軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

39  没落なんてさせません

それから3日後、何も知らないコレンが上機嫌でロマの家にやってきた。いつものように彼女の部屋に案内されたコレンだったが、ミアーナの姿を見た瞬間、彼の顔から笑みが消えた。

「ど、どうして君がここに?」

「王太子殿下にお会いできて光栄ですわ。初めてお目にかかります。わたくし、ミアーナ・ファトミマと申します」

ミアーナがカーテシーをすると、コレンは焦った表情でロマを見つめる。

「今日は二人きりの部屋デートではなかったのかい?」

「コレン様にお話をしたいことがあるとしか伝えておりません」

「そ、それはそうだけど、二人きりだと思っていたんだ」

「そうでしたか。それは私の連絡不足でした。申し訳ございません」

ロマが頭を下げると、コレンはミアーナに命令する。

「ロマとの時間を邪魔しないでほしい。部屋から出ていけ」

「コレン様、ミアーナさんには私の希望でここに来てもらっているのです。ミアーナさんもいると伝えていなかったのは私のミスだと、先程もお伝えしたはずです」

いつもとは違い、冷たい表情のロマにコレンは焦る。

「ロマは悪くない! わかった。話を聞こう」

コレンは彼女の部屋に来ると、いつもソファに座って話をする。今日も同じように座ると、ロマは彼の隣ではなく向かい側のソファに移動し、ミアーナには自分の隣に座るように促した。

メイドがお茶を淹れて出ていくと、ロマが口を開く。

「早速ですが、本題に入らせていただきます。スココ男爵をミアーナさんの婚約者として薦められたようですが、その理由をお聞かせ願えますか?」

「……え?」

ルイティーをその男と結婚させたくなかったから。そして、ミアーナに嫌がらせをしたかったなど、ロマ相手に口が裂けても言えるはずがない。

コレンは頭の中で、必死に言い訳を考えた。

「ほ、ほら、ミアーナにはルイティーが迷惑をかけただろう? だから、お詫びに良い人を紹介しようと思ったんだ」

「良い人……ですか」

ロマが復唱するように聞き返すと、コレンは何度も頷く。

「そうだよ。スココ男爵は人が良いということで有名なんだ。一度、結婚に失敗したミアーナには大事にしてくれる人が必要だろう?」

「こんな言い方は失礼かもしれませんが、人が良いことで有名なのに、今まで結婚していなかったのですか?」

「あ……ああ。結婚に興味がなかったんだよ」

「結婚に興味がなかった方にミアーナさんを紹介しようとしたのですか?」

いつものおっとりとしたロマはおらず、コレンに容赦無く質問を続ける。

「ミアーナ様のことを気にかけることは悪いことではありません。ですが、それなら同じく裏切られたマーベリック様はどうなるのです? マーベリック様には女性を紹介されましたの? していないのなら、ぜひその理由もお聞かせ願いたいものです」

(私が一緒にいなくても、ロマ様一人で大丈夫だったんじゃないかしら)

ロマの 毅然(きぜん) とした表情とコレンの情けない表情を交互に見ながら、ミアーナは思った。

「えっ、えっと、どうしてロマはそんなに怒っているのかな?」

「先ほどの質問に納得のいく答えをいただけたなら、いつもの私に戻ります」

「い、いつものって」

「そうでない場合はどうなさるおつもりですの?」

コレンは怖くて尋ねられないだろうと思い、代わりに質問をしたミアーナに、ロマは笑顔で答える。

「私と両親が婚約の解消について、両陛下にお話しさせていただきます」

「や、やめてくれ! しょ、正直に話します! だから許してください!」

コレンは涙目になって床に膝をつき、ロマの手を握って懇願した。ロマはその手を振り払い、冷たい目でコレンを見下ろす。

「許すか許さないかは別として、話を聞きましょう。まずは、スココ男爵にミアーナさんをお薦めした理由を聞かせてくださいませ」

コレンは情けない顔をしてロマを見つめながら話し始める。

「どうしてスココ男爵にミアーナを薦めたのか。それは、ルイティーの結婚を阻止するためだったんだ!」

(やっぱりそうだったのね)

この質問の答えについては予想通りだったので、ミアーナは何も言わずに二人のやり取りを見守る。ロマのほうは納得がいかないと言わんばかりに眉をひそめて、詳しい説明を求めた。

「ルイティー様の結婚を阻止するため? 何をおっしゃりたいのか私にはわかりませんので、詳しく説明していただけますか」

「もちろん、もちろんです!」

コレンは何度も頷いて話を続ける。

「ルイティーがあの男と結婚させられそうになっていたんだ! だから、ミアーナを押しつければ、少なくともあいつとルイティーが結婚しなくてもよくなると思ったんだ」

「ミアーナさんには結婚相手を紹介して、マーベリック様に紹介しなかった理由は自分やルイティー様に何のメリットもないからですか?」

「そうだよ! 全部ルイティーのためだ! だけど反省した! 僕には君しかいないんだ! だから、僕を捨てないで!」

ロマに飛びかかろうとしたコレンの鼻先に、ロマは冷静にシルバートレイの縁を押し当てる。

「近寄らないでくださいませ」

「ふ……不敬だ! 僕にこんなことをしたんだ。侯爵家を潰してやる! ロマ、許してほしかったら過去のことは忘れてくれ。そうすれば、僕とまた幸せな生活に戻れるんだ!」

「コレン様、少し考えさせてくださいませ」

ロマはシルバートレイを持った手を下ろし、大きく息を吐いた。いくら婚約者であっても不敬罪は問われてしまう可能性がある。自分がどうなってもかまわないが、両親に迷惑をかけたくなかったロマはどうしたら良いのか考えた。諦めるしかないのかと、ロマが唇をかみしめた時、ミアーナは耳元で囁く。

「心配なさらないでください。侯爵家を没落なんてさせません」

「……え?」

「バトンタッチさせていただきますわね」

きょとんとしているロマに微笑んでから、ミアーナはコレンに目を向ける。

「確認させていただきますが、私にスココ男爵を紹介したのは、ルイティー様の結婚を阻止するためで、私のためではなかったということでよろしいでしょうか」

「そ、そうだよ」

今、ロマの前で嘘をつくのはまずいと判断したコレンは正直に認めた。

「承知いたしました。では、今の話を含めて、今日話した内容を両陛下にお伝えさせていただきます。それと一緒に侯爵家を潰すと言っておられた話もしておきますわね」

「や、やめてくれ! それは違う! 興奮して口走ってしまっただけなんだ。そんなこと本気で思っちゃいない!」

コレンの訴えなど無視してミアーナは話を続ける。

「ロマ様を不敬罪に問うということは、婚約も無しになることでしょう。侯爵家を潰すというのは、そのことも遠回しにおっしゃったんですよね?」

「ち、ちが、違うんだぁ!」

コレンが情けない顔をして叫ぶ声が室内に響き渡った。