軽量なろうリーダー

婚約破棄された令嬢、ダンジョンでコンビニ始めました 出禁王子には売りません

作者: 月野槐樹

本文

ピロロンピロロン

ピロロンピロロン

今、私はミレーユ・ライジングサンは、何故かコンビニの入り口に立っています。ダンジョンの中にいたはずなのに……。

ハッとして振り返ると、透明な自動ドアの向こう側にはダンジョンの壁が見えます。ここがダンジョンの中なのは、間違いないようです。

それなのに、コンビニ?

「え……、『コンビニ』って……?」

何故私は「コンビニ」を知っているのでしょう。見た事も聞いた事もないはずなのに……。でも、今、私は「コンビニ」の中にいて、「自動ドア」の向こう側はダンジョンで……。

突然、頭の中がチカチカして、色々な光景が光の断片のように浮かび上がりました。

新作おにぎり、お店で揚げる唐揚げ、肉まん、おでん、バックヤードでサボるバイト、プリペイドカードを十万分も買おうとする客……。

ハッとして、店内を見回しました。見覚えのあるレイアウトです! むしろ懐かしいです。

思い出しました! 私、ミレーユ・ライジングサン伯爵家長女は、前世でコンビニ店長だったのです!

そもそも、何故私が、ダンジョン内でコンビニの中にいる事になったのか、状況を振り返ってみます。

「ミレーユ・ライジングサン伯爵令嬢! 君との婚約を破棄する!」

王宮の小広間に第三王子で私の婚約者であるサイラス殿下の声が響きました。

この日は、第四王子であるリカルド殿下が王都の北のダンジョンの第30層まで到達した祝いの会です。

サイラス殿下は急に何を言い出すのでしょうか。

驚いて、サイラス殿下を見るとサイラス殿下の背後に、ピンクのツインテールがチラチラと見えます。ピョコっとサイラス殿下の陰から顔半分だけ出してニヤリと笑ったのは、私の義妹、ニーナ・ライジングサンです。

「ミレーユ、君は剣も弓も攻撃魔法も支援魔法もそこそこで、特筆するようなものがない。このままでは、僕のダンジョン攻略の足を引っ張る存在となるのは目に見えている!

それに、君は聖女ニーナを虐めているというではないか! 義妹に嫉妬して嫌がらせをするなんて、心根が醜すぎる!」

「そんな! 私は何も!」

義妹を虐めているなんて事実無根です。むしろ、義母と義妹が私に嫌がらせをしてくるのです。専属侍女を解雇したり、食事を粗末なものにさせたり。

私には剣も弓も魔法も特筆するようなものがないとおっしゃいますが、前衛のサポートも後衛のサポートも担ってるんです。ニーナは治癒魔法特化ですが、私は支援魔法で傷の治療もやっています。

「えい! えい! ふぅ〜!」

ってピンクのツインテールを揺らしながら一仕事終えたようにやり切った顔をするのに騙されていませんか?

まあ、婚約破棄は、別に良いです。

経歴に瑕がつきますが、他力本願王子には嫌気がさしていましたので、この方と結婚するよりよっぽど良いです。

「王都東ダンジョン攻略パーティー、栄光の吊り橋からもクビだ!」

この国はダンジョンが多く、氾濫などの脅威に晒されながらも、貴重な資源確保の場所とされています。

現在、国の方針で王都の東西南北に位置するダンジョンを四人の王子が、攻略しようとしています。第三王子サイラス殿下の担当は王都東ダンジョン。現在十九階層を攻略中です。

一方、本日のパーティーの主役である第四王子のリカルド殿下は、王都北ダンジョンの第三十層に到達。サイラス殿下は焦っているのかもしれません。

でも私に当たるのは間違っていると思うのですが……。

「サイラス殿下……」

「うるさい! 君は追放だ!」

サイラス殿下が腕を振り上げて何かを投げました。投げたものは私の足元に落ち、魔法陣が広がり始めました。

あ、これ、ヤバイやつ。

気がついて逃げようとしましたが、既に床の感覚がありません。光に包まれたと思ったら急に目の前が真っ暗になりました。

「……どこ? ここ……。ライト!」

私は支援魔法の一つ、ライトを発動しました。ランプのように周囲を照らす魔法です。ランプを使えば無用の魔法だと笑われた事もありますが、ランプを持っていない時には便利なのですよ。

ライトの灯りに照らされてゴツゴツした石の壁が見えました。

「ここは……」

恐らくダンジョンの中です。あのおバカ王子、王宮内で罠玉を使ったようです。信じられない。

罠玉は、ダンジョン内の転移トラップの元となる、魔晶石で、トラップを発動させずに採取して加工すると、敵を罠トラップに嵌める道具として使えるものです。採取も加工も難しく、高価だそうですが、強い敵から逃れる手段として、お守り代わりに持つ事があります。

それを王宮内で使いますか?

……サイラス殿下が、何か罪に問われるかどうかは今はどうでも良い事です。

バタバタバタ

足音がしてやって来たのは三体の青ゴブリン。青ということは、十階層から二十階層辺りでしょうか。浅い階層には緑ゴブリン。

もう少し深い階層には、紫ゴブリン、赤ゴブリンと色も強さも違うゴブリンが出てくるのです。

ゴブリンの色が現在地の目安となるとは……。

「ファイヤーランス!」

魔法を発動して三体の青ゴブリンを一気に倒しました。一人だと周りを気にせず魔法が放てるのは楽ですね。

周囲に強化魔法や防御魔法をかける必要もありません。あら、案外一人の方が楽ですね。

キラキラとした光と共に青ゴブリンが消えて行きました。そして別の光が私を包みます。

「まあ。祝福も!」

魔獣を倒すと、魔獣の生命力なのでしょうか、その一部を吸収してパワーアップする事ができるのです。一定量に達すると、スキルが増えたりします。それを私達は「祝福」と呼んだり「レベルアップ」と呼んだりしています。

「祝福」を受けるのは、本当に久しぶりです。何しろ、魔獣の生命力は、パーティーを組んでいるとパーティー全員に分配されるのですが、サイラス殿下のパーティーは総勢十六名。ダンジョン攻略が思うように進まない度に人数が増えて行ったのです。人数が多いと食糧なども大量に必要で、食糧を運ぶ人員も増えていきます。

それに、まだ浅い層だから、遭遇する魔獣の生命力も、深層に比べると少ないのですよ。

以前は時間があれば、ソロダンジョンで、生命力稼ぎもしていたのですが、パーティーメンバーが増えたら雑事も多くて、なかなか独自のレベルアップが出来なかったのです。

でも今はパーティーを解雇されたから、私は自由ですね。理不尽な解雇や婚約破棄は腹立たしいですが、自由なのは良い事です。

何故私が、あのサイラス殿下の婚約者になったのかと言うと、同年代の中で魔力量が多かったからです。多分、一番は恐らく第一王子の婚約者ではと思うので、私の魔力量は三番目だったのですかね。当時は。

魔力量は訓練やレベルアップでも増えていくものなのです。今、魔力量が一番多い令嬢は、一番攻略が進んでいる第四王子の婚約者かもしれません。

誰が一番であっても別に構わないのですが、魔力量だけで、性格の一致不一致など考慮に入れずに、婚約が決まってしまったのです。

サイラス殿下の婚約者となったので、サイラス殿下のダンジョン攻略は、我がライジングサン伯爵家も支援をするわけです。

支援を口実にして、父の再婚相手の連れ子であるニーナが、攻略パーティーに加わりました。

「支援の一環」などと理由付けをしていましたが、ニーナは攻撃魔法などは使えず、多少の治癒魔法は使えますが、魔力量が少なめなので、治癒出来る人数も限られていました。

私から見ると戦力になるとは思えなかったのですが、ニーナは裏で暗躍していたようですね。

再び魔獣が襲いかかってきました。

「ファイヤーランス!」

瞬殺です。他の攻撃魔法も使えるのですが、ジメジメしたダンジョンでは、カッと熱いファイヤーランスが使ってみて、スカっとするんですよね。

攻略パーティーでは十六人で分配していた魔獣の生命力を一人で受ける事が出来るからか、次の祝福を受けるのに、あまり時間はかかりませんでした。

「あ、そうだ。スキル……。ステータス!」

目の前に半透明のボードが浮かび上がります。これも普段はあまり見ないのです。

以前、レベルアップした時に、取得したスキルがないかチェックしようとしたら、「自慢か?」と、サイラス殿下に嫌味を言われたので、それから極力見ないようにしていたのです。

半透明のボードの上の方に目立つ表示が見えました。

《新スキルが解放されました》

「新スキル?」

その時、私は何も考えずにその文字部分に指を触れようとしました。通常、ステータスボードが表示されるだけで、触れたり操作したり出来ないものなのですが、つい気になって指を伸ばしてしまったのです。

ポン!

ステータスボードの文字に指を伸ばした瞬間、目の前に明るい光を放つ建物が現れました。

ダンジョンの天井ギリギリの高さにすっぽり収まっている建物には、見たことないような大きくて透明なガラスがあり、中はまるで昼間のように明るいです。

思わず足を踏み出すと、透明な扉が一人でに開きました。

ピロロンピロロン

ピロロンピロロン

そうして、私は前世でコンビニ店長をしていた時の記憶を思い出したのです。

「わ、肉まん、本物? 温かい……」

肉まんのケースに恐る恐る手を触れてみると、温かく、恐らく中の肉まんも本物であろうと思えました。

「ハッ! オニギリ!」

私は急いで、オニギリが並んでいる棚に駆け寄りました。

紀州梅、ツナマヨ、サーモンワサビ、鶏五目

「はわわわ……」

前世の記憶が戻ったのは、つい先程なのに、ずっとオニギリを求め続けていたような気がしてしまいます。

震える手で、紀州梅のオニギリを手に取ります。

手にした少し柔らかい感触と存在感のある重み。よく知っている感覚です。

ペリっとフィルムの中央部分を開き、両端を引っ張って、海苔でご飯を包むようにします。

パリ

何とも言えない軽快な音!

ほんのりと磯の香りとお米の匂い。梅の酸っぱさ。

最高です

喉につかえそうになって、お茶の棚に手を伸ばそうとしてハッとしました?

「ああ! お金払わずに食べてしまった!」

慌ててお金を持ってなかったか、所持品を確認します。でも王宮の広間での宴の最中に放り出されたのです。銀貨一枚も持っていません。

「と、取り急ぎこれを。必ず現金を持って来ますから……」

私はイヤリングを外してレジカウンターの上に置きました。

《サファイアのイヤリング》

《12000ギル相当》

《換金しますか? Yes/No》

「おお! 換金します!」

ジャララ……

レジ前の自動精算機からお金が出て来ました。

金貨一枚と大銀貨二枚。たしかに、12000ギル分です。私は恐る恐るレジにあるバーコードスキャナーに手を伸ばし、既に食べてしまったオニギリのパッケージのバーコードをスキャンしました。

《15ギル》

「おお……。先に食べてすみませんでした……」

コンビニ店長時代だったらとんでもない客です。でも、ダンジョンの中に突然出て来たコンビニで、私のスキルで出て来たものです。

私が食べる分には問題ないかもしれません。

「それでも、何となくね……」

自動精算機に大銀貨を入れるとお釣りが出て来ました。

ピコン

《本日の売り上げ合計:15ギル》

《本日の給与:10000ギル》

「え? 待って待って?」

自動で表示されたステータスボードの内容に驚く。

「売り上げ15で給与が10000って大丈夫なの? あ、出て来た!」

「給与」と表示された部分に触れると自動精算機から金貨が一枚出て来た。

「やばっ。自分で買って給料貰ってる? どう言うシステム?」

レジの内側に入ると、もっと詳しいボードが出てきた。

従業員設定

給与設定

シフト・休暇設定

在庫管理

発注管理

「発注、出来るの?」

選択すると、発注画面が出てくる。

オニギリ

お弁当

サンドイッチ

ドリンク

コーヒー・茶

菓子

調味料

カップ麺

その他食料品

日常雑貨

雑誌

「発注、出来るの?」

いくつかメニューを確認して、一番無難そうに見えた水1ケース選択し、「発注」ボタンを押してみた。

ゴト

奥の扉の向こうで音がした。恐々扉を開けてみると、水2リットルのペットボトルが九本入った段ボールが置かれていた。

「発注、出来たみたい……」

コンビニ内を見て回り、実際の商品を確認してみる。オニギリやサンドイッチなど、食べたくなったら、お金は払って躊躇なく食べる。

何しろ、ちょっとだけ心配になったのだ。賞味期限が。

このコンビニ内の裏手にはミニキッチン、シャワー室、従業員用トイレ、仮眠室などがあり、当面ここから出るなと言われても生活出来ちゃいそうだった。

でも、店長としては気になる。お客さんが来なければ、お弁当やオニギリは廃棄になるのだろうか?

「うう……。勿体なさすぎる……」

食べられるだけ、食べてしまおうかなどと、考えていると入り口のベルが鳴った。

ピロロンピロロン

ピロロンピロロン

「いらっしゃいませ! ……え?」

つい反射的に言ってしまったが、入口に立っていたのは、ドラゴンだった。背の高い大人の男性位の大きさのドラゴンだ。

「……」

「……はい?」

「……、クワッ」

ドラゴンはちょっと苛立たしげに頭を振ると、カッと口を開けた。

ボフッ

黒っぽい煙に包まれたと思ったら、角を生やした男性の姿になった。角が先程のドラゴンと同じだ。

「おい、此処は何だ?」

「コンビニです」

「『こんびに』とは?」

「お店です。えーと、日常で使う色々なものを売っているお店です」

「昨日までは、こんなものはなかった筈だ」

「はい。さっき、出来ました」

「さっきだと⁈」

ギラリ!

男性の目が光りました。ギョッとして半歩後退ります。しかし、次の瞬間、目の前から男性の姿が消えました。

「あれ?」

バンバンバン!

入り口の自動ドアを叩くような音が聞こえて振り向くと、男性が外から自動ドアをバンバン叩いていました。

「おい! ここを開けろ!」

「嫌です!」

反射的に答えます。でも、実のところ、何故男性が店の外に出たのか不明です。

ピコン

透明なウィンドウが出て来ました。

《攻撃の気配を検知した為、店から排除しました。》

《出禁にしますか? Yes/No》

「へ? 出禁?」

試しに「Yes」を選択してみました。

自動ドアの向こう側から、男性の姿が消えました。

「え⁈」

何処に行ったんだろう。

「……まさか……。抹殺……?」

怖くなって、そっと自動ドアに近づきます。

ピロロンピロロン

軽快な音を立てて何事もなかったように自動ドアが開きました。外はこれまでいたダンジョンそのものでしたが、少し離れた場所に先程の男性が立っているのが見えました。

よく見ると、何か薄っすらと境界線のようなものが見えます。

《出禁状態を解除しますか? Yes/No》

《ウルトラ出禁に設定しますか? Yes/No》

男性の様子をじっと見ていたら、何か選択肢が出て来ました。

「『ウルトラ出禁』って何?」

《緊急追い出し:緊急時、店の外に追い出し。再入店には許可必要》

《通常出禁:店から半径10メートル以内に立ち入り禁止》

《ウルトラ出禁:店から半径100メートル以内に立ち入り禁止。店の商品取得制限発動。もしも、第三者が、ウルトラ出禁対象に店の商品を提供した場合、提供した第三者は自動的に「通常出禁」となる》

「え? 「ウルトラ出禁」怖!」

《出禁状況》

《通常出禁:1名

リオネル:ドラゴン、五十階層フロアボス、王都東ダンジョンマスター》

「え? ダンジョンマスター?」

男性に目を向けると、10メートル先からこちらをちょっと悲しそうな顔でじっと見ています。

何だかちょっと可哀想になりますね。

「おい! そこは『お店屋さん』なんだろう?」

「え?」

「『お店屋さん』なのに、俺には売ってくれないのか?」

「……」

どうしましょう。「お店屋さん」って言い方が可愛らしいんですけど……。

考えてみたら、この方は私に何もしてませんね。ちょっと怖い気配があっただけで。

それに「ダンジョンマスター」だというのが本当なら、ダンジョン内に何か見慣れぬ物ができたら、様子を見に来るのは当然かもしれません。

彼方から見たら、おウチの中に勝手に店が出来ていたという感覚でしょうか。それなら、反応に納得です。

少しお話しをしてみましょうか。

お店はお客さんが必要ですし。

私は、一度店の中に戻ってから、ドラゴンさんの「通常出禁」を解除しました。

ピロロンピロロン

早速ドラゴンさんが店に入って来ます。何だか涙目です。

「俺が何かしたか? いきなり追い出すなんて酷いじゃないか!」

「すみません。ちょっと怖かったので」

「俺はドラゴンだ! 怖いのは当たり前だ!」

「ドヤ顔で言われましても……」

「とにかく『お店屋さん』なんだろ? 俺でも物を買えるのか⁈」

「……」

ドラゴンさんが「お店屋さん」って言うと、ちょっと笑いそうになってしまいます。いけませんね。でも何だか可愛らしいんですもの。

「……買い物にはお金の支払いが必要です」

「金か?」

「多分、宝石でも大丈夫です」

「ほう。……これでどうだ」

何処から出してきたのか、レジカウンターにバラバラと宝石を山積みにするドラゴンさん。

「あ。いや、こんなに一度には……」

《換金して現金化しますか? Yes/No》

《プリペイドカードに登録しますか? Yes/No》

「……プリペイドカードにも出来るみたいです」

「プリペイド? 何だか分からないが、何でも良いぞ」

ニコッと笑うドラゴンさん。何だか騙されやすそうな感じがしますね。大丈夫でしょうか。

宝石を換金したらプリペイドカードの金額が100万ギル以上になりました。やばいです。

「これで『お買い物』が出来るのだな!」

ドラゴンさんは嬉しそうです。でも買い物をした事がないらしく、いきなり棚のサンドイッチを握りつぶしてしまいました。

「おや、これは、思ったより脆いのだな」

「お客様、お会計前に商品を壊されては困ります!」

「そうなのか? どっちみち『お買い物』するんだろう?」

「お会計前の商品は、お店の物なのです。この商品は、残念ですが弁償していただきます」

「そうなのか……」

ちょっとしょんぼりするドラゴンさん。仕方ないので、指定された商品を私が棚から取ってカゴの中に入れて行く事にしました。

「お客様、もうカゴが一杯です」

「もっと『お買い物』したいぞ」

「いいえ……。買った商品をちゃんとしっかりと味わって、美味しかったら、また買いにくる、それが買い物というものです。無闇に沢山買うものではありません」

「おお! 何だか格好良いな!」

ドラゴンさん……、リオネルさんはずっとダンジョンから出た事がなくて、冒険者が持ち帰ったダンジョン産の魔道具を通じて、外の様子を見ていたのだそうです。

その光景の中に冒険者が子供を「お店屋さん」に連れて行って「お買い物」をさせていた様子が印象的で、いつかやって見たかったのだそうです。

……ダンジョン産の魔道具から外の様子が見えるのって、遠隔カメラ付きみたいでちょっとギクッてするのですけど、それは気にしない事にしておきます。

リオネルさんは、「イートイン」で、「初めてのお買い物」の商品を全て平らげました。パッケージの開け方も、分からないようだったので、側について、パッケージの開け方や食べ方を教えました。

最後の方は力加減も覚えてきて、自分でパッケージを開けて食べる事が出来るようになりました。

「全部美味い! 美味すぎる! もう一度『お買い物』をして良いか?」

「どうぞ」

二回目はリオネルさんが自ら棚の商品を手に取ってカゴに入れて行きました。側で見ていて欲しいというので、私も一緒に店の中を回りましたけれどね。

「美味い!美味い!……お……?」

リオネルさんがお弁当を平らげていると、微かに地響きを感じました。

「え? 地震?」

「ダンジョンの拡張だ」

「え? ダンジョンって拡張するんですか?」

「俺が美味いものを食って力をつけたからな!」

ガハハと笑うリオネルさん。どうやら、ダンジョンマスターであるリオネルさんが、力をつけるとダンジョンが拡張するらしい。

「五階層増えた。五十五階層だ」

「まあ……。私の店の商品でダンジョンの階層が増えるなんて……」

「もっと増やす事も出来るぞ。俺と契約するか?」

「ええ?」

いきなり「契約」などと言われて、思わず身構えて、しまいました。しかし、その直後、半透明のボードが表示されました。

《ダンジョンマスターと提携契約をしますか? Yes/No》

《内容:店の商品が売れるとダンジョンが拡張する》

《ダンジョンが拡張、またはダンジョンポイントが貯まると、店の拡充が可能となる。(バックヤード含む)》

「……バックヤードの拡充?」

《バックヤード拡充の例:ミニキッチンのスケールアップ。浴室に浴槽の追加。トイレの機能アップ。仮眠室の拡大等》

「うわ……」

例がズルいです。絶対拡充したくなるじゃないですか。

ダンジョンの拡張だけなら私にメリットがないと思ったのですが、バックヤードの拡充は魅力的でしたので、思わず提携契約を結んでしまいました。ちなみに、どちらかが契約解除を希望したらすぐに解除出来るそうです。

一応契約書を隅々まで見た後、店の謎機能の半透明ボードでもチェックしましたが、大丈夫そうでした。

「それじゃ、他の者にも買い物させよう」

リオネルさんがニコニコして腕をサッと振ると、自動ドアが開きました。

ピロロンピロロン

「え?」

なんと、青ゴブリンがキョロキョロしながら店の中に入ってきたのです。私は驚いて飛び上がりそうになりましたが「緊急追い出し」の機能は発動しませんでした。リオネルさんが青ゴブリンさんに買い物カゴを持たせて買い物させています。

「最初は俺が払ってやろう。次は魔石か何か持ってこい」

「ゴブゴブ」

青ゴブリンは素直に頷いて、棚からオニギリをいくつか取って買い物カゴに入れました。

「……ありがとうございました」

「ゴブゴブ」

レジ袋をぶら下げて青ゴブリンが出て行きます。

青ゴブリンがあまりにも「普通」なので、私は困惑してしまいました。

「どうしましょう。私、さっき、青ゴブリンを何体か倒したのに。敵と見做されないのでしょうか?」

「提携契約してるからな。それに君が倒したのはアイツの分身体で本体じゃない。今のが本体だ」

なんと、私はダンジョンマスターと提携契約をしたから、ダンジョン内の魔獣に襲われなくなったそうです。それでも、ダンジョンのフロアで遭遇するのは分身体だから、別に倒しても構わないとの事です。

続いて、コボルトさんが店にやって来ました。

段々楽しくなってきました。

暫くの間、ダンジョンの魔獣相手に「お店屋さん」をしていたのですが、突然、リオネルさんの目がギラリと光りました。

「冒険者が来るぞ、どうする?」

「え?」

「追い払うか?」

「えーと……」

カウンター内にあるモニターに、ダンジョンの中を歩いている冒険者の姿が映し出されました。

まだ店の存在には気がついていないようです。

私が警戒してじっと見ていたからか、半透明ボードが表示されました。

《ウルトラ出禁設定にして近づけないようにされますか? Yes/No》

《隠蔽付きの変装をして接客しますか? Yes/No》

「隠蔽付きの変装?」

ポンッと私の格好がコンビニ店員の制服姿になりました。顔には仮面付きです。

「え? おい?」

リオネルさんもコンビニ店員の姿になりました。何か可愛らしいドラゴン顔の仮面を付けています。

「……これで接客してみます……」

リオネルさんにはカウンターの内側の椅子に座っていて貰いました。

暫くして、自動ドアが開く音が響きました。

ピロロンピロロン

「え? 何ここ?」

「罠?」

「いらっしゃいませ」

戸惑っている冒険者達に、明るい声で呼びかけます。

「え? 人がいる……? あの、ここって何なんですか?」

「ダンジョン内のお店です。現金か宝石で商品を買う事が出来ますよ」

「マジか……」

「ねえ、大丈夫なのかな。罠とか」

「とりあえず何か買ってみようよ」

三人の冒険者達は戸惑いながら、店内を回り、あるコーナーで立ち止まりました。

「嘘、赤ポーションがある?」

「紫ポーションも? 今手に入りにくいのに……」

冒険者達はおにぎりやサンドイッチには関心を示さず、薬コーナーにあったポーション類に注目したようです。

前世の世界の商品だけでなく、この世界のポーションも店頭に並んでいました。

赤いポーションは上級の治癒ポーションで多少大きな怪我でも治す事が出来ます。紫ポーションは、魔力回復ポーションの中でも効果が高いと言われています。どちらもダンジョン産です。

ダンジョン産のポーションは、効果が高い上に副作用などもないと言われています。

まとめて「攻略ポーション」などと呼ばれています。

しかし、最近ダンジョン攻略ブームなので非常に品薄だと聞いています。

「こ、これ、いくらだろう……」

「買えるだけ買いたい……」

「……こちらの商品は、購入制限がございまして、一種につきお一人様一本となります」

「あー、やっぱり制限あるのか……」

「でも、攻略ポーションが買えるなんて……」

「うわ……やっぱり値段は高いね……」

ワイワイ言いながら冒険者達は一種一本ずつ攻略ポーションを購入して帰っていきました。

翌日、噂を聞きつけて来たのか、三組程冒険者が攻略ポーションを買いに来ました。今度は、物珍しかったのか、菓子パンやサンドイッチも購入していきました。

冒険者が店に近づくと分かるようになっているので、魔獣達は冒険者が来ないタイミングに買い物して行きます。

三日程して、ついに浴室に浴槽が付きました! 次の目標はウォッシュレットです。

張り切って売上げをあげようと思っていたら、突然、半透明ボードがアラートを表示しました。

《サイラス第三王子が近くに来ています。入店を許可しますか? Yes/No》

《通常出禁にしますか? Yes/No》

《ウルトラ出禁にしますか? Yes/No》

「ウルトラ出禁一択で!!」

私は迷う事なくサイラス殿下を「ウルトラ出禁」に設定しました。

その後、義妹ニーナや他のパーティーメンバーについても聞かれたので、まとめて「ウルトラ出禁」に。

『何だ何だ? 進めないぞ?』

『この先の道が極端に狭くなっていっています。ダンジョンの改変でしょう』

『クソ、おい! 下の階層に行く別ルートは何処だ! それと噂の店に早く連れて行け』

『……別の道を探します』

『サイラス様ぁ、ワタシ足が痛くなって来ちゃいましたぁ』

『ニーナ、他の道を探すんだ。もう少し歩くぞ』

『ええー?』

カウンター内のモニターから、彼らの様子をじっと見つめていましたが、彼らが諦めて違う方向に進んで行くのを見て、やっと大きく息を吐きました。

「……ふむ。あやつらは、ミレーユの敵か?」

「敵というか……、二度と会いたくないというか……」

「それなら、十階層に行ったら一階層に戻るようにしてやろう」

「え……。そんな事出来るんですか?」

「造作ない」

リオネルさんは、サイラス殿下のパーティーをコンビニどころか、十一階層以降出禁に設定して、しまいました。

リオネルさんのダンジョン産魔道具のウォッチ機能で情報収集してもらったところ、暫く経って、十一階以降に進めない事が分かって、サイラス殿下達はとうとう王都東ダンジョンの攻略を断念したそうです。

おまけに、他のダンジョンを攻略しようと計画して、「攻略ポーション」を商人から買おうとしたら目の前でポーションが消えたそうです。その後、ポーションを売ろうとした商人が、コンビニに入れなくなっている事が発覚し、サイラス殿下は「ダンジョンに呪われた王子」と噂されるようになったとか。

王都東ダンジョンは、他の高位貴族のパーティーが攻略にチャレンジを始めましたが、ダンジョンは日々拡張していっているので、当面攻略されることは無さそうです。

一部の冒険者達は、コンビニに通う為だけにダンジョンに潜って来るようになりました。最近は温かいおでんが人気です。

リオネルさんですが、すっかりコンビニが気に入ったのか、最下層を留守にして、カウンター内に入り浸っています。

今日もニコニコしながら、プリペイドカードで買ったお弁当を私の隣で食べています。