軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

131話 「同類」

時が止まったようだ――とはその時ロイドが抱いた率直な感想だ。

多くの者が目を見開いて固まっていた。

事実、この状況を 冷(・) 静(・) かつ 正(・) 確(・) に把握しているのは、この場においてユノ・アスタリオとロイド・メルツの二人だけである。

もちろん、当人を除いては――だが。

レオ・ウィリアムがユノ・アスタリオに繰り出したそれは見事としか言いようのない一撃だった。

目にも留まらぬ踏み込みと、瞬きを許さぬ突き。

しかし、その迅速なる一撃は、ユノをかばう様にして華奢な手のひらが受け止めていた。

生まれたのは嵐だ。

その衝撃は、勢いを現すように生徒会室全体に風となって飛散した。

舞い上がり乱れる己の頭髪を気にする者はいない。誰しもが同じ方を向いたまま、ただただ驚愕に目を見開いて固まっていた。

「…………………………イノリア?」

静寂に包まれた生徒会室に、少女の小さな声が木霊する。

震えた声色でそう呟くように言ったのは、生徒会二年生のルイズ・リートだ。

実の妹の名を口にして、ルイズは顔に驚愕と困惑が入り混じった表情を色濃く浮かばせていた。

――イノリア・リート。

三人いる二年生の生徒会員の内の一人であり、未だ呆気にとられ口を開けたまま動かないルイズ・リートの双子の妹である。

内気な性格で、物静かな少女。

それが他の学園生から見たイノリア・リートの印象である。

実の姉であるルイズからしても、説明としてはそう大きく違うことはない。

人見知りで、動植物が好きで、すぐ顔が赤くなる。それらを内気で物静かであるとするならばそうなのだろう、と。少なくとも率先して行動するタイプでは無いのは確かだ。

事実、イノリアは今日この生徒会室で一度たりとも言葉を発してはいなかった。

――だからこそ。

彼女のことを深く知っている者ほどその衝撃は強烈だった。

「………………なんの真似だ。イノリア」

レオは思わず声をあげそうになるほどの衝撃と困惑を胸の内で押し殺して、絞り出すようにそう口にした。

驚愕。困惑。それらを自覚してなお頭での理解が追い付かない――衝撃。

混乱する頭でレオは己の行動を振り返る。

我ながら惚れ惚れとする一撃だった、と。

少なくともこれまでの中では最高のものだったと思えるほどに。

それが 容(・) 易(・) く(・) 止められた。

止めたのがユノ・アスタリオであるならば理解できる。

ロイド・メルツであってもそうだろう。

当然、予測はしていた。そんな未来もあるだろうと。

しかし、 こ(・) れ(・) はあまりにも想定外だった。

【同じ学年の生徒会役員であり、ルイズの妹】

レオにとってイノリアという少女はそんな存在だった。

無論、優秀であることはレオも認めている。同じ学年の生徒会員であるという仲間意識も持っている。しかし、それだけだ。

傑出していない。卓越していない。抜きんでていない。

少なくとも、レオが至高だったと振り返る一撃を止めることのできる存在では決してなかった。

そのはずなのに――。

「…………」

レオの視線から逃げるようにして、イノリアは姉と同じプラチナブロンドの長い前髪に隠れるようにして一度うつむくと、覚悟を決めたのか琥珀色の瞳をレオへと向けて口を小さく開いた。

「……レオ君も、本当はわかっているはず……だよね? ううん」

イノリアは小さく首を振った。

「 レ(・) オ(・) 君(・) だ(・) か(・) ら(・) こ(・) そ(・) ……かな」

「…………」

レオは口を噤んだ。

言葉足らずではあったが、イノリアが言わんとしていることがレオには痛い程分かってしまったのだ。

沸々と湧き上がるようにして、自覚がレオの中で大きくなっていく。

――魔力量で勝敗が決まるわけでは無い。

それはレオが自らを鼓舞するため胸の内で唱えた――戯言だ。

もちろん言葉のすべてが苦し紛れだったとは思わない。

少なくとも、魔力量だけが戦闘力の全てではないことだけは確かなのだから。

だが、少なくとも、ユノ・アスタリオには当てはまらない。

拳を交わすまでもない。

その程度の差ではないと、優秀であるレオ・ウィリアムは理解している。

「…………」

レオはイノリアから視線を外すと、眼鏡のレンズの両端に手をかけた。

覚悟を決めなくてはならなかった。

口にするべきなのは敗北の言葉であり、謝罪の意思だ。

過去、自らが怒りを抱いた試しの場を、レオ自身の意思で施したのだから。

諦めるような気持ちで深く息を吐き出したあと、レオは口を開いた。

――否。

その言葉を遮るようにして、イノリアがちらりと背後に視線を向けて口を開く。

「この懇親会は、新しい生徒会員の実力を知るためのもの。……怖がらせてごめんなさい。……私は、君たちを認める」

イノリアの視線の先では、未だ不敵な笑みを崩さないユノの顔があった。

まるで無理をしているかのように引きつるその笑みを見て、イノリアは思う。

(…………似ているのかも、ね)

決して口にすることのない思いを心の中で呟いた後、イノリアの視線は、未だ目を見開いたまま固まっている実の姉、ルイズへと向く。

「……お姉ちゃんも……いいよね?」

「……」

遅れて、こくり、とルイズは首を縦に振る。

イノリアはその様子に薄く笑みを浮かべると、今度は視線をロイドへと向けた。

交差する視線。

ロイドは暗い笑みを。イノリアは無表情をその顔に浮かべている。

「……知っていました、ね?」

ぽつり、とイノリアが呟くようにそう口にする。

独り言のようなそれは、視線の方向からして間違いなくロイドへと向けられた問いだった。

しかし、その返答を待つことはせず、イノリアは小さくため息をついた後、瞳を閉じて言った。

「……あまり、からかわないでください。……貸しひとつ、ですよ」

主語が抜け落ちたその言葉に、ロイドは肩をすくめるのみだった。

イノリアの小さな背中を眺めながら、ユノは言葉の意味が分からずふつーに小首を傾げた。