軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百九十二話 フィーネの宿

フィーネの宿屋に戻った俺は、騒然としている近衛騎士たちに首を傾げる。

「どうした? 何かあったか?」

「うん、あったよ。あなたの転移門からSS級冒険者のノーネームが出てきて、勝手に部屋へ入っちゃったんだよ」

「常識のない奴め。一言借りると言えないんだろうか」

「常識がある人は勝手に他人を宿屋に転移させないんだよ? わかるかな? ここ、フィーネ様のために貸し切ってるんだよ?」

「それは知っている。さすがに貸し切りじゃない場所に転移はさせない。他の客に迷惑だからな。ああ、査問までの間、ノーネームはここにいるから食事の手配を頼む」

「……」

素直に頼んだのにオリビエは呆れたようにため息を吐いた。

ほかの近衛騎士からも駄目だこいつという視線を向けられている。

なぜなのか。

あ、なるほど。

「安心しろ。俺は別のところに泊まる」

「当たり前だね。あなたにまで泊まられたら私たちが過労で死んじゃうよ」

「そうか? 俺とノーネームがいれば護衛は必要ないと思うが」

「あなたたちが一番危険なんだけど、言ってもわからないかなぁ。とりあえず、ノーネームが魔導具を置いていったんだけど? あれ、どうするの?」

オリビエはそう言って廊下に無造作に置かれた魔導具を指さす。

貴重な魔導具を床に置くとは。価値の分からない奴め。売ればいい値段がつくのに。

「帝都まで運んでおいてくれ。俺の報酬だ」

「なんであなたの報酬を私たちが運ばなきゃ駄目なのかな?」

「どうせ帝都に戻るんだからいいだろう?」

「あなたも戻るでしょ? しかも一瞬で」

「まぁ運べないことはないが、ここから帝都までの転移門をそれなりに持続させるのは魔力が勿体無い。だから運んでおいてくれ」

「近衛騎士を便利屋みたいに使わないでくれるかなぁ……」

オリビエはそう言いつつも、部下に運んでおくように指示を出す。

柔軟なのは良いことだ。非常に助かる。

「丁重に頼むぞ? ダンジョンからの戦利品だからな」

「ダンジョンからの戦利品って……あなたどこに行って、何してたの?」

「皇国内にあるダンジョンの中でノーネームと一戦交えただけだ。ダンジョンは崩壊したが、魔導具は無事回収できた。危ないところだったがな」

「〝だけだ〟? お願いだから帝国内では絶対にやらないでね?」

「当たり前だ。帝国内の貴重なダンジョンは壊したりしない」

「ダンジョンを壊したことを言ってるんじゃなくて、SS級同士で戦闘になったことを言ってるんだけど? わかるかな?」

「ただの手合わせだ。気にするな。周りには十分配慮している」

「ただの手合わせでダンジョンを壊すのはSS級冒険者くらいだよ」

「失敬な。帝国の女勇者だってそのくらいはするだろ?」

「エルナはあなたとは違って、それなりの常識を持ってるよ」

「あの女に常識だと……?」

俺の中で常識のない女といえばエルナなんだが……。

きっとオリビエはまだ付き合いが浅いからわからないんだな。

可哀想に。これから振り回されることになるんだ。

心の中でオリビエに同情しつつ、俺はフィーネの部屋へ向かったのだった。

■■■

「お帰りなさいませ」

「ああ、ただいま……」

部屋に入り、結界を張ると俺は椅子に倒れこむようにして座る。

さすがに疲れた。ノーネームだけじゃなくて、ここまでの疲れが一気に来た感じだ。

短期間にSS級冒険者四人と会うというのは心労が半端じゃない。

「オリビエ隊長がノーネームさんが来たと言っていましたが?」

「ああ、約束は守ってくれるみたいだ。査問までここに置いておいてくれ」

「わかりました。ほかの方たちはどうされるんですか?」

「査問の日に迎えにいく。忍ぶという言葉とは無縁な奴らだからな」

「リナさんは賑やかでしたからね。他の方も賑やかなんでしょうね」

あれを賑やかと評するとは、フィーネは大したもんだな。

そんな評価はきっとレオでもできないぞ。

フィーネはやはり大物だな。

そんな風に思いつつ、俺は仮面を外そうとして思いとどまる。

「……やめておこう。仕返しが怖いからな」

「仕返しですか?」

「ああ。ちょっとノーネームの仮面を剥いじゃってな」

「はい? なぜそんなことに……?」

「これは俺の悪い癖だと思ってるんだが……俺は余裕をかましている奴の足をすくうのが好きなんだ。その癖がつい出てしまった」

「協力を求めにいったのに怒らせてしまったのですか? あ! でも、結果的にこちらに来ていただけましたし、むしろよかったのでは? やっぱり秘密を知っていてもらうというのは、心が楽ですし」

フィーネが手を叩いてそんなことを言った。

確かに俺もセバスとフィーネという秘密を知る人がいる。

ノーネームにもそういう人物が必要かもしれない。

「なるほど、一理あるな。やっぱり秘密をため込むとパンクしそうになるしな。俺もそういう時期があった」

「はい! なので、ノーネームさんと仲良くなりましょう!」

「仲良くか……でもなぁ、なんか色々と訳ありそうなんだ」

「訳あり? ではなおさら支えが必要では?」

「確かにそうだ。暴走されても困るしな。けど、女の子なんだ」

「女の人だったんですか? だったら私も協力できるかもしれません! 女性とお友達になるのは得意です!」

「女性っていってもSS級冒険者だぞ?」

「慣れてます!」

「そっか。なら親しくしてやってくれ。あっ……俺が色々話したのは内緒な?」

「大丈夫です! 女性だと知らない感じで話しかけるので」

自信ありげに両手で拳を作るフィーネを見て、俺は何度か頷く。

フィーネがノーネームと親しくなってくれれば、俺への敵対心もなくなるだろうし、失敗してもリスクはない。

とりあえず任せるとするか。

上手く仲良くなってくれれば色々と聞き出せるかもしれない。

ノーネームとしても打算を働かせて、フィーネとは仲良くなることも考えるだろう。フィーネはエルナに近い存在だからな。

顔を見れたとはいえ、謎が多いことには変わりない。色々と探ってくれるなら助かる。

「それじゃあ任せた。俺は査問の日までクライドの屋敷にいる。査問の日を決めた以上、向こうからこれから大きな動きをすることはないだろうが、一応、評議員たちに会うようにしてくれ」

「警戒させないためですね?」

「そうだ。こちらが焦っているように見せれば、油断してくれるだろう。どうせなら驚いてもらわないと。SS級冒険者がすべて集まるなんてめったにないからな」

そう言って俺はニヤリと笑う。

俺を査問する立場として、余裕をかましている評議員どもの度肝を抜くのはさぞ気分がいいはずだ。

自分たちは絶対に大丈夫な位置から俺を攻撃する気満々だろうが、そうはいかない。

他者を追い詰めるなら、反撃を警戒するべきだ。

ましてや相手はSS級冒険者。

攻撃するなら身の破滅くらいは覚悟してもらおう。

「楽しみだな」

「あんまりにも酷いことは控えてくださいね?」

「向こうの出方次第だな。まぁとりあえず、俺の査問なんか言い出した奴らは全員、評議員の椅子から降りてもらおう」

「それには大賛成です!」

ムッとした表情をフィーネは浮かべる。

フィーネはフィーネなりに鬱憤が溜まっているらしい。

それもあと少しだ。

覚悟してもらおうか。ギルド評議会。