、フィンを値踏みしているようだった。

「力試しが必要だろ? ランベルト隊長」

「もちろんです。作戦に参加させるならば部下の納得も必要ですから。実力があるならば認めます。戦力を遊ばせておく余裕はありませんので」

「よろしい。模擬戦をする。そちらは何人か選出しろ」

「……一対一ではないのですか?」

「一対一で勝てるのか?」

近衛騎士が負けるというのは不名誉なことだ。たとえ模擬戦でも。

そして適当な相手に勝っても納得しない者が出てくる。

大事なのは納得。ならば強い奴を倒すに限る。

俺の意図を察したのか、ランベルトは苦笑しながら頷いた。

「ではうちの副隊長を出しましょう」

「だそうだ。近衛騎士隊の副隊長。相手にとって不足はないな」

いきなりとんでもない相手と模擬戦をすることになったフィンは、顔をひきつらせる。

だが、その目は怖気づいてはいない。

これは面白いものが見れそうだ。