軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百五十二話 姉の部屋

ザンドラが下で暴れたせいか、城は上も下も大混乱中だ。

そんな中、部屋の近くにエストマン将軍たちがやってきた。

将軍に掛けていた幻術を解き、俺は部屋で待ち受ける。

ゆっくりと部屋の扉が開かれ、側近に支えられたエストマン将軍が現れた。

「来たか」

「殿下……」

「災難だったな。将軍」

俺の言葉を聞いたエストマン将軍は側近から手を離すと、床に膝をついて深く頭を下げた。

「申し訳ありません……!! すべては私の責任でございます……! 大恩ある皇帝陛下に任せられた城を守るという大任を果たせないばかりか、人質になり、兵士たちは皇族の皆様に剣を向けることとなりました……!」

涙を流しながらエストマン将軍は謝罪を口にする。

それに対して俺は部屋にある隠し通路を開けながら告げる。

「――責任は皇族にある。反乱を起こしたのはゴードンであり、協力者はザンドラだ。あの二人を押さえつけられなかった父上やエリク兄上の責任であり、追い詰めたレオや俺の責任だ。だから気にするな。皇族の責任まで背負う必要はない」

「殿下……」

「だが、将軍としての責任は果たしてもらう。今、望まぬ反乱に参加させられている兵士たちがいる。彼らへの責任が将軍にはある。彼らを止めろ。これは将軍にしかできないことだ。兵士に指針を示すことが将軍の仕事ならば、このために将軍はいるといってもいい。できないとは言わせない。罪のない多くの兵士の命がかかっている。必ずやれ」

俺の言葉を聞いたエストマン将軍は歯を食いしばり、支えを使わずに片足で立ち上がって見せた。

「お任せください……必ずやり遂げてみせます」

「よろしい。では行くぞ」

そう言って俺はエストマン将軍たちを連れて、隠し通路に入る。

時間はあまりない。すでに日が昇り始めている。アリーダたちは玉座の間から移動しているだろう。

時間をかければかけるほど無駄な犠牲が増え、無駄な負担がアリーダたちにかかる。

だから俺は早歩きだった。片足がなく、部下に支えられなければ歩けないエストマン将軍には辛い移動だっただろうが、エストマン将軍は一言も泣き言は言わない。

その目は使命に燃えていた。

きっとエストマン将軍はこの城で死ぬ気だろう。そういう覚悟を決めた者特有の雰囲気があった。

それが悪いとは言わない。命の使い道は人それぞれだ。

ただし。

「将軍、一つ言っておくぞ」

「はっ、なんなりと……」

「無駄死には許さん」

「!?」

エストマン将軍は驚いたように目を見開く。

そしてゆっくりと目を伏せ、懐かし気な表情を浮かべた。

「殿下も……大きくなられたのですな」

「もう十八だからな」

「もうそんなになられましたか……時が経つのは早いものですな。私の記憶にある殿下はいつも遊びまわっては、陛下に叱られている悪戯小僧でしたが……今のあなたはまるで若き日の皇帝陛下のようです」

「よしてくれ。そういう評価は苦手だ。それに言っておくが、俺は今日、一生分働いたんだ。これが終わればしばらく部屋から出る気はない。間違っても父上にそんな感想を伝えるなよ? 面倒事を押し付けられる」

「そういうところも似ていますな」

懐かしそうに笑うエストマン将軍に俺は嫌そうな顔を向ける。

そんな俺にエストマン将軍は笑みを見せた。

「陛下に会わせる顔がないと思っていましたが……少し会話をするのが楽しみになりました。殿下のおかげです」

「勘弁してくれよ……」

俺はそう呟きながら、見えてきた出口に近づく。

周囲を警戒し、出口の向こうに誰もいないことを魔法で確認したあと、俺は隠し通路の出口を開く。

「ここは俺の部屋より上の階だ。ここら辺にいる兵士はだいたい将軍の部下たちだろう」

「でしょうな……お任せください。まずはこの階を制圧いたします」

「頼む。それとアリーダ騎士団長が敵に襲撃をかける。邪魔をしないでやってくれ」

「援護はいらないと?」

「下手な援護は逆に足手まといだ」

「なるほど、たしかに。了解いたしました。それで殿下はどうされるのですか?」

「俺はその混乱に乗じて探し物をしてくる」

「……アテがあるのですか?」

探し物が何かは聞いてこない。

この状況下で探す物なんて限られているからだ。

「もちろん。そのために騒ぎを起こしたんだしな」

アテはある。しかし騒ぎが起きないと近づけない場所だ。

今なら確実に近づける。

「お一人で行かれるのですか?」

「グラウが共にいく。問題ない。将軍は将軍のやるべきことをやってくれ」

「彼が……ならば安心ですな。ではご武運を」

そう言ってエストマン将軍は側近と共に部屋を出ていった。

それを見送った俺は隠し通路に戻り、グラウの姿になってから転移する。

転移した場所は部屋だった。

皇族の部屋らしく、置かれている一品一品が最上級の物ばかり。

さきほどまで誰かが寝ていたのだろう。ベッドが乱れている。

それを見て、俺は何とも言えない表情を浮かべた。

「まさか姉の部屋を漁る羽目になるとはな」

そう、ここはザンドラの部屋だ。

幻術をかけられたザンドラはここで休んでいたんだろう。

騒ぎを起こしたのはザンドラを下に引き付けるためだ。幻術にかかったザンドラはここで休むだろうし、復活したとしても騒ぎが起きてなければこの部屋を拠点とする。

探す時間を考えるとザンドラをここから引き離さないといけなかったというわけだ。

そもそも、こんなところに虹天玉があるかという話だが、宰相は人の裏をかくのが得意だ。

ザンドラはプライドが高い。自分の部屋を兵士が漁るなんて許さないだろう。

そんなことをすればゴードンとザンドラの対立は極まる。

それに絶対に隠しておきたい物を敵対する可能性のある者の部屋に隠すなんて、普通は考えない。

ここにないならたぶんゴードンの部屋だろう。しかし、この部屋が一番可能性が高い。

ザンドラはしばらく後宮に隔離されており、この部屋に物を隠すのはたやすかったはず。

ザンドラがゴードンと協力しなかったとしても、ゴードンはザンドラの部屋にあるなんて思いもよらないだろうし、良い隠し場所ではある。

敵対者が皇族である以上、城の仕掛けの中に隠しても開けられてしまう。それなら意識の外に隠したほうがいい。

問題はこの部屋のどこに隠したかだが。

「地道に探すしかないか……」

皇族の部屋は広い。

誰か連れてくればよかったと思いつつ、俺はため息を吐いて地道に探しはじめたのだった。