作品タイトル不明
42 引くことも大事です
「そうですわ。私はフラティナ様に悩みをご主人に相談するようにお伝えしただけです。その悩みにあなたが関係なければ、今まで通りだったわけでしょう? あなた方の関係が変わってしまったと言うのであれば、少なくともあなたに原因があるのではないのですか?」
「えっ、あ、あの」
こんな反応が返ってくると思っていなかったバンハは、マーベリックとミアーナからの問いかけに言葉を詰まらせた。
「人のせいにしたくなる気持ちは誰だってありますわ。私だって自分を正当化してしまいたくなりますもの。ですが、そんなことをされたほうはたまったものではないですわ」
「ひ、人のせいにすることは良くない。あなたはボクに責任を押し付けようとしている」
バンハは自分のことを棚に上げて言った。
「それはあなたも同じでしょう」
ミアーナは失笑して続ける。
「あなたは先ほど、私のせいにしようとしていたのではないですか?」
「そ、そんなことはない! ただ、あなたのせいなのか確認したかっただけで……」
「そうですか。それは失礼いたしました。ですが、わざわざ文句を言いにこられたのです。よっぽどのことなのでしょう。力にはなれるかはわかりませんが、どうして、お二人があなたに冷たくなったのか、フラティナ様に理由を確認いたしましょうか?」
すでに話は聞いているが、ミアーナに話をしたとしてフラティナが逆恨みされても良くない。今は何も知らないふりをして、自分から聞き出した、もしくは調べた展開に持っていくことに決めていた。
「あ……、ああ、はい。それでいいと思います」
少し冷静になったバンハは、穏やかな表情に戻り、ミアーナに訴える。
「兄夫婦は何か誤解しているのだと思います。今まで仲良くしてくれていたんです。謝るから、なぜ疎遠になろうとするのか教えてほしいと伝えてもらえませんか」
バンハは自分が密かに続けていた、フラティナのものを盗んでコレクションをするという行為が、誰にもバレていないと思い込んでいた。そのため、彼女たちが自分と距離を置いたのは「義理の姉を愛している」という噂が出たからではないかと考えていた。
だから、それは噂だと言ってしまえば、元通りの関係になると思い込んでいるのだ。
「なぜ、私が伝言役をしなければならないのです? 会ってもらえなくても手紙を送ればいいではないですか」
「二人が話を聞いてくれないから頼んでいるんですよ。手紙だって読んでくれているかわからないですから」
「そこまで嫌がられているのなら、仲直りは諦めてはいかがです? 相手を大事に思っているのであれば、引くことも大事です」
「そ、それは、そう思ってはいるのですが、やはり、二人は大事な人なんです。そう簡単には諦められません」
冷静になったと思われたバンハだったが、また感情的になって叫ぶ。
「今日、話したいことは兄夫婦のことだけではありません! あなたは酷い人です! ボクに期待をさせておいて婚約を断るなんて信じられない!」
「それは申し訳ございません。ただ、お聞きしますが、あなたは顔合わせの日に私になんとおっしゃったか覚えていらっしゃいます?」
「え……っと」
バンハは記憶を探ったあと、マーベリックに目を向ける。
「その、マーベリック様がいらっしゃると言いにくいのですが」
「言いにくいことを言ったのか。どんなことを言ったのか気になるな」
マーベリックは口にはしないが『早く話せ』と言わんばかりの冷たい笑みを浮かべた。マーベリックの圧力に負けたバンハの勢いはなくなり、ボソボソと話す。
「ふ、普通の夫婦にはなれないと思ってほしいと言いました」
「そんなことを言われて、はいわかりましたと言う人のほうが少ないだろう。疑問なんだが、どうしてそんなことを言っても、ミアーナが結婚してくれると思ったんだ?」
「そ、それはそのっ、あのっ」
マーベリックは理由を知っているが、あえて聞いてみた。バンハがすぐに答えを返せないため、ミアーナが口を開く。
「私は婚約について考えさせてくださいとお伝えしたはずです。それに、あのことについて許すとも言っていないのですよ?」
「あのこと? どういうことだ?」
マーベリックは知らないフリをして、バンハとミアーナに尋ねた。
「マーベリック様が王太子殿下から聞いた話のことですわ」
「ああ、そのことか。俺の弟だったロコッドも同じことを言っていたらしいな」
「そうです」
ミアーナは頷いたあと、バンハに目を向ける。
「私はあなたとあのことを口にしないと約束をしたから言えません。自分の口でおっしゃってくださいます?」
「あ……、え……あ」
バンハはミアーナとマーベリックを交互に見ながら、口をパクパクと動かした。
バンハは結局、口に出すことができず「用事を思い出しました」と言って帰っていった。結局、何をしにきたのかと呆れたミアーナとマーベリックだったが、とにかくミアーナが危ない目に遭うことがなかったことを喜んだ。
「マーベリック様がいてくれたから、スココ男爵もさすがに暴力に走ることはありませんでした。本当にありがとうございます」
「気にしなくていい。それよりも、一応、イガム子爵夫人に確認しにいくんだろう?」
「はい。もう話していただいてはいますけれど、そういう動きはしておかなければなりません」
ミアーナは笑顔で答えると、明日、フラティナと約束をしていることをマーベリックに伝えたのだった。