作品タイトル不明
16 生まれ変わってもらえますか?
「そ、それは、その、今は関係ないだろう」
「関係ないことはないでしょう。話すなら今ですよ。……助かりませんけど」
「な、な、な、何も話すことなんてない!」
「ロコッド、私が気になるから答えなさい。まさか、メイドに頼めば済む看病が忙しくて、新婚旅行に行けなかったなどと、馬鹿なことは言わないよな?」
ラゲクも参戦したため、ロコッドは今になって必死に言い訳を考え始める。側近たちはこうなると思っていたと言わんばかりにバツが悪そうな顔をして俯いている。パニックになっているロコッドを助けようと、ルイティーが訴える。
「その、やはり気の知れた人に看病してもらいたくって、私が頼んだんです! ロコッドが看病してくれたおかげで治ったのですから、それでいいでしょう?」
「気の知れた人というなら、侍女では駄目だったのか?」
「は、はい」
ラゲクが黙り込んだので、ルイティーはこれでひとまず逃れられると安堵したが、ミアーナがそうはさせなかった。
「お義姉様、理由をお伝えしたらいかがでしょうか?」
「……え?」
「お義父様は納得していないようです。侍女では駄目だった理由を伝えればわかっていただけるのでは?」
ミアーナは満面の笑みを浮かべて、ルイティーを見つめた。
「り、理由なんてないわ。強いて言うなら、気分的によ」
「そうでしたか」
ミアーナは頷き、マーベリックに意味ありげな視線を送った。その視線の意味に気がついたマーベリックが少し考えてから口を開く。
「ミアーナに聞きたいんだが」
「なんでしょうか」
「君が新婚旅行から戻ってきた時、ルイティーは病気だったのか?」
「……それはですね」
ミアーナは笑みを消し、以前『いいえ』と答えた時のように、すんとした顔になった。
「そうか」
ミアーナは何も答えていないのに、マーベリックが納得した理由がわからず、ロコッドたちは困惑する。
「どういうことですか⁉」
「そうよ。今のミアーナさんの反応で何がわかったって言うの⁉」
「もういいでしょう! 旦那様もマーベリックも疲れているでしょうから、まずは休むことが必要だわ! さっさと部屋に案内しなさい!」
このままではまずいと感じたヨーカは、メイドたちに指示をし、強制的に話を終わらせようとした。二人が疲れていることは間違いない。さすがのミアーナも、相手がすぐに罪を認めないとわかった以上、無理に話を続ける気はなかった。
(早く潰してしまいたいけれど、お父様たちの体調のほうが大事よね)
ラゲクとマーベリックからの視線を受け、ミアーナは、にこりと笑ってみせた。
「そうだな。疲れているのは確かだ。やらなければいけないことが山積みなのはわかっているが、少し眠らせてもらおう」
ラゲクが頷くと、メイドたちはラゲクとマーベリックたちと共に歩き出す。ミアーナも部屋に戻ろうとすると、ロコッドが付いてきた。
「ミアーナ、ちょっと話がある」
「どのようなお話でしょう?」
「君の部屋で話す」
「ここでは駄目なのですか?」
「駄目だ。他の人間に聞かれたくない」
「そうですか」
仕方がないので、ロコッドと共に自分の部屋に入り、歓迎はしていないが、部屋の端にあるソファに座るように促して尋ねる。
「で、お話とはどのようなことでしょうか」
「再度お願いをしに来たんだ。今日から良い夫になるつもりだ。だから、過去のことは水に流してほしい」
(水に流せなんて、この人、本気で言っているのかしら)
真剣な表情のロコッドを見て、ミアーナは呆れ返った。
「それは悪いことをした側が言うセリフではありません」
「……え?」
「水に流せなんて、本当に悪いことをしたと思っているなら、自分から言い出さないと言っているのです。あなたを川に流せと言うのなら、まだ納得いきますけど」
「そ、そういう意味じゃない!」
ロコッドは首を横に振ると、立ち上がったあとすぐに床に膝を付けた。
「謝る。すまなかった。挽回するチャンスをくれ!」
「お聞きしたいのですが、あなたは悪いことをしたという自覚はありますか?」
「……その自覚はある。だけど、僕は本当にルイティーを愛している。この気持ちは変わらない。こんな僕を受け止めてほしい」
胸に手を当てて、ロコッドは訴えた。心から願えばわかってくれる。そう思い込んでいるようだ。そんな彼を見つめ、ミアーナは眉根を寄せた。
(不倫について悪いという考えが本当にないのね。そんな人を許したって同じことを繰り返される可能性が高い)
ミアーナは少し思案してから口を開く。
「では、一度生まれ変わってもらえますか?」
「……は?」
「私に原因があり、その理由に納得ができたのであれば、一度くらいの浮気なら許したかもしれません。ですが、結婚初日から浮気を始めたあなたに、愛情や慈悲の気持ちが湧くわけがないでしょう?」
「怒る気持ちはわかるよ、だけどさ」
ロコッドが話している途中だったが、ミアーナは満面の笑みを浮かべて話を遮る。
「浮気した事実は変わりません。だから、生まれ変わってほしいと言っただけです。私が約束したのは、あなたとルイティー様が浮気をしていると、お義兄様たちに話さないということです。浮気を許すとは言っていません」
「た、頼むよ。せめて、仲良くしているふりをしてくれないか!」
「浮気の片棒を担ぐ気はないと言ったはずです。お義兄様たちに話をしないだけでもありがたいと思ってくださいませ。これ以上、話をしても結論は変わりませんのでお帰りいただけますか?」
ミアーナはそう言って、部屋の扉を大きく開け放った。
口ではミアーナに勝てないと悟ったロコッドは「とにかく、僕とルイティーの話は絶対にするなよ!」と叫んで部屋を出ていった。それと入れ替わるようにメイドたちが中に入り、鍵を締めたあとに確認する。
「ミアーナ様、乱暴なことはされていませんか?」
「大丈夫よ。どちらかというと、私が彼の心を傷つけたかもしれないわね」
「それは浮気の件で、でしょうか?」
「そうよ。勝手なことばかり言うものだから、冷静さをなくしてしまったわ。気をつけないと駄目ね」
「ロコッド様はなんとおっしゃったのですか?」
若いメイドたちは好奇心が抑えられないようで『どんな風にロコッド様を退散させたのですか?』と言わんばかりに、目をキラキラさせてミアーナを見つめた。本来ならメイドがこんなことを質問すべきではないのだが、ミアーナにとって、彼女たちは年も近いし、噂話が好きだということも理解できたため悪い気はしない。
「そうね。詳しくは話せないんだけれど、過去のことは水に流せと言ってきたの」
「ロコッド様がですか⁉」
過去のことというのが何なのかを、彼らの世話をしてきたメイドたちがわからないはずがない。メイドたちがロコッドへの怒りをミアーナに話していた頃、ロコッドは彼の母であるヨーカの所にいた。