作品タイトル不明
14-12 イグドラ大森林 エルフの歓迎
眼前に広がるは木、木、木……。
さっきまで魔物はいるけれどのほほんとした雰囲気の平穏な平原で、樹木なんてちらほらしかなかったのだが突然大森林が現れた。
これがイグドラ大森林か……。
大森林と呼ぶにふさわしい程の森の大きさであり、深く濃い緑色が視線の先の先まで埋め尽くしているようだ。
そんな大森林をどうやって馬車で進むのかと思ったのだが、一本だけ道があるらしい。
舗装はされていないが馬車一台分くらいは通れる道があるようで、周囲を警戒していた皆も戻ってきて荷台に乗って進む。
「エルフは魔法の巧者が多いからね。精霊魔法や普通の属性魔法を駆使して、ここでエルフがいるかどうかを調べるのよ。もしいない場合は、引き返さない限りずっと一本道が続くようになっているの。森に入ると間違いなく迷子になるから皆には馬車に戻ってもらったって訳」
「はああ……。なるほどなあ」
イグドラ大森林自体には誰でも入れるが、エルフの村に行くには審査がいるという訳か。
防衛力も高く、怪しい輩は近づけないという。
やはり予想通り少し閉鎖的な場所なのだろうか?
そして興味津々で御者台にやってきた俺に解説助かりますエミリーさん!
「ちなみに、エルフ独自の研究により魔力には個人個人特徴があって誰が来たかも分かるようになっているの。凄いでしょう?」
「魔力に特徴?」
「そう。生まれた時から属性適性が決まっているのと同じように魔力にも変わらない特徴があってね。出生したらすぐに登録するようになっているのよ。まあ、戦が多かった時代の名残みたいなものだけどね」
戦……やはり隣国である王国とも戦争をしたりしたのだろうか?
エルフは長命種だろうし、そんな戦争を経験した人も多く残っているのかな?
「だからこのまま進めばすぐにエルフの森にたどり着くと思うわ。私が来たって伝わっているし……遅かったら、多分歓待の為に村のエルフに招集をかけているところかもね」
「……そんな大げさにしないで欲しいんだけどなあ。色々生活もあるだろうに。全部放って来そうな勢いな気がしてならない」
なんせエルフの村の全エルフでアインズヘイルに来ようとしていたんだもんな……。
それはつまり、村を守る者も来るつもりだったという事だろう?
ウェンディは村よりも大切ということか……。
「そう言うだろうと思ってはいたのだけど、でも事が事だからね……。それに、今回の様な事が理由でなくとも大妖精であるウェンディ様の為ならどんな用事もすっ飛ばして集まるくらいするわよ」
「大妖精、か……」
「今いる大妖精はウェンディ様だけみたいだからね……。精霊と密接な関係にある私達エルフにとっては死活問題でもあるから……。幸いにもエルフの森には精霊は多くいるわよ。まあ比較的に、だけどね」
「おお……。だからさっきから周囲を淡い光が飛び回ってるのか」
赤や青、黄緑や土色に白や黒など6種類の精霊が周囲をふよふよしているのだ。
好奇心は旺盛なのに警戒しているのか、一定の距離からは近づいてこない。
手を伸ばしてみたら近づいてきそうではあったんだが、駄目だった……。
「そう言えば貴方精霊が見えるんだったわね。ヒト種でいない事もないのだけれど、珍しい存在よ。でも、別にスキルを女神様から貰ったわけではないのよね? 不思議ね……」
「実は俺に精霊魔法の才能が!」
「んんー……精霊魔法ってエルフ語での発音を覚えるところから始まるのだけど……『tgヴhbjykl』って、発音できる?」
「と、トグブハブジャケル!」
「……無理そうね」
「えー……あれ? でも前にエミリーが魔法を使ってた時は唱えてなくないか?」
「アレは術式を理解しているから破棄出来るの。エルフ語を理解出来ないと……難しいわね」
そっか……無理かあ……。
というか、エルフ語があるんだね。
エルフ語むずいわあ……。
あ、青い光の精霊が笑っているのか僅かに上下していらっしゃる……。
もしかして今の俺の発音をお笑いになられているのでしょうか?
……というか、薄っすら見えるのだがよく見ると精霊って人型なのか?
今までは丸い淡い光だと思っていたんだけど違うのかな?
可愛らしい四枚の羽根を持ち、局部は見えないものの衣類は全く着ていない姿が見える気がするんだが……。
「なあエミリー? 精霊って、もしかして人型なのか……?」
「そうだけど……見えたの?」
「ああ。あ、でも見えない子もいるな。その子は普通の淡い光の球体に見えるな」
「人型に見えたのなら、精霊が貴方に少し心を許した証よ。淡い光が僅かになって完全な人型が見えたら、仲良しって訳」
「おお……こっち来るかな? ほい」
薄っすらと人型に見えた青い精霊に向かい、手のひらを差し出してみる。
すると、精霊は少し戸惑いを見せてから恐る恐るやってきた。
「おお……」
「……懐かれるのが早いわね。まあ、精霊は魔力と内面を見ると言われているからね。悪人にはまず懐かないし、貴方が善人って証拠でもあるわね」
そうなのか。善人で良かった!
精霊……精霊かあ。
精霊もまたファンタジーのド定番!
おおお……指を触られているのだが、不思議な感触だ……。
当たり前ではあるのだが、凄く小さな手で触られている感じ。
決して虫が這っているような感じではなく、綿棒でとてつもなく優しく撫でられているような感じでちょっとくすぐったい。
すると、俺が指を擦りたいのを感じたのか手から離れて今度は頭の上に移動し、そのまま頭の上に座る精霊さん……。
うん。まあ重さも特に感じないしいいけどね。
あ、横になります? 乗り心地はどうですかね?
「そう言えばあなた、聞いた話じゃ適性が光を除いた五属性あるのよね? 光の精霊以外なら、エルフの村にいる間に懐くかもしれないわね」
「おおー……属性適性も関係あるのか……。お、早速寄って来たんだが、俺の頭をベンチ代わりにしてるかこれ?」
重さは特に感じないが、存在の気配が増えたように感じるな。
髪の毛をいじられたり、寝転がられてごろごろしている感じが頭の上で行われている気がする。
上を向いても見えないんだけどね……。
「……本当に懐かれるのが早いわね。あ、そろそろ準備が整ったみたいね」
「ん? お? おおおお?」
前方から霧! 物凄く濃いめの白い霧が現れましたよ?
そしてエミリーが後ろを振り向くので俺も振り向くと、森の木々が奥の方から閉まっていく……。
え、凄い速さなんだけど? ちょっと怖いんだけど?
そして馬車の荷台の手前で閉じていく木々が止まると、馬車も止まった。
「ついたのか?」
まだ霧は晴れていないようなんだが、それでも馬車が止まったという事はここが目的地で良いのだろうか?
とりあえず、まだ降りないでおこう……。
「ええ。ようこそエルフの――」
「「「「「「「「ようこそ! ウェンディ様ご一行様!!!」」」」」」」」
エミリーの言葉が遮られるように大音声でかき消され、それに合わせて霧が晴れると……こりゃまた、壮観な光景で。
奥の方にある大樹にまず視線は奪われたが、すぐさまずらっと綺麗に並ばれたエルフさん達が皆膝をつき頭を下げている姿にもっていかれるよね。
子供から大人まで全員が全員等間隔にずらっと並んで頭を下げていらっしゃいます。
すると、一人のイケメンエルフが前に……いや、エルフは皆美男美女だからいちいちイケメンとつけるのも変な話か。
ともかく、エルフさんが一人で前に出てきた。
「……この度はご足労頂き、大変申し訳ございません。私、長代理の補佐をしていますイエロと申します。そして、我らがエルフ族の失態をここに謹んでお詫び申し上げます」
長代理の補佐……恐らくは、エミリーに次いで偉い人なのだと思うのだが、その方が頭を下げると共に元々下がっていたエルフ達全員の頭が更に僅かに下がったように見えた。
「はぁぁぁ……イエロ……」
大きなため息をエミリーが吐き、イエロさんの名前を呼ぶ。
その呼びかけに僅かに頭を上げてこちらの様子を窺ったようなのだが……。
「っ……!」
すぐさままた頭を下げなおした……。
一体なぜ? と思って振り向くと……ウェンディさんったら、頬を膨らませてご立腹ですよ。
え? どこにご立腹な要素があったんですかね?
きちんと礼儀正しく謝罪してらっしゃいましたけど……。
「ウェンディ様ご一行様ではなく、ご主人様ご一行様の間違いではありませんか? 主であるご主人様を差し置くなど、私に恥をかかせる気なのでしょうか?」
「っっ……! 申し訳ございませんっ!」
「はあ……ちゃんと通達しておいたのに……」
あー……エミリーはウェンディのこの反応を予想して通達はしておいたようだが、ただの人である俺と大精霊であるウェンディ、更には謝る相手もウェンディが最重要である事を考えれば分からなくもないんだが……。
というか俺、別に気にしてませんよ?
気にするどころか、気づいてすらいませんでしたけども……。
「申し訳ございません!! ウェンディ様のご主人様様! 大変ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ございませんでしたああ!」
「あ、はい。いえ、全然大丈夫です。ええ、本当に……」
イケメンエルフのイエロさんが必死に、泣きそうな眼差しをこちらに向けて謝意を示す。
あの、差し支えなければなんですが先ほどまで凛々しいお顔でTHE・エルフ! といった理知的で沈着冷静そうなクールなイメージの塊であったエルフさんであってます?
いや、もう本当にギャップが……俺が大丈夫だと言うと、ぷるぷる震えて泣きそうな眼差しのまま意味合いだけを変えて俺へと頭を何度も深々と下げていらっしゃいますが……。
「ご厚情深く! 深く感謝申し上げます……。流石はウェンディ様の主であるご主人様様!」
えっと……ご主人様様とか突っ込みたいことはあるのだけど、俺としては別の心配はあったんだよね。
ほら……ウェンディは大妖精で、見ての通りエルフがとてつもなく信奉しているじゃない?
そんなウェンディの主である俺に非難的な視線が集まるんじゃないかな? とか、何故ヒト族風情が! とかあるんじゃないかな? とは思っていたんだけど……そうでもないのは意外なんだよなあ。
「……貴方の事はきっちりと話しておいたからね。ないがしろになんかしたら、ウェンディ様の怒りだけじゃなくて他の皆の怒りも買う事になるでしょう? 隼人も怒るだろうし……そうなったら、エルフの森はこの世界の地図から消えるかもしれないもの」
「そんな訳――」
「ありえるわよ。十分に……。あると思ったからこそ伝えたんだもの……」
「……物騒だなあ」
「それだけ慕われているって事でしょう? 下手な国のお偉いさんより貴方に気を使って貰わないといけないわね。ところで催促するものでもないのだけど……謝罪への回答がないと、皆頭を下げたまま動けないのだけど……」
おっと、そうだったそうだった。
頭を下げたまま微動だにしない皆さんを放置している場合ではないよな。
「ウェンディ」
「はい、ご主人様。訂正もしていただけましたし……んん。……件の出来事については私達とエミリーさんの間で解決済みです。貴方方エルフの誠意もしかと受け取りましたので、ご安心ください。私は何も気にしておりません」
ウェンディが気にしていないと言うと緊張した空気がほんの僅かに緩んだ気がする。
いやあ、エルフ達から緊張と焦燥が伝わってくる気がしてこっちもぴりっとしていたからなあ。
「ウェンディ様と、ご主人様様、そして皆様の深きお心に感謝を……。それでは! 此度はエルフの森であるイグドラ大森林にようこそおいでくださいました。だ……ウェンディ様のご主人様様、そして大妖精であるウェンディ様がいらっしゃってくださったことを心より光栄に思います。おもてなしをご用意させていただいておりますので、時間の許す限りごゆるりとお過ごしくださいませ!」
どうやらこれで先の公爵家との件は無事に解決とみていいだろう。
さあ! エルフの森を楽しむ時間がやってきましたよ!
おもてなしも楽しみにしつつ、ゆるりと過ごさせていただこうじゃないかー!