軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

43話 「変わる世界」

「ユノ……」

次の試合を控室で待っていた僕に、アリスはそう言って、少しだけ困惑したような表情を浮かべた。

「一回戦、見てたわ。おめでとう」

「ありがとう。アリス」

「……正直言って……少し驚いた。まさかルーザスを、あんな簡単に倒しちゃうなんて」

……そうか。あの男はルーザスという名前だったのか。

「その顔……知らなかったわね?」

幼馴染って怖い。

僕は潔く小さく頷く。

「ルーザス・クラフト。実の父はあのAランク冒険者にして《剛腕》の異名を誇るラス・クラフトよ」

ラス・クラフト……だと?

「ごめん。誰?」

冒険者についてはあまり知識が無いと自負している。さすがにSランク冒険者であれば記憶しているが……。

アリスは少し呆れる様にため息をついて、口を開いた。

「つまり二つ名を持っている冒険者の息子をあなたはいともたやすく倒したのよ。ルーザスは優勝候補の一角。生徒会を始めとした多くの先輩が彼に注目していたの」

「……そっか」

……僕にとっては都合のいい話だ。

「……驚かないのね」

「うん。相手が誰でも僕がする事は変わらないから」

戦って、勝つだけだ。

……それだけだ。

「……ユノ、あなた……」

そうアリスが何かを言いかけた時、聞こえてくる歓声が大きくなった。

時間だ。次の幕があがる。

「行ってくるね」

「……うん。頑張ってね。ユノ」

……アリス。君には、いつか言わなければいけない。

僕の全てを。これまでを。

そうすれば、君の抱える不安も、消えるだろうか。

「アリス。勝ってくる。僕、頑張るよ」

そう言うと、不安そうにしていたアリスの表情が、少しだけ 和(やわ) らいだ。

「頑張れユノ」

そう言って微笑む幼馴染の応援を背に受けながら、僕は控室を出て、暗い通路をひた進む。

すると。

「さすが、と言えばいいのかな」

前回はロイド先輩、そして今度は――

「……クライム」

僕の友人が、待ち受ける様にして、そこにいた。

今回の新入生闘技大会には、既に生徒会に入っているアリスやクライムは出場していない。

生徒会に入る最後の一人を決める、という目的で、この闘技大会は毎年行われているようだ。

「まずはおめでとう。ユノ」

「ありがとう」

「既に三年生を中心に君の噂で持ち切りみたいだ。そして、次の試合で、誰もが 確(・) 信(・) に至るだろう」

「……そう願うよ」

僕はそう言ってクライムの横をそのまま通り抜ける。

「ほどほどにね。ユノ。 慎(・) 重(・) に」

そんな忠告を最後に、僕は再び――戦場に立つ。

「きたぞ! ユノ・アスタリオだっ!」

いくつもの視線が、突き刺さる。

興味と、疑念が入り混じったそれを、体全体で受け止めて。

闘技大会第二回戦。

「ユノさんっ!」

神様の素敵な歓声を背に受けながら、僕は槍先を男に構えた。

「いくぞ……僕」

既に退路は無い。進むだけだ。

ドクンと心臓が脈打つ。

その音に重なる様にして――。

「始めっ!」

始まりの合図。

瞬間、炎の様に熱をあげる歓声と共に。

「うおおぉぉぉぉ!」

大声をあげて突っ込んでくる、ガタイの良い男の掌打を――

――避ける。

瞬間耳元で通り過ぎる風の音。

その拳を横目に見た瞬間、思考が加速する。

…………変わったな僕。

無気力だった僕は、もういない。

いいや、違う。変われたんだ。

「おらおらおら!」

僕に迫る拳は止まらない。

けれど、僕もまた、変わらずに思い続ける。

一度たりとも、ありはしなかった筈だ。

「あいつ、どんな反射神経してるんだよ!」

「腐ってもアスタリオ家……と言った所か」

「サニット! 何やってやがる! 相手はあの三男だぞっ!」

自分の力を使って何かを成し遂げたいだなんて。

結果としてそれが、僕の《無能》を作り上げた。

けれど違う。今は、違う。

――目標がある。

「……そう」

――神様と出会った、あの日から……!

「くそっ! なんで当たらねぇ!」

そう声を荒げながら、苛立たし気な男をまっすぐに見つめながら、僕は勝負を決めに行く。

大した事じゃない。

ただ――加速して。

「消えただとっ!?」

男の背後に回って。

「どこだっ! どこに行きやがった!」

ガラ空きの背中めがけて、槍を突き出す。

「それだけで、いい」

「「「…………」」」

瞬間、沸き上がっていた歓声が一瞬、掻き消える。

男の荒い呼吸音だけが響く、その刹那。

背中越しに驚いた目で僕を見る男と、視線が重なった。

「……なに……笑ってやがる」

……そうか。

「……無能の分際で……!」

今、僕は――。

「ふざけるんじゃねぇぇぇ!」

――笑っているのか。

迫りくる男の右拳を、半身になって躱した僕は、その勢いのまま僕の横を通り過ぎていく男の足の関節目掛けて槍を振るう。

「なっ!?」

体勢を崩した男が、勢いよく体を前のめりに倒していく。

「かっ……!」

硬い衝撃音と、舞い上がる土煙。

それを 最(・) 後(・) まで見届けた後、驚いた様子で僕を見る審判役の男に、視線をやった。

「しょ、勝者! ユノ・アスタリオ!」

瞬間――。

「「「「うおおおおおおおお!」」」」

沸き上がる歓声。それを更に煽る様に僕は槍を天高く――掲げる。

さぁ、答え合わせだ。

僕を無能だと叫ぶ奴はまだいるか? そして――。

「決まりだ。まぐれなんかじゃないぞ」

「けど、けどさぁ!? なんであいつが」

――気づけ。

「これまじで優勝あるんじゃないか?」

「い、いや、それはさすがに」

「ユノくんっ! ロイド様とクライム様はどっちが本命なのーっ」

――槍を見ろ。

「でもおかしくないか? なんであの三男がこんなに強いんだよ」

「いや、俺に聞かれてもな……けど、確かに気になる。」

気づけ、気づけ、気づけ……っ!

「――もしかして、女神アテナと契約してからじゃないか?」

――――っ!

その言葉を耳で捉えたと同時に、喜びが沸き上がる。

「……っし!」

僕は思わず、空いた手を強く握りしめた。

確かな手応えと充実感。

笑わずにはいられない。

「ルナさん! やりましたっ! ユノさんが勝ちましたよっ!」

赤い瞳を星の様に輝かせてはしゃぐ神様を眺めながら、僕は再び己に誓う。

「……まだですよ、神様」

もっとだ。こんなものじゃ無い。

頭の中にこびり付いた、神様の寂しい笑顔が霞むくらい。

僕がもっと、もっと、笑顔にしてみせる。

「…………」

この大会が終わる時。神様は大きく名を上げる事になるだろう。

無能、ユノ・アスタリオを優勝に導いた――女神アテナとして。

そして、僕も、もう無能ではいられない。

「さようなら」

無能の三男、ユノ・アスタリオ。

僕はお前が嫌いではなかった。

責任も目標も無い自由な存在。とても、とても気楽だったよ。

けれど――。

飛び跳ねながら、嬉しそうに笑う神様がいて。幸せだと思う僕がいる。

そんな自分の今の在り方を、僕は嬉しく思うのだ。

「できるさ……なんだって」

僕のそんな独り言は、歓声の渦に呑まれて消えた。