軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【18】花嫁の不安

妃殿下の格別の計らいによって、ニーナは自分の夫になる人と、婚儀の日に先立って対面する機会を与えられた。

南部出身のレアンドロ・カシャという男。

妃殿下の実弟だという。

ニーナは事前に知らされたそれだけの情報からなんとなく、どこか根暗で嫌みな、ひょろひょろと背が高いばかりの狡猾な男の姿を想像していた。

自分の夫になるというその男が、南部では既に複数の妻と結婚しているという情報も彼女を憂鬱にさせた。

けれど、それもニーナにとってはどうだっていいことだ。

どうせ、相手がどのような男であっても、ニーナはもうそうして結婚という義務を果たすしかない。相手に対してどういう感想を持ったところでその事実は変わらないのだから、別に結婚前に顔を合わせることも、特段嬉しいことだとも思えなかった。

彼女はそんな投げやりな気持ちで、初対面の日を迎えた。

きっと、使用人たちが朝から気合いを入れて整えた化粧も髪型も台無しなくらいには、ニーナはぶすくれて不細工な顔をしていた。

「初めまして。お会いできて光栄です。私の、花嫁となられるお方」

けれど初めて対面したその人は、ニーナに太陽のような笑顔を向けてくれた。

彼はニーナの手をとって、その、南部の人間というには少し色素の薄いような、きれいな目で優しく彼女を覗き込んだ。

「あなたに会えると思ったら、緊張して昨夜はよく眠れませんでした」

レアンドロという男は、まるで太陽を思わせるような、華やかで温かい笑顔の人だった。

(これが、あの妃殿下の弟君?)

レアンドロは実に円滑な振る舞いで、ヒメノ家の使用人たちからニーナを引き剥がした。

使用人たちはニーナの一挙一動を統制すべく常に影のように付き従っていたが、未来の花嫁と二人で話がしたい、という彼の申し出には押し切られたようだった。

もしこれが、母からの監視が厳しいヒメノの屋敷などであれば、たちまちうるさい大人たちが飛んできて止めに入られただろう。けれどここは妃殿下の管理下にある王宮の一室で、そういう振る舞いも許容されるようだった。

「レアンドロさま、さすがにわかってらっしゃるとは思いますが……」

「あーはいはい、わかってるって」

逆に何やら彼のほうが妃殿下の使用人と多少揉めたようだったが、ともかくニーナと、彼の対話の場はそうして設けられた。

新たなエリウエラル王宮の、眩しいほどに青い芝庭に面したテラスでの、ささやかな茶会だった。

レアンドロという人はやはり、陽の下にいるのが似合いのようだった。

しかし、一方のニーナはどうだろうか。彼に比べてニーナはなんて。

最近はよく眠れてもいない顔は、いくら化粧でごまかしたところで、やつれてきっと見られたものではないだろう。

(やだ私。こんな顔で来るんじゃなかったわ……)

ニーナはただでさえ、花嫁になるには少々条件の悪い娘だ。彼に少しでも良く思われたいと急に思い始めたニーナは、今の自分を見せたくなくて俯きがちになってしまう。

「ヒメノ嬢。貴女は、陛下の後宮におられた方だと伺いました」

けれど思わず、はじかれたように顔を上げてしまった。その事実をこれから夫となる人がどのような受け取り方をするのか、彼女はずっと不安に思っていた。

その、色々と嫌な話ばかりが耳に入るからだ。現実にはただ後宮の片隅で引きこもって過ごしていただけとはいえ、それが体のいい愛人候補としての生活であったことは、彼も当然知っているだろう。

けれどレアンドロは、そうしたニーナの不安も取り除いてくれた。

「こんなに可愛らしい人がそばにいたのに、貴女の魅力に気がつかないなんて。陛下も大した男ではありませんね」

ただ、赤くなればいいのか青くなればいいのかわからない。

ニーナの価値観の中では、国王陛下は絶対的な君主である。レアンドロのその横柄な物言いにはいっそ目まいがした。

「……陛下に、そのようなおっしゃりようは、いかがなものかと」

「おや。嫉妬くらいは許していただけませんか?」

「し、嫉妬?」

「つまらない男の嫉妬です。私だけの花嫁となる貴女が、そうなる前に他の男のものになる可能性があったなんて」

そう言いながら彼に指先を捕まえられて、テーブル越しに手をしっかりと握り込まれてしまえば、ニーナはもう茹で蛸のように真っ赤になるしかなかった。

彼女はその時、実際全然冷静ではなかった。頭が動いていなかったから、彼女の常日頃の卑屈さも顔を出す余地がなかった。

――彼は、ニーナをたった一人の妻にしてくれるわけでもないのに。それなのに彼は、ニーナには自分だけの花嫁であることを求める。それが当然のことなのかどうなのかすら、よくわからなかった。

彫りの深い顔立ちの、けぶるような睫毛に隠された瞳が、ニーナをひどく親しげに覗き込む。それだけで胸が痛いほど高鳴った。

ニーナの知る「貴族」の男たちと決して同じようではない。異文化の気配を感じさせる濃い熱量の、しかし彼は気品に溢れた貴公子だった。