軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

124話 「満ちるモノ」

「へぇ?」

男――生徒会三年生トーマス・ハロルドは入室して間もなくそう口にしながら席に着くと、首の後ろで両手を組んで室内を見渡した。

活発さを感じさせる日焼けをした褐色の肌にドレッドヘア。

彼こそが、セレナ・バレット、ロイド・メルツと並び生徒会、ひいては学園をまとめる最上級生の一人である。

ハロルド子爵家の次男にして、二年前の闘技大会優勝者。

実力はもちろんのこと、良い意味で軽く気楽なその性格から学園生からの人気も高い人物である。

「…… 中々(なかなか) じゃんね?」

トーマスはニヤリと笑って、隣に座るロイドに視線を送る。

「……」

ロイドは無言だ。

しかし、その口許がわずかに歪むのをトーマスはしっかりと目にしていた。

生徒会室に満ちていく魔力。

その濃さは既に 淡(あわ) い輝きとして視覚化できるほどに強くなりつつあった。

トーマスの言葉はその状態のことを指しており、ロイドの笑みの理由も同じだと想像がつく。

――というのが二年生徒会、レオ・ウィリアムの思考だ。

(さすがの先輩方も認めざるをえない……か)

額に汗をにじませながら、レオは口の端を吊り上げる。

決してうぬぼれるわけでは無いが我ながら大したものだ、とレオは思った。

(ボクたちの時以上の濃さだ)

そんな感想を抱きながらレオは眼鏡を持ち上げるようにレンズの両端に手をかける。

事実、生徒会室に満ちる魔力量はこれまでレオが体験したことのない領域へと達しようとしていた。

魔法の素養が無い者であれば、室内に足を踏み入れた瞬間に卒倒する程の濃さだ。

それはつまり魔力の濃さだけで、人を害せる領域まで魔力の密度を上げた、ということになる。

未知への到達。

それが自分たちの力によって達せられようとしていることに、レオは強い征服感を抱きはじめていた。

もちろん未知とはいっても、意図しなければ学園の一室がここまで強力な魔力に満ちることは無い、ということはレオも理解している。重ねて言えば、自分だけの力ではないこと、そして恐らくロイド達でもできるであろうことも理解している。

それでもだ。

目的を考えれば、十分に満足できる状況だった。

「……まだ、続けんの?」

苦しそうに胸を上下させながら、二年生徒会ルイズ・リートは肩まで伸びたプラチナブロンドの髪を手でかきあげながら隣にいるレオに問いかける。

「……」

彼女の額からは絶えず汗が流れつづけており、疲労が目に見え始めていた。

しかし、そんなことはレオとて同じこと。

「まだだ。やつらがこの部屋に入るその時まで続ける」

「…………ッ」

ルイズは喉から湧きあがってきた言葉を飲み込むと、歯を食いしばった。

口からでかけたのは『もうよくない?』という 言葉(よわね) 。

しかし、隣で文句も言わず魔力の放出を続けている妹の手前、姉としてのプライドがある。

そんなルイズを励ますように、レオは含みのある笑顔で言った。

「……想像してみろ。ボクたちの魔力で満ちたこの部屋に新入生たちが足を踏み入れた瞬間の顔を。そして忘れるな。あの屈辱を」

「……」

ルイズは額の汗を腕でぬぐうと、無言で首を縦に振った。

去年の懇親会。

当時の最上級生から向けられた敵意に新入生だったレオ達三人は入室してから間もなく恐怖に全身を震わせた過去がある。

それでも立ち向かっていけたのは、当時の三年生の実力が例年に比べて低かったからに他ならない。

しかし、過程、結果がどうであれ、レオ達にとっては 試(・) さ(・) れ(・) た(・) という事実こそが屈辱なのだ。

上等な家柄。一流の教育。それらを経てこの場に足を踏み入れた者に、与えられるべき試練ではない、というのがレオの持論だ。

それこそ、無能の烙印を押されながらのうのうとこの学園に入学してきたユノ・アスタリオのような者にこそ与えられるべきものなのだ。

他の二人にしても同じだ。家柄は合格としても、ユノ・アスタリオと懇意にしている時点で失格なのである。

そんな持論を経て今回の歓迎会だ。

レオ達は決して意趣返しがしたいわけではなかった。

――などと前置きをしつつも、どうしても沸きあがってくるのは黒い感情だ。

『自分たちもそうだったのだから、お前たちもそうあるべきだ』

などという人間らしい本音が見え隠れしているのもまた事実であり、レオにいたっては自覚もしている。

それが良い趣向とはいえないことなどレオは、はなから承知しているのだ。

だが、同時にこうも考える。

(このくらいで逃げ出すようなやつに、生徒会員を名乗る資格は無い)

それもまた本音だった。

『自分たちは逃げ出さなかった。お前たちはどうだ?』

その問いかけが、この歓迎会には込められている。

「……ふふ」

レオは一人ほくそ笑む。

自分で口にしたことだが、少し先の未来を想像したのだ。

既に生徒会室に満ちる魔力は、凶悪と言って差し支えない濃さになっていた。

彼らは……ユノ・アスタリオはどんな顔をするだろうか。

震えあがるだろうか?

泣きだすだろうか?

逃げ出すだろうか?

「……く、はは」

レオは口許を手のひらで覆った。

ここで笑っていては見え方がまずい。

だが、心躍るその瞬間が来るのが、たまらなく待ちきれないのだ。

レオ・ウィリアム。

ウィリアム伯爵家。その元は騎士家だ。

叙爵を重ねたウィリアム家とは対照的に、騎士家に留まり続けたアスタリオ家。

不思議なことに、評価されより世間に周知されたのはアスタリオ家の方だった。

メルツ家とはまた違った因縁の決着が近いことをレオは悟った。

足音が近づいてくる。

レオは隣のルイズと目を合わせると、どちらからともなく魔力の放出を止めた。それにつられるようにしてイノリアもうつむきながら魔力の放出を止める。

静まり返った生徒会室。

足音が止まる。

ロイド・メルツは、静かに瞳を閉じた。