軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4話 「禁断の赤い実」

学園の闘技場へ移動した僕は一人闘志に燃えていた。

ちょっとだけ。そう、ちょっとだけワクワクしている。

僕の持つこの力で、神アテナの名声を高める。

そんな目標ができてからは毎日こんな気分だ。

今までは目標が無かった。

だから力の制御を覚えてからも、特別やりたい事も無ければ実力を示す意味も見いだせずにいたのだ。

だが、今は違う。神アテナの為ならば俺はちょっとだけ本気をだそうと息巻いている。

「ユノさん……本当に無理しないでくださいね」

神様はそう言って不安そうに目を潤ませる。

……可愛いな。

「大丈夫です! 僕、神様から貰ったこのスキルがあれば敵なしです!」

僕がそう言うと近くにいたクラスメイト達が馬鹿にするように鼻を鳴らして、何やらコソコソと囁き合っている。

まぁ、当然か。はたから見れば美人にいい所を見せたくて張り切っている、という風に見えるのだろう。

実際、僕と契約してからの神様は僕のクラス以外では美少女神アテナとしてそれなりに話題になっている様だった。

そんな中、眠そうな表情のソレイユ先生から集合の号令がかかる。

「んじゃ、各々準備はいいか? 今から授業を始めるが事前に説明した通り、今回は初めての模擬戦になる。したがって予想外のアクシデントが起こる事も十分に考えられる為、今回武器の類はこちら側で殺傷能力の低いものを用意した。武器を使う予定のある者は始まる前に取りにくること。なお、魔法に関しては初級魔法のみ使用する事。以上だ。何か質問のある者はいるか?」

「「「…………」」」

「よぉし、いないなぁ? 本当かぁ?」

あ、そういえば。

「先生、模擬戦の組み分けはどうなるのでしょうか?」

「だよなぁ。さすがユノだよ。気になるよな?」

「え? あ、はい」

そこかしこから舌打ちが聞こえる。

所謂(いわゆる) 、癪に障る優等生のような立ち位置に僕はなりつつあるようだ。

……いや、謹慎くらってるな僕。

「模擬戦の組み合わせは自由だ。基本的に一対一の形式を時間の許す限り行う。ちなみに戦いたい者がいる場合は任意に前に出てきてくれ。いない場合はこちらで選別を行う。わかったか?」

僕たちは一斉に頷くと先生の指示が出るまで、思い思いにその時を待つ。

僕は槍を借りる為にソレイユ先生の元へ。

「槍でいいのか? アスタリオ家は代々剣だった筈だが」

「槍でいいんです。僕、神様と契約した時に《槍術》スキルを手に入れたようなので」

一応、念のため保険をかけておく。

入試で実技が散々だった僕が突然強くなってもおかしくないように。

「そうか。まぁ、好きにしてくれ」

僕は先生から木を削っただけの槍を受け取る。

その場で少しだけ左右の手に持ち替えながら槍をクルクルと回し、感覚を確かめる。

うーん。耐久性に難ありといった所だ。

少し注意しておいた方がいいかもしれない。

「今日は随分張り切っているじゃない」

アリスは僕の横に来ると少しだけ棘のある声色で僕に話しかけてきた。

「そうかな? 初めての模擬戦だからね。緊張してるんだ」

「へぇ……? 私にはいい所を誰かさんに見せたくて張り切ってるようにみえるけど?」

アリスは目を細めながら僕に意味あり気な視線を向けてくる。

さすがは幼馴染だ。僕の胸中などお見通しのようだ。

「まぁ、確かにそれもあるよ。せっかく契約してスキルを貰ったのに前と同じままじゃ、神様に申し訳ないだろ?」

「ふぅん。なるほどね。でも確かに今のあなたがどこまでできるのかは、私も気になっているわ。恐らく表には出していないだけでクラスの皆も同じでしょうね」

現状、このクラスで神と契約を交わしたのは僕だけだ。そもそも在学中に神と契約する者は半分もいないと言う話だから、実際に僕の成長を見て参考にしようとするのも頷ける話だ。

「こわいなぁ……もし戦う事になったらよろしくね」

「手加減しないわよ?」

正直、アリスが模擬戦の相手になった時の事は考えていない。学年首席の実力を持つ彼女に勝てばいいのか負けるべきなのか判断に困るところだ。

だが、これだけは言える。アリス以外の誰かとあたった時は、完膚なきまでに勝ってみせる。

「じゃあ、始めるか。誰か希望者はいるか?」

とうとう模擬戦が始まった。

僕の予定では何試合か観戦し、どの程度のレベルであれば圧倒できるかを確認しようと思っていたのだが……。

「ユノ…… 面(つら) 貸せよ」

マロはそう言って立つと、自ら立候補し、僕が出てくるのを待っている。

こうなっては仕方がない。

僕は覚悟を決めると、マロと同じく、石造りの階段を下り闘技場の中心へと進む。

「よく出てきたな。その根性だけは褒めてやるよ」

マロはそう言うと眼光を鋭くした。

「指名されたら出るしかないだろ? 忘れてるかもしれないが僕はアスタリオ家の三男なんだ」

「そう言えばそうだったな。だが、お前の家が武勲華々しい騎士家であるように、我がバーン家もこれまでいくつもの勲章を王より授かった伯爵家だ。特に魔法に関してはアスタリオ家に負けないと自負している」

伯爵家次男マロ・バーンが構える。

僕はこれみよがしに槍を天高く掲げると、そのままクルクルと槍を回転させ、タイミングよく瞬時に槍先をマロへと向けた。

決まった……。

「ふん、付け焼刃の槍術で俺に勝てると思っているのか?」

そして計画通りの挑発がやってくる。

「マロ、君には言っていなかったが、僕は神様との契約によって《槍術》のスキルを獲得している。付け焼刃だと侮ると後悔するよ?」

普段の三割増しの声で僕はマロへとそう告げた。

こちらを見ているクラスメイト達にも聞こえるように。

「ふんっ、無能と無能とが契約した所で俺にかなうものか!」

コイツ……まだ言っているのか?

僕は決める。敗北の味をたるんだ体に刻み込んでやる事を。

「二人とも準備はいいか?」

僕とマロが頷くのは同時だった。

「では、はじめ!」

先に動いたのはマロだった。

「死ねぇぇぇユノぉぉぉ! 風魔法! 風の刃(ウィンドカッター) !」

マロが魔法を繰り出したのと同時に僕も動く。

槍先をマロに向けたまま突撃を敢行する。

「何やってるのユノ! 避けなさい!」

アリスの叫び声が聞こえるが、僕の行動はこれで正しい。

今回僕が求める勝利は見栄え重視だ。したがって迫りくる凶刃に僕はあえて自ら向かっていく。

「ふっ!」

槍を両手に持ち替えた僕は船を漕ぐオールの要領で来たる風の刃を左右にいなしながら前へと走り続ける。

「ば、バカな! 風の刃(ウィンドカッタ―) ! 風の(ウィンド) ――」

僕はマロの懐に一瞬で飛び込むと槍の柄でマロの腹部を刺突一撃。

「く……そっ……」

マロは一歩ふらふらと後ろに下がると、そのまま両膝を地につき土埃を舞い上げ崩れ落ちる。

僕はそれを見届けると、自分が興奮している事に気づいた。

……やっぱ、やればできるじゃん僕。

初めてだった。自らの意思で、自分の力を使うのは。

そして恐怖する。この万能感を覚えてしまったら、僕はきっと。

「ユノさぁぁん! すごいです!」

クラスメイト達に混ざって観戦していた神様が無邪気に腕を振っている。

ああ……そうだ。大丈夫。僕には神様がついている。

彼女が傍にいてくれるならきっと、僕は道を間違わない。

「神様ぁぁ! 神様から貰ったこのスキルすごいですっ!」

僕は頭を切り替えて、すかさず神アテナの有能さをアピールする。

クラスメイト達はというと、目の前で起こった事が信じられないといった様子で、目を見開き口を小さく開いたまま皆一様に固まっていた。

やれやれ、この様子じゃ、もう何度か現実を見せてやるしかないだろう。

「つ、次は俺がいく!」

いつもマロと一緒にいる取り巻きの一人が、木刀を持って立ち上がる。

いいねぇ、そうこなくちゃ。相手がマロ関係だと僕も非常にありがたい。

僕はその場で右に左に華麗にステップを踏みながら槍を振り回し、最後に左手から右手に持ち替えると、空いた左手で手招きをする。

少し調子に乗りすぎだろうか? いいや、これくらいで丁度いい筈だ。

だってそうだろう?

今日は僕とアテナが生まれ変わる、最初の一歩なのだから。