軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11話 「無能vs最弱」

「帰れ」

「失礼しゃす!」

僕はダンディなおじ様にそう元気に挨拶してこの部屋を――。

「待ちなさい」

ルナはそう言って僕の腕を掴むと、静かにため息をついた。

……いや、ため息をつきたいのは僕である。

ルナの騎士となった翌日、会わせたい人がいると突然僕を拉致したルナ・フレイム。

そして、嫌がる僕を無理やり連れてやってきたのが、ここ、フレイム公爵家のお屋敷だった。

「父上、話が違うのではありませんか?」

「何の話だ?」

落ち着いた趣のある空間に重い空気が漂う。

「騎士を傍に置けといったのは父上です。それもわざわざ学園に口添えまでして。その結果私は嫌でも騎士を傍に置く事になりましたわ。そしてこの男が私の騎士です。父上の望んだ通りでは?」

ルナはそう言うと紫の瞳を細くし、ダンディなおじ様、もとい父君を凝視した。

「確かに……私はこの際だれでもいいと思い、余りがでぬよう生徒の数を調整した。だが、それは誰も傍に置きたがらないお前を案じての事だ……」

そう言って、ルナの父君――アルゴス・フレイムは両腕の肘を机に上げ、両手を組みながら静かに瞳を閉じる。

「では、何も問題は――」

「大ありだ。身を案じ策を弄したというのに、つれてきたのが無能では話にならん!」

ルナの父君は閉じていた瞳を見開き、鋭い眼光を僕へと向けた

さすがはルナの御父君である。その迫力たるや姉上が剣を抜いた時に匹敵する。

だが、もちろん《孤高の月》も負けてはいない。

「それはあまりにも勝手な話ですわね。それに、父上のいう無能に私は命を救われましたわ。つまりこのユノ・アスタリオは命の恩人。それを無能と蔑むのは公爵家としていかがなものでしょう?」

ルナがそう言うと御父君は深くため息をついた。

「そこのアスタリオ家の三男がルナの命を救った……? ふふ、戯言はよせ。そこのユノなる男は剣も冴えなければ魔法もろくに扱えぬという話ではないか。そんな男が何をどうしてお前の命を救うと言うのだ?」

ルナの父君はそう言うと、再び僕を鋭い眼光で睨む。

「うまく娘に取り入ったようだが、お前を騎士として認める事はできない。今すぐこの屋敷から出ていけ」

僕は笑顔で頷くとこの場を後に――ならないよね。分かってた。

ルナは父君以上の眼光を僕へと向けると――。

「――では、このユノが強ければ問題ないのですね?」

「……無論だ」

「このユノは神アテナと契約を結び、《槍術》のスキルを獲得しています。その結果、学園での模擬戦ではクラスメイト達を血祭りにあげたとか」

……あげてないよ。

「ふん。たかだか学生同士のじゃれ合いで何が分かるというのだ。それに、神アテナだと? それはあの学園で無能と蔑まれていた神の事であろう? つまりもうその男に未来はない。詰んでいるのだよ。名もなき神と契約するなど正気の沙汰ではないわ!」

そう言って机を強く叩くルナの親父。

随分とご立腹のようだが……僕はそれ以上の怒りを感じていた。

それと同時にこうも思う。この場に神様をつれてこなくて良かったと。

僕は静かにルナの親父の前へと進み出る。

ボコボコにしてやんよ! とは言わなかった。それぐらいの冷静さは持ち合わせている。

だが、僕が言う事は結局は変わらない。

「アルゴス様、どうかお聞きください。私は若輩の身ではありますが、槍の腕に関してだけは自信がございます。どうか私と手合わせをしてはもらえませんでしょうか?」

訳すと、ボコボコにしたいので一戦やろうや、である。

僕の神様を愚弄した罪、その身で償うがいい!

「ふふ……」

すると、背後からとても楽しそうなルナの笑い声が聞こえてくる。

「良い提案ね、ユノ? いいわよ。私が許可する。―― 殺(や) りなさい」

……僕の気のせいだろうか? 言葉のニュアンスが違う気がする。

「舐めた口を聞いてくれる。いいだろう。手合わせしてやる。だが、お前の相手など、我が最弱の従者で事足りよう」

最弱の従者……つまり僕はその従者にも勝てまいと、この男は言いたいのだろう。

「最弱の従者? 父上それは一体誰の事でしょうか?」

「……すぐに分かる事だ。ついてこい」

そう言って部屋を出ていくルナの親父の背に続き、僕も部屋を出る。

「……念のため言っておくけれど、手を抜いたりしたら承知しないわよ」

ルナはそう言って白銀の髪をなびかせると、僕と並ぶように歩き出す。

……ルナ、君は本当に油断ならない女だ。

恐らくは既に僕の実力の一端を疑っていない。

それが天性の勘なのか、ただ単に頭が良いのかは僕には分からないが、これだけはルナに約束できる。

「もちろんです。絶対に勝利してみせます」

そう。それはもう僕の中では決定事項だ。

そうして僕は、広大な敷地の庭へと辿り着く。

一面を覆う、均一の長さに整えられた芝生の上で、僕は対戦相手が現れるのを待っている。

「得物は好きなものを使え」

ルナの親父がそう言うと、見目麗しい二人のメイドが、槍をいくつか持ってくる。

僕はその中から一番年季の入った槍を手にとると、ただ静かにその時を待つ。

そして――。

乾いた芝生を踏みしめる足音と共に、一人の男が姿を現した。

「……なるほど。おもしろいわね」

ルナはそう言って楽しそうに微笑みを浮かべている。

整えられた白髪交じりの頭髪。身に纏うのは黒で統一された執事服。

従者とはどうやら 執事(バトラー) のようだ。

「どうやらお待たせしてしまったようですね」

そう言って優し気に笑う高年の男は、身に着けていた白い手袋を脱ぐと、僕をまっすぐに見つめてくる。

「ルナお嬢様が自ら騎士をお選びになったと聞いた時、私はやっとお嬢様にも信頼できる方ができたのだと思い、とても嬉しゅうございました。あなた様がそうなのですね?」

何と答えていいのか分からない僕はとりあえず小さく頷く。

「そうですか。では、僭越ながら私があなた様のお相手を務めさせていただくフレイム公爵家執事のクロードと申します。以後お見知りおきを」

そう言って丁寧に頭を下げる執事クロード。

僕は思いっきり肩透かしをくらっていた。

「クロード。自己紹介など不要だ。なぜならこの男はもう二度と、我が屋敷に来ることは無い」

ルナの親父はそう言って鼻をならすと、変わらぬ眼光で僕を見る。

「ユノ・アスタリオよ。執事ごときに負けるようでは、娘の騎士は務まらんぞ」

「……精一杯頑張らせていただきます」

僕はそう言うと、ひとまず槍を構え、始まりの合図を待つ。

相手が執事であろうとも、僕がすることは変わらない。

ここで負ければルナの騎士はやめられるだろうが、神様を無能呼ばわりされたままで終わらせるわけにはいかなかった。

「ユノ? 分かっていると思うけど本気でやりなさい。 最(・) 弱(・) とはいえ公爵家の執事よ。私の騎士であるお前が負ける事は許されない」

「……分かってます」

……ん? 僕を心配してくれているのだろうか? 何故だか僕は別段おかしな所は無いルナのその物言いに違和感を抱く。

だが、どうやらそれを深く考えている時間は無さそうだ。

クロードがルナの親父へと目配せをする。

「本当によろしいので?」

「くどい。全力でやれ」

「……承知いたしました」

クロードはそう言うと腰に下げていた剣の柄を右手で握った。

「では、合図を」

クロードが静かにそう言うと、ルナの親父が指で銀色のコインを弾く。

チィン――という微かな金属音を鳴らせてコインが宙を舞った。

さて、どう料理してくれようか。

無論本気を出すつもりは無い。かといって良い勝負を演じるつもりも僕には無かった。

「一つだけ、忠告しておきます」

クロードはそう言うと、左手を剣の鞘に添えたまま体を絞る様に姿勢を低くし、右手で剣の柄を握る。

「もしも、私をただの老骨だと侮っておられるのならば――――」

コインが、ゆっくりと、地に、落ちた――。

瞬間、クロードの姿が残像を残して掻き消える。

「それは間違いだと知りなさい」

.......え。

僕は瞬時に体を捻ると、背後から振り下ろされた一太刀を紙一重で回避する。

「……へぇ?」

嬉しそうに微笑むルナ。

「ば、ばかな!」

驚き動転する公爵家当主。

「ば、ばかな!」

そして僕。

クロードは薄く笑みを浮かべると、剣を正面に構え直した。

……これで最弱だと……?

僕は自分の考えが甘かったと悟る。

これはどうやら、実力を隠している場合じゃなさそうだ。

槍先をクロードへと向け構え直す。

僕は決めた。

――ちょっとだけ本気だす。