軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

47話 「予感」

「おい見ろよ」

「……誰あの子?」

「……銀髪幼女……まさか……!」

「おいおいまじか! どっちの!?」

そんな囁き声と共に大勢の目が僕へと向けられる。

闘技場三階席。僕は以前と変わらず神様とルナの間で来たる準決勝――ティナ対マロの戦いを観戦しようと階段状の椅子に腰かけていた。

「…………」

突き刺さる好奇の視線。

その理由は単純明快。僕の膝の上に――銀髪の悪魔がいるからだ。

「ゆの……」

そう言って僕の膝に座っていた悪魔エリスが、不安気に僕を見上げる。

「どうしましたか? エリス お(・) 嬢(・) 様(・) ?」

にっこりと笑いながら、【お嬢様】の部分を少しだけ強調する。

「みんながね、わたしをみるの……」

そう言って大粒の涙を貯めながら僕の胸元をぎゅっと握るエリス。

「ははは……大丈夫ですよ」

なんて笑いながら、僕はルナへと視線を送った。

「なぁにその顔は? 言っておくけれど私が連れてきた訳ではないわよ?」

……なんだって?

「エリスお嬢様。どうやってここに?」

僕がそう問うと、エリスは一度首を可愛く傾げると、僕の胸に手を置き、ぐっと可憐な顔を近づけてくる。

その瞬間、ふわっと甘い香りが鼻腔をくすぐった。

「……ひみつ。ゆのをね、おうえんしにきたの」

そう僕の耳元で囁くと、スッと体を離し、小さな唇に人差し指を乗せ大人びた表情で僕を見つめるエリス。

……なぁにそれ?

その程度で僕がドキドキすると思ったなら大間違いである。そもそも今の問答でなぜそんな反応が返ってくるのか。

「くすぐったいよぉ」

そう言って小さな体を揺らす悪魔。

気づけば僕の手が悪魔のさらりとした銀髪を撫でていた。

「……魔法かな?」

この世界には不思議がいっぱいだ。

――「ロリコン」

そう誰かがポツリと呟いた。

……せっかく僕の評判が上がり調子の今、これ以上不名誉な肩書を増やす訳にはいかない。

そう考えた僕は、とっさに動いた。

「いやぁ。まさかルナお嬢様の妹君であらせられますエリスお嬢様に応援しにきていただけるなんて、僕は幸せ者だなぁ」

なんて少し大きな声でいいながら、あははーと笑ってみる。

すると、僕の膝の上にいるエリスもにっこりと微笑んだ。

「しょうらいを誓い合ったなかだもん。とうぜんっ」

そう言って顔を赤らめてもじもじとする悪魔。

「「ロリコン」」

……声が増えた。

僕はすかさずエリスの頭をわしゃわしゃとあえて撫でながら再び笑う。

「大きくなったら是非、お願いしますね!」

と、そう努めて爽やかに僕が言うと。

エリスが無邪気に微笑みながら僕にひしりと抱き着いた。

「うふふ、あは、くすぐったいよ、ゆの。ここはベッドじゃないんだからぁ」

えりすぅぅぅぅ!

「「「……」」」

僕にありありと視線を送っていた周囲の生徒たちが焦った様に僕から目を背けていく。

幼い子供の言う事だ。まさか本気にはしていないだろう。

…………そうだよね? 君たち?

「……ほんと、驚いたわ。あなた本当に気に入られているのね」

と、ため息を零しながら何故か微笑むルナ。

そして――。

「……」

顔を真っ赤にしながらもじもじとする僕の神様。

……もう僕は何も言うまい。これ以上は藪蛇だ。

ニヤリと笑うエリスを横目に僕は闘技場へと視線を送った。

向かい合う二つの影。

姿勢を低くして槍を構えるティナ。

その正面には僕の幼馴染マロ・バーン。

どちらか勝った方が僕の次の対戦相手だ。

「……」

応援するべきはティナだ。女神アテナと契約した彼女と僕が決勝戦で戦う。

そんな夢物語が目前まで迫っている。

だというのに、なぜだろう。

今僕の胸を支配しているのはワクワクやドキドキなんて興奮なんかじゃなくて――。

「ゆの?」

悪魔――ではなくて、エリスが突然首を反らすようにして僕を見つめる。

「はい? どうしましたか?」

僕がそう返すと、エリスが不思議そうに首を傾げた。

そして言ったのだ。当たり前のように。

「とめないの?」

「……止める?」

エリスの小さな指が闘技場――ティナを指し示す。

「――おねえちゃん、死んじゃうよ?」

――歓声が沸き上がったのは、エリスがそう言ったのと同時だった。

槍を突き出したままマロに向かい動き出すティナを見て、戦いが始まったのだと知る。

だが、僕の意識は依然としてエリスに向かう。

「……なぜ、そう思うんですか?」

「……こわいの」

そう言って、闘技場を眺めるエリス。

僕にはその横顔が、とても大人びて見えて――。

「あの男の人が、とっても、とっても」

「……」

全身が粟立った。

エリスの感じるそれを鼻で笑う余裕は僕には無い。

それどころか、そのエリスの言葉は僕の感じる不安に追い打ちをかけるものだった。

魔法の天才エリス・フレイム。この銀髪の悪魔は貴族の間では神童として有名らしい。

だから、と言う訳では無いけれど、この小さな少女には何か特別な感性がある事を、僕は疑っていなかった。

「……大丈夫ですよ。ティナは強いですから」

そう、自分に言い聞かせるようにエリスへと言って、僕は傍に立てかけていた槍を一度眺めると、吸い込まれるように闘技場へと視線を送った。