軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百七十五話 大人しい歓迎

砦に入った俺を見て、尻餅をついていた衛兵たちが取り押さえようと動く。

兵士としての職務を思い出したからだろう。

しかし、立ち上がった彼らは数歩でまたよろめき、足を止める。

「無理はしないほうがいい。魔力の濃度を上げている。魔力に慣れていない者では耐えきれないほどにな」

魔力というのは誰だって少しはもっている。ただ体外に放出したり、魔法に応用したりできる者が少ないだけだ。

そういう数少ない者が魔導師になったり、優秀な冒険者になったり、騎士になったりするわけだが、ふつうの一般人は大量の魔力を浴びるという経験とは無縁だ。

今、俺が周囲にまき散らしている魔力の濃度は魔力が濃い地域とされている場所よりもさらに濃い。魔法の心得がある者ならいざ知らず、普通の人間では立っているのもつらいほどの濃さだ。

「ま、待て……し、シルバー……」

一人の衛兵が這ってきて俺の足を掴もうとする。

大した根性だ。だが、その言葉を聞いてやるわけにはいかない。

俺はその衛兵が俺の足を掴む前に歩き出す。

門を通り過ぎ、開けた場所に出る。その前方では弓を構えた兵士がずらりと並んでいた。

「止まれ! シルバー!」

「よく訓練されていることだな」

警報から数分で数十人が弓を構えて集合したか。

部隊長と思わしき男が腕を高くあげている。あの手が振り下ろされれば矢が俺に降り注ぐだろう。

しかし俺は歩みを止めない。

「ぐっ! 止まれ! シルバー! ここは帝国軍の砦! いくらSS級冒険者とはいえ横暴が許される場所ではないぞ!」

「横暴が許されないというなら止めてみろ。安心しろ。反撃はしないでやる」

「このっ! 舐めおって! 撃て!! SS級冒険者ならば死にはしない!!」

そう言って発射の号令がかけられた。

何十本という矢が俺の視界に映る。だが、俺は気にせずそのまま歩き続けた。

そんな俺に矢は迫るが、一定距離に達すると勢いを失ってその場に落ちてしまう。

バタバタと矢が俺の目の前で落ちていく。それを見ながら俺は告げる。

「舐められたものだ。矢ごときでSS級冒険者の歩みを止められると思っているのか?」

「ちっ! 魔法か! 囲え! 全方位で有効なものか!」

そう言って部隊長の男は続々と集まってきた増援に指示を出す。

増援は俺を囲むようにして陣取ると、部隊長の合図で全方位から矢を放った。

だが、結果は変わらない。一定距離で矢は失速して地面に落ちていく。

そうしているうちに俺の濃い魔力を浴びて、兵士たちは弓を落として膝をつく。

「この程度を魔法と言ってほしくないな」

「あ、ああ……」

部隊長の傍まで行き、俺は肩をたたく。別に強くたたいたわけじゃないが、部隊長はその場で崩れ落ちる。

そのまま俺はさらに奥へ侵入しようとするが、そんな俺の横から大柄な兵士が現れる。その後ろには十人ほどの小隊がいた。

彼らの手には見慣れない武器が握られていた。

見た目はクロスボウだ。しかし、それはただのクロスボウではなかった。

クロスボウの下部には円形の筒が取り付けられており、その中央には小さな宝玉が埋め込まれていた。

帝国軍の試作兵器か。

「動くな! シルバー! 普通の弓は防げてもこれは防げまい!」

「知らん武器なので断言はできないが、無理だと思うぞ?」

「ふん! 南部の悪魔騒動でモンスター相手にも活躍したこの〝試製回転式魔導連弩〟 の威力を思い知れ!!」

小隊長と思われる大柄の男の号令を受けて後ろの兵士が連弩の引き金を引く。

すると宝玉に込められている魔力によって、引き金を引き続けている間、絶えず矢が放たれだした。

下部に取り付けられた円形の筒は回転しながら矢を補給し、連射を助けている。

通常では考えられない連射速度で放たれた矢が俺に迫るが、さきほどと結果は変わらない。失速し、地面に落ちていく。少し違うのは落ちる速度が速いため、土煙が立ったことか。

その土煙の中でも彼らは連射をやめない。

もったいないことをする。あの手の兵器は宝玉を使い捨てにする。格好の実験相手だと踏んだんだろうが、それは無謀というものだ。

「やったか!!??」

「――勉強が足りないようだから教えてやろう。それがどれほど自慢の兵器か知らんが、南部で悪魔を倒したのはその兵器を活用した軍ではなく、この俺だ」

「む、無傷だと!?」

「モンスターと悪魔。どちらが強いかなんて子供でもわかる。そして俺は悪魔より強い。かすり傷でも負わせられると本気で思っていたのか?」

「ひぃぃぃぃ!!??」

彼らに向かって歩き出すと、全員が連弩をその場に放り出して後ずさっていく。

彼らの拠り所だったんだろうな。しかし拠り所とするには弱すぎる。

そんなことを思っていると複数の馬の足音が聞こえてきた。

「全員下がれ!! 我々がやる!!」

「騎兵隊! やってやれ!!」

小隊長が助かったとばかりに叫ぶ。

馬に乗った騎兵が五人。槍を持って突っ込んでくる。

だが、そちらを俺が一瞥しただけで馬は急停止した。

そのせいで騎兵たちは宙に投げ出された。

怪我をされても困るので、俺は右手を軽く振って彼らを結界に捕らえる。

「遠距離武器が駄目なら突撃というのも浅はかだな。動物は人間以上に敏感だ。絶対に敵わない相手に突っ込むなんてのはよほどの信頼関係がなければありえない」

俺は宙で捕らえた騎兵たちを地面に下ろす。

そんなことをしている間に俺の周りには百名を超える兵士たちが集まっていた。

剣を持っているし、接近戦に持ち込む気らしいな。

「とにかく止めろ! たった一人に突破されたとあっては我が砦の恥と知れ!」

剣を持った指揮官が兵士を鼓舞する。

だが、兵士の士気は低い。絶対に無理だろって顔に書いてある。そのとおり。彼らのほうが賢いな。

しかし兵士は上官の命令は聞かなければいけない。

無謀な突撃命令が下された。

「突撃!!」

嫌々ながらも兵士たちが突っ込んでくる。

彼らをあしらうのは簡単だ。しかし、それで彼らが苦しむのはかわいそうだろう。

だから俺は足に魔力を集中して、一瞬で指揮官の前に移動した。

突然現れた俺に指揮官の動きが止まる。

「なっ!?」

「どうした? 突撃はしないのか?」

仮面の奥からじっと指揮官の瞳を覗く。

悪魔に見つめられたかのように指揮官は動くことができず、ただその場で固まるだけだった。

「偉そうに無謀な命令をするんだ。手本くらい見せたらどうだ?」

「あ、ああ……ゆ、許し……」

「何も取って食おうなんて思っちゃいない。ただ命令を考えるべきだと忠告しているだけだ。無謀な突撃は命を散らすだけだ。肝に銘じておくんだな」

そう言って俺は指揮官の横を通り過ぎて、奥へと向かう。

すでにそれを邪魔する兵士は存在しなかった。全員が遠巻きに俺のことを見つめている。

彼らもわかっているんだろう。その気になれば俺がこの砦を破壊することも可能だということを。

それをしないということは俺に敵意がないということだ。ただ俺はゴードンに会いたいだけなのだ。

しばらく砦の奥に進むと、中央にある城へたどり着く。砦の司令官の居城だろうな。ここにゴードンもいるんだろう。

そんなことを思っていると城の窓から大柄な男が飛び降りてきた。

「うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」

気迫の声とともにその男は大剣を振るう。

上段から振り下ろされたその剣は降下の勢いもあいまって、とんでもない速度で俺に迫る。しかし、矢と同じように俺の手前で失速して止まってしまう。

その剣を軽く横にずらしながら、俺はその人物に語り掛ける。

「ずいぶんと大人しい歓迎だな? ゴードン皇子」

「冒険者風情が……!」

「その冒険者風情のためにわざわざ出迎えに出てきてくれたのは感謝しておこう。出迎えなどなくともこちらから伺ったのだがな」

慇懃無礼な態度で俺はゴードンに話しかける。

それが気に入らないのか、ゴードンが顔をしかめる。

「伺うだと? 貴様のは押し入るというのだ」

「そうとも言うかもしれないな。だが俺の訪問を断るほうが悪い。馬鹿じゃないんだ。俺がこうすることくらいは予測できたんじゃないか? 俺は帝剣城にすら入る男だぞ?」

暗に予測もできないのか馬鹿がと告げつつ、俺はゴードンから視線を外して、その後ろに現れた恰幅のいい老人に頭を下げる。

「お騒がせして失礼した。砦将」

「いやいや、良い訓練になった。兵士たちも気が引き締まるだろう」

その人物はこの砦の将にして、北部国境守備軍を束ねる将軍。

名はロホス。穏やかな人物と知られており、そこを評価されて北部の国境を任されている。そういう人格者だからこそ、ゴードンを預けられたともいえる。

「ゴードン将軍に用があるということだったな。部屋を用意しよう」

「感謝する」

「砦将!!」

「ご自分で蒔いた種だ。ご自分で始末をつけることだな。ゴードン将軍」

「俺は何もしていない!!」

「それはシルバーに言うことだ」

そう言ってロホスは俺を招き入れる。

苦々しい表情を浮かべていたゴードンだったが、従わないわけにもいかずに俺とともに城へと入ったのだった。

■■■

城の一室で俺とゴードンは対峙していた。

ゴードンは何もしゃべらないといわんばかりに口を閉ざしている。

「なぜ俺が来たかわかるか?」

「……知らんな」

「そうか。では教えてやろう。霊亀討伐戦の最中に二人の子供が戦場に迷い込んだ。これをエルナ・フォン・アムスベルグが庇ったため、戦局が一時不利になった」

「それが俺のせいだと?」

「子供の話では来る前に軍に出会っていたが、その軍に森へ行けと言われたらしい」

「……子供の話だ」

「では皇帝にそういうのだな」

そういう態度ならば話は終わりだと言わんばかりに転移門を開く。

霊亀討伐戦は帝国の一大事だった。その妨げとなる行動は許されない。ゴードンは皇帝からの信頼を失うし、これからある式典への参加も許されないだろう。

北部で干され続けるというわけだ。とはいえ、帝位争いから脱落するわけじゃない。

しかし大きな後れを取る。

だからゴードンは立ち上がって俺を引き留めた。

「待て!」

「話は終わりだが?」

「……こちらから話がある。聞いてほしい」

「そうか」

俺の話は終わった。

ゴードンは悔しそうな顔をしつつ、俺を席に引き戻す。

北部に飛ばされたこと自体、ゴードンからすれば屈辱であり、それが長引くなどあってはならないんだろう。

「……何が目的だ?」

「何もない。ただ子供が軍の指示で戦場に乱入することになったと報告しただけだ」

「……俺が率いていた偵察隊だ。たしかに子供には森にいる部隊を頼れと言った」

「ほう? 護衛もつけずにか?」

「……軍人として本隊への報告を優先しただけだ」

「伝令を出せば済むだけの話だな。皇帝ならばそこらへんをしつこく追及してくるぞ?」

「……その話は父上にはしないでほしい」

ゴードンは静かに頭を下げた。

俺には見えないが、どんな表情を浮かべているかは想像できる。

声も震えているし、さぞや屈辱なんだろうな。

だが、民の命を軽視した罪はその程度で許されるものじゃない。

「タダでとはいかんな」

「俺が頭を下げているのだぞ!?」

「お前の頭にどれほどの価値があると?」

嘲りの言葉をゴードンに投げつけるとゴードンは我慢できんとばかりに立ち上がり、近くに立てかけてあった剣に手を伸ばす。

だが俺は動じない。

俺とゴードンの間には絶対的な力の差がある。腕にモノを言わせる気なら望むところだ。

「困ったら力で解決。そうやって生きてきたから帝位争いで後れをとるんだ。お前の前にいるのはSS級冒険者だというのをもう忘れたのか?」

「ぐっ……!!」

「剣を握れば交渉決裂と受け取る。どうだ?」

剣に伸びたゴードンの腕が激しく震える。

何度も剣を取ろうとするが、ゴードンは歯を食いしばってその腕を引っ込めて腰を落とした。

それを見て、俺はようやく交渉に入った。

「ではこちらの要求を言わせてもらおう。お前の元軍師の育ての親を解放し、彼女に関わらないと誓え」

「……ソニアとお前が一体どんな関係がある?」

「俺ではない。エゴール翁が彼女を気に入った。だからエゴール翁に貸しを作るために彼女を解放する」

俺の要求を聞き、ゴードンは少し考えたあとニヤリと笑った。

そして近くの紙を取って、何かを書き込む。

「これがソニアの育ての親がいる場所だ。所詮は用済みの軍師だ。好きにしろ」

「そうか」

俺は紙を受け取って立ち上がる。

紙には詳細な地名が書かれていた。そこにいるということだろう。

そう判断し、俺は再度転移門を作り出し、それをくぐろうとして、その場で立ち止まる。

そして。

「ああ、言っておくぞ? お前が相手をしているのが二人のSS級冒険者だということを忘れるなよ? もしも嘘だとしたらどんなことになるかよく考えることだな」

「な、なんのことだ……?」

「俺を出し抜き、ソニアの人質を使いエゴール翁を上手く使えるなんて、馬鹿な考えは抱かないほうがいい。エゴール翁は俺以上に理不尽だぞ?」

ゴードンは大量の汗をかいて、その場で押し黙る。

やはりそんな浅はかなことを考えていた。

まぁゴードンらしい考えだ。こいつが主ではソニアの策略も宝の持ち腐れだな。

ゴードンはギリッと歯ぎしりを立てたあと、もう一枚紙を取り出して新たな地名を書く。

「……最初のほうに育ての親の家族がいて、ここに育ての親はいる」

「別々に監禁していたか。まぁリスクは分散させるのは当然か。しかし心変わりしてよかったな。文字通り、命拾いしたな。あやうく二人のSS級冒険者と戦争だ。いくら戦争好きでもそれは遠慮したかったみたいだな」

ゴードンは何も言わずにただ机を見つめている。

その様子を鼻で笑い、俺は転移門に入ってその場を去ったのだった。