軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

最初は原付っぽいやつで

一週間ほど経過した。

一月の半ばだってのに、外はもう春真っ盛り……天気も良く、気持ちいい。

だが俺は、作業場の椅子に座り、ガリガリと図面に書き込みながらにらめっこしていた。

「ん~……バランスだよなあ」

バイク。

まずはスタンダードともいえるネイキッドを作るつもりだ。その図面もほぼ完成しているが、どうもバランスというか、微妙に気に食わないというか。

三輪車、自転車のデータで、素材の見直しや魔石の見直しもだいたいできた。魔石は消耗品なので、バイクに取り付けるやつは交換できるよう、カートリッジに装填して交換できるよう仕組みも考えた。

タイヤもラバーコブラでは跳ねすぎる。だがいい素材がなかったので、老齢のラバーコブラの表皮を使ってみたらちょうどよかった。

俺が使っていたラバーコブラ、若く弾力性がありすぎたらしい。老いたラバーコブラなら跳ねも少なく、それでいて頑丈で使いやすい。

「ホイールも、フレームもいい。ガソリンタンクは必要ないから、タンクを模した小物入れにする……ブレーキも自転車の応用で、マフラーは必要ないけど、カッコイイから付ける……ヘッドライトはOKだ。ウインカーも魔石で、手元のスイッチで連動式にして……クラクションも付ける。ああ、キーは……防犯対策もしないとな。キーに魔石を埋め込んで、車体に差すことで全ての魔石を起動できるような仕組みを……」

「おーいゲントク!! おーい!!」

と、ブツブツ言っていると声を掛けられた。

振り返ると、イェランがジト目で俺を見ていた。

「ああ、イェランか。なんだ、仕事か?」

「仕事は終わったって。アンタ、ひっどい顔だけど大丈夫?」

「ふぁぁ~……肩バッキバキだな。最近ずっと籠ってるし」

「アンタのロマンだっけ?」

と、イェランが4気筒空冷式エンジンのガワを見て首を傾げる。

「へんな形。マジでこれ、乗り物になんの?」

「なるなる。超絶カッコいいロマンだぞ?」

「ふーん。なんか手伝う?」

「いや、いい。こいつは俺の手でやりたいからな」

図面を折り畳み、俺は地下の床下にある隠し金庫にしまう。映画なら、分厚いスーツケースとかに銃とか偽造パスポートとかしまってるんだろうけどな。

地下から出ると、イェランが言う。

「ゲントク、飲み行かない?」

「……だな。ってか腹減ったぜ」

「……アンタ、ちゃんと食べてるの?」

「あんまり。最近、いろいろ楽しくてなあ」

「ったく。今日はアタシの奢り。ちゃんと食べなよ?」

イェラン、なんていいやつ。

俺はイェランと二人で、居酒屋に向かうのだった。

◇◇◇◇◇◇

居酒屋でおでんみたいな煮込みを食べていると、リヒターが来た。

不思議なことに、毎回店を変えて、特に約束とかしていないけど、リヒターが必ず来るんだよな……飲み友達っていいもんだ。

三人で乾杯すると、リヒターが言う。

「ゲントクさん。仕事の方はどうですか?」

「仕事というか趣味だけどな。まあ、順調だよ。ああ……悪いけど、この乗り物の仕様書は出すつもりないからな。くっくっく」

「は、はあ……」

「あ、そうだゲントク。『自転車』だっけ? アタシなりに改良してみたんだけど、明日あたり見てくんない?」

「おう、いいぞ。やっぱ売りに出すのか?」

「うん。二月までに完成させて、宣伝、量産体制に入るよ。お姉様も来月から宣伝始めるってさ」

「ちなみに、アレキサンドライト商会の支店も増えましたので、いくつか自転車専門に切り替え、販売、修理の専門店とするそうです」

「自転車、カスタマイズパーツとか豊富に作って、自分なりの自転車にすれば面白いよな。三輪車とか、一輪車とかも面白そうだ。キックボードとかもなあ」

「……そういうデータあるなら教えてよ。あ、ここで教えて。アタシがやってみるから!!」

「いいぞ。そうだな~」

俺は、小学校の時に乗った一輪車、キックボードや、自転車のカスタマイズのアイデアを口頭で説明した。イェランはふんふん頷き、メモを取る。

「面白い!! 一輪車って……それ、乗れるの?」

「子供の頃、学校のイベントで乗ったぞ。いや~小学生ってすげぇよな。たった十分の休み時間で外に出て遊ぶんだぞ。大人じゃ一瞬で終わっちまうよ」

「意味わかんないけど……とりあえず、このアイデアもらうわ。リヒター、ゲントクのアイデア料金に上乗せしておいてね」

「わかりました。ところで、ゲントクさん」

「ん?」

俺は煮物を食べながら、首をコキコキ鳴らす。

やっぱ運動不足だな。最近、運動してないし……以前は家に木人椿とかあって、じいちゃんに毎日叩くように言われてたっけ。

また作るか。武術の腕前も鈍りそうだし。

「ミカエラさんから、その後何か……?」

「いや、なーんにも。何が来ても断るつもりだけどな」

「そうですか……」

「……なんかあったのか?」

微妙な態度……リヒターは首を振る。

「実は、何度かミカエラさんからお嬢に対し、ゲントクさんを説得するようお願いがありまして」

「……なんで俺なんだ? 俺より優秀な魔道具技師なんていくらでもいるだろ」

「そうですね、とは言いにくいですけど……個人に対し、そこまで入れ込むのは理由があると、お嬢は睨んでいます。そして調べたところ……どうやら、ミカエラさんは十二星座の魔女と何らかの取引をしているようです」

「……まーた魔女か」

めんどくせえ……今度は何座だ?

「調べたところによると、ミカエラさんは『魚座の魔女』ポワソン・ピスケス様と、何か新しい魔道具事業を行うようです。そこで、クライン魔導商会だけではなく、腕のいい魔道具技師を世界中から集めているようですね」

「へー」

「きょ、興味なさそうですね……」

「まあな。そういう厄介ごとはお断りだ。あ、すんません、エールおかわり」

酒をおかわりする。

冷たいエールうっま。雑酒もいいけど、やっぱさっぱりするエールも最高だ。

「えーと、水瓶、牡牛、蟹は出たな。で、魚……十二星座の魔女か。ちゃんと星座に習ってんだな」

「それそれ。ねーゲントク、星座ってなに? 星がどうとか……」

「ああ、星の形、形状で動物とか見る……あ~、俺も詳しいことわからん。とりあえず、十二星座っていう十二の星の形があるってこった」

「ふーん……わかんないや」

イェランは諦めたのか、エールをおかわりする。

俺も酒を飲み、バイク作りのことを考えるのだった。

◇◇◇◇◇◇

三日ほど経過。

俺はバイクの図面から少し離れ、頭の中にある図面だけである物を作っていた。

指先をバーナーにしてメタルオークの骨を切断、加工、くみ上げる。

そして、老いたラバーコブラの皮をホイールに何重も巻き付けてタイヤを作り、マンモシープという超ふかふかな羊魔獣の毛を詰めたシートをフレームに取り付ける。

『回転』と『挟』の魔石を前輪と後輪に取りつけ、レバーでスイッチを入れられるようにグリップにスイッチを付ける。

骨組みにプラティックワイバーンっていうドラゴンモドキの鱗を加工したカバーを取り付け、完成した。

「よし……原付バイクの完成だ」

そう、原付である。

三輪車、自転車でのデータ収集が終わり、バイクの図面をある程度まで完成させた。そして、最後にこの原付のデータをバイクに反映させて、いよいよ本格的に作る予定。

原付バイク。

カバーは付けたけど最低限。データ収集が目的なので、ほぼ骨組みだ。

でも、グリップを捻るとタイヤが回転するし、レバーを引くとブレーキもかかる。

大きさも、一般的な原付サイズ。試しに跨ってみると、シートも柔らかい。

あとは運転するだけなんだが……補助輪とか付けるべきかな。

「おっちゃん、いるー?」

「…………」

「ゲントクさん。こんにちわ」

「ん? おう、お前たちか」

ロッソたちかと思ったけど……まさかのリーンドゥ、ウング、バレンの三人だった。

なんか不思議だな。いつもはロッソたちなんだが。

リーンドゥは、原付を見て目を輝かせる。

「およ? ねーねー、それなに?」

「こいつは『原付』だ。まあ、乗り物だな」

「おお~!! それって、前にロッソたちが乗ってたやつ?」

「ああ。それの改良版だ」

「わーお!! ね、ね、ウチに乗らせて!!」

「こら、リーンドゥ。その前に……ゲントクさん、やっぱり、返事は変わりませんか?」

と、バレンが言う。

ああ、そういうことか。

「ミカエラの仕事手伝いだっけ? 悪いな、やっぱり無理だ」

「……そうですか」

「せっかく来たんだ。お茶でも飲んでいけ。ちょうど、菓子があるしな」

子供たち用に用意した菓子だが、まあいいか。

俺は一階の休憩ソファにある菓子を指差すと、リーンドゥが飛びついた。

「うんまー!! ね、バレンこれ美味しいっ!!」

「こら、もう少し遠慮しなって」

バレンがリーンドゥの世話を焼く。

俺は、ウングに聞いてみた。

「お前たち三人、長い付き合いなのか?」

「……まあな。それぞれ出身は違うけどな」

「ロッソたちと因縁あるっぽいな」

「……関係ねぇだろ」

「おっと悪い」

踏み込んじゃいけないっぽいな。

というかウング、雰囲気が少し、アオに似ている……そうだ。

「なあウング、これ、乗ってみないか?」

「……ああ?」

「乗り方は簡単だ。このアクセルグリップを捻りながら少し魔力を流すとタイヤが回転して走る。あとは、バランスを取りながら走ってみてくれ。で、止まる時はアクセルを離して、このブレーキを引く。いきなり強くかけると急ブレーキになるから、ポンピング……徐々に、徐々にかけてくれ」

「……なんでオレなんだ、オヤジ」

「なんとなくな。まあ言うなら……リーンドゥは加減知らなそうだし、バレンは少し頼みにくい。お前はなんとなく、魔力操作が上手そうだし、加減も上手そうだしな」

「は、おだててんのか? いいけど、報酬はもらうぜ」

そう言い、ウングは原付に跨る。

そして、アクセルを軽くひねると、タイヤがゆっくり回り出す……そして、前進。

「おっ……」

「そのまま走ってくれ!! 会社の前を回るように!!」

「あー!! ウング、ずるいー!!」

「リーンドゥ、邪魔しちゃダメだって」

バレンがリーンドゥを押さえている間に、ウングは走る。

会社前は広い。ウングはスラロームしたり、速度を上げ下げしたり、急ブレーキを掛けたりと、俺の指示通りに走行してくれた。

「よし!! 戻ってきてくれ!!」

「おう!!」

ビィィィィ!! と、原付が時速四十キロくらいで俺の元へ。ウングはポンピングでブレーキを掛け、俺の前に停車した。

「どうだった?」

「……悪くねぇ。これがあれば馬いらねぇな。荷物少ない距離なら、歩きより断然いい」

「なるほど。気になるところは?」

「オレは問題ねぇが、いきなり何も知らねぇ奴は乗るべきじゃねぇ。アクセル、ブレーキだったか? 魔力の加減を間違えるととんでもねえことになるぜ」

「ふむ……実用化する予定はないから別にいいか。まあ、もし実用化するなら、運転講習とか必要になるだろうな」

「それと、最後のブレーキで魔石が割れる音がした。長期で使うなら、最低でも七つ星くらいの魔石にした方がいい。それとこのタイヤだったか……少し滑る」

すげえ的確なアドバイスをくれるウング。ちょっと粗暴な少年って感じがしたが、思った以上に真面目だった。

俺は気になる点をまとめ、メモをする。

「よし……ありがとうな、助かった」

「おう。報酬、メシ奢りでいいぜ」

「いいな。酒は飲めるか?」

「ああ、フン……オヤジ、なかなか話せるな。ロッソやアオたちとつるんでるから、ロクでもねぇ大人と思ったが」

「あいつらも、お前らも、俺にとっては子供で、ダチみたいなモンだ」

「……フン」

俺は原付からキーを抜く。この状態で魔石に魔力を流してみたが、ちゃんと起動しなかった。

これで、実験は全て終わりだ。

「ちょっとー、ウチも乗りたい!!」

「すまん、魔石が割れちまった。また今度な」

「うー、ウングばっかりずるいし!!」

「フン、ガサツで粗暴なオマエには無理だっつの」

「こら二人とも、喧嘩はダメだって」

リーンドゥ、ウング、バレン。この三人も、いい仲間なんだな。

と……思っていた時だった。

「……おっさん」

「……おじさん」

「……おじさま」

「ん? おう、お前たちか」

ロッソ、アオ、ブランシュたちが、俺……そして、バレンたちを見ていた。

「おっさん……なんでそいつらと仲いいの?」

「……おじさん」

「……なんだか、面白くありませんわね」

「お、おいおい。俺は別に」

「帰ろ」

ロッソがそう言うと、三人は帰ってしまった。

参ったな……俺は別に、贔屓しているわけじゃないんだがな。