軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

卒業パーティの告白②

そこまで言ってみるが、返事はこない。だが二人が聞き耳を立てていることは分かった。焚き火に突っ込んでいるシンシアのマシュマロは、もう真っ黒だ。

「十九歳で殺されて、気がついたら時間が巻き戻って、六歳の自分からやり直しているの。だから私のこの人生って、二度目なのよね」

とうとう、言ってしまった。

しばらくの間、パチパチと火に焚き木が爆ぜる音だけが、聞こえていた。

ぼとり、と音がして、枝の先のマシュマロが焦げて崩れ、火の中に落ちたことにようやく気づいたシンシアが、我に返ったように椅子から腰を上げたりキョロキョロと目を動かしている。

「――まぁ、こんな話、絶対信じられないと思うけど」

だからこそ、今まで誰にも言わなかった。たとえ家族にも。

こんなふうに話してしまうなんて、思ってもいなかった。夜の森の開放的な雰囲気に、つい口を滑らせてしまったのだ。

空気を切り替えて、学院長風に「ジャジャーン! なーんて、全部冗談だから」と誤魔化そうとした矢先。シンシアが口を開いた。

「誰に殺されたの?」

「えっ?」

予想外の質問に動揺している私とは対照的に、意外にもシンシアはいたって冷静な表情だった。

「誰が十九歳のあなたを殺したの?」

シンシアは真っ直ぐに私を見つめていた。

焚き火を挟んで反対側にいるマックの視線も、痛いほど感じる。

私は手の中のマシュマロを見下ろして、言った。

「ユリシーズ……王太子よ」

二人がはっと息を呑む音がした。

「死にたくないの。あんな殺され方は、もう二度と嫌なの」

「――で、俺らってそん時何してたの?」

「えっ? その時って?」

質問の意図が分からず、目を瞬いてマックに顔を向ける。彼は少し仏頂面をしている。

「いや、リーセルが殺される時さ、俺とシンシアは何してたわけ? 黙って見てたの?」

「違うよ。前回は、私は王立魔術学院に通っていたから、二人とは出会わなかったんだよ」

するとマックは途端に安心したように表情を緩めた。なぜかシンシアもほっとしたように何度も頷いている。

「それを聞いて安心したよ。じゃあ、今回は心配すんなって。前回は俺らがいなかった。でも、今回リーセルはこれから起こることを知ってる上に、俺らがついてる」

「で、でも、こんな荒唐無稽な話を、二人とも信じてくれるの?」

「当たり前でしょ。私たち友達なんだから。――そもそも普通王宮魔術師を嫌がる人なんて、いないもの。よほどの事情があるんだろうなって思っていたから。その理由なら、納得できるもの」

「そっかぁ、リーセルは人生やり直し中なのか〜!」

こんなにも非現実的な話を、あっさりと信じてくれることが信じられない。むしろ私の方が、激しくオロオロしてしまう。

するとシンシアが椅子ごと私のすぐ隣に移動してきた。

「前回のあなたには何が起きたのか、詳しく教えて。でないと、協力のしようがないわ」

少し遅れてマックも椅子を私の隣に引っ張ってきた。少し戯けたように、尋ねてくる。

「王宮で魔術でも暴走させて、王太子様のお宝を壊しちゃったとか?」

「バカねマック。リーセルがそんな失敗をするわけないでしょ」

……この二人になら、話しても良いだろうか?。

私はマシュマロを一口齧り、糖分を頭に回してから、ゆっくりと話を始めた。

一度目の人生について全て話し終えると、私はある決意を伝えた。

「今度は、絶対に王太子の恋人になんてならないし、長生きしてみせる」

それと、二度目だからこそ、できることがある。

「未来を知っている私だからこそ、周りのためにもできることがあると思うの。例えば、本当に悲惨だった、あの歌劇場での火災が起きないように、時期が近づいたら防火設備の点検を怠らないよう、注意を促す手紙を出そうと思って」

「そうね、良い考えだわ。あなたらしい」

シンシアは賛成してくれると、ためらいがちながらも尋ねてきた。

「リーセルは、王太子様にまた会ったらどんな気持ちになるのか、怖くないの?」

今の王太子には何も関係ないことだ。それでも、もし彼と向かい会うことがあれば。

私は何をしてしまうだろう?

「そうね。なんで私を殺したのよって、殴りかかるかもしれない。もしくは、再会の喜びで抱きついてしまうかもしれない」

「どっちもヤベーな、それ。ハハ」

マックに釣られて私の口からも力ない笑みがこぼれる。

「まぁ、さすがにそんな失態は犯さないから、心配しないで」

私はあくまでも今のリーセルを生きている。

前回のリーセル・クロウが経験したことを全部話してしまうと、不思議なほど気が楽になった。

それと同時に、こんな話を信じてくれる友人を持っていることに、感動してしまった。

マックとシンシアは私の話の信憑性をまるで疑わなかった。彼らはただ、私が死なないためにできることを、一緒に考えると言ってくれたのだ。

王宮に二人が就職してくれたことが、こうなると本当に心強い。

「私のこの人生の一番の大変化は、この学院に入って二人と仲良くなったことだよ」

焚き火に水をかけながらしみじみと呟くと、マックは言った。

「そうだな! 大変化にして、大正解だったな! 三人寄ればなんちゃらとも言うしな」

野外パーティはお開きだった。

持ってきた荷物を鞄に詰め直しながら、私たちは感傷に浸って国立魔術学院の校歌を歌い始めた。

五年間を過ごした学院の校歌をこうして卒業を間近に控えて歌うと、とても感慨深い。

「入学した頃は、シンシアももっと背が低かったよね」

「そうそう、しかもオドオドキャラっつーの? 自信がなさげで、俺同郷ながらにここでやってけるのか心配しちゃったよ」

「何よー、失礼ねマック」

カトラリーをしまいながらシンシアが、キッとマックを睨みつける。

マックがポンポンとものを言い、シンシアがそれに怒ると言う、この二人の関係は相変わらずだ。苦笑しつつ、シンシアをなだめる。

「でもシンシアって、今じゃすっごく頼れるお姉さんキャラだよ」

「本当? 嬉しい」

シンシアは少し照れ臭そうに笑った。自分が持ってきた鞄の蓋を閉め終えると、顔を上げて宙を見つめて呟く。

「私、入学した時は自分がこんな貴族たちや強い魔術持ちの人たちの中でやっていけるのか、すっごく心配だったの。自信がなくて、その自信のなさがさらに私の自信をなくしたのよね。でも、リーセルと仲良くなって、――あなたはちっっっとも周りなんか気にしてなくて。自分を持ってて。進むべき道を知っていて。考え方を変えたのよ」

「ほら、私って精神年齢は実はもう三十六歳だから!」

そう言ってみせると二人は爆笑した。

「言われてみれば! 人生経験めっちゃ豊富じゃん!」

「見た目十七歳の三十代なのよ、私」

そうして笑いながら後片付けをしていると、不意にマックの表情が引きつった。笑うのをやめ、食器を両手に持ったまま動きを止めて私の後ろの方を凝視している。

シンシアと私は、ほとんど同時にマックの視線を辿って後ろを振り返った。

マックが見ているものを私も確認するや、息が止まった。

暗い森の木々の間を、誰かが歩いてきていた。

体格からしておそらく男性だろう。