作品タイトル不明
18 わかっておられますわよね?
ラゲクにお茶を頼まれた体でメイド長は部屋に入った。
ちょうどマーベリックも部屋におり、メイド長は先程聞いた話を二人に伝えた。
話を聞き終えたラゲクは、メイド長に指示をする。
「ミアーナがヨーカに踊らされるとは思わないが、念のために伝えておいてくれ」
「承知いたしました」
言われなければ、ミアーナにこのことを伝えても良いか聞くつもりだったメイド長は、ラゲクの指示に穏やかな笑みを浮かべて頷いて部屋を出た。
マーベリックとラゲクはしばらくの間、黙り込んで考えを整理した。そして、先に考えがまとまったマーベリックが口を開く。
「父上、自分の命が狙われているとわかった以上、相手が義母だとしても遠慮なく動きますよ」
「好きにやれ」
マーベリックの言葉にラゲクが頷いた時、メイド長が戻ってきて苦笑しながらラゲクたちに伝える。
「ミアーナ様からの伝言で、連絡をいただきありがとうございます。返り討ちにしてさしあげますわ、とのことです」
呆気にとられて動きを止めたラゲクたちだったが、マーベリックがこらえきれなくて吹き出した。
「そうか、返り討ちにする、か」
(思った以上に好戦的だったな)
マーベリックはそう考えて安堵したあと、ロコッドたちの浮気を暴くために立てていた計画を、ミアーナにも話しておくことに決めた。
*****
次の日、マーベリックとロコッド、そしてミアーナはラゲクの執務室にいた。
「ルイティーは体調が優れないようなので、しばらく静養させることにした。ミアーナには悪いが、彼女が元気になるまで代理で仕事をしてほしい」
「承知いたしました。仕事を教えてくださるのは、お義母様でしょうか」
ウキウキしているようにも見えるミアーナを見たラゲクは、内心呆れ返っていた。しかし、そんな様子は微塵も感じさせずに頷く。
「そうだ。彼女には家計の管理を主にしてもらっている」
「暗算は苦手ですけど、お金について考えることは大好きです。ないとは思いますが、過去を遡って使途不明金などがないか確認させていただきますわ」
「ち、父上! ルイティーの仕事をミアーナに任せるなんて荷が重すぎますよ! 彼女はここに来て間がないんです! 母上の負担にもなることでしょう!」
ロコッドは自分たちの危険を直感で察知したのか、ミアーナに仕事をさせることを拒んだ。すると、マーベリックが口を開く。
「誰だって最初は初心者だ。ミアーナならやれると俺は思うけどな」
「兄上にミアーナの何がわかるんですか」
「個人的なことは知らないが、仕事ができるであろうことはわかっている」
「……どういうことだよ」
ロコッドはマーベリックにではなく、ミアーナに疑いの目を向けた。
「マーベリック様とは昨日、やり取りをさせていただきましたの」
「え? いつの間に?」
「昨晩ですわ」
昨日の夜のうちに、ミアーナとマーベリックは顔を合わすことはせずに、手紙で連絡を取り合っていた。使用人たちが全面的に協力してくれているため、ロコッドたちはまったく警戒していなかった。
屋敷の使用人たちの間では、ロコッドとルイティー、そしてヨーカは公爵家に害を及ぼす人間として認定され、敵がはっきりしていることで結束が強い。
公爵家で勤められるくらいなので、彼らもプロである。どんなに嫌っていても、ロコッドたちの前で不遜な態度をとることはない。そんなこともあって、ロコッドたちは自分たちが使用人から好かれていないことに気づいていなかった。
「夫に何も言わずに連絡を取り合うなんて信じられない」
ロコッドが呟いた時、ラゲクが話題を変えた。
「そういえば、ロコッドに聞きたいことがある」
「なんでしょうか父上」
「お前とミアーナは寝室を共にしていないようだが、喧嘩でもしているのか?」
「え? あ、いや。そういうわけではありません」
ロコッドもこの質問がくることは予想していたのだが、あまりにも突然すぎて、動揺しながら答えた。ラゲクは冷ややかな眼差しでロコッドを見つめる。
「戦地にいる間にお前から送られてきた手紙には、仲良く寝室で眠っているとあったんだが、あれは嘘だったのか?」
「そ、それは、その」
ロコッドは浮気について開き直る勇気はない。しどろもどろになっている彼を見て、ミアーナは微笑む。
(お義父様、ロコッド様はルイティー様と一緒に眠っておられたのですよ。って、わかっておられますわよね)
たとえ愛が芽生えていなかったといっても、書類上の夫が浮気相手と一緒に寝ていたベッドなど、気持ち悪くて使う気にもならない。かといって捨てるわけにもいかないため、そのままにしてあった。
「ロコッドが答えられないなら、ミアーナに聞きましょう。ミアーナ、君は今までロコッドと一緒に寝室を共にしていたんだよな?」
マーベリックに尋ねられたミアーナは、これはルイティーとロコッドの話ではなく、自分とロコッドの問題だと認識して素直に答える。
「いいえ」
「では、今まで別々に眠っていたのか?」
「はい」
迷うことなく頷き、ミアーナはロコッドに同意を求める。
「そうですわよね、ロコッド様」
「え、あ、うん」
「ロコッド、どうしてそんな嘘をついた?」
ラゲクに睨みつけられたロコッドは、泣きそうになりながら答える。
「そ、その、ルイティーが、そのっ」
「ルイティーがなんだ?」
(ルイティー様から一緒に寝たいと言われた、もしくは自分が言ったなんて言えませんわよねぇ?)
ミアーナには笑顔で圧をかけられ、ラゲクとマーベリックに睨まれたロコッドは、昨日のうちに考えていた答えをなんとか口にする。
「ルイティーは病気なんです。看病をしている僕も病気にかかるかもしれません。ミアーナにうつしたくなくて別々に眠っていました」
「それは嘘をついた理由にはならないだろう」
ラゲクが眉根を寄せると、ロコッドは体を縮こまらせて答える。
「ルイティーの看病を僕がしていると知ったら、兄上が嫌な気分になると思ったんです。それに、別々に寝ているなんて言ったら、父上も心配するかと思って」
「俺も嫌な気分になるが、ミアーナも嫌な気分になるとは考えなかったのか? 俺のことを気遣う気持ちがあるのなら、どうして、屋敷に来たばかりで不安なミアーナを気遣ってやらなかったんだ?」
マーベリックの問いかけに対する答えなど用意していなかったロコッドは「す、すみません」と謝ることしかできなかった。