軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

塩の魔物とウィームの亡霊

長い廊下を歩いていると、ふとこの廊下はここまで長かっただろうかとエーダリアは疑問に思った。

もっと早く、曲がり角が現れている筈なのに、まだ真っ直ぐな通路が続いている。

薄暗い廊下を眺めて、小さく溜め息を吐いた。

「………鳥籠を緩めたからか」

気象性の悪夢の受け流し方は様々だ。

単純に遮蔽して防ぐのが一番であるが、あえて悪夢の受け皿にならなければいけないリーエンベルクでは、そうもいかないこともある。

実は先程から、精霊の介入があったということで悪夢が荒れており、万象の魔物から少し鳥籠を緩ませるように忠告を受けていた。

とは言えそんな操作が可能な筈もなく途方に暮れていると、まさかの万象の魔物が指導をしてくれたところなのだ。

(…………ディノ、か)

敬称をつけて呼んでいたら、何となく煩わしそうにそれを外すようにも言う。

自分だけ敬称を付けて呼ばれていると、ネアが仲間外れなのかと心配するからだそうだ。

しかし強要される側は堪ったものではないので、舌の上で呼びかけが強張るばかりだ。

おまけに、予想に反してディノは教え方がとても上手かった。

本人曰く教え方はネアに学んだそうだが、あの大雑把な元婚約者が教育上手などとは到底思えない。

なので、元々魔物というものは器用に喋るものなのだろう。

「これでいいかな。私は少しアルテアを見て来るから、先にネア達のところへ行っていてくれるかい?」

「ここまで薄くしてしまって構わなかったのか?」

「うん、悪夢の表層は展開されてしまうようになるけれど、これで結界がひび割れないからね。念の為に、遮蔽が二重になっていないところでは一人にならない方がいい」

聞けば、精霊の介入だけではなく、更に何やらひと騒動あったのだと言う。

またしても統括の魔物は何かをしでかし、その対価として厄介な仕事を申し付けられていた。

(このハイダットの環境下において、悪夢だけではなく、リーエンベルクそのものの結界の補填までをさせられていて、大丈夫なのだろうか)

妖精や精霊の呪いも遮断しようと言われていたので、かなり高度なものを要求されているようだ。

一体どれだけのことをしでかしたのか不安になってしまう。

加えてその罰は、一定期間のリーエンベルク無償奉仕の一環なのだ。

これは、エーダリアからヒルドに、何とダリルにまで適応されてしまうので、さぞかし胃が痛いだろう。

「手を借りてすまない。こちらでは悪夢の状態までを逐一観察は出来ないので、知らせてくれて助かった」

「………君は、ヒルドが言うように頑固なのだろうね。今は私にもここを守る理由があるのだから、もう少し気楽にしていたらどうだい?」

「き、気楽に………だろうか」

「君達が、ネアの良き隣人でいる間はね」

「…………確かに、そうするべきなのだろう。ただ、私が気負いなく接するには、あなたは高位過ぎるのだ」

「そうかな?君の足元で寝ている狐も、元は王族相当の魔物だよ。あの子に言わせるとね、魔物はせいぜいそんなものなのだそうだ」

「……そんなもの?」

「強くて綺麗で、したたかなくせに無知で愚かな可愛い生き物らしいよ」

「…………っ!ネアはそんな事を言っているのか?!」

「ほら、君はそうして身構えてしまう」

魔物の王はそう微笑んで、指先で首筋を撫でた。

先程から何度かそうしているが、何か違和感でもあるのだろうか。

「あの子は言うんだ。だからこそ、脆弱なくせに強欲でずる賢い人間とは、ちょうどいいのかも知れないって」

それはまるで、しょうもない惚気話を聞かされているようで、辛うじて命を繋いだものの切実な告白を聞いているようでもあった。

「さっきね、アルテアに首を落とされそうになったのだけれど…」

「く、首を?!」

「そう。掻き斬られたから少し派手なことになってね」

「ち、血は……、魔術基盤は大丈夫なのか?!あ、………いや、すまない。負傷は問題ないのか?」

一瞬激しく動揺してしまってから、驚いた顔でこちらを見た特等の魔物に慌てて謝罪した。

畏怖の対象ですらあるこれだけの存在を捕まえて、魔術基盤の心配など不敬にも程がある。

しかし、万象の魔物は少しだけ微笑みを深めたようだ。

「ふうん、成る程ね。君はそういう反応になるのか。やはり特殊ではあるんだね。ネアも変わっているんだよ。痛かっただろうと心配してくれるんだ」

(これだけの魔物に対して、……痛みの心配などしているのか?)

腕や首を失くしても容易く修復出来てしまう階位の生き物に対して、愚かな心配ではないかと思いかけて、ふと、この魔物はそう言われることがとても嬉しかったのだと理解した。

なので、こんな風に幸せそうに語るのだ。

(………と言うことはまさか………?)

「あなた方が肉体を損傷するのは珍しい話ではないが、その、………やはり痛いのだろうか?」

思いきってそう尋ねれば、白金の虹彩模様を滲ませた紺色の瞳が薄く笑った。

「それぞれだね。痛みを選ばないものもいるし、痛みを知らないものもいる。例えばアルテアなんかは、過度な痛みは知覚しないよう選択している筈だよ。あえて全てを排除しないのが、とても彼らしいだろう?」

「全てを排除することも出来るのか?」

「公爵位なら出来るだろうね。ノアベルトなんかは最初から悦楽に繋がらない痛みは嫌がって手放してしまったし、ウィリアムは珍しく苦痛を選択した魔物なんだ」

(ノアベルト…………か)

その名前に不思議な躊躇いが揺れる。

先日、魔術基盤の損傷を修復した際に、小さな事故があった。

作業中にうっかり基盤の一つにしかけられた侵入駆除の術式に触れてしまい、エーダリアは危うく片手を失くすところだったのだ。

その時に、何の躊躇もなく手を貸してくれたのが、その名前を持つ魔物だった。

『エーダリア、ちょっとこっちに避難して。……うん。これでいいかな。………ありゃ、もしかして僕、擬態が解けてる?』

擬態を解いてしまったのはうっかりだったようで、こちらを見た魔物がぎくりとする。

明らかに多色持ちの白き魔物に愕然としたのだが、ヒルドは付き合いが長いようだし、グラストも普通に受け入れている。

あの小さな銀狐が特等の魔物の一人であることは、既に周知の事実だったのだ。

グラストでさえ受け入れていることに驚いたが、ゼノーシュが、自分の歌乞いが狐に浮気をしないようにと、本来の姿で会うことを強要したかららしい。

(二人とも、私が動揺するだろうと思って黙っていたそうだが、そもそも機密上どうなんだ……)

さすがにこの件は悩んでしまったのだが、肝心な当の本人も含め、みんなが飄々としているので一人突き放す訳にもいかず、本当に困ったのだ。

しかも、その日はさすがに銀狐の入室を禁止したところ、ヒルドから心労で狐の背中の毛が抜けてしまったと苦情を言われて、強引に預けられてしまう始末。

やっと部屋に入れて貰えてはしゃいだ狐が、いつもの犬用の玩具を咥えて走ってきたので、ついぞんざいに遠ざけてしまったところ、一時間近く部屋のテーブルの下で鳴きながら絨毯を掻き毟っていた。

さすがに放置も出来ずに引っ張り出して叱れば、またボールを咥えてきて涙目でこちらを見上げている。

仕方なくボールで遊んでやっている内に、わだかまりを持ち続けることすら馬鹿馬鹿しくなってしまって諦めた。

しかし、こうしてその名前と向き合えば、やはり足元のこれは伝承の古くから存在する、塩の魔物なのである。

(しかし、悪夢に入ってからずっと寝てるな)

果物が入っていた籠にタオルを詰めてやれば、かなり気に入ったらしくずっとその中で寝ている。

いささか、魔物というものに幻滅しつつあると言わざるを得ない。

これは、高位の魔物の在り方としてどうなのだろう。

「確かに彼は、痛みには弱そうだ。……あなたは、……………ディノは、痛みを感じるのか?」

渋々呼んだ名前に短く一つ頷いて、妖艶な魔物はその美貌を魔物らしくけぶらせる。

こんな途方もない生き物を、ネアは毎日どうやって受け入れているのだろう。

過ぎたる美しさは、力であり拒絶でもあるのだ。

「痛みは感じるよ」

「……………い、……痛いのか?!」

「それなりにね。最初は手首を少し切っただけでも驚いていたけれど、もう慣れたかな。傷そのものを負わないように調整するのが常だったのだけど、今でもすぐに治してしまえるから気にはならないよ。……それなのに、痛いかどうかをいつも心配するネアはとても可愛いんだ」

「痛みを感じる相手に対して、心配するのは当たり前だろう!」

驚いてそう言えば、この窓の外のものなどより遥かに恐ろしい災厄がおかしそうに笑う。

「それでも、そういう風に言う者は少ないんだ。君も変わり者なのだね」

ふと、幾つかのことが脳裏を過ぎる。

ボールを咥えてこちらを悲しげに見上げていた銀狐や、ネアに叱られて部屋の隅で俯いてしまっている美麗な魔物。

グラストの横顔を懸命に窺いながら、弾むような足取りで歩く少年姿の魔物。

(確かに、ネアが言うように愚かで可愛らしい側面というものも、あるのかも知れない)

そんな風に感じたのは初めてだったので、薄暗い悪夢の表層が浸透しつつある廊下を歩きながら、少しだけ考え込んでしまった。

ネア達のいる部屋へと、ある程度は遮蔽区画を選んで迂回しながら歩いているが、後から来ると言う二人の魔物の姿はまだ見えない。

籠に入れた銀狐も寝ているようだ。

(名前は、魂に繋がる音なのに)

困惑と諦めに揺れる思考は、悪夢の中で頼りなく天秤を入れ替える。

自分はこれからも気負いなく、あの特等の魔物を敬称抜きの名前で呼べるだろうか。

或いは、この籠の中で寝たままの狐とずっと上手くやっていけるのだろうか、と。

その時、キイッと扉の軋む音がした。

「………誰かいるのか?」

普段であれば気にしない音だが、悪夢の中だと変わってくる。

これが悪夢の影響ではなかった場合、遮蔽が崩れたものだとしたら大問題だ。

しかし応えはなく、静かな廊下にはぼんやりした室内灯と、窓からの悪夢が揺らめく影が映るばかり。

奇妙な圧迫感のある空気に眉を顰めてから、ようやく歩いている廊下が行き止まりになっていることに気付いた。

「…………悪夢か」

迂闊にも、踏み込んでいる深さに気付くのが遅すぎる。

小さく舌打ちしたい気分で、その禍々しい穏やかさを眺めた。

悪夢は、得てして静謐で狂気に満ちており、例えようもなく胸が悪いものだ。

(そう言えば、ディノが、精霊の介入の間はネアを悪夢に預けたと話していたが、大丈夫だったのだろうか?)

停滞期だから安全だと思うのは、人外者の感覚であり、停滞期とは本来は悪夢の終焉に向けた誘導路である。

決して穏やかなものではないのだが、体さえ傷付かなければいいと彼等は考えるらしい。

(いや、今はそれよりも、この悪夢の表層から出ることが先決だな……)

頭を振りそう考えて、魔術を立ち上げる準備をする。

チリリと指先が熱くなる感覚は嫌いではないが、悪夢の中となると用心せねばなるまい。

「よいしょっと」

場違いな声が聞こえたのは、その時だった。

ぎょっとして振り返ると、背中合わせに立った一人の魔物が、何やら骨ばった生き物を灰にするところだ。

「………ネイ、か?」

そろりと声をかければ、呆れたような顔で振り返る。

「何で僕を起こさないのかな。こんなところ一人で歩いてたら危ないよ」

「………いや、………そうだな」

「しかも、ネアも君も、背中が無防備過ぎるんだよね。人間は背中に注意を払わないのかな?」

「そんな事はないが、私の背後に居たのは亡霊か?」

「亡霊だね。ここで殺された人間みたいだ。悪夢に炙られて出てきたみたいだけど、鳥籠はどうしたの?」

そこで、寝ていたが故に諸々聞き逃している塩の魔物に、これまでの事情を説明してやった。

「精霊か!あれは陰湿だから、僕は関わりたくないなぁ。それにシルは怪我をしたんだ。男なんだから別にいいと思うけれど、あの子が怒るんじゃないかなぁ」

「ネアがか?」

「怒ると思うよ。あの子、自分のことは割とどうでもいいくせに、シルには過保護なんだ。我が儘だからね」

「………そうか。まぁ、よく叱られてはいるな」

「いつか本気で怒られるから、シルが評価を下げたらネアに優しくしてみようかな」

「………その時は、私を巻き込まないでくれ」

「上手くやるから大丈夫。僕はそういうの得意だしね。………あ、でも、ヒルドが案外手強いからなぁ」

そう呟いて肩を竦めた塩の魔物に、何の躊躇いもなく腕を掴まれた。

「はい、こっちね。出口は分かりやすいけど、アルテアも野放しになってるから注意した方がいいよ」

「野放しという表現もあれだが、さすがに落ち着いたのではないか?」

「あれで、案外八つ当たりもするからね。君は人間で、統括の魔物からは守られる立場だけど、念の為に」

「それなら、私よりもヒルドの方だろう」

「今回アルテアが来るってなってから、シルと相談して、ヒルドにはこっそりお守りをつけてあるから大丈夫。って言うか、ヒルドはまず隙がないんだ。一人でもアルテアくらいどうにか出来そうだけどね」

「………お守り」

「そう。僕の毛玉を気付かれないように忍ばせてあるから大丈夫だよ」

「…………毛玉」

それは、毛玉として捨てられてしまわないのか不安になったが、ひとまず頷いておくことにした。

ヒルドは綺麗好きな方なので、毛玉の存在にはすぐに気付いているだろう。

と言うか、毛玉のお守りとは何だろう。

「ほら、さくさく抜けよう。ここは悪夢が少し混み入ってるんだ。アルテアが変な仕掛けをしてないといいけど」

「その可能性があるのか」

「彼ならやりかねないね。ほら、安全な筈の遮蔽の中だけどなぜかちょっと不安定にするとか、そのくらいはね」

「………しかし、いいのか?アルテア達に、ここにいることを気付かれたくはないのだろう?」

「シルが見張ってるだろうし、この道くらいならね。それに僕も、せっかくの友達をこんなとこで亡くしたくないしね」

「友達…………?」

驚いてそう反芻したところ、こちらを見た塩の魔物がぱっと目を瞠った。

なぜか慌てて離れられ、壁際にへばり付いている。

まるでこちらが傷付けたような構図に、思わず渋面になると、更に打ちひしがれた顔になってしまった。

「………ごめん、そんな感じじゃなかった?」

「い、いや、………だが、友達でいいのか?」

「だって、エーダリアはボールで遊んでくれるし、洗ってくれたり同じ部屋に泊まったりもするから、ヒルドと同じように友達なのかと思ってたんだ」

そう言って悄然としてしまうが、狐の世話をすることと、最高位に近い魔物と友人となることが同列でいいのだろうか。

「…………勝手に喜んでごめん、友達じゃなかった」

「ま、待て。友達でいい。いや、友達なのだと思う」

いつかのディノのように、危うく泣いてしまいそうな落ち込みぶりに慌ててそう言ってやれば、不審そうにこちらを見て、本当かなと呟いている。

友達だと思ったことはないが、ネアの時の騒動を見ているので、ここで泣かれることだけは回避したい。

(…………な、なんだ、この面倒臭い生き物は)

ついそう考えてしまって、ネアの苦労が少しだけ分かったような気がした。

そしてこれは、許していい近しさなのだろうか。

「…………でも、エーダリアはあまり嬉しそうじゃないしね」

「………よし、では私と友達になってくれ。あまり友人らしい付き合いというものは得意ではないが、それでも良ければだが」

「…………うん」

どこか悄然と、しかし嬉しそうに微笑まれて、少しだけ頭痛がしてきた。

グラストなどを見ていると、懐いてしまった魔物の独占欲の強さは異常だが、この友人という枠の適応の仕方はどうなるのだろう。

今度ヒルドにでも聞いてみるしかないが、友達になってしまったらしい今、さてどうすればいいのだろうか。

「良かった、友達は三人のままだ」

「………ヒルドと私の他は誰なんだ?」

「シルだよ。一昨日友達だよねって訊いたら、それでもいいよって言ってくれたんだ」

「………他にはいないんだな」

「あんまり友達って感じじゃなかった奴等ばかりだね。でも、三人もいれば、誰かがボールで遊んでくれるしもういいや」

「基準はボールなのだな」

「今まで、あんなものに価値を見出したことなんてなかったのに、今は見ると幸せになるんだよ。外で女の子達と遊んでるより幸せかも知れない」

(………おとぎ話にも出てくる塩の魔物が、この体たらくでいいのか?!)

ヴェルクレアの子供達だけでなく、比較的多くの国で読まれているおとぎ話に、塩の魔物が魔物の王に心臓を奪われてしまう物語がある。

前回、初めて塩の魔物としての彼と会った時に、それが実話だと聞いて驚いた。

そんな関係性で同じ屋根の下に居てもいいのだろうかと考えたが、本人の説明では悪いのは塩の魔物の方だったらしい。

『みんなの前でね、僕は場を盛り上げる為にシルを傷付けるふりをしようと思ったんだ。彼が傷付くとは思わなかったんだよ。……でも、帰り道でウィリアムに叱られた。それなのに僕はまだその時、叱られている意味がわからなかったんだよ』

では、どこから理解したのだろう。

それは、ウィーム史にある統一戦争のときのことだろうか。

塩の魔物の悲恋もまた、この土地には言い伝えとして残されている。

(ウィーム領主である私は、ヴェルリアへの塩の商いがウィームからしか叶わない事も知っている)

なので近年、塩の魔物と言えば心臓を奪われた気の毒な魔物と言うよりは、ヴェルリアの王族を今も祟る悲恋の魔物という印象の方が強い。

しかし、そんな魔物は同じ土地で健やかに過ごしており、現在夢中になっているのは犬用のボールなのだ。

「そうだ、エーダリア。籠に入ってるタオルの縁がなくなっちゃったんだ。新しいタオルにして」

「…………タオルの縁」

「うん。眠たい時に、あの固いところを夢中で噛んじゃうんだよね。そしたら、ボロボロになっちゃったからさ」

「………わかった。新しいタオルにしておくが、出来れば自制して欲しい」

「…………うん。この前ヒルドにも叱られたんだ。あまり本能のままに過ごしていると、飼い犬用の躾教室に入れるって………」

「ヒルド…………」

最近、狐が絨毯を傷付けるので本気で怒っているときがある。

このままでは飼い犬教室まっしぐらの友人に、エーダリアは一つの提案をした。

「良ければ今度、リーエンベルクの魔術基盤の改良について相談に乗ってくれないか。その、……」

「わかってるよ。少しは魔物らしいことをした方がいいんだよね。………頑張るよ」

「いや、あくまで友人としての範疇で構わない。少し、元の姿でいる時間を増やしてはどうだろう?」

「でも、今でもボールだけじゃなくて、デートもしたりしてるんだけどね」

「だが、ボール遊びの方が幸せなのだろう?」

「うん…………」

危機感は覚えながらも、ボール遊びの時間を削るのだけは嫌なのだろう。

妙に頑なな表情に呆れつつ、悪夢の浸透を抜けたので銀狐の姿に戻らせた。

ややあって、結界の補填に出ていたらしい二人の魔物も合流する。

友人になったばかりの魔物をどう獣の欲求から救ってやればいいのかわからないが、まずは今回の悪夢の派生理由を話し合うことが先決だ。

それからゆっくりと考えればいい。

しかしその翌日から、なぜかエーダリアが面倒を見なければいけない魔物が増えてしまった。

悪夢の遮蔽期間中でなければ、ガレンの執務室の方に逃げ出したかもしれない。

心から、今まで信じていた通りの、老獪で万能な魔物達のままでいて欲しかったと思った、長い一週間であった。