軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

109話 「舞台」

今しかないのだ。

これほどの奇跡、この先いつ訪れるかわかったものではない。

いいや、憶測すらも甘えだろう。

――無い。

断言できる。ここまで整った舞台の上で踊る機会など、未来永劫ありはしない。

再びの邂逅は望めば手に入る未来かもしれない。

しかし、何度も言うが目の前に広がる舞台は、これ以上にないほど 整(・) っ(・) て(・) い(・) る(・) の(・) だ(・) 。

神殺し。そして強大な好敵手。

それらは、 我が神(マイゴッド) が手ずから開けてみせた禁忌の幕。

――ならば、上がるしかあるまい。

打算的かつ、楽観的に。

狂えるならば、そうあっても構わない。

理解しているのは一つだけ。

――力を示す他に道はない。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「……」

邪神ノアをかばうようにして現れたその男を、大悪魔ベルフェゴールは興味深そうに眺めながら笑うように口にした。

「……おもしろい。誰だ? お前」

「…………」

緊張感をまるで感じさせない、軽い口調で放たれたその問いにロイド・メルツはあからさまに不快そうな表情をして言い放つ。

「……黙れ悪魔。穢れの分際で 我が神(マイゴッド) に牙を向けるとは……万死に値する」

……。

静寂の間。

しかし、ロイドの言い放ったその言葉はベルフェゴールに少なくない驚きをもたらしていた。

「……ほぉ?」

たまらず漏れたのは感嘆の声。

自らの正体を言い当ててみせたという小さな驚き。

それと――。

「おまえ、俺が怖くないのかよ?」

その問いこそが、ベルフェゴールの抱いた素直な感想と大きな驚きの理由だった。

常人であれば発狂していてもおかしくはない魔力の渦。

その中心が自分であると知ってなお、この男は正面に立ってみせるどころか、明確に言葉でもって敵対を示してみせたのだ。

「……ふっ」

ロイド・メルツは不敵に笑う。

それこそが答えであるとベルフェゴール示すように。

しかし、それが強がりであることをベルフェゴールは確信した。

「度胸は認めてやる。だが、はっきり言ってやるよ」

ベルフェゴールは肩をすくめると、簡潔に告げた。

「 役(・) 者(・) 不(・) 足(・) だぜ? おまえ」

「……」

ロイドは無表情のままベルフェゴールをまっすぐに見つめている。

その様子を見て、ベルフェゴールは鼻で笑うように言葉を続けた。

十分に驚いた――そう素直に認めながらも、コイツは何も理解していない。

いいや、理解できていないのだ、と。

役者不足。

言い得て妙だとベルフェゴールは思った。

…… 舞台(ステージ) が異なっている。格が、違う。

たしかに弱くはないのだろう。

それは男の立ち姿からして十分に見受けることができた。

隙(・) の(・) 無(・) い(・) 、良い構えだと称賛できる。

しかし、それだけだ。

男には決定的に足りていないものがある。

――危機感。

最初に確認してみせた人間の 理(ことわり) 。

理解していればまず間違いなく抱く自然な恐怖。それが決定的に欠けているのだ。

いいや、欠けているという言葉も適当ではない。

分からないだけ、なのだから――と。

(それこそ、そこの邪神とは、訳が違うのだ)

「分からないか? いいぜ、教えてやるよ。隔絶した力の差は時に残酷なまでに目測を誤らせる。今のお前がそうだぜ? どれだけの自信を引っさげて俺の前に立つという選択をしたのかは知らないが……彼我の差を理解できていないうちは――」

(……)

言葉を続けながらベルフェゴールの中に生まれたのは、小さな違和感。

赤い瞳。その視線がロイドの全身をなぞるように伝う。

――隙の無い、構え?

果たしてそれは、 誰(・) が抱いた感想だったか。

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………お前、まさか――」

――瞬間、ロイド・メルツの顔に凶悪な笑みが浮かぶ。

同時、ベルフェゴールの顔に狂気の笑みが咲き乱れた。

「―― 気(・) づ(・) い(・) て(・) や(・) が(・) る(・) な(・) ッ!」

歓喜の咆哮。

そしてベルフェゴールは理解に至る。

この男は力量差を正しく理解している。

理解してなお、恐怖を抱いていないのだ。

それは力が平等であるからではない。

死ぬことはないだろう、などという楽観的な確信。

またはそれに限りなく近いもの。

この場においての、ベルフェゴールの 立(・) ち(・) 位(・) 置(・) を、この男は限りなく正確に理解している――!

「おもしろいぞ、お前」

ベルフェゴールの姿が赤い残像を残して闇夜から消える。

狂気の笑みを携えて肉薄。放つは刺突。

鉄をも貫くベルフェゴールの一閃。

しかし、それを当たり前のようにロイドは体を半身にして回避して見せる。

同時、ロイドへと繰り出したベルフェゴールの右腕が赤い血しぶきをまき散らしてちぎれ飛ぶ。

(――糸?)

ロイドはベルフェゴールの耳元で笑う。

「――喜べ、悪魔。お前の手のひらの上で踊ってやろう。精々俺を引き立たせてみせろ」

ベルフェゴールは地面に落ちた己の右腕を眺めながらニヤリと笑った。

「……俗物め」