軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

41. 事情聴取を受けています(本編)

ネアが然程疲れていなさそうなこともあり、事情聴取がなぜか始まった。

他国の内情を探る為の業務報告は終わり、ここから先は、もう少し下流の事情聴取となる。

風竜が覗き魔だった事件の、詳細報告であった。

「ネア、覗き魔ってどういうことかな」

「……浴室を出たところで、突撃されました。初対面で殺されそうになったので、襲撃かと思ったのですがそうではなかったようです。よく知らない方に、タオル一枚のところに押しかけられるのは流石に嫌なものですね」

「………彼は今どこにいるんだろう」

「ディノ、ウィリアムさんがきちんと制裁を与えたそうですので、サラフさんを傷付けてはなりません。後々わかったことによると、空腹で荒ぶっていたようです」

「空腹とは言え、親しくないご婦人の浴室を訪れるのは屑ですけれどね」

ヒルドもかなり辛辣だが、可哀想なのはどんどん表情が曇ってゆくエーダリアだ。

憧れがあったそうなので、彼の目の前ではあまり掘り下げないでやって欲しい。

「それと、サラフさんのお国にはハレムがあるそうです。軽装のご婦人や、入浴時のお供等には慣れているようでして、それで気が回らなかったようです」

「……それって、倫理的に腐ってるっていうこと?」

ゼノーシュの評価も辛くなってしまった。

どうやらサラフのことは、話せば話すだけ悪い方向に向かうようだ。

「文化や倫理観はお国によって違いますからね。暴力には暴力でもって応じ、結果としては制裁を加えましたし、過不足はないと思います」

実際は鱗をまだ剥いでいないので、まだ完全に借りを返しては貰っていない。

しかしそれを口にしてしまうと、この中の誰かが、サラフの鱗を総剥がしにしてしまいそうで怖いのでやめておいた。

ここで命の恩人となった分も、彼の積立は増やしておこう。

「……ネア、制裁とは何だ?」

エーダリアが怖々と尋ねてきた。

「足を強打して引き倒した後、逆鱗を少しだけ剥ぎました。途中でウィリアムさんが仲介に入りましたので、そこで解放しています。どうやら竜は、逆鱗を剥ぐと死んでしまうそうです」

「当然だ!殺したらとんでもないことになってたのだぞ?!現状、風竜で子を残せる年代の雄は、あの長しかいないのだ。種の存続にも関わってくる!」

「……まぁ、確かにそれを考えると、種の保存の為には元気でいて欲しいですね。女性の方々も、大人の男性がいないと心細いでしょうし」

「もう少し手厳しくてもいいと思うよ」

「でもディノ、聞いたところによると、サラフさんは最初の攻撃時に、足も折れていたそうです」

「……ネア、お前は一体何をしたんだ?」

「あらエーダリア様、いただいたケープで、足を殴打しただけですよ」

「……それは折れますね」

しみじみとヒルドが頷けば、ゼノーシュもこくんと頷いて同意した。

(………あ、)

そこでネアは、とても大事なことを思い出す。

慌てて振り向き、ディノの髪の毛を引っ張って視線を合わせた。

「ディノ、転移の禁止的措置のせいで、私を助けてくれたウィリアムさんを無効化してしまいました。今後はそういうことがないように、少し緩和しておいて下さいね」

「じゃあ、ウィリアムは少し緩めておこうかな」

「ところで、そのウィリアムとやらは何者なんだ?お前の恩人であれば、こちらからも謝辞を示しておかねばならない」

「まぁ、お気遣いいただきまして有難うございます。贈答品などを出す場合は、私のお給金から引いて下さいね。……ただ、私はウィリアムさんのご正体を正しくは存知上げていないので、ディノに訊いてみますね。………ディノ、ウィリアムさんは、こちらからごお礼などを差し上げても問題ない方でしょうか?」

「彼は終焉の魔物だよ。人間達は、死者の王と呼んでいるね」

「………死者の王」

「確か、最高位の魔物の一人でしたね」

エーダリアとヒルドが顔を見合わせて、神妙な顔で頷くゼノーシュ。

「でもウィリアムは、人間のことが好きだから優しいんだよ。面倒見もいいし」

「死者の王がですか?」

ゼノーシュの補足に懐疑的な顔をしたヒルドに、ネアも補足することにした。

ウィリアムは、命の恩人かつ大切なコンシェルジュだ。

「ヒルドさん、ウィリアムさんがあまり人間と接することが出来ないのは、あまり不用意に関わると死んでしまうそうだからです。本来は、とても優しい方なんですよ」

「……死んでしまうというのが、最大の問題ですね」

「ディノの守護のお陰で、私はその問題を回避出来ます。それに、お友達になりました」

「……………死者の王と友達になったのだな」

なぜエーダリアは、がくりと項垂れるのだろう。

最高位の魔物と繋がりが出来たのだし、喜ばしいことだとは思わないのか。

「……ふむ。エーダリア様としては、サラフさんの方とお友達になって欲しかったのですね」

「いや、そういう問題では……いや、風竜の方が喜ばしいが、いや、だがそういう問題ではなくてな」

「サラフさんと繋ぎが取れるかどうか、今度ウィリアムさんに聞いておきますね」

「わかった!」

「……エーダリア様は、ものすごく風竜さんがお好きなんですね」

「確かに。かつては、竜を伴侶にする竜使い達に憧れたものだな」

「サラフさんは男性……」

「いや、そういう意味では…」

「大丈夫です!深くは追求しませんからね。それにサラフさんも、割と緩い倫理観念をお持ちのようでしたから、エーダリアのことも受け入れてくれるかも知れませんね」

「おい、ヒルド。私は…」

真っ青な顔の弟子から救いを求められた妖精は、穏やかに微笑んだ。

「幼少の頃より強い憧れを聞いておりますからね、風竜となれば、私も諦めましょう」

「ヒルド?!」

エーダリアが消沈してしまったので、事情聴取会はお開きとなった。

ネアはひとまず三日間の代休を貰い、さてどうしたものかなと思案する。

本日いっぱいは休むとして、現状の繁忙状態であまり戦力を欠きたくない。

動けるようであればどちらかの仕事を手伝いたいところだが、グラストのチームの任務は政治的な背景や極秘任務などが絡んでいるようだ。

そのような任務に、未熟者が踏み込むのも宜しくないだろう。

「ディノ、明日以降で構わないので、ヒルドさんのお手伝いをして、我々も信仰の魔物さんを探しませんか?」

「ネア、貰った休日分はしっかり休んだ方がいいよ。人間の体は脆弱だし、数日おいてからの方が疲労が出やすいって、ヒルドが話していたよね?」

「……む。確かにそう言われてしまうと、自己管理を旨として無茶は言えませんね。……ディノの方は大丈夫ですか?疲れていたら、すぐに休んで下さいね」

「ネアは、何かして欲しいことはあるかい?食べたいものや行きたいところでもいいよ」

魔物を案じた筈なのだが、魔物はその質問を全てネアに投げ返してきた。

実際に怪我らしきものを負ったのはディノの方で、ネアは怪我一つしていない。

たった数日ぶりなのに、なぜか懐かしく感じてしまうリーエンベルクの回廊を歩きながら、ネアは首を傾げた。

「明日の朝食が楽しみなくらいです。でも、夕暮れまでにまだ少し時間がありますから、王宮の敷地内をどこか歩いてみましょうか」

雪の積もった清涼な空気の中を歩くのは気持ちいい。

イブメリアの飾り付けがされた王宮の敷地内には、あちこちに飾り木やリースがあるし、元々この王宮の敷地内だけで一日ツアーが組めそうな広さだ。

「では、半刻くらい休憩してから出ようか。ネアがどれだけ疲れているかわからないからね」

「はい。そうしましょう」

(……………ああ。帰ってきた!)

部屋に戻ると、自分の領域という感じがして息を吐いた。

部屋の内鍵が閉められるし、見慣れた品物も多い。

馴染みのある窓の外の庭、そしてその奥の禁足地の森を眺めれば、何だか力が抜けてしまう。

「ただいま」

ぽつりと呟けば、唇が綻んだ。

後ろにいるディノを振り返って微笑みかけ、応接室の方にある長椅子にぽすんと腰を下ろす。

飲み物や軽食などを頼んでから座りたかったが、なくてもいいかと自分を納得させ、懐かしい景色を堪能した。

こうして座ってしまうともう、疲労感というよりは、安堵感で立てなかった。

「ディノ、あの指先の変色の後遺症みたいなものはありませんか?」

「問題ないよ。あの段階でも、擬態がなければすぐに治せたものだから」

「確か、鳥籠の隙間を縫うときに術式を浸透させる時に損傷したんですよね」

「あれは、不要物を融解する魔術だったから」

「………融解」

それはまさか、肉体を溶かすようなものだろうかと眉を下げると、ディノは少しだけ困ったような微笑みを浮かべる。

「皮膚が溶ける程のことにはなっていないよ。その手前で侵食を完成させたから」

「でも、そんな状態で長時間過ごすのは嫌だったでしょう。無理をさせてしまってごめんなさい」

「ご主人様と離れているのはもっと嫌だからね」

「とても良い魔物なので、今夜も髪を洗ってあげますね」

「……椅子にもするかい?」

「………では、出かけるまでなら」

「ご主人様!」

驚くぐらい俊敏な動きで椅子の体勢を整えられてしまい、そちらの上に座り直す。

重みがかかるので疲れるだろうにと思えば、ネアは、困った嗜好の魔物が不憫になった。

「信仰の魔物さんがいなくなると、祝祭の運行が大きく滞ると聞きましたが、どうしてなのですか?」

「イブメリアに最も欠かせない魔物だからね。送り火よりも遥かに影響力は大きい。祝祭の準備が整っていないということになるんだろう」

「このままだと、みなさん前夜祭の食事に飽きてしまいそうですね」

「メニューを変えるしかないね」

そんな話を聞きながら、窓の外の雪景色を見つめた。

この世界のイブメリアは、前の世界でいうところのクリスマスより少し早い時期の祝祭である。

日付的にかつてのクリスマスの時期にあたる祝祭も気になるものだったので、ネアはとても楽しみにしていた。

それが終われば、いよいよ年明けだ。

(ボラボラの日がやって来る………)

現在のネアが、この国の祝祭日で一番気になっていると言っても過言ではない。、毛皮人形が舞い踊るお祭りだ。

とても見てみたいので、切実に早く開催されて欲しい。

「……ディノ、レイラさんを」

「禁止」

「しかし、ヒルドさん一人では心配です」

少し粘ったところ、美しい魔物は悲しげに首を傾げた。

「まだ、そんなに元気ではなかったかもしれないんだ」

「わかりました。ディノも、しっかり休みましょうね!」

そう答えたネアに、ディノは婉然と微笑みかけた。

何だか、上手く転がされている気がする。