軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百九十七話 討伐

さて、トロシンはどう出る?

諸外国の圧力は公然の秘密ではある。しかし、それを認めるのは評議会としては致命的だ。

認めてしまえば俺への査問は無効になり、評議会の中立性が問題視される。

しかし、認めなければ帝国がこの問題を大事にする。今は何もないかもしれないが、状況が落ち着いたときにくる攻撃は計り知れないものだろう。

逃げ道のない二択。どっちを選んでも地獄だ。

それを突きつけるあたりフィーネの怒りがうかがえる。

フィーネは他人を追い詰めるようなことは滅多にしない。必ず逃げ道を用意する。今回はそれがない。

さてさて、この怒りの二択をどう回避する? トロシンギルド長。

「フィーネ大使……そのようなことをいきなり言われても困りますな」

「残念ながら評議会が撒いた種です。諸外国からの圧力ならば、帝国も評議会に文句を言う気はありません。しかし、そうでないならば評議会の責任は重い」

冒険者ギルドの歴史とこれまでの実績を考えれば、こんなことを認めるわけにはいかない。これまで大陸全土の国々に冒険者ギルドは中立であると触れ回ってきたからだ。

認めてしまえば信用が失われる。そして信用はすぐには取り戻せない。

だが、認めなければ事態はより深刻になる。帝国がどんなアクションを起こすにせよ、原因を作った評議会メンバーの責任は避けられないだろう。

冒険者ギルドとしての誇りか、評議会の保身か。

どちらに転ぼうがフィーネからすれば構わないんだろう。

それに対して、トロシンは軽く唇を噛み締めた後、ピットマンをジロリと睨んだ。

「ピットマン君。君は最近、諸外国の大使とよく会っているそうだな?」

「え? そ、それは……」

ピットマンは押し黙る。

諸外国との連絡は外務長の管轄だ。ピットマンがそれをやるということは、秘密裏の会合。トロシンが知らないはずがない。

これは……。

「フィーネ大使。私は誓って、諸外国の圧力など受けていないが……査問を主導したピットマン監査長はもしかしたら圧力を受けたかもしれない」

「なっ!?」

「私が先日訊ねたときは、査問に必要だと答えていたが……実際はどうなのかね? 圧力を受けて査問を進めたのではないか?」

トカゲのしっぽ切り。

査問をピットマンに主導させている時点で、トロシンの中にはその策があったんだろうな。

万が一、不利になればピットマンにすべてを被せて終わらせる。

策謀でギルド長まで上り詰めた男なだけはある。たいしたリスク管理だな。

保身の天才といえるかもしれない。

だけど、そういうやり方はフィーネの嫌うやり方だ。

チラリとみると、見るからに目が怒っていた。

内心、どうしてくれようかと考えているんだろうな。

「答えたまえ! ピットマン君!」

「あ、そ、その……わ、私は……」

オロオロとピットマンは周囲を見渡すが、誰も助け船は出さない。日頃からトロシンの威光に頼って、横暴に振る舞っているからだ。

トロシンの身代わりにされるのも仕方ないだろう。

そんなピットマンはどうするべきかと視線を彷徨わせ、そして俺に目をつけた。

「も、申し訳ありません! 聖竜を討伐された連合王国からの圧力がとても強く……!!」

「やはり圧力を受けていたか! これは大問題だぞ! しかし……聖竜の討伐がそこまで尾を引くとは……」

トロシンがチラリと俺を見た。

俺にも責任があるという風に持っていきたいんだろうな。

だが、聖竜の問題で俺に責任を被せるのは不可能だ。

「一つ聞きたい。ギルド長」

「なにかな?」

「ギルド長は俺が聖竜を討伐したことが間違いだと思っているのか?」

「……結果的には、な」

「ではこの場にいるすべてのSS級冒険者に訊ねよう。お前たちが俺と同じ立場だったらどうしていた? 討伐か? それとも放置か?」

こいつらを集めた理由は二つ。

一つは評議会の対抗手段を奪うため。

もう一つは聖竜討伐問題への対処のため。

評議会はこの問題に重きを置いていた。

なぜならギルドが討伐しないと決めたモンスターを討伐したから。それは評議会への反旗に他ならない。

面子を潰された評議会は、この問題を決して放置しない。

それはわかっていた。だから全員を集めた。

奴らの答えもわかっていたからだ。

「「「「――討伐」」」」

一拍置いて全員の声が揃う。

トロシンの顔が苦虫を嚙み潰したようなものに変化する。

今日はずいぶんと表情が変わるな。

「そもそも連合王国のドラゴンを守護聖竜として、討伐対象から外したのは評議会よ。その守護聖竜を連合王国は他国への侵攻に使った。これは評議会の責任じゃないかしら?」

「連合王国は侵攻に使ったわけじゃない」

「意図はどうでもいいのよ、ギルド長。私は結果について語っているの。あなたが結果的に討伐は失敗だったと言っているように、ね。国境を越えた時点でそれは侵攻よ。そうでしょ?」

「そうじゃな。間違いでしたで済むなら国境などいらんからのぉ」

「さっさと討伐してればいいんだよ。あのドラゴンたちのせいで、連合王国周りでどれだけ船が沈められたと思ってんだ? 討伐されて怒ってんのは連合王国だけだぜ?」

「ですが、それを鑑みて評議会は自国の防衛のみに終始するならばと条件をつけました」

評議会を非難する声ばかりの中で、ノーネームがやや庇うような発言をした。

それを見てトロシンが何度も頷きながら同調する。

「そう! そのとおりだ! 連合王国がまさかそれを破るとは……」

「破っても問題ないと判断したのでしょう。今の評議会ならば黙らせられると」

「な、に……?」

「簡単に言えば舐められているのですよ。今の評議会は。積極的に連合王国を非難するべき立場でありながら、その圧力に屈しているのがよい証拠です」

「そ、それはピットマン君が!」

「非難もしなければ、制裁もしない。何もしないのは圧力に屈したも同然ですよ。ギルド長」

ノーネームの言葉にトロシンは怒りで肩を震わせる。

SS級冒険者の中でノーネームは自分側だと信じていたんだろう。

「……君には多くの便宜を図ってきたはずだが? ノーネーム」

「感謝しています。よい関係をこれからも続けたかったです。しかし、あなたは選択を間違えた」

「私が間違えただと?」

「ええ、彼らを敵に回した。抑止力として私を当てにされても困ります。一人で四人を相手にするのはごめんです。そんな損な役を引き受けるわけがないでしょ? 沈む船からは降りさせてもらいます」

「……おのれ……!」

トロシンがSS級冒険者を全員睨む。

しかし、その睨みに対して全員が睨み返した。

思わぬ反撃にトロシンは椅子から転げ落ちた。

そんなトロシンを鼻で笑いながら俺は提案する。

「諸外国の圧力に屈し、影響力の落ちた評議会では冒険者ギルドを適切に運用するのは不可能だろう。SS級冒険者として俺は評議会の解散を提案する」

ギルド評議会はギルド長によって決められる。

確定している議員はギルド長と副ギルド長のみ。

ギルド長さえ望めば、辺境の支部長も評議会に入れる。

しかし、遠くの支部長と連絡を取るのは不便であるし、本部の各部署を受け持つ長を入れたほうが色々と便利なため、基本構成はこれまでほとんど変わったことはない。

では、解散とはどういうことか?

冒険者ギルドのギルド長の任期は三年。それが終わると選挙が始まる。一定ランク以上の冒険者とギルド職員が対象だ。

ギルド長が変われば評議会も変わる。

つまり、俺はギルド長の解任を要求したということだ。

トロシンは立ち上がって、俺を睨みつける。

「……それを飲む理由が私にあるかな? 私の任期は後一年以上残っている!」

「SS級冒険者が全員、それを望んでいるとしたら? 賛成なら手をあげてほしい」

俺の言葉を受けて、全員が手をあげた。

これを無視することはギルド長でもできはしない。