軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

66話 「暗部への道2」

……序列? 幹部?

そういえば、そんなことをロイド先輩の口からきいたことがある。

けれど、それがいったいどうしたというのだろう。

僕の中での今日これからの認識は変わらないままだ。

「わからないのも無理はないわね。ふつう組織の幹部への顔合わせと聞いて不安や緊張はあっても恐怖……その中でも最大の警戒が必要な場合は少ないはずだわ」

その言葉の多くは僕が感じていたものだった。

同時に、意図をなんとなくだが理解する。

「つまり、気をつけなければいけないことがある、ということでしょうか?」

僕のその問いにフィーアさんは神妙そうに頷いた。

「そのとおりよ。忠告しておく必要を感じている」

「……」

なるほど。

わざわざ僕を待っていた理由。その最大の目的は恐らくはそれなのだろう。

「いい? ユノ・アスタリオ。結論から言うわ」

言ってフィーアさんは僕の目をまっすぐに見た。

「張りぼてでもいい。自分を強くみせなさい」

「……つよく?」

「ええ」

僕はフィーアさんがしていたように何かを考えるように瞳を閉じて、そして開いた。

「…………つまり?」

僕がそう問うと、フィーアさんも何かを考えるようにして瞳を閉じて、そして開いた。

「わからないあなたではない筈よ」

「……ん」

僕は腕を組んだ。

何かを試されている?

まるで、僕なら、ユノ・アスタリオなら既に言葉の意図に気づいているだろう? なんて言われている気分だった。

あのロイド先輩のことだ。ありえない話じゃない。

別に強がる必要もないが、どうせなら。

「……もちろんです」

そう口にして僕は何かを考えるようにして瞳を閉じて、そして開いた。

「なにかアドバイスなどあれば、お願いします」

心からの願いだった。

「そうね……」

そう呟くように言ってフィーアさんは何かを考えるように再び瞳を閉じた。そして開く。

「隙を見せない。自分を低く見せない。 下手(したて) にでない。つまりなめられてはいけないの。いい? ユノ・アスタリオ。はっきりいって幹部の多くは狂人よ。己こそが最強だと信じて疑わない戦闘狂。破綻者よ。それが奇跡的にロイド・メルツの名のもとに奇跡的に集っている」

奇跡的なのだということがよく分かった。

「その中に、あなたが加わる。いいえ、加わってしまった……っ」

悲壮感すら感じさせる口ぶりだった。

強くみせる……なめられてはいけない……。

つまり僕という存在が役立たずだと思われてしまってはおしまいだということだ。

言われてみれば頷ける話である。

使えない新入りなど幹部たちにとっては邪魔でしかない。

「……具体的に、僕はどうするべきでしょうか?」

幹部と本気で戦ってみせるなんて手は論外だろう。

いきなり不和の原因になるのはごめんである。

「そうね……」

そう呟くようにいってフィーアさんは何かを考えるように瞳を閉じて、そして開いた。

「これは あ(・) な(・) た(・) の(・) 先代の話だけれど」

せんだい?

「彼は戦闘中、四方八方から向けられる殺気と憎悪の雨の中、笑みを浮かべながらこう言ったそうよ」

フィーアさんの漆黒の瞳が僕を射抜いた。

――『心地よい』

「……」

僕は黙った。

雷が鳴れば不思議な怪談を聞かされている気分にもなっただろう。

「そのまま先代を真似ろ、と言っているわけではないわ。つまりどんなに幹部たちに絡まれても、殺気を当てられても、悠然と、なんでもないかのようにしていなさい。バカバカしいかもしれないけれどあなたの立場はそういったものなの。ハッタリをかますだけの実力はあなたにもあるはずよ」

びびるな、ということだろう。

そのことについては理解した。

しかし、どうもかみ合わない点もあるというか。

「あのフィーアさん。先代とはなんですか?」

「……!?」

『しまった』なんて聞こえてきそうな顔のフィーアさん。

それからしばらくの間、フィーアさんは瞳を閉じていた。

そして開く――。

「危なかったわ。いい? ユノ・アスタリオ。今日の幹部会の主な目的は、あなたの――」

「――あれ? フィーちゃん抜け駆け~?」

言葉を遮るようにして少女の明るい声が鼓膜をたたく。

瞬間、フィーアさんの顔が焦り、戦慄に染まっていく様を僕はただただ眺めていた。

フィーアさんの視線。その先にある僕の背後。

見えない線をなぞるようにして僕は振り返る。

暗闇を駆ける風の音。木々のざわめき。白銀の三日月。

そして――

「……ツヴァイ……貴様」

少し怖いフィーアさんの声。

僕の視線の先には、この夜すべてを飲み込んだかのような生気を感じさせない漆黒の闇。

それを瞳に宿した少女が、右手をひらひらと振りながらにっこりと僕を見てほほ笑んでいた。

「迎えにきたよ。ユーノくんっ」