作品タイトル不明
14-17 イグドラ大森林 薬草畑にて
ナシュとホワイトアスパラランスの最後の意地による痛みは大分治まったものの、未だに違和感だけはある感じ。
でも歩く程度なら問題はなくなった。
すっかり野菜の収穫を終え、収穫した野菜達は持ち帰っても構わないとの事でありがたくいただいた後はミゼラのお楽しみが待っていた。
「旦那様旦那様! 見て見て凄いわ! こんなに大きくて元気な薬体草は初めて見た!」
「おーう。確かに凄いな」
「やっぱりお野菜と一緒で土が違うからかしら? でもそれだけじゃないわよね。きっと管理している方も凄いのよ!」
ミゼラが初めて遊園地に来たかの如く目に見えてテンションが上がっており、喜んでいる姿は可愛いなあとついつい微笑んでしまう。
いやあしかし、ミゼラが喜ぶのも分かる程に本当に素晴らしい薬草畑だなあ。
ミゼラの言う通り葉が艶やかで瑞々しく生命力に満ちていて葉も厚く大きく育った薬体草であり、これは成功率や効果が高そうだなと思えるし、なんと言っても薬草は暴れないのが素晴らしい!
もし薬草までああなら俺もシロと同じように葉っぱ嫌い……となっていてもおかしくなかったからな!
どんな違いがあるかなんて知らないが、知らないままでも何でも良いさ!
大人しく安全に採取が出来るのであればそれだけでいいさ……っ!
「二人共、次はこっち。こっちには多分外じゃ見られない珍しい薬草があるよ」
「そうなの? 旦那様! 行ってみましょう!」
「ん。ああ分かったすぐ行くよ」
ちなみに、薬草採取はシアンさんの案内で行われ、俺とミゼラがメインであり、他の皆のメインはハーブティや料理に使える香辛料などに使える草花を見ていらっしゃいます。
俺も後で少し目を通したいが、まずはじっくりミゼラと薬草を見てからにしたわけだ。
「こっちが『ブラッドノット』って蔦。腕に巻き付けると適切な強さで止血が出来るんだよ。あ、こっちは『ブランデンアプリコット』かな。実を食べるとお酒の味がするよ。薬効もあるけど、美味しい果実かな。はいどうぞ」
「ん……おおあ、ほおお……っ、強いなこれ……」
長年熟成させたブランデーのような芳醇でまろやかな味わいが広がったかと思えば杏子のような甘みが訪れ、最後はアルコール度数の強い酒特融のパンチが来るような果実だ。
これは、ヤバいなあ……果実感もありつつ酒の味を実で味わえるというのは面白い。
ちょこちょこつまみながら趣味での錬金などに興じたいなあ。ただ、食べやすさもあるので酔いやすそうだ。
「旦那様。強いお酒だと多分一つは食べられないのだけど……」
「無理しなくていいぞ。残ったら俺が食べるから」
「うん。ありがとう。それじゃあ、あむ……んっ! お酒感も強いけど、甘くて食べやすいのね」
「うん。美味しいよね。私も好きなんだよ。あ、でもそれで酔っ払ったらブランデンアプリコットの葉を噛むといいかな。凄く苦いから、酔いがさめるよ」
ほーう。凄い苦いのか。
それはそれで普通に使えそうだな。
薬草畑にあるって事は、薬効もあるのだろうし、『どろっと濃厚濃縮還元タタナクナールThe・End』の味をどうするか悩んでいたのだが、苦いってのもありか……。
それか複数の味を用意するのも良いかもな。
せめてもの慈悲として美味しい場合もあるというのも良いかもな。
「あとは……あ、これも面白いかも。笛吹草。吹くだけでリラックス効果があるよ」
「おおー。音が鳴るんだな」
ストローのように葉が丸まっており、それを咥えて吸ったり吹くだけでも音が鳴るようだ。
音でリラックス効果があるのかと思ったが、どうやら咥えて触れている部分にも効果があるようで、確かに僅かに心が落ち着いた気がするな。
「丸めて固めて丸薬にも出来るんだよ。効果は吹いた方が高いけど、収穫後は劣化速度が速いから丸薬の方が保存が利くかな」
「おおー……。リラックス効果のある丸薬か。仕事疲れに良さそうだな」
それを飲んでまぶたには温めた布でアイマスクをし、リクライニング機能のある椅子でぼーっと出来たら最高だろうなあ。
体中の力を抜いてだらーんとしながら夢うつつな世界へと旅立ちたい……。
「それにしても、シアンさんは守り人なのに薬草にも詳しいんだな」
「うん。お母様が薬師だからかな。色々教えて貰ってるよ」
お母様……というとイエロさんの奥さんで、すらっとした母ちゃんエルフの、確かマゼッタさんだったか。
あの人薬師だったんだな……ん?
「薬師って……錬金術師も薬を作れるけど別扱いなのか?」
「そうだよ。どちらもお薬を作れるけど、薬草やその他の素材を混ぜ合わせて複合効果を持った薬を作るのが錬金術師で、一つの素材の効果を高めたお薬を作るのが薬師なんだよ」
「おおお……なるほどな」
例えば薬体草で作れるポーションの効果上限は決まっており、より効果の高いポーションを作る場合は薬体大草や別種の薬草を混ぜて効果を上げる方法を錬金術師は取る。
だが薬師の場合は薬体草の効果自体を薬体大草並みやそれ以上に引き上げた薬を作れるという事だろう。
「ねえ旦那様。一つの素材で薬を作れるのなら、薬師の方が凄いの?」
「んー。一長一短じゃないか? 一つの効果を求めるのであれば薬師の方が凄いのかもしれないけど、複数の効果を求めるのであれば錬金術師も負けてはいないと思うしな」
それに錬金術師は薬を作るだけじゃあないからな。
ミゼラはまだ挑戦中ではあるが、アクセサリーや魔道具作りも出来るから可能性だけを見れば錬金術師の方が試せることは多いだろう。
「うん。あとは薬師は基本的に作るのは丸薬なんだよ。保存期間の長さと持ち運びのしやすさがあるのが利点かな? あとは錬金術師のお薬と違って魔力を帯びないのが特徴かな? でも、薬は単一効果のものが多いからどっちが優れているという訳ではないと思うよ」
「そうなのね……薬師も面白いわね」
「お。興味が出て来たか?」
「ええ。薬師が作った丸薬を錬金術の素材にしたらどうなるのかは気になるわね」
「おお。確かに」
薬体草の効果を薬体大草並みに引き上げた丸薬を用いてポーションを作ったらどうなるんだろうな?
ポーションだけじゃないにしても可能性の広がりはとてつもない事になりそうだよな。
「ふふふ。それじゃあお母様にお土産用に丸薬をお願いしておこうかな」
「それはありがたいな。頼んでもいいか?」
「うん。頼んでおくよ。それと、薬草類の取り方も教えるから、色々取っていっていいからね。ここはお母様の薬草畑の一つだから、取りすぎても大丈夫だよ」
おお、マゼッタさん薬師でありながら薬草も育ててるのか。
俺も庭を使って貴重な薬草類を育ててみるのもありかもしれないな。
ミゼラは薬師にも興味があるようだし、ついに俺の農業スキルの出番がやってきたか?
何かに使えるかと思って取得したは良いもののずっと出番が無かったからな……。
ウェンディのガーデニングスペースや、鍛錬の場所を考えるとあまり広くは取れないがやってみる価値はあるだろう。
「あ、そうだ。面白い木があるから紹介するよ」
「面白い木? 薬草畑に?」
「うん。そうだよ。錬金術師の二人ならきっと楽しい事が起こると思うよ」
錬金術師だと楽しい事が起こる木……?
と、ミゼラと顔を合わせるも疑問符ばかりが頭の上に浮かぶので、大人しくシアンさんの後をついて行く。
すると、何やら一風変わった木が生えている場所に案内された。
その木は全体的に幹が異様に太くて俺が四人くらい並べる程なのに背が低く、胸くらいの微妙な高さに不自然に一本の枝が短く生えている。
更には正面の下の方は大きく四角いうろの様な穴が開いており、薬草畑にあるには違和感のある木だと感じるんだが……。
「これは……何の木なんだ?」
木から生えている葉は薬草だとは思うのだが、葉の形が統一されておらず何の薬草なのかは分からない。
というか、まるで様々な薬草や草花の葉をこの木に集めましたといった感じに思えるのだ。
「これは『ガチャの木』って言ってね。その人に必要な薬草を出してくれる面白い木なんだよ」
「ガチャ……」
え、ガチャって……つまり、ガチャガチャか?
じゃああの微妙な位置から生えている枝はレバー?
四角いうろのような場所から薬草が出てくるという事か?
何とも奇想天外な木なのだが、流石は異世界……異世界とはいえ奇抜すぎる気もするな。
「必要な、ってその人の健康状態に合わせた薬草が出るのかしら?」
「健康状態とは限らないかな? 別の理由で必要ということもあるよ。今必要か後で必要かも分からない。でも、間違いなく必要な薬草が出るって木なんだよ」
「うん? どういう基準なのかしら……?」
「まあでも面白そうだな。ミゼラやってみたらどうだ?」
「うん。どうぞどうぞ。この枝を下に降ろせば出て来るよ」
「じゃあ、せっかくだし……」
と、ミゼラがガチャの木の枝に手を置き、そのまま下へと降ろす。
すると案の定ガチャンと音がし……なんでそんな音がするんだろう? いや、とりあえず出てきたものを確認しようと思ったんだが……めっちゃ出て来てる!?
「わわわ!」
え、一つじゃないのか!?
次から次へと同じ薬草がフィーバー状態のように出てくるのだけど、ガチャじゃなくてスロットだったのかと思えるほどに次々と溢れ出てくる!
そしてようやく終わりを見せたのだが……これ、もう薬草畑で収穫する必要が無い程に出て来てるんだけど……。
「これはえっと……薬体草が沢山? それに薬魔草と……ブルーリンプルかしら?」
「ん? でも一枚だけ薬体大草があるぞ?」
「なんなのかしら? これだけ必要な事態に陥るの……?」
「んんー……あれじゃないか? 薬体草をこれだけ使えばレベルが上がって薬体大草が使えるようになるとか? これもある意味で必要って事なんじゃないか?」
「うん。そう言うこともあるかな。薬師の人が回して同じように大量に出てきた事があるけど、それを全部丸薬にしたらレベルが上がったとかもあったよ」
じゃあやはりミゼラのレベルが上がるまでに必要な薬体草が出たって事だろうな。
……毎日毎日休まずにポーション作りを続けていたもんな。
「そうなの? それじゃあ……頑張らないとね」
むん! っとやる気を見せるミゼラ。
次のレベルアップまでそう遠くないと知って少し嬉しそうだ。
普通ならばいつレベルが上がるかは分からないものだが、それが分かるというのはやる気にも繋がる事だろう。
弟子の成長って奴は嬉しくなるね。
レインリヒはそういう風に思ってくれてたのかねえ?
「それじゃあ次は旦那様ね」
「おう。何が出るか楽しみ……あれ? 葉の枚数が減ってる?」
さっきまで多種多様な葉がもさもさっと生えていたはずだが、何時のまにか大分少なくなっているような……?
「うん。一回回すと葉っぱが減るんだよ。葉っぱがないと薬草は出てこないかな。時間が経つと土の栄養を吸収してまた生えそろうんだよ。あと一回くらいは大丈夫だから、ご主人様様も試してみて大丈夫だよ」
おお、流石に何度も回せたら便利すぎるか。
じゃあせっかくだし、回させてもらおうかな?
俺には一体何が出るんだろうか?
少し期待感に胸を膨らませながらレバーを降ろす。
すると、ミゼラと同じように何故か木からガチャンっと音がして、うろの部分から数枚の薬草や実らしきものが出てきたのだが……。
知らない薬草ばかりだったので鑑定を使って名前を調べてみる。
『グレイトガリオ』『パーフェクトマッカ』『ローヤルウースタースコーピオ』『スッポガラーナ』
今まで扱ったことが無いものばかりだな。
何やら聞き覚えがあるものもある気がするのだが、例えばガリオはニンニクだよな?
んんー……どんな効果があるんだろうか?
「シアンさん。俺この薬草は見たことが無いんだけど、どんな効果があるんだ?」
「え!? あ、こ、これは……エルフの森にしかない貴重な薬草がいっぱいだよ?」
「そうなのか。それで、効果はどんなものなんだ?」
「えっと、効果はその……男の人が……あの、男の人のアレが……凄く、凄くなる……かな?」
顔を真っ赤にして……というか、段々と赤くなっていくシアンさんが、段々と小さくなる声でしっかりと教えてくれた。
なるほど……。
グレイトガリオのガリオはニンニク。グレイトって事は凄いにんにく。
で、マッカは……マカかな? パーフェクトだから完璧なマカ。
ローヤルウースタースコーピオ。
ローヤルはローヤルゼリー? ウースターは牡蠣か? スコーピオは……まさかサソリか?
で、スッポガラーナは……もしかして、すっぽんとガラナの事か?
全て植物ではあるので、そのままそれらが入っている訳ではないのだろうけど、効果はそれらと似ているという事か……。
……え、これが俺に必要な薬草なの?
ニンニクとマカにローヤルゼリーと牡蠣とサソリとすっぽんとガラナが必要なの? または必要になるの?
それってどんな状況なんだ……?
えっと……ミゼラ? 顔を背けないでくれるかな?
今現在の俺に必要がある訳じゃないぞ?
つまり、未来で必要な可能性があると言うだけだぞ?
未来、すなわちいつかは分からないのだから、もしかしたら10年後とかかもしれないし!
待て待てウェンディ達に報告しに行こうとするんじゃない。
ほら! 俺が使うんじゃなくて、もしかしたらミゼラと同じようにこれらを錬金をすればあるかどうか不明だが錬金レベルが10になるかもしれないだろう!?
レインリヒすらレベル10じゃないからまずありえないだろうけども!
いや、早とちりはいけないぞ?
なんか別の、シアンさんが知らない使用用途があるかもしれないじゃん?
俺達は錬金術師なんだから、様々な複合効果を生み出すお薬を作れるんだよ!
だからきっとそういう効果じゃないお薬だって作れると思うから、なんか気まずい空気を出さないでくださいませんかね!?