軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14-11 イグドラ大森林 いちゃいちゃ

まだまだ馬車での移動は終わらない。

移動に数日をかけるのは疲れるし、何もすることがないというのは流石に飽きてくるものだが、誰かと一緒であれば暇な時間もまた楽しいのも旅というものだ。

「ご主人様~。はい、あ~ん」

「あーん。ん……甘いな」

「うふふ。良いチェリンが手に入りましたので。美味しいですよねチェリン。はむ」

ウェンディが二つに分かれたチェリン……つまりはさくらんぼの片方を口に入れると幸せそうな笑顔を見せる。

確かに上質で美味いさくらんぼだな。

強烈な甘さがまず訪れてその後にすっきりとした僅かな酸味が顔を出したかと思えば最後はそれらが混ざり合ったような甘酸っぱさが口に残るのが素晴らしく、種が物凄く小さいので気にならないのもありがたい。

「甘くて美味しいけど……俺行儀悪くないか?」

「休憩中ですしいいんじゃないですか? シロが見ていたら真似するとよくありませんが、雛にご飯をあげているみたいで可愛いですよ?」

今の俺はウェンディに膝枕をされながらチェリンを餌付けされている状態……。

行儀はとても悪いが、頭がウェンディの膝枕から離れられない上に、ウェンディからあーんと差し出されれば食べないわけが無いので仕方ない。

まあ、正式な食事の場でもないし、休憩中という事で見逃してもらおう。

「知ってますかご主人様。2つついたチェリンを一つずつ食べあうと、お互いを好きになるって言われているんですよ?」

「へえ。元々好きな場合はどうなるんだ?」

「それは……もっと好きになっちゃいますね」

そう言って慈しまれながら顔を撫でられたので、こっちも腕を伸ばしてウェンディの頬に手を添える。

すると、俺の手の温もりを慈しむように瞳を閉じるウェンディ。

「旅も良いですねえ……。日々のお仕事がないので、こうやってご主人様と一緒の時間が増えて幸せです」

「そうだな……ずっとこういう生活をしていきたいけど、家の事はどうしてもやらないとだもんな……」

「それも快適な生活の為ですからね」

「苦労をかけるなあ」

「苦でも労でもありませんよ? こうして、ご主人様が労ってくださいますので……」

そして自然に俺の指を口元へと引き寄せて、唇で指に触れると瞳を閉じたまま微笑んでくれる。

ああもう何この可愛い娘……。

愛おしいわぁ……。

「……あんた達、よくやるわね」

「はい?」

「ん? 何がだ?」

「自覚ないの!? ええ……それが日常って事なの?」

「そうですね。最近は機会自体があまり取れていませんが、こうして二人きりの時はスキンシップばかり取ってしまいますね」

今は荷台には俺とウェンディとレティの三人だけ。

御者にはクリスとミゼラが談笑しつつ馬を動かし、シロは幌の上、他の皆は護衛として馬車と並走してくれている。

「スキンシップ……人目も憚らず膝枕をしていちゃついてるのをスキンシップで済ますのね」

「レティさんも隼人さんになさったらきっと喜ばれると思いますよ?」

「そうだな。好きな相手にしてもらう膝枕は格別だ! 逆にするってのもありだぞ!」

されるのは当然気持ちがいいが、するのも悪くない。

太ももに触れる重さや体温が心地よく、慈しむ感情がどんどん増えていくからな!

ちょいちょい悪戯とかしたくなるんだが、し過ぎると可愛らしく頬を膨らませて怒るのもたまらなく良い!

「……私には無理よ。柄じゃないもの。いきなりそんな事したら、隼人が驚いて熱でもあるんじゃないかとか言い出すわよ」

「そこで引かなければいいんだよ。レティらしく、『ふん。別に私がしたいからするだけなんだからね。あんたは大人しくしてればいいのよ!』とか言えば大人しく膝枕されてその至福にイチコロだって」

「今の私の真似のつもり!? 全っ然似てないわよ!」

ええー……そりゃあ声質は似てないが、かなり特徴を捉えたツンデレ具合だったと思うんだけどなあ。

女の子は難しいねえ。

「勿体ないですね……この至福を知らないなんて。……したくはないのですか? 隼人さんに膝枕」

「だから……柄じゃないから……」

「それは質問の答えになっていません。したいのか、したくないのかで聞いているんです」

おお? なにやらウェンディの本気を感じる。

これはきっと女性として譲れない何かがあるのだろう。

よし。空気の読める俺は黙っておこう。

多分きっと、俺には分からない事なので、ウェンディに頭を撫でられながら黙っておこう。

「うう、凄い詰めてくるわね……そりゃ、してみたいけど……」

「ではしましょう。それだけの事です。レティさんもこの幸せを知れば、公の場でない限りしたいと思うはずです。同じ女性として、友人として、この幸せを共感して欲しいんです」

なるほどなるほど。

確かに俺としても隼人にこの幸せは味わってもらいたいと思うので、ウェンディの気持ちには激しく同意しよう。

はまるぜぇ? 超はまるぜぇ? 病みつきになっちゃうぜぇ?

「その気持ちは嬉しいけど……。簡単に言ってくれるわねえ……。その……恥ずかしいとかもあるじゃない」

「好きなお相手の喜ぶ事をする。それの何が恥ずかしいのでしょうか? それに、いつでも出来るとは限りませんよ」

んー……囚われの身になっていた二人だからこそ言葉に重みをとても感じるね。

俺もあれから抱きしめたり触れ合ったりすることに、より一層幸せを感じるようになったからな。

「それは……そうね。でも、そんなに推す程いいものかしら……?」

「勿論です! 膝枕はただ膝に頭を乗せるだけではないんです! 膝に感じる重みや温かさを感じつつ、普段見慣れない角度から見えるご主人様の幸せそうなお顔! ふと見せる癒されていらっしゃるお顔! 頭という大事な部分を任せられているという慈しさ! 愛おしさがこみあげてくるんです!」

力説です。

ウェンディが拳を握って力説するので、ころんと頭が膝から落ちてしまったのだが、すぐさまウェンディが頭をそっと乗せ直してくれた。なすがままです。

「そ、そう。そんなになのね……。した事が無いわけじゃあないんだけど……もっと色々感じ取るべきだったのね」

「そうです! 小さい事、当たり前な事にこそ大きな幸せが潜んでいるんです!」

「そう……。確かに、なんてことない事でも嬉しく思う事も多いわね……。前、隼人と街を歩いている時に馬車側の道と入れ替わってくれたんだけど、自然にされるときゅんっとしたものね……」

「それはいいですねえ……。ふとした気遣いや優しさが嬉しいんですよね……分かります!」

「ええ……。その、スキンシップについて、もう少し詳しく伺ってもいいかしら?」

「私もまだまだお話したいことがありますので、勿論構いませんよ!」

「そう。じゃあ……その……」

「ん?」

ああ、そう言う事ね。

はいはーい。了解でございます。

女子トークですもんね。

男子がいたら話しづらいこともありますもんね。

「申し訳ございませんご主人様……」

「いいよいいよ。たっぷり話しといで」

ウェンディの膝から頭を離して起き上がると、二人は馬車の端っこへと行ってしまった。

聞き耳を立てたりなどは勿論しないが……んー……疎外感。

一人になってしまったな……。

「旦那様」

「主。ちょっと止まる」

「ん? おーう。何かあったのか?」

「この先に魔物がいるみたいなの。アイナさん達からはかなり遠いみたいなんだけどね」

「ん。クリスの技を見る。主も見る?」

「クリスの技か。そうだな。せっかくだし」

クリスの技というと、確か弓を使うようになったんだっけか?

霊薬で眼を治してから調子が良く、ミィ曰く百発百中で暗闇でも射抜けるとかなんとか。

せっかくの機会だし、見せてもらえるのなら見てみよう。

……ぼっちだったしな!

「あれ? お兄さんもいらしたんですか?」

「ああ。俺も見てもいいかな?」

「構いませんけど……あまり期待しないでくださいね?」

そう言うと御者台に乗ったまま腰に下げた袋から弓と矢筒を取り出すクリス。

どうやら袋は魔法の袋だったらしく、弓はなかなかでかい長弓のようだ。

一瞬クリスがその弓を引けるのか? と思ったが、杞憂だったらしく軽々と弓を引いてみせ……って、矢が4本?

打つのは一本ずつのようだが、連射でもするのだろうか?

「……いきます」

とは言うものの、何を狙っているんだろうか?

んんー……? ん? 遠くに凄く小さく魔物らしき姿が見えるんだが……まさかアレを?

……そのまさかだった。

クリスが放った矢は放物線を描いて飛んでいき、一本たりとも外さずに魔物が塵へと還っていく。

……あれ? 魔物って確か、魔石を壊すと塵になるんだよな? という事は……今魔石を打ち抜いたのか?

え? 四体同時に!?

「良く見えないわね……どうなったの?」

「四体同時に消し飛んだ……」

「ええ!? まとめて!?」

「ん。凄い」

「ありがとうございます。無事に当たって良かったです」

「魔物は気づいてすらいなかった。真上から見事な腕前」

シロが素で褒めるって事は本当に凄いんだな……。

まあ、見ていたら分かるけど、尚凄いという事が伝わってくる。

ミゼラもびっくりして目を大きく開き、口を小さく開けてしまっているな。

「クリス……凄いのね」

「ああ……マジですごいな……」

「それもこれもお兄さんのおかげですよ。霊薬で治していただいた瞳のおかげで、魔石の位置がわかるようになったんです。それで、『 闇を見通す真眼(ブラインドトルゥース) 』というスキルも覚えたんですよ」

おお……。

そういえば瞳を治してから調子が良いとか言ってたな。

「 闇を見通す真眼(ブラインドトルゥース) のスキルを使うと、とても良く見えるんです。どう移動するのかも少しだけ分かるので、結構簡単に射抜けるんですよね」

「いやでも、弓術はクリスの努力の賜物だろう? やっぱりクリスが凄いんだよ」

「そ、そんな事は……。まだまだレティさん達には及びませんし……」

うんうん。と、ミゼラもシロも頷いて同意するとクリスは照れてしまったのか弓と手で顔を隠しながら顔を逸らしてしまった。

「ん。いくら目が良くても当たらなければ意味がない。良い腕をしてる」

「……シロさんに褒められると自信になりますね。お兄さんも、ありがとうございます!」

「これはもう……俺は敵わないなあ……」

いや、当初からレベル差はあったのだけどもね。

か弱い系守られ女子に見えたクリスが立派になって……お兄さん涙が出ちゃう。

「……これからはさん付けで呼びなさいよ」

「ん? レティ? 話し合い終わったのか?」

「え……ええまあ……」

俺を茶化しに来たはずのレティが俺が問いかけると顔を急速に赤くし始めたんだが……一体何を話したんだウェンディ?

笑顔で誤魔化したって駄目だぞ? どこまで話したんですかね!?

「レティさん? 顔真っ赤ですけど……」

「大丈夫。大丈夫よ……クリス。でも後で話があるわ。私一人じゃ無理……二人でも恥ずかしいけど、一人よりはましだから……」

「そうですね。二人でなら……隼人さんもきっともっとお喜びになられると思いますよ。私もまたミゼラと――」

「分かったから……。もう言わなくていいから……。聞いた私が悪かったわよ! ああもう、膝枕くらいそりゃスキンシップよね! それくらいならいくらでも出来るようになりそうね……っ!」

「えっと……良く分からないですけど、分かりました。隼人様がお喜びになるのでしたら、私頑張ります!」

……この後の夕食時。

クリスは夕食を作る前にレティから何を聞いたのか、珍しく料理を焦がすなどして失敗してしまったようなんだが……なんで俺やウェンディ、ミゼラ達を見て顔を赤くしたんだろうか……。

なんでミゼラに『ミゼラ……私なんかよりもずっと凄いです……』と言っていたんだ? ミゼラも良く分からないって顔をしていたぞ?

皆も不思議がっているんだが、ウェンディは相変わらず一人笑顔であり、どこか上機嫌のように見えるのであった……。