軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百五十三話 僕の軍師

「以上でございます」

セバスが丁寧な説明を終える。

部屋にはヴィンと俺、そしてエルナとレオもいた。

エルナとレオは暗い顔をしているが、ヴィンは冷静にセバスの話をメモしている。

そしてまとめ終わったメモを見終わったあと、ヴィンは一つ頷き。

「全然駄目だな」

駄目だしをしてきた。

まぁヴィンならそういうだろうなと予想していたから、俺は特に驚かずに質問を返す。

「参考までにどこが駄目か教えてもらえるか?」

「初手が最悪だ。お前を排除したい貴族たちに対して、対抗することを選んだ。これは悪手だ」

「じゃあどうするべきだったと?」

否定だけならだれでもできる。それ以上のものを提示できて、ようやく軍師として最低ラインに立てる。

もちろんヴィンはそのラインは軽く超えていた。

「オレなら言われたとおりに蒼鴎姫の傍から離れる」

「そしたらフィーネには大量の貴族が寄ってくるが?」

「寄らせておけばいい。皇族との身分違いも理解できてない愚か者たちならそのうち、蒼鴎姫にも無礼を働くし、仲間内で争いも始める。そこを収めて自分の価値を証明すれば、貴族たちは黙らざるをえない」

「ヴィン、私にはフィーネを囮にするべきだったって聞こえるのだけど?」

エルナが鋭い視線をヴィンに向ける。

そんなエルナの視線をヴィンは平然と受け止めながら答える。

「間違っていない。そういう意図で言ったからな」

「最低ね……フィーネは道具じゃないのよ?」

「じゃあアルが矢面に立つのはいいのか? 言っておくが、ここまで事態が大きくなったのはアルが皇族だからだぞ? 初手から蒼鴎姫を囮にして、貴族たちの失策待ちをしてれば混乱は最小限に収められた」

「相手の失策待ちなんて消極的ね。じゃあ相手が失礼なくフィーネに接していたら? 排除の理由がなくなって、アルがフィーネの傍にいられなくなるだけよ? そしたらフィーネの立場があやふやになるわ」

「レオが傍にいればいい。それだけで蒼鴎姫はレオの陣営なのだと証明できる。しつこい貴族避けにもなるし、なんならレオとの婚約でも発表すればいい」

ヴィンの策にエルナが眉を顰める。

他者の感情を考えない軍師らしい策だ。効率だけを考えればそれが一番だっただろうな。

弱小だったときとは違い、今はそれなりの規模の勢力を保っている。フィーネの人気で協力者を得るメリットは薄い。

婚約を発表すれば若手貴族の反感は買うだろうが、本当にフィーネの信者ともいえる人物たちは味方につくだろう。

「……昔から思ってたけど、ヴィン。あなたモテないわよ?」

「女からの人気が何になる? 無駄なことを極力排除して、最善の選択をすればきっとオレの策にたどり着く。お前なら……わかっていたと思うが? いつもお前がしていたことだぞ、アル。どうしてすべてを周りに押し付けなかった?」

「そうだな……考えなかったわけじゃない。だけど、すぐに心の中で却下した」

「理由は?」

「……白鴎連合の貴族たちが一斉にフィーネに向かえば、きっとフィーネは怖い思いをするだろう。たしかに何もないかもしれない。だが同じ以上の可能性として、何かあるかもしれない。そういう可能性があるということは、フィーネを危険にさらすということだ。クライネルト公爵から彼女のことを頼まれている。その手は使えないと判断した」

フィーネという人間を無視した方策をとれば、きっとクライネルト公爵は黙っていないだろう。おそらく無理やりにでもフィーネを連れ帰るはず。

そうなるとこっちの陣営には大きな打撃となる。

「まぁそれは理由の半分だけどな」

「もう半分はなんだ?」

「味方につくという確約もなく、ただ自分の願望に従って動く貴族たちにどうして俺が従ってやらなきゃいけない? 俺の〝今〟を引き換えにするにはあまりにも安すぎた。だから対抗することを選んだ」

きっと後悔すると思った。

フィーネの傍を離れ、フィーネを群がる男どもの囮にするようなことをすれば、俺は自分を許せない。

帝位争いに甘えは不要。徹底的に冷徹になる場面も必要だろう。

だが、譲れない点もある。

「ヴィン……俺もレオもほかの候補者たちとは違う。帝位争いを勝ち抜く決意はある。だが……譲れない部分を譲ってまで勝ち取る玉座に価値を見出してはいない」

「そうだね。大事なものを守るために玉座に挑んでるのに、それを捨てちゃ本末転倒だ」

「まぁ……犠牲が出たことは失敗だったとは思ってる。向こうの馬鹿さが想像以上だった。まさか父上の前で決闘を申し込むとは思わなくてな。あっても終わったあとだと思ってた。そのために挑発的に振る舞ったりもした。和解成立後に決闘を申し込み、負けたりすればどうとでも料理できるからな。それが裏目に出たのは俺のミスだ」

俺とレオの言葉を受けて、ヴィンはしばし不機嫌そうに頬杖をつく。

思考を巡らせるときの癖だ。子供の頃から目つきの悪いヴィンは、こういう癖のせいで周りから怖い奴だと思われてた。

ま、怖い奴であることは間違いないが、同時にヴィンは聡明だ。

「甘ちゃんどもが」

しばし黙っていたヴィンがようやくつぶやいたのはその一言だった。

それを聞いて、エルナはもう我慢ならないとばかりに立ち上がってヴィンを指さす。

「さっきから文句ばかりじゃない! 何様よ!?」

「軍師様だな」

「まだ軍師じゃないでしょ!?」

「今なった」

「はぁ? さんざん文句いっておいて、軍師になる? なに調子のいいこと言ってるのよ?」

エルナがヴィンにガンをつけながら、底冷えのする声を出す。

怖い怖い。気の弱い奴なら失神ものだろうな。

だが相手はヴィンだ。その程度の脅しは通じない。

「エリク皇子の勢力は強大だし、エリク皇子自身も有能だ。それに対して甘ちゃんの双子皇子だけじゃ勝ち目はなさそうだからな。オレが協力するくらいがちょうどいいだろう」

「偉そうに……だいたい最初に言ってたじゃない! アルのお手並み拝見って! アルのやったことに文句があるなら認めないってことでしょ!?」

「話を最後まで聞け。貧乳勇者。胸に栄養が回せないならせめて頭に回すことだ」

「……死にたいのね?」

そう言ってエルナは怒りからおかしくなったのか、薄く笑いながら剣を抜こうとする。

それをレオが諫めながら、ヴィンに質問する。

「まぁまぁ……ヴィン。僕も気になるんだ。兄さんのどこに見るべき点があったの?」

「……最後の盤面。皇后陛下が出てきたあたりで完全に状況はアルの手から離れた。だが、自分の母親の援護があったとはいえ、主導権を取り返して上手い落しどころを見つけてみせた。これはオレにはできん。宰相ですら困った展開だからな」

「それが君に足りないものなの?」

「そうだな。相手が想像の外を行ったとき、アドリブで状況を組みなおすのはオレには向かん。今回の場合、相手が想像を下回る馬鹿だった。そしてその馬鹿のために皇后陛下まで動いてしまった。混沌とした状況だったのは話だけでもわかる。そこから周りが納得する状況を生み出したのはアルの手腕だ。平行線を辿れば犠牲は貴族だけじゃすまなかっただろう」

ヴィンの分析は的確だ。

皇后が粘れば、最悪父上は強権で無理やり貴族を処刑していたかもしれない。

その被害があちこちに飛び火する可能性もあった。

もちろん俺たちにも。

決闘を受けるときにレオのフリをして責任を口にしたが、平行線をたどればその責任を問われていたかもしれない。

そういう意味では俺のあの場での提案は妙手だったといえるだろう。自分でいうのもなんだけど。

「なるほど。兄さんは機転が利くからね」

「その機転も考えようだがな。アル、これからはレオとの入れ替わりは控えろ」

「わかってる。もう使わないほうがいいだろうな」

「バレた手は使えないってこと?」

「それもあるが、あまり入れ替わってると疑心が生まれる。疑心は信頼も忠誠も薄れさせるからな。それでも使ったあたり、あくまで自分は無能であり、レオは何でもできる皇子という認識を他者に植え付けたかったんだろう?」

「舐められてたほうが動きやすいんでな」

「まぁそれを望むならそのスタンスでいればいい。ただ、もう無理をしてレオの評判を上げようとする必要はない。その役目はオレが請け負ってやる」

そう言ってヴィンは立ち上がる。

そして俺とレオを見比べて、ぽつりと告げる。

「この膝は……そこまで安くないつもりだ」

「もちろん。承知してるよ」

「そうか……いつか皇太子ヴィルヘルムのようになれると約束できるか? あの人の下で働くのがオレの望みだった」

「非才の身だけれど、努力することは誓うよ」

その言葉を受けてヴィンは静かに膝をついた。

そして。

「ヴィンフリート・トラレスがレオナルト殿下にお仕えすることを誓います。これよりはあなたの軍師として、すべてを賭けます。あなたの王道を私の知恵で支えましょう」

「うん、頼りにしているよ。僕の軍師、ヴィン」

こうしてレオは念願の軍師を手に入れたのだった。