軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

選択の教会と舞踏会の同伴者

「ほわふ……………胸がいっぱいです」

アルテアから貰った教会を訪れたのは、雪白の舞踏会に出かけて行く前のことだった。

この教会は現在、厨房の扉の向こうに置いているので、ネアの部屋から行ける素敵な観光地となった。

そこは雪の降る森の中で、教会の隣には大きな飾り木が立っている。

元々アルテアが持っていたのは教会だけな筈なので、このイブメリアの飾り付けはアルテアがしてくれたのだろうか。

まずはそんな教会前の雪の広場でネアは大いにはしゃぎ、見事な飾り木の周囲をうろうろした。

弾み回るご主人様にディノも目元を染めてしまい、嬉しそうにこちらを見ている。

「見て下さい!雪と、綺麗なシュプリ色の細やかな光だけで飾られた飾り木はなんて上品で、…………ほ、星がついてますよ!」

「先端部分にあるのは、星結晶だね。夜空の星を捕まえて、その光を集めて結晶化したものだ」

「……………捕まえて」

ネアは何となく、アルテアに手で捕まえられてびちびちしている星を想像してしまったが、きっともっと素敵なやり方がある筈だ。

ぎいっと大きな扉を開けば、そこには見事な教会がそのまま再現されていた。

「まぁ……………」

息を飲むような柱の彫刻に、祭壇に向けて真っ直ぐに伸びた柱廊と、そこに左右から差し込むステンドグラスの暗く色鮮やかな光。

一枚一枚が物語の挿絵のようなステンドグラスは、細やかな色使いで万華鏡のような色を床に広げる。

(とても暗くて、でもこの暗さが何て素敵なのかしら…………)

雪の日のお昼くらいの照度だろうか。

ほの暗く青白い光に晒され、神秘的な影がそこかしこに揺れる。

暗い教会のその内部には見上げるばかりの素晴らしい天井と、不思議な魔術で虚空から吊るされたイブメリアのオーナメントの煌めきがあった。

どのオーナメントも、モミの木のような枝と一緒に吊るされており、その荘厳な装飾の色に胸の中がしんしんと静まり返る。

「…………なんていい匂いなのでしょう。イブメリアの香りがします」

「祝祭を切り取った香を焚いているのかな。その時間を固定してあるのだと思うよ」

「と言うことは、ずっとこの香りを楽しめるのですね!」

嬉しくなったネアはその天井を見上げ、手を広げて深呼吸する。

柱廊のそれぞれの柱の横にはネアの身長くらいの飾り木が立ち並び、白い雪結晶のオーナメントに、赤い林檎を模したオーナメントが飾られ、そこにころんとした赤薔薇の結晶石が時折混ざっている。

くるりと回しかけられたリボンがこっくりとした深い青色なのも清廉で美しい。

そんな教会の中の飾り木の森を歩き抜け、ネアはどうしても持ち上がってしまう、唇の端にそっと触れ、ディノを振り返った。

「ディノ、またここにお散歩に来ましょうね。……たくさんです」

「うん。君が来たいなら何度でも」

「はい!アルテアさん、この素敵な贈り物を有難うございます!」

「………………フキュフ」

ネアが笑顔でお礼を言えば、右肩に乗せられていた背中に真っ白なちび翼のあるちびふわが暗い目で小さく鳴いた。

つい先程、後ろから抱き込むようにして、ネアの首飾りからグレアムの贈り物を盗もうとする悪しき魔物による悲しい事件が起こり、勿論そんな反乱はその場で返り討ちにしてみせたネアの手で、この愛くるしい生き物が誕生したばかりなのだ。

グレアムがくれたちびふわ符には、それぞれのちびふわの特徴が、分かりやすいようにシルエット絵で描かれている。

こちらのちびふわ符には、ちびふわシルエットに羽があったので我慢出来ずに貼り付けてしまったが、これからは、ぱたぱたちびふわと呼ぶことにしよう。

「ウィリアムさんも、堪能出来ました?」

「……………ガウ」

左肩にひっかけたこちらはちび犬であるが、よく見れば雪狼にも似ている。

とは言え、まだ片手サイズのちびちびころころなので、詳しい種族は不明だった。

なお、ウィリアムについては誤認逮捕によるちび犬化であったが、ぴくぴくして蹲ってしまうくらいに沢山撫で回すことで謝罪とさせていただいている。

まさか、アルテアを引き剥がそうとして背後に忍び寄っていたとは思わなかったのだ。

「…………ネア、…………ここを出たら、戻してあげようか」

「はい。これはパンの魔物術符を取り上げようとした使い魔さんによる自損事故と、それを阻止せんと戦った健気な人間が引き起こした悲しい事故によるものでしたので、勿論お部屋に戻ったら解除してあげましょうね。…………私としては、いつまでも一緒にいたいふわもこなのですが、何かあると危ないですから」

儚くそう呟き、目を伏せて健気に微笑んでみせたネアに、婚約者は心を動かされてしまったらしい。

こちらを見てきりりと頷くと、ディノはネアに優しく微笑みかけてくれた。

「では、……………雪白の舞踏会にはそのまま連れて行くかい?」

「…………雪白の舞踏会に、このちびふわ達を連れて行けるのですか?!」

「アルテアは君の使い魔だし、ウィリアムは私が連れてゆけば問題ないだろう」

「…………は!そうです。ディノは王様でしたものね!」

(雪白の舞踏会に、ウィリアムさんとアルテアさんと一緒に行けたら、何て素敵なのかしら…………)

「と言うことなので、一緒に雪白の舞踏会に行きませんか?その、…………イブメリアですし、他に素敵な恋人さん候補との予定があるのなら、寂しいですが我慢します」

「……………フキュフ」

「…………ガウ」

邪悪な人間がしおらしくしてみせたからか、無垢な魔物達はそんなネアを哀れに思ったらしく、渋々と頷いてくれた。

とは言えと少し心配になり、ネアはディノの三つ編みを握るとくいくいっと引っ張ってみる。

「でも、ディノがずっと楽しみにしていた舞踏会ですから、二人きりの方が良ければ言って下さいね?」

そう言えば、ネアの大事な魔物は目を瞠ってこちらを見る。

あまりにも無防備な眼差しに微笑んで頷くと、ディノは嬉しそうに微笑んだ。

「ウィリアムとアルテアも連れてゆこうか。私は君と舞踏会に行けるし、彼等がいてくれれば何かがあっても安心だからね。…………君が怖い思いをしたら困るから」

伸ばした指先でそっと頬を撫で、ディノはそう微笑む。

ネアも微笑んでごつりと頭突きをしてやり、ディノはきゃっとなって嬉しそうにもじもじした。

「ふふ、今年は、賑やかな雪白の舞踏会になりそうですね。…………いつまでもここにいたいですが、そろそろ支度をしに帰りましょうか。ウィリアムさんが新しくしてくれた水鉄砲もしっかり装備してゆくので、悪い奴が出たら守ってあげますね」

「ご主人様!」

大喜びで爪先を差し出されてしまい、ネアは仕方なくぎゅっと踏んでやった。

手を繋いで帰りたいが、今暫く、三つ編みを引っ張って歩いて帰ろう。

振り返ると、そこには雪の中に佇む飾り木と見事な教会がある。

いつでもイブメリアに会いに来られると思うと、とても贅沢な気持ちでいっぱいになった。