軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

45話 「もう一人の幼馴染」

第三回戦も難なく勝ち上がった僕は、神様達のいる三階席では無く、入場出口の隅で壁に背をつけながら試合を観戦していた。

「…………」

目的は、同じく三回戦を勝ち上がったティナの次の対戦相手となる人物を観察する事。

そして、僕の視線の先には、名も知らぬ同級生と――マロ・バーン。

その二人の内、勝った方がティナと戦う事になる。

「マロ……」

向かい合い、鋭い視線を対戦相手に向けたまま、動かない僕の幼馴染。

そこには見知ったニヤニヤとした表情は無く、ギラギラとした鬼気迫る眼光で相手を睨みつけるマロの姿があった。

一回戦、二回戦共にマロは召喚魔法によって呼び出した複数の黒い鳥型の魔獣による攻撃を駆使し、圧倒的な勝利をつかみ取ってきたらしい。

らしい、というのは僕自身まだ一度もマロの戦闘を自分の目で確認していないからだ。

気になりつつもタイミングのすれ違いでマロの戦いを確認できていなかった。

しかし、ティナの対戦相手が決まるという事もあり、今回こそはとこうして一人、マロを見に来たという訳である。

「始めっ!」

審判から告げられる始まりの合図。

その瞬間――両者共に動く。

マロは始まりの合図とともに、地面に右手をつけたまま、何やらブツブツと口を動かしている。

恐らくは魔法の詠唱。

「はぁぁぁ!」

それとは対照的にマロと向かい合っていた男は身の丈に迫る程の大きな剣を横に持ち、予想以上の速さでマロへと迫る。

「…………」

マロはまだ、動かない。

右手を地面についたまま、眉を寄せながら、瞼を閉じ、口元を動かしている。

……何故だろうか。僕はマロのその様子が苦しそうに見えて仕方が無かった。

その隙に、男がマロの元へと辿り着く。

「うおおおおお!」

気合の入ったそんな大声と共に、男が剣を上段に構えなおした――瞬間。

「……っ!」

ぐにゃりと、空間が歪んだ。

いいや、違う。マロを中心に魔力が渦を成し、それが黒く凝縮されていく。

それだけでは無い。

「な!?」

間の抜けた男の声が響き渡る。

それと同時に、男の体が宙へと弾かれる様に舞い上がった。

「「「おおおおおおおお!?」

熱を帯び、沸き上がる歓声。

それとは逆に、僕は全身から冷たい汗が噴き出すのを自覚していた。

―――なんだ、アレは。

「おい! 何が起こってるんだよ!?」

「魔法か? それにしては地味と言うか……」

「ダミス! 何やってるんだ! 早く 抵抗(レジスト) しろ!」

…………見えて、いない。

マロの体から滲み出るように広がる禍々しい魔力の塊。

それが腕の様に伸びて男の体に絡みついている。

いいや、それよりも。

マロの体から放出される魔力の塊が、大きな人影に見えているのは――僕だけか……!

「く、くそぉぉ! 動かねぇ!」

宙に浮かんだまま手足を動かし、必死な形相でジタバタと藻掻く男。

それとは対照的に、マロは未だに瞼を閉じたままだった。

僕はマロへと意識を集中させる。

ゆっくりと、ゆっくりと。耳と瞳に意識を向ける。

「――まれ」

まだだ。あと少し。

「――止まれ」

……え?

「止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ」

「……っ!」

呪文のように連続して唱えられるそれを聞いた瞬間、全身が一瞬で粟立った。

なんだよ……それじゃあ、まるで――

――昔の僕みたいじゃないか。

瞬間――マロの背後の影がゆらりと蠢く。

その真っ黒な影に、瞳の様な二つの赤い光が灯った。

それが、なんだか僕の方を向いている様な気がして――。

反射だった。視線を右へと逸らす。

だが、視線を逸らした先にあったのは、さっきまでマロの背後にあった闇そのものだった。

「ミ ツ ケ タ」

ぞわりと、寒気が全身を襲う。

耳元で囁かれたそのしわがれた声を聞いた瞬間、心臓が壊れそうな程、早鐘を打つ。

「うわぁぁぁぁ!」

そんな絶叫。

僕はそれが自分のでは無く、さっきまで宙に浮いていた男のものだと気づくまでに時間を要した。

地面に激突したまま動かないマロの対戦相手。

「勝者! マロ・バーン!」

そんな審判の宣言と共に、沸き上がる歓声。

その頃には既に、マロから出ていた影の姿は既に無く、ティナの対戦相手がマロ・バーンになったという現実だけが、そこにはあった。

「…………」

フラフラとした足取りで戻ってくるマロ。

下を俯いたままだった顔が、視線と共に僕へと向けられる。

「「…………」」

重なる視線。

僕もマロも無言だった。

「……チッ」

マロは一つ舌打ちをして、そのまま僕の横を通り過ぎていく。

僕は、そのままにはしなかった。

「――マロ。君は一体、何と契約をしたんだ?」

そうマロへと背中越しに問いかける。

「…………言った筈だろ? 高名な神様だよ。お前の契約した無能神とは違ってな」

僕は冷静だった。怒りよりも、まずは――。

「本当にソイツは、神様……なの?」

そう問いかけた瞬間だった。

血走ったマロの瞳が背中越しに僕へと向けられる。

「……っ!」

そのあまりにも迫力のある眼光に、僕は思わず身構える。

「そうじゃなきゃ、なんだって言うんだ?」

怒気の籠った低い声色。

それと同時にマロの体から立ち昇る様にして浮かび上がる黒い影を、僕はまっすぐと睨み返す。

「マロ。僕には君の手に入れた力が 正(・) し(・) い(・) ものだなんて思えない」

僕にも……言える事だ。理解されない事も分かってる。

言葉じゃ上手く言い表せないんだ。それがとても歯がゆかった。

「ハッ。笑わせるな。寝言は寝ていいやがれ。俺は宣言通り力を手に入れたぞ。もうお前に勝ち目はない」

そう最後に言って、再び僕から離れていく幼馴染。

仄暗い闘技場の闇の中へと消えていくその後ろ姿が、僕にはとても、寂しく映った。