軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百十一話 偽装出発

第六近衛騎士隊隊長、ランベルトは日焼けした肌が特徴の男だ。

年は三十代前半。

地方貴族の四男として生まれ、家督を継ぐことはほぼ絶望的。軍に入っての栄達を目指していたランベルトだったが、天隼への適性を認められて 隼騎士(ファルコン・ナイト) への道を歩むことになった。

メキメキと力をつけ、第六近衛騎士隊に入隊したランベルトは各地への連絡、偵察といった任務で帝国に貢献してきた。

しかし、本人は前線での戦闘任務をずっと要望していた。

自分たちこそ空では最強。そう信じているし、それは自信過剰でもない。だが、話題に上がるのは竜騎士や鷲獅子騎士の話ばかり。

戦闘に出ない隼騎士が最強と認められることはないのだ。

ゆえに今回のことは願ったり叶ったりだろう。

もちろん、それ以外にも戦場に行きたい理由はあるだろうが。

「連合王国の竜騎士など我々が蹴散らしてくれましょう」

「頼もしいな。だが、一つ言っておくことがある」

「なんでしょうか?」

「俺たちの目的はレオの救援。これが第一目標だ。それを肝に銘じておけ」

「もちろんです。言われるまでもありません」

「本当か? 親友の敵討ちがしたいんじゃないのか?」

俺の言葉にランベルトは押し黙る。

ランベルトには親友がいた。同じ近衛騎士隊長であり、同年代だったオリヴァーだ。

帝都の反乱の際、ランベルトは北部国境にいた。藩国からの侵攻が予想されることを伝えるためだ。

そういう任務が第六近衛騎士隊の任務だとランベルトもわかっているだろう。だが、自分が帝都にいればと思わないはずがない。

オリヴァーは結局、多数の剣をその身で受けた状態で発見された。文字通り、体を張って足止めをしてくれたんだろう。

だが、直接の死因は腹部の傷だ。背中からの不意打ち。

裏切者の近衛騎士隊長、ラファエルがオリヴァーを殺したのだ。そしてラファエルはゴードンの下にいる。

北部の戦線に参加すれば遭遇することもあるだろう。

その時にランベルトは冷静でいられるだろうか。

「……友の仇を討ちたいと願うのは間違っているでしょうか……」

「間違ってはいない。当然の想いだ。しかし、オリヴァーは最期まで近衛騎士だった。帝国のためにできることをした。任務を放棄して敵討ちに走れば、オリヴァーの想いを裏切ることになるだろう」

「……わかっていますが……」

「わかっているならいい。任務はちゃんとやれ。お前は近衛騎士隊長なのだからな。任務をやったあとに敵討ちはしろ。任務が成功さえすれば何をしようと文句は言わん」

「殿下……」

「正直、俺もラファエルにあったら一発殴りたい気持ちだからな。見かけたら代わりにやっておいてくれ。まぁあくまで任務優先だが」

気持ちを抑えきれてない奴に駄目だというのは無駄だ。きっとその時になったら本能で動いてしまう。

それなら認めてやったほうがいい。ただ、俺も譲れない部分がある。任務の成功だ。

そこだけはちゃんとやってくれるなら文句は言わない。

ただし。

「逆に討ち取られるなんてことは絶対に避けろ。すでに近衛騎士団の隊長の内、一人は死亡、一人は離反。任務で帝都を離れている者も多い。これ以上数を減らせば、父上を守ることだけで手いっぱいになるぞ」

「了解いたしました。すべて心に刻みます」

そう言ってランベルトは静かに頭を下げたのだった。

■■■

次の日。

俺は昨日の内に出発する気だったのだが、宰相がそれに待ったをかけた。

精鋭をさらに加えるというので、仕方なく俺はキューバー大臣の発明品の中から、使えそうなものを選んで時間を潰した。

そしてやってきたのは意外な部隊だった。

「殿下のご出陣と聞いて飛んできましたよ」

「宰相も案外過保護だな。近衛騎士隊だけじゃなくて、君らまでつけてくれるとはな」

俺の目の前には百人ほどの部隊がいた。

その代表者は俺がよく知る人物だった。

ネルベ・リッターの指揮官、ラース大佐だ。

宰相はわざわざネルベ・リッターの内、百人ほどを呼び寄せてくれたらしい。

ネルベ・リッターの主任務は帝国中央部の防衛。いつ、どの軍が反旗を翻すかわからない状況で、反乱の際に駆け付けたネルベ・リッターの信頼は厚い。

だからこそ、帝国中央部に留め置かれていた。

そのうちの百人とはいえ、ラース大佐も含めて貸してくれるとは。至れり尽くせりとはこのことだな。

「あの日より、皆、殿下の指揮の下で戦いたいと願っておりました。この命、殿下にお預けします」

「帝都の反乱の時に指揮を取ったと思うが?」

「あの程度では指揮を取ったとは言いません。本気の殿下に皆、期待しておりますので」

「やめてほしいね。そういうのは」

そう言って俺は肩をすくめつつ、黒いフード付きのマントを用意する。

表向き、俺はまだ寝ていることになっている。

いつものように誰にもバレないと余裕をかましてはいられない。

「では、出発するとしようか。まずは西部方面に進む。どうせ帝都には敵の目があるだろうからな。夜までは西部へ行くと見せかける」

「夜の闇に紛れて、北部に転進するという作戦ですね?」

「そんなところだ。ちょうど持っていく物が結構あるからな。輸送任務ということにしておこう」

そう言って俺は数台の馬車を指さす。そこにはキューバー大臣の発明品がぎっしりと詰め込まれている。

本人的には失敗作が多いらしいが、使い方次第じゃ戦力になる物をチョイスした。

「第六近衛騎士隊は先行ですか?」

「そうだ。一緒に行動してると目立つからな。彼らとは北部で合流する。セバス、周りへの警戒は任せたぞ」

「かしこまりました」

そう言ってセバスが音もなく姿を消す。

敵の手の者が俺たちを怪しみ、後をつけたとしてもセバスが対応するだろう。

まぁ、セバスがいなかったとしてもネルベ・リッターの後をバレずに追跡するのは困難だ。

厳しい訓練で高い練度を維持しているネルベ・リッターはどんな任務にも対応できる。強行突破から隠密行動まで、なんでもござれだ。

あえて危険を冒して追跡しようとする者はいないだろう。帝都の情報を仕入れる目と耳は、敵にとっても重要だ。それを失う危険を覚悟してまで、西部に向かう部隊に興味は示さない。

「しかしまぁ、第六近衛騎士隊にネルベ・リッターまで与えられたら失敗は許されないな」

「元より失敗する気などないのに、心配するフリはおやめください」

「おいおい、俺はそこまで自信家じゃないぞ? ちゃんと失敗するかもと思ってる」

「顔はそうは言ってません。どう相手を謀ってやろうか。そんな表情です」

「人を詐欺師みたいに言うな」

「詐欺師のほうがまだ優しいと思いますが。それで、今回はどう動くおつもりですか? よければご教示願えますか?」

「別に大したことはしないさ。まぁ道中説明するよ。君らにも動いてもらうしな」

そう言って俺は馬に乗ろうとする。

だが、それを急いでやってきた騎士に止められた。

「殿下! 陛下が顔を見せてから行けと!」

「はぁ? 出立の挨拶はしたはずだが?」

「それはそうなのですが……」

騎士は困った表情を浮かべた。

この騎士を困らせても仕方ないか。

「わかった。顔だけ見せてこよう」

そう言って俺は城へと向かったのだった。

■■■

玉座の間。

そこには俺と父上しかいなかった。

そして用件らしい理由は置かれた大きな軍旗だろう。

赤地に黒と白の交差した双剣。

見たことがない新しい軍旗。

「これを持っていけという話ですか?」

「……元々はレオナルトの軍旗だ。ただしレオナルトのモノとは剣の配色が逆になっておる」

「間違えたんですか?」

「馬鹿者、あえてだ。儀礼の際にお前が使うことを考えて作らせた」

「またややこしいことを……これを持っていけと?」

「そうだ」

「軍を率いる気はありませんし、戦場じゃ見分けはつきませんよ?」

「どう使うかは任せる。いいから持っていけ」

そう言って父上は黙り込む。

そんな姿を見て、俺はぽつりと呟いた。

「今更、心配になりました?」

「心配にもなる。今更、お前を戦場に出すことになるならもっと学ばせればよかったと思っておるところだ」

「今更ですね」

「今更だな」

また、しばし沈黙が続く。

父上は皇帝らしく玉座に座っているが、その顔は父親のものだった。

宰相が傍にいなければ、ときおり弱気が顔を出す。

そういう側面が見え始めたのは皇太子が死んでから。

すでにザンドラも死んだ。

子がどんどんいなくなることが悲しいんだろう。

だが。

「――俺は皇族です。そしてあなたは皇帝だ」

「……わかっておる」

「なら仕方ないと思うしかないでしょう。聞いているとは思いますが、オリヴァーが父上に謝っていましたよ。責任を感じていたんでしょう」

「ああ、聞いている。トラウゴットとクリスタが伝えてくれた」

「今回の一件は皇族が起こしたことです。すべては皇族の責任。なのに近衛騎士が責任を感じている。おかしな話です。死ぬのは前線の兵士であり、騎士であり、民たちなのに。怨嗟の声は俺たちには届かない。すべてゴードンが悪いのだと喧伝するからです」

「そうだな……」

「でも、民は見ています。兵士は見ています。騎士は見ています。届かぬ怨嗟の声は彼らの内にある。この一件は手早く片付けるべきです。皇族の全力を注いで、皇族が血を流して、皇族が命を懸けて解決すべき一件です。あなたは皇帝で、俺はあなたの息子です。前線に出るのは義務です」

「ほかの皇族ならばその論法も通ろう。しかし、お前は義務を放棄し、その代わりに侮辱を受け続けた。今更、皇族の義務に縛られるのはおかしな話だ。お前が立派に義務を果たしても、過去に受けた侮辱は消えぬ。悔しくはないか? 悲しくはないか? 理不尽だと思わぬか?」

その言葉は父上の本音だろう。

皇族が尊重されるのは血筋ゆえ。そしてその身に背負った義務ゆえ。

俺は義務を放棄して、尊重されてこなかった。

だから今更、皇族の義務に縛られるのはおかしいというのはわかる。

だが。

「すべて自分で選んだことです。俺は俺の責任で、義務を放棄して出涸らし皇子と呼ばれた。それは誰のせいでもありません。そして今回、前線に出るのも俺が選んだことです。義務を感じたからこそ、俺は選んだ。ですが、俺が戦場に向かうのは帝国のためではない。家族と近しい人たちのためです。俺は――家族や近しい人が最期に謝る未来は見たくない」

だから俺は行きます。

そう言って俺は父上に一礼して、そのまま背を向けた。

そんな俺に父上は一言声をかけた。

「……武運を祈る」

「……吉報をお待ちください。皇帝陛下」

そう言って俺は玉座の間を出て、そのまま帝都を発ったのだった。