軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

129話 「並ぶ力 2」

――この感覚は 知(・) っ(・) て(・) い(・) る(・) 。

全身が粟立ち、背筋が凍るような 畏(おそ) れと、感動。

「……はは」

引きつった表情で小さく笑い声を漏らしたのは、生徒会三年生トーマス・ハロルドだ。

一(・) 瞬(・) にしてこの場を支配してみせた少年に向いていたトーマスの視線は、当然だといわんばかりの自然さで隣へと向かう。

「……」

無表情。

いや、微かに口許に笑みを浮かべたその男の名を、トーマスは心の中で呟いた。

――ロイド・メルツ。

生徒会副会長にして――この国の暗部を司る男。

正体を知っている者は貴族の中でも一握りの者だけであり、更に言えば知っていたとしても表面的なものばかりだろう、というのがトーマスの感想だ。

事実、こうして生徒会という場でロイドと巡り合わなければ彼の正体を知ることはなかっただろう。

友情か、それともただの気まぐれか。

どちらにせよ、ロイド自身の口から語られた【ロイド・メルツ】という男の素性を知った時、トーマスの中に生まれたのは驚きよりも納得だった。

国の暗部をまとめていたのが、同級生であり友人だった……驚かないわけが無い。

だが、それよりも強く大きな割合でトーマスは納得に至ったのだった。

その感情は不可解なもので、未だに正確な答えは見つけられていない。

ただ、一つ確かなのは傑物と呼ばれる者がいるとするならば、それはロイド・メルツなのだろうということだ。

トーマス・ハロルドがこの学園に入学した時点で既に、ロイド・メルツという男は有名だった。

伯爵家の生まれということもさることながら、なによりその優秀さが主な要因だろう。

身体能力、魔力量、そして知力。なににおいても他の学園生を凌駕していたロイド・メルツの名が学園に知れ渡るまでに時間はかからなかった。

大前提としてこの学園に入学を果たした時点で誰もがエリートなのだ。その中で、頭一つ抜けだすのは容易なことではない。

――神の世代なのだと、誰かが言った。

不敬にも神の名を関したその例えに眉をひそめる者もいたが、否定する者はいなかった。

だが、トーマスは違う。

否定したいのではない。訂正が必要だと感じていたのだ。

公爵令嬢でありながら【紅蓮の剣姫】と謳われる程の剣技を有するセレナ・バレットと、ロイド・メルツ。この二人の存在が、神の世代などと言われる要因であることは明白だった。

その考えが間違っていないことをトーマスは知っている。

忘れもしない、去年の懇親会での出来事だ。

歓迎会とは名ばかりの試しの場。

驚くべきことに風習にもなりかけていたその催しにトーマスは乗り気ではなかった。

同じ生徒会に属する者同士で火種を煽るその悪趣味に、辟易していたと言ってもいい。

実際、それは起こるべくして起こったと言えよう。

煽る三年生の先輩たちと、それに反抗する新入生の後輩たち。

言葉だけの応酬であれば、最低それでよかった。

しかし、次第に激しさを増したその対立は、とうとう戦闘行為へと発展を遂げる。

備品は凶器に。魔法が生徒会室を飛び交うその光景を前にして、トーマスがとった行動は――傍観だった。

止めたい気持ちは確かにあった。

しかし、それを成し得るだけの実力が果たして己にあるのだろうか、という疑念。

それはトーマスの腰を重くさせるだけの理由としては十分だったのだ。

だが、やはり彼らは違ったのだろう。

数(・) 度(・) 瞬(まばた) きするうちに、その戦闘は終結を迎えた。

立ち込める砂煙の中、その場を制圧してみせたセレナ・バレットとロイド・メルツの姿はトーマス・ハロルドの記憶に強く刻まれている。鮮明な記憶だ。忘れられるはずが無い。

その記憶の中で、最も鮮烈だったのが立ちすくむロイド・メルツの姿とその表情だった。

制圧して間もなく、険のある表情で叱責をはじめたセレナ・バレットとは対照的に、ロイド・メルツの顔にあったのは果てしないまでの【無】だった。

「……」

まるで取るに足らないとでも言いたげなその表情に、トーマスは背筋を凍らせた。

同時に、身を震わせるほどの感動が肌を粟立たせる。

――傑物。

トーマスの中で、ロイド・メルツという男の評価が固まった瞬間だった。

しかし、同時に沸きあがってきた言葉もある。

――孤独。

間違いではないのだろうとトーマスは思った。

退屈そうにみえたのは気のせいではない。

志(こころざし) の問題か。それともただ単に能力の問題かは定かでは無い。しかし真の意味で、まだ彼に並ぶだけの存在がいないのだろう――と。

「……」

トーマスは再び目の前の少年――ユノ・アスタリオへと視線を移す。

全身から放出される魔力が絶えず髪を揺らすその姿と不敵な笑み。

凍(・) り(・) 付(・) い(・) た(・) 生徒会室の中で唯一、その顔の表情だけが熱を保っていた。

ロイド・メルツをもっとも高く評価していると自負するトーマスだからこそ、分かることがある。

レオの言葉にもあったように、ロイド・メルツが誰かに興味を抱く時点で、それはもう異常事態なのだ。

むせ返るような魔力の濃さを放ちながら、不敵に笑う少年の姿。

――この感覚は、知っている。

トーマスは静かに瞳を閉じた。

不思議と悔しさがこみ上げてきた。それから、うれしさも。

(……そうか。見つけたんだな。ロイド)

――お前の隣に並べるやつを。