軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百八十話 馬鹿騒ぎ

そして冒頭に戻る。

フィーネとの会話を終えた俺は転移門を作り出し、早々に出発の準備を整えた。

「シルバー様。まずは誰から会いにいくのですか?」

「確実に居場所がわかってるのは一人だけだ。また迷子になる前に御老公を最初に当たる」

「〝迷子の剣聖〟が最初ですか。残るは〝両極の拳仙〟〝放浪の弓神〟……そしてシルバー様と同様に多くの謎に包まれた〝空滅の魔剣士〟。全員、噂だけが一人歩きしている状態ですが、話は通じますか?」

「話が通じそうなのはエゴール翁くらいだ。あの人が厄介なのは極度の迷子癖だが、今は一つの場所に留まってるからな。その点じゃ楽だ」

そうじゃなければ数十年単位で迷子になる人だから、一番見つけるのが難しく、そのため話を聞いてもらうのが一番難しい人となる。

「他のお三方は?」

「会ってみなきゃわからない。協力が取り付けられないとは思わないが……大きな借りを作ることになるだろうな」

奴らが無条件で俺に協力するとも思えんし。

探すのも大変だが、説得も大変だ。

どいつもこいつも人の話を聞かないしな。

「はぁ……」

「頑張ってください! 私もここでできることをやります!」

「そう言ってもらえると少しはやる気が出るよ。じゃあ行ってくる」

「はい。行ってらっしゃいませ」

そう言ってフィーネは頭を下げた。

そんなフィーネに見送られ、俺は転移したのだった。

■■■

俺が転移したのは帝国内にある自治領・ドワーフの里。

エゴールはそこでソニアたちを守っているはずだ。

ソニアを利用したゴードンはいまだ健在。少なくともゴードンが完全に無力化されるまでは、傍を離れるとは思えない。

俺を使ってまで助けたくらいだしな。

エゴールは珍しくソニアを気に入っている。

そんなことを思いながら、俺はドワーフの里を歩く。

ソニアたちが暮らす小屋の傍に来たが、そこに人の気配はない。代わりに里の中心で大きな音が聞こえてきていた。

「祭りか?」

どう見てもどんちゃん騒ぎをしている。

ドワーフは大酒飲みで祭り好きだからな。何かあればすぐに酒を飲み、祭りを行う。きっとそれだろうな。

そう判断して歩いていると、中心に近づけば近づくほど酒を抱えて寝ているドワーフがちらほらと増え始めた。

地面で寝るもんじゃないと起こそうか迷ったが、気持ちよさそうに寝ているし、そもそも一人、二人の話じゃないので諦めて先に進む。

すると馬鹿笑いが聞こえてきた。

巨大な焚火を囲み、ドワーフたちが酒を飲んでいた。この様子だと昨日の夜からずっと騒いでるな。

その中で一際うるさいのはガタイのいいドワーフの男たちの集団。

その中心にいるのは小柄なドワーフの老人。

「ほれほれ! 見えまい! この剣聖の手さばきを見るがよい!」

「わっはっは!! いいぞ! もっとやれ!」

「すげー! 本当に速すぎて見えねー!!」

「……」

エゴールはドワーフたちの中心で一芸を披露していた。

それは素っ裸になり、二つの桶を使い、高速で股間を隠すというものだったが、さすがは剣聖というべきか、恐ろしい速さで交互に桶を入れ替えるので確かに見えない。

大陸中の剣士たちがこの光景を見たら絶句するだろうが、それを見て、周りのドワーフたちは腹を抱えて笑っている。

この様子じゃ披露するのは今日が初めてじゃないな。

だから嫌なんだ、SS級冒険者は。

「はぁ……」

ため息を吐き、俺は天を仰ぐ。

何が悲しくてあの老人に協力を仰がなければいけないんだろうか。

視線を戻すと、おふざけはグレードアップしていた。ドワーフたちはつまみの木の実らしきモノをエゴールの股間目掛けて投げる遊びを始めた。

「行け! 突破しろ!」

「うぉぉぉぉぉ!!」

「甘いわ! わしの防御を突破できると思うでない!」

そう言ってエゴールは桶で防御する。

それを見て、ドワーフたちは残念そうに叫び、若い者が挑戦者として名乗りをあげる。

さて、どうするべきか。

正直、あの集団に声を掛けたくない。

そんな風に思っていると、ドワーフの女性陣がお盆を持って現れた。

「はいはい! ご飯だよ! 服着な!」

「なに!? もうそんな時間か! 結局、わしの防御は突破されずじまいか……」

ちょっと残念そうにエゴールが呟く。

突破されたかったのか……。

よくわからん人だ。

呆れてその場に立ち尽くしていると、ドワーフの女性陣に混じってご飯を運んできたソニアがやってきた。そしてソニアはすぐに俺に気づいた。

「嘘……? どうしてあなたが!? 何かあったの!?」

「んん?」

ソニアの声を聞き、ようやく馬鹿騒ぎをしていたドワーフたちが俺のほうを見た。

全員、酒が入っているせいか、顔が真っ赤だ。

「誰だ? あの陰気そうな奴は?」

「陛下、知らないんですか? あれですよ、あれ。帝都で話題の……ゴールドです!」

「シルバーだ」

疲れて強く何かを言う気にもなれない。

とりあえず訂正すると、陛下と呼ばれたドワーフの男は何度か頷き、豪快に笑う。

「おお! そうか! そうか! エゴール翁の同類か! 良いところに来た! 酒を飲んでいけ! 幸い、東部国境のお姫様と公爵から酒は大量に贈られてきたからな! 好きなだけ飲んでいけ!!」

「そう言ってもう何日も飲み明かしてるじゃないですか……そろそろ休んでください」

呆れた様子でソニアはドワーフの王に告げる。

ずいぶんとドワーフたちに馴染んだものだ。

そんな風に思っていると、エゴールが俺の前にやってきた。

いまだに服は着ていない。

「良いところにきた! シルバー! わしの防御を見てみよ!」

そう言ってエゴールは高速で桶を入れ替える。

すごいのはすごいんだが、だからどうしたという気分になる。

「……それで?」

「里の若い者では相手にならん! お主がやってみよ!」

「おお! SS級冒険者同士の戦いか! いいぞ! やれ!」

ドワーフの王は乗る気なようで、他のドワーフも歓声をあげた。

そして俺の手に木の実が渡される。

思わずソニアを見るが、ソニアは苦笑しながら答える。

「やらないと終わらないと思うよ」

「そうか……」

「どこからでもかかってくるのじゃ!!」

意気込むエゴールはさらに高速で桶を動かす。

俺は一度ため息を吐くと、一気に体を強化して木の実を投げつけた。

タイミングなんて関係ない。

木の実は桶に当たったが、桶を貫通してエゴールの股間に直撃した。

「ぐぉぉぉぉぉ!!??」

「うぉぉぉぉぉぉ!!」

「すげー! やりやがった!」

「さすがSS級冒険者だ!」

「……はぁ」

ここに来てから何回目のため息だろうか。

エゴールは股間を押さえてうずくまりながら呟く。

「ろ、老人を労ろうとは思わんのか……」

「俺の認識では桶で遊ぶような人物は老人とは言わん。とりあえず話がある」

「ちょっと待つのじゃ……油断していたから痛くて痛くて……」

油断してなかったら痛くないのか……。

そんなことを思いつつ、俺は再度ため息を吐いたのだった。