軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

幕間 「生徒会2」

フェリス魔法騎士学園――生徒会室。

赤い夕日が窓から僅かばかり差し込む暗い室内で、生徒会副会長――ロイド・メルツは円卓の上に腰かけながらその時を待っていた。

「……そろそろ、か」

そう一人呟き、暗い笑みを浮かべながらロイドは指先で銀色のコインを宙に弾く。

チィン――澄んだ音が室内に響いた――と同時だった。

ガチャリという音を立てながら生徒会室の扉が開かれる。

落ちてくるコインを手中に収めたロイドは、開いた扉へと視線をやった。

「…………どういう事かな?」

生徒会長――セレナ・バレッドは生徒会室に入るや否や、眉間にしわを寄せ、 微(・) 笑(・) み(・) を浮かべながらロイドへとそう切り出す。

「……何の事だ?」

「いやいや、分かるでしょ? あなたユノ・アスタリオには接触する気は無いって言ってたじゃない?」

「……クク」

「いや、クク、じゃなくて…………」

セレナはため息をつきながら、ロイドの横へと移動すると、円卓に背中を預けて、横目でロイドへと視線を送る。

その視線に応えるように、ロイドがニヤリと口の端を吊り上げながら口を開いた。

「俺にその気はなくとも、導かれてしまっては仕方がない」

「……導かれた? 何に?」

怪訝そうに首を傾げるセレナを横目に、ロイドは包帯の巻かれた右腕を左手で撫でながら、芝居がかった声色で口を開いた。

「――――運命に」

同時にロイドの輝きに満ちた瞳がセレナへと向けられる。

「…………」

セレナは必死に考えた。どう反応すれば正解なのだろう……と。

「……なるほど。理解したわ」

理解などしていない。だが、ロイドの性格を知っているセレナとしては満点ではないにしろ、悪くない返しであると確信していた。

生徒会長――セレナ・バレットは人に合わせる事が上手な少女なのである。

「けれど、それがどうしてあなたとユノ・アスタリオが交際している……なんて事になっているのかな?」

「………………何? い、いや計画通りか……本質は同じだ。ユノ・アスタリオはこの俺の同志となった」

ロイドが動揺したかのように、そう口ごもりながら反応を示す。

今が好機と踏んだセレナは続けて問いを投げかけた。

「同じ? 同志? 君たち一体なにをしていたの?」

そのセレナの問いにロイドは答える事をせず、ただ黙って怪しげな笑みを顔に浮かべた。

――セレナはこの時悟った。

恐らく、ロイドはユノ・アスタリオの実力を既に見定めたのだと。

「……どうやら私達の予想は当たりそうだね。それで? 彼の実力はどの程度のものだったのかな?」

「……クク。いずれ分かる」

「教えるつもりは無い、と?」

「――俺が教えると思うのか?」

「そう。そういう事なら――」

――瞬間、両者互いに体から魔力を放出する。

その魔力が風となり生徒会室に吹きすさび、セレナの肩まで伸びた赤い髪を大きくなびかせた。

「どうした? 生徒会長。足が震えているぞ?」

「自分が震えている言い訳をするのはやめてね」

ロイドの顔には暗い笑みが、そしてセレナの顔には引きつった様な笑みが同時に灯る。

――そう。セレナは何も無理やりにでもロイドから話を聞き出したいが為に魔力を放出したのではない。

ただ、こうした方がロイド・メルツの機嫌が良くなる事を知っていたのだ。

事実――ロイドは興奮していた。

(タイミングが完璧だ……!)

ロイドの暗い笑みが更に深くなる。

くどいようだが生徒会副会長――ロイド・メルツはこういう雰囲気が大好きな男なのである。

そしてそれを、セレナは理解していた。

(……これでいいかな?)

セレナは放出していた魔力をゆっくりと抑えると、再びロイドへと問いを投げる。

「……それで、結局あなたはユノ・アスタリオをどうするつもり? 生徒会での役職を与えるの? それともあなたが陰で操っている風紀委員にでも組み込む予定なのかな?」

それを聞いてロイドもまた体から放出していた魔力を小さくすると、意味ありげな視線をセレナへと向けて、薄く微笑む。

「……いいや。違うな。それは間違いだぞセレナ・バレット。俺は言った筈だ。ユノ・アスタリオは同志だと。それはつまり世界の 深淵(しんえん) を覗くに値すると俺が判断したという事だ」

「……世界の深淵…………なっ! まさか、彼を暗部に引き入れるつもり!?」

セレナの驚愕に満ちた声が生徒会室に響き渡る。

「冗談はやめなさいっ! 何を言っているか分かっているの!?」

セレナはそう言って怒りと焦りに肩を震わせた。

メルツ家の暗部――『 影の月(シャドームーン) 』

この国において限られた者しか知らないその組織の主な役割は、暗部と呼ぶに相応しい陰湿なものが多かった。

隠蔽、尋問そして――暗殺。

他にも多々あるが、どれも日の当たる事の無いものばかり。

だが、セレナが心配しているのはその事だけではない。

暗部――『影の月』の真髄は構成員の数が少ないながらも誰もが一騎当千の強者である、という点だった。

「彼はこの学園の新入生よ? いくら生徒会に入れるだけの実力があっても暗部では何の役にも立ちはしないわ。それに死と隣り合わせの任務に加え、あの異常者集団の中に入ったらすぐに……殺されてしまう」

尻すぼみに小さくなっていくセレナのその声を、ロイドは最後まで黙って聞いていた。

「また、勘違いをしているな。セレナ・バレット」

ロイドは低い声色でそうセレナへと切り出した。

「……勘違い?」

「バレット家ですら知っている事を俺に語った所で意味は無い。忘れたか? お前の言うその組織の大元は我がメルツ家であり、リーダーはこの俺だ」

「……それが、どうしたの?」

――この時両者の認識には大きなズレがあった。

セレナはロイドの反応から『ユノ・アスタリオ』が無能では無い事と、生徒会に入れるだけの実力がある事を既に理解していた。

だが――その認識では、真実を知ったとは言い難い。

何故ならば、セレナは知らなかった。

【紅蓮の剣姫】と謳われ、既に剣聖レイ・アスタリオの右腕である自分が、唯一対等だと認めた目の前の男――ロイド・メルツすらも超える実力をユノ・アスタリオが持っている事を。

そして――ロイドはその一端を理解していた。

「ユノ・アスタリオの強さは既に学生の域を超えている。恐らく……この俺や、お前に匹敵する」

「……嘘? まさか……それ程までに……」

セレナに使命感とも呼べる考えが頭の中に湧きあがったのはこの時だった。

(確かめるべき……なんだろうね)

ユノ・アスタリオへの興味は元々あった。だが、それはセレナが敬愛する剣聖の弟としてのものだ。

しかし、今は違う。

ロイドがここまで言う程の強者であるのかを、自らの目で確かめたい。そんな気持ちに満たされていた。

(それに、そろそろ妹にも信頼できる友人が必要かも)

セレナの顔に悪戯な笑みが灯る。

生徒会長――セレナ・バレットが動き出す。