軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14-19 イグドラ大森林 月精の日

野菜や薬草の採取等の疲労感もあり、お茶での癒しも含めて今日はぐっすりだと思ったんだがなあ……。

「…………なんだよう」

顔に触れる何かに文句を言うとそこには精霊達がいて、俺の顔でジャンプなどをしていらっしゃったようだ。

もう起きているから目にお尻はやめようね? ぽよんぽよんじゃないんだよ?

それで俺が起きた事に気づいた後は、俺の髪や手や指を皆で引っ張ってどこに行こうというのだね?

んんー? 起き上がれって事かな? はーいはい……ほいほい……ふわ、ふあふう。

まだ眠いんだけど……ああうん。分かった。

分かったからまず着替えさせてね? うん。大丈夫寝ない寝ないよ。

寝な……い…………おお。はいはい。行きますようー。

まだ瞼が半分おちているのだけれど、精霊達が引っ張るので大人しく従ってついて行く。

それでもって……この方向は精霊樹かな?

夜に近づいていいのかな? と思ったが、行かないと精霊達は放してくれなさそうなのでもし怒られたら後で説明しよう。

精霊達のせいにしてしまおう……。

眠い目を擦りつつ何度目かの欠伸をしながらゆっくりと足を進めて行ったのだが、精霊樹の元につくと自然と瞼が大きく開く。

「おおお……!」

精霊達がとんでもない数集まっている。

数十どころではなく数百単位かそれ以上か、エルフの森に住まう精霊が一堂に会しているのかと思えるほどの数が、精霊樹の周囲を飛び回っているようだ。

夜の暗闇に映える淡い光達が月明かりに照らされる精霊樹と共にある光景はまさしく幻想的で目はすっかり覚めてしまった。

「これを見せたかったのか?」

それならば起こされたのも悪くないと思えるほどの光景であり、深夜じゃないと見る事が出来ないから理解できるのだが……え、全員で首を横に振るって事は違うの?

この光景を俺に見せてくれようとしたんじゃないのか?

あ、違うのね。とりあえず進めと。

君達喋れないけど伝えるの上手いねえ。

皆で身振り手振りを使って色々伝えようとしてくれるのは可愛いと思うよ。

でも目的がなんなのかは全然伝わらないね。

「んんー……?」

あれ? 誰かいるな。

木を背にして座っているようだが、この時間にいるとしたらシアンさんか?

いや、シルエット的にもっと小さい――。

「……エミリー?」

「え?」

目を瞑っていて眠っているのかと思ったのだが、声をかけるとぱっと目を見開いて驚いた声をあげたのはやはりエミリーだった。

横に酒瓶が置いてあるのだが、一人で飲んでいたのか?

「どうしたんだこんな時間に」

「……貴方の方こそ、今日は疲れていたようだしぐっすり眠っていたんじゃないの?」

「あー……こいつらに起こされた」

ぷにぷにと優しく頬を押してやるとひゅんひゅんと逃げ回る精霊達。

間違えてお尻をついてしまったら、お尻を押さえて頬を膨らませてぽかぽかと頬を叩かれてしまった。

ごめん。ごめんって。

「……本当に仲が良くなるのが早いわね。とりあえず、座ったら?」

「お、おう……」

エミリーの横に促されて腰を降ろす。

おお……座った方が視野が広がり、精霊達の輝きがより美しく感じるなあ。

「エミリーは……一人で酒盛りか?」

「嗜んでいただけよ」

なるほど……。

まあ確かに酔っぱらっているようには見えないので嗜んでいただけなのだろう。

「……綺麗でしょ。精霊を見る事が出来る人にしか見られない光景よ」

「ああ……朝に見た時も感動したけど、夜の方が数も多いし綺麗に映るんだな」

「今日は『月精の日』だからより一層ね」

「月精の日?」

「ええ。今日は月の光が一番明るい日なの。そんな日は精霊達が『 世界に根付く精霊樹(スペリオルイグドラシル) 』へと精霊の力を回復させたり高めるために集まるのよ。私も私と契約している精霊のために来たって訳」

「なるほど」

精霊の回復のついでにこれを肴に酒を飲んでいたと。

ああ、確かにこの光景を肴にするのなら嗜む程度が正しい飲み方だろうなあ。

俺も自分の分の清酒を用意し、手酌しようと思ったらエミリーが注いでくれた。

ぷはあ……良い肴だな。

そういえば王都の大会の際に精霊と契約していると言ってたっけ。

エミリーが手を伸ばすと赤、黄緑、土色、青、白の五色の淡い光がふよふよとその周囲を漂っており、恐らくこの子達がエミリーと契約している子達だろう。

あれ? でも以前見かけた時よりも大きくなっており、他の精霊達に比べても大きいような……?

野球ボールくらいからサッカーボールくらいになっているような気がするんだけども?

「この子達は中級の精霊なのよ。隼人達と旅をしていたら成長したの」

顔に出ていたのかエミリーがすました顔で答えてくれた。

流石はエミリー……すまし顔が似合うなあ。

けなしているのではなく、元々エミリーはクールだから良い意味だし褒めています。

「精霊って成長して中級になるんだな……。てっきり中級は中級として生まれるものかと思ってた。そんで、中級になると大きくなるわけか」

「ええ。中級になると大きくなるだけじゃなくて使える魔法も強力になるわ。上級になるとさらに大きくなるわよ。ちなみに……上級になっても基本的に精霊は裸よ。安心した?」

「何でそれで安心すると思ったんだ?」

「……さあ」

さあじゃないよ。

そりゃあ……今朝は至らぬところをお見せしましたけども!

ウェンディ達から色々聞いているのかもしれないけども!

「私もいつかは上級精霊と契約する精霊術師になって、もっと隼人の役に立ちたいのだけど……焦っても仕方がないものだし、この子達に無理をさせる訳にはいかないからね」

そういうと手の平で契約精霊達と戯れるような仕草を見せるエミリー。

仲の良さが窺えていて、ただ魔法の為に利用しているような関係ではないのだという事が良く分かる。

……しかし、契約している精霊は俺には懐かないようで全く姿が見えないな。

いや、別に中級だとどんな姿になるのかが気になる訳ではなくただ好奇心があったというだけなのだが。

「……そういえば貴方この前面白い事を言っていたわね」

「ん? 面白い事……?」

どれだ? 面白い……何かギャグセンスが高く、エミリーの興味を引くことが出来た言葉を言っただろうか?

この前という事は最近であり、普段から知的なエミリーが面白いと思った事……トグブハブジャケルという発音をしたこと……か?

「……私の姉様の事よ」

「ああ、アトロス様か!」

「そう。貴方、姉様に精霊文字と魔法陣の事を教えて貰ったって言っていたでしょう?」

ああ、あの時は大変お世話になったもんだ。

『 全てを見通す祖の神眼(シースルーアイ) 』のおかげで結界を破ることが出来た訳だし、エミリーの秘策にも気づけたしな。

「あれってどういうことだったの? 姉様は戦闘神になっているのだけど……姉様の加護でも貰ったって事?」

「ああー……」

何て説明すればいいんだ?

神と対話した? 夢で逢いました?

んんー……? 夢というにはリアルすぎるんだよなあ……。

どちらかと言うと神様の世界にお邪魔した? そんな事が出来るのか疑問だし言って良いものか……。

「……自分でも良く分かっていないの?」

「ああ。でも何て言うか、直接話した……でいいのかな?」

「直接……? 神の世界に行ったって事……?」

「わかんない……でもあれだろ? アトロス様ってちっぱいで身長が高い金髪碧眼のエルフだろう?」

「そうね。ちっぱいって……本人の前で言うと殺されるわよ?」

「言わねえよ……」

でもちっぱいだって良いと思うの。

アトロス様は確かにちっぱいだった。

物凄いちっぱいだったし2枚も重ねて見栄もはっていたけれど、それはそれで可愛かったと思います!

「ちなみに姉様の口調だけど――」

「『ちょっとこっち来い。首をはねてやる』とか?」

「……姉様ね。間違いないわ」

間違いないんだ……。

「つまり、姉様に会って二重の魔法陣に気づいたのを教えて貰ったって事ね」

「まあそうなんだけど……信じるのか?」

「信じるわよ。精霊文字も知らない人に分かるような魔法陣じゃなかったもの。それにしても……姉様は相変わらず凄いわね……私も少しは成長したつもりだったのに……」

「あー……でも、アトロス様も本命の術式が何なのかは分からなかったそうだぞ」

「……そう。ありがとう慰めてくれて。姉様は基本的に頭は良いのに馬鹿だから勉強すれば覚えられるのにしないのよ」

「…………」

ノ、ノーコメントで。

でもでも素敵なお馬鹿さんでしたよ?

レイディアナ様の尻とエッチぃ下着を二人で観察してくれるような素敵なお馬鹿さんは俺は好きだなあ。

「ねえ信じられる? いきなり『こいつらと森を出るから次の長お前な。あと頼んだ。じゃあな』とか言って、レイディアナ様達と一緒に森を出て行ったと思ったら、次は神になってたのよ?」

「わあ……あの方らしいなあ」

少ししか話した事はないのだけれど、あの方ならば言うだろうなあ。

こちらから投げる当然の疑問も全スルーしてとっとと出て行きそう。

「らしいけど! らしいけどいきなり長とか無理に決まってるじゃない。こっちがどれだけ苦労したか……エルフ族きっての神童と呼ばれた姉様の次よ? まだ若輩者の私がいきなり長よ? 流石にそんなのは無理だし、代わりに長になりたい人がいたら譲るって言ったのだけど、誰も姉様の次はやりたくないんだって。じゃあ代理って事で姉様が戻ってきたら……と思ったら神よ神! どいつもこいつも勝手なのよ。だから私も森を出たの。精霊の減少も気になっていたからね」

わあ、お酒のせいかアトロス様への愚痴のせいかいつになく饒舌だあ。

……色々溜まっているんだろうな。

ぐいいいっとお酒を煽ってしまったのだが、嗜んでいただけなのではないのか……?

あと、長代理であるエミリーも出て行ったという事は今割りを食っているのはイエロさんという事か……。

……なんだろう。優しくしてあげたくなったな。

「で、森を出たら隼人と会ったと」

「そうよ。ダンジョンの調査をしていたらたまたまね」

「で、惚れてしまったと」

「そうよ。……レティじゃないんだから、うろたえたりすると思わないでね」

「レティなら顔を真っ赤にして一瞬否定しかけたあとに小さい声で肯定するだろうな」

「そうね。あの子はそれが可愛いわよね。最近は素直になりつつあるけれど、まだまだからかいがいがあって楽しいわよ」

わあ、とても良く分かってる。

ツンデレというジャンルが広く広まり根強い人気を誇る理由だよなあ。

いつまでもあのままでいて欲しいが、もっと素直になっても良いとも思うこのジレンマよ……。

「……最近クリスは積極的なのよね。良い事なのだけど、たまに一緒に隼人に迫ると私の知らない事をするのよ……。知識量で上回られるのは面白くないのよね。ミィはまだ私の手の中で転がしていたいわ……」

そ、そうなんだな。

えっと、酔いが回りましたか?

友人の恋人から聞く友人の最近の夜の事情とか気まずいってレベルじゃないぞ?

あとクリスが知らないような新技を教えろとか言われても困る!

知識欲が強いのは結構だけれど、説明なんぞ出来るか!

ん? 酒を飲めば話せるだろうって? 待て待て嗜むだけだろう? おい注ぐな。注がれたら飲まねばならな――

「んっ……そろそろ帰るわ。お酒、残ったのは飲んでいいから貴方はゆっくりしていきなさい。色々話せて楽しかったわ」

「……おう。ありがたく残りは飲んでおくよ」

英雄……色を好む。

隼人、随分と大人になっちまったんだなあ……。

王都に行く前のお前が懐かしいよ。

願わくば、エミリーが今日話した事を忘れていますように。

後日正気に戻って気まずい感じになりませんように!