軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

32話 「僕の神様」

フェリス魔法騎士学園――闘技場。

初めてクラスメイト達に槍の腕前を披露したその場所の隅っこで、僕は神様と向かい合っていた。

背後から突き刺さるいくつもの視線。

今はクラスごとに闘技大会に向けての自習時間なわけだが、どうやら僕たちの様子が気になるらしい。

「う~~!」

神様は顔を真っ赤にしながら瞳を閉じると、両の手を胸元で重ね、小さく肩を震わせている。

「…………」

僕はというとそんな神様の可愛らしい様子を、ほんの少しだけ緊張しながら見守っていた。

「……っ!」

神様の可愛い気合のこもった声と同時に、待ちに待ったその 瞬間(とき) は訪れる。

神様を中心に小さな風が生まれ、美しい白銀の髪がふわりとなびく。その 最中(さなか) 、神様の小さな体が、温かな優しい光に包まれた。

「か、神様! 光ってます!」

僕が堪え切れずにそう言うと、ようやっと気づいたかのように、美しい真紅の瞳がパチリと開く。

神様は自分の体を包む光に驚愕しながらも、僕をまっすぐに見つめながら真紅の瞳をぶわりと潤ませた。

「……ユ、ユノさん! 私! できましたっ!」

嬉しそうな神様の声。それを聞いて僕まで嬉しくなってくる。

――――そう。僕の神様はどうやら神力が向上したようなのだ。

今まではぷかぷかと浮かぶ事しかできなかった神様がとうとう新たな力を手に入れた。

それはつまり、女神アテナの名がより有名になったという事でもあった。

その理由を僕は知っている。

――『【青い流星】こと【邪神ノア】を退けた女神がいるらしい』

そんな噂が王立騎士団を中心に広まりつつあるようなのだ。

ちなみに、邪神ノアの事は勿論の事、フェリ女との合宿の際に起きた神々の争いについては、国から緘口令が敷かれている。

とはいっても、人間の興味が尽きる事は無い。

噂が噂を呼び、結果としてその女神が僕の神様――アテナなのでは無いかと、まことしやかに囁かれているようだ。

というか僕の神様だ。事実だ。

緘口令は痛かったが、実際に目にした者は多かったのだから、こうなる事は予想済みでもあった

……良かった。

僕が窮地にひねり出した閃きはこうして結果となって返ってきたのである。

「私、浮かぶだけじゃなく、とうとう光が……!」

「やりましたね神様! とっても神々しいです!」

僕がそう言うと潤んでいた真紅の瞳が輝いた。

と思えば途端にもじもじし、顔を赤くしながら何度も視線を僕へと向けて――。

「あ、あの……私……ちょっとでもお役にたてそうですか?」

「――――」

見えない爆風が僕を襲う。

この時――僕は一度死んだ。

教訓にしよう。人は、圧倒的可愛いさの前では無力だ。

いい……! 非常にいいぞ! 恥じらいと、奥ゆかしさが女神アテナの可愛さを倍増させている!

…………っ! 駄目だ、僕! 女神の楽園に飛んでいく前に、ちゃんと言葉にしなくては!

「勿論ですよ! かわ、神様が傍にいてくれれば、暗い夜道だってへっちゃらですっ!」

「……っ! ユノさんっ!」

僕達はひしりと熱い抱擁を……とはいかなかったものの、互いの両手と視線を重ね合わせた。

ああ……幸せだ。神様が嬉しそうに微笑んでいる。

しかし、そんな幸せな時間をぶち壊すように、背後からマロがニヤニヤと怪しい笑みを浮かべながら近づいてきた。

「…………」

非常に惜しいが、僕は神様の手に重ねていた自分の手を引っ込める。

すると案の定マロは不快な声色で口を開いた。

「おいおい、黙って見てれば冗談だろぉ? 大して光ってないどころか、そんな弱弱しい光で何ができるんだよ? さすがはお前の神様だなユノ。むの―― 」

――その先だけは言わせない。

僕は問答無用でマロの首筋に手刀を打ち込む。

瞬間、その勢いを現すかの如く、風が土煙を空へと運んだ。

「な…………?」

どさり、と膝をつきそのまま前のめりに倒れていくマロ・バーン。

僕はその様子を酷く冷めた気持ちで眺めていた。

ごめんね、マロ。

僕の目が黒いうちは神様の前での不敬を許すつもりは無い。

「お、おい、なんかいきなり倒れたぞ!」

「いや、ずっと見てたけど、特になにも……」

その様子を見ていたクラスメイト達が騒ぎ始める。

だが、どうやら何が起こったのかを理解している者はいないようだ。

当然だ。目では追えない速度を作る為に、首に当たるギリギリまで、ちょっとだけ本気を出したのだから。

「……えっ? マロさんっ?」

神様が少し遅れて、状況を理解できずに慌て始める。

それと同時にソレイユ先生が僕らの元へと気だるそうに近づいてくるとマロの横で、やれやれと屈んだ。

「……気絶している。どうやら軽い脳震盪のようだが、念のため医務室に……」

ソレイユ先生はマロの首筋に手を当てながら一人呟く。

……確かに、このままという訳にはいかないだろう。

「ソレイユ先生、僕がマロを医務室まで連れていきます」

僕はそうソレイユ先生に告げると、返事を待たずにマロを背中に乗せる。

「……そうか。頼んだぞ」

ソレイユ先生の言葉に僕は一つ頷くと、あわわ……と慌てながら真紅の瞳を潤ませている神様に視線を流す。

「神様! では僕は コ(・) イ(・) ツ(・) を医務室につれていってきます! あと、素敵な力を見せてくれてありがとうございました! 神様に相応しいとっても優しい輝きでしたよ!」

「……っ! あ、ありがとうございます! いってらっしゃいませっ!」

そう言って満面の笑みを浮かべながら、なぜかぺこりと頭を下げる神様の姿に、思わず頬が緩む。

―-笑ってくれた。良かった。

……そうだ。

「……神様も一緒に行きませんか?」

僕に付き合わせるのは非常に申し訳なかったが、この場に残していくよりはマシだと僕は考えた。普段であればアリスが傍にいてくれるのだが、珍しい事に今日は欠席している。

「じ、実は、私も少し用事がありまして……」

「……そうですか。分かりました!」

正直少し意外だったが、用事があると言われてしまっては、強制する事はできない。いや、したくなかった。

さてと、では行きますか。

僕はマロを背負いながら、闘技場を後にしようと歩き出す。

すると、ソレイユ先生がすれ違いざまに――橙色の瞳を僕へと向ける。

「ほどほどにな」

僕はその囁きには何も答えず、一度視線を重ね合わせると、その場を後にした。

「…………」

闘技場から出る少し前に、僕は背中越しに再びソレイユ先生を流し見る。

なるほど。

――どうやら一人いたらしい