作品タイトル不明
14-6 イグドラ大森林 オリゴールの本気
……怪しい。
目の前にいるのは本当に俺が知っているオリゴールなのだろうか?
「ソーマ。この予算案は誰から? メイラちゃん? 本当に? 多分これ、メイラちゃん仕事が忙しすぎてチェック漏れしたやつだと思うから突き返して」
今日はオリゴールに呼び出されたので、アマツクニ土産を渡すついでと来てみたら……あまりにも驚きの光景すぎて目を疑ってしまっている。
「ウォーカス。これとこれとこれとこれは全部ダーマ君に渡してね。あと、アイリスに早く予算書だせって言っておいて。お兄ちゃんへのアイス投資計画とか意味不明な項目を書くなって厳重注意付きでね」
何やってんだアイリスと思うよりも先に、オリゴールが……あのオリゴールがバリバリ仕事をしていらっしゃる……。
あまりに驚きの光景過ぎてソーマさんとかポカーンとしてるよ。
ウォーカスさんが受け取った書類を床に落としているよ!
「ごめんねお兄ちゃん。こっちが呼んだのにお待たせしちゃって。ボクの仕事はもう少しで終わるから大人しく待っててね。これが終わったらご飯に行こうね」
「お、おう……お構いなく……」
もう少しで終わる……?
え、まだ陽が落ち切っていないぞ?
夜の闇ではなく、夕焼け小焼けの時間帯だぞ?
「オ、オリゴール様? はっ! もしやお熱が!」
「ないよ。いいから仕事してソーマ。ウォーカスもぼーっとしない」
「はうぇええ!?」
「はわわわ……はわわわ……」
オリゴールから仕事をしてくれと言われたことで素っ頓狂な声をあげるソーマさんと、幼児化してしまったのか、はわはわ言ってるウォーカスさんの気持ちはよく分かるぞ。
よく分かるから、ウォーカスさんに引いたりなどはしないぞ。
「はあ……くそう肩凝るなあ……。お兄ちゃん。悪いんだけど、後で温泉に連れてってくれないかい?」
「お、おう……」
お、温泉な。
おおお、オッケー!
動揺しているけど任せとけ!
「ありがとうお兄ちゃん。よし……それじゃあラストスパートだ。集中してやるぞー」
オリゴールが仕事に集中……うん。良い事……だよな?
じゃ、じゃあ静かにして待ってます。
ソーマさんとウォーカスさんは渡された書類を持って部屋を出て行ったんだが……ふらふらしてたけど大丈夫か?
オリゴールが仕事を真面目にしているのに衝撃を受けたんだろうけど、本来は実に喜ばしいことなんじゃないのだろうか?
あと、部屋から出る際に『貴方のせいですか?』といった視線を向けてきたが、俺じゃないと思う……よ?
「よ……し…………これで…………終わりっ! やったー!!」
『よ』から五枚くらいあった書類を驚きの速さで目を動かして終わらせたオリゴールが、両手を広げて喜びを表している。
終わった……のか。
来た時は対面からオリゴールの顔が見えない程積みあがっていた書類の山が全部……?
え……オリゴール……だよな?
実は双子で性格は真面目で勤勉な妹とか言われたら俺信じちゃうよ?
「お、お疲れ様。大丈夫か?」
「んー? なにこれ? 温かいタオル? おお……目の上に乗せるんだ? ああー……じんわりするぅ……」
タオルを温かめのお湯で濡らして絞って乗せた簡易ホットアイマスクです。
肩凝りは目の疲れからも来るんですよ。
ついでに肩も軽くほぐしておくか。
「ああー……お兄ちゃぁん……おおぅ……そこそこ……」
「肩凝ってんなぁ……」
「あふん……ああー……そりゃあ、毎日机仕事だからねぇ……肩も凝るよぉ……じゃなくて!」
「ん?」
「そうじゃないよ。食事だよ食事。ご飯に行くんだよ!」
「あー……そういえばそんな事言ってたな」
「お兄ちゃんが来るから予約しておいたんだよ。それじゃあ、ちょっと着替えてくるから待っててね」
「お、おう……」
着替え……?
今着ているいつもの服でいいんじゃないのか?
俺があの服以外で見たオリゴールの恰好と言えば、ローライズの下着と布を張ったもの……。
はっ! まさか、あの格好で突撃してくる気だな!
今は二人……ソーマさんとウォーカスさんを混乱に導き、この状況を作り上げたという訳だ!
つまり……あの扉が開いたらオリゴールが突っ込んでくる!
「ふう……それじゃあお兄ちゃん……お兄ちゃん? 何してるの?」
「え? あ……ええ?」
ドレ……ス?
煌びやかという訳ではないが、ちょっと良い所でお食事をといった際にぴったりなドレス姿のオリゴールが、扉を勢いよく開けもせずお淑やかにやってきたんだが……。
露出は肩が出てはいるが、過度なものではなくこの上なく上品で大人っぽいドレスを着たオリゴール? が俺が構えていた姿勢に首を傾げていらっしゃる!
「ふふ。変なの。それで……どうかな? 似合ってるかな?」
「ああ……うん。凄い似合ってます……」
「ありがと。嬉しいよ。それじゃあ行こうか」
「お……おう……」
手を差し伸べられたので手を出し返したのだが、そうじゃないと腕を取り、組もうとしたものの身長差で組めずに大人しく手をつなぐオリゴール?
そしてそのまま俺もソーマさんやウォーカスさんと同じように混乱状態でオリゴール? が予約したお店へと到着し、ドリンクをオリゴール? が頼むのをぼーっと見ていただけになってしまった。
「ん? なに? お兄ちゃん。ボクの顔に何かついてる?」
「目と鼻と口……?」
「ついてなかったら困るんだけど……。もう。お兄ちゃんはいつも変だけど、今日は一段と変だねえ」
いや待て変なのはお前というか……まともなお前が変というか?
え? 今更だけど本当にオリゴールだよな?
いや、そもそも代表の仕事をしていた時点で本物なのは間違いないのか……?
「お待たせいたしました。こちらセキヘキエビとグリーントンガのオイスチャーソース炒めでございます」
「お、来た来た。美味しそうだね! 早速食べようか」
「お、おう……」
大きい海老だよ!
グリーントンガは緑色の唐辛子で、オイスチャーって多分牡蠣だよね?
海老も牡蠣も大好物だが、頭の使用率はオリゴールに占められているので感動が薄い!
普段は結っている髪を降ろしているせいで髪が料理に触れぬようにしながら一口大にカットした海老を小さな口で食べるオリゴール。
唇に僅かに付いたソースをちろっと舐める等、妙に色っぽくて大人のそれだ!
べろんって唇を舐めたりしていない!
「ふふ。美味しいね」
「ああ……」
すっごく美味しいんだけどね! いや、もうびっくりするくらい美味しいんだけど、それよりもオリゴールの一挙手一投足から目を離せない!
なんというか……見た目に反して年相応というか、いや年相応というよりは年上の雰囲気というか……。
普段とあまりに違うギャップに戸惑いは大きいのだが、不覚にも若干その雰囲気にドキドキしてしまっている俺がいる……。
「お兄ちゃん知ってる? セキヘキエビって共和国産なんだよ? 温度管理が難しくて、冷凍時間が長いと味が落ちちゃうの。でも、アインズヘイルから共和国に向けて街道が延びているからね。輸送時間が短くなったおかげでこんなに美味しくいただけると言う訳さ」
「おお……。じゃあ、オリゴールのおかげって事だな」
「街道の整備を進めたのはボクだけど、領民……今は国民か。国民の皆が協力してくれたから出来た事だから、ボクだけの手柄じゃないよ」
謙虚……っ!
普段であれば『当然その通りさ! ボクのおかげで美味しい海老が食べられる! それ以外にも沢山美味しいものが手に入るのさー! 食に妥協しないと聞くお兄ちゃんはもっとボクに感謝して! いっぱい敬って! その後宿に連れこんで!』とか言いそうなのに言わない!
「そう言う事が言いたかった訳じゃなくてね。ここは共和国の人が経営するお店なんだよ。新しくオープンしたばかりで、予約を取るのも大変なんだけど、今日はお兄ちゃんと来れて良かったよ」
共和国……確かギゴショク共和国だったかな?
名前から推測すると、アマツクニが和国だったように中華系なのだろうか?
海老……オイスター……なんとなくそう感じるのだが、今はオリゴールが向ける笑顔にドキッとした方を優先したい。
普段の快活な笑顔も良いと思うが、なんか今日は色っぽくて素直に可愛いなと思えてしまう。
「……こうして、色んな国の色んな文化や料理がこの国に集まるのはいいよね。わざわざ現地にまで行かなくて済むし。勿論、各国の商人達にもメリットはあるから、この国を中心に同盟国ももっと文化や技術が成長していくだろうね」
「……オリゴールの夢だったんだよな」
「うん! 平和で差別のない多種多様な人が行き来する活気のある国。勿論小さな諍いは増えるだろうけど、それでも皆が笑って暮らせる国を作りたかったんだ」
「じゃあ夢が叶ったって訳だ」
「ううん、まだまだだよ。むしろ始まったばかりだね。忙しい毎日だけど……皆の笑顔の為なら頑張れる。……まあ、たまにはお外に駆け出したりもするけど、街の様子を見るのも必要な事だからね」
お前はいっつも街の様子を見ているように思えるが……今のを聞くとお前が街を歩くのは街の人達の笑顔を見てやる気を貰っていたからなんだろうなと思えるよ。
なんというか、やっぱり人として、お前を尊敬できる。
それと……今は少しだけ抱きしめたい衝動に駆られてしまっている自分がいる。
「……でも、大一番は終わったからね。だからこうして、好きな人と幸せな時間を過ごせるようになったという訳さ」
「っ……。好きとか、ナチュラルに言うなよな……」
以前、ロウカクから帰って来た時の事を思いだしてしまう。
熱く……好意を伝えてくれたあの日の事が頭の中を駆け巡ってしまってつい照れが出てしまった。
「……ふふふ。照れてるお兄ちゃんは可愛いなあ。お兄ちゃんはやっぱり正攻法に弱いんだねえ」
「はあ……お前なあ」
そう言う事か……。
ここまでの真面目モードは俺へのアプローチだったという事だろう。
ああー……まんまとだよ。
ソーマさん、ウォーカスさん。どうやら俺のせいだったようです。
「真面目モードは疲れるんだけどねえ……。お兄ちゃんがボクにドキドキしているのを感じられてとても嬉しいよ」
「……してないし」
「年下らしい可愛い照れ隠しだね。なんなら、胸に手を当てて確かめてあげようか? この後は……温泉に連れて行ってくれるんだろう?」
「……ああ、連れてってやるよ。でもその前に、腹ごしらえが先だな」
「楽しみだなあ。ちなみに……共和国の料理は精が付くものが多いんだぜー? お兄ちゃんたら我慢できなくなっちゃって、ボク壊れちゃうかも! なーんて」
それは……ああ、分かったよ。
お前の気持ちは前にも聞いたし、改めて今も聞いたもんな。
身長がどうだとかは関係ない。
シロともいつか……と考えれば当然だろう。
年齢は関係あるけどな。
今日のオリゴールは本当に可愛かった。
そして、これだけ思われていて俺も良いと思っているのに応えないのは違うよな。
「……そうだな。精が付くものなんて食べたら大変な事になっちゃうかもな」
「お……? それって……えっと……つまりは、いいって……事?」
何で驚いてるんだよ……。
お前から誘ってきたんだろう?
「そ、そういう事でいいんだよね……? ね?」
「……聞くなよ。まあ、そう言う事だ」
聞かれると……照れてしまうからもう聞くなよ。
多分……あれだけストレートに想いをぶつけられた時から気持ちは出来ていたのかもな。
あの時のオリゴールには、本当にドキドキさせられてしまったからな……多分どうせ、いつか俺は堕とされると思うしなぁ。
「ふおおお……遂に? 遂になのか!? やったぜえええ! 遂にお兄ちゃんを篭絡してしまったぜー!」
いや篭絡って……。
別に篭絡はされていませんけど?
あとお前普段通りに戻ってるぞー……。
それと、お店の中で叫ぶのはやめようね?
あれって国の代表じゃ……って、ひそひそされてるからね?
「よっしゃああ! それじゃあ焼き、茹で、生、揚げオイスチャー四種盛りも頼んじゃおうか!」
「牡蠣って……露骨だなあ」
「そりゃあそうさ! 待ちに待ったんだから当然さ! 勿論温泉は温泉で楽しませてもらうけどね!」
「ああ。また疲れたら呼んでくれれば温泉に連れて行くよ」
「おお! つまりはアレだね? お仕事の報酬はお兄ちゃんという訳だ! こいつは……じゅるり。頑張っちゃうぞー! うへへ!」
「おーい。戻ってるぞー……」
「おっと! つい嬉しくてね! ここでお預けはあまりにあんまりだから辛抱するんだボク! あと少し真面目モードをキープするんだボクー! ああ、でも……うへへ……これからお兄ちゃんと……ネチョイ事をいっぱい……くぅぅぅぅ! じゅるる」
その拭き取った涎は、きっと今出されたスッポーンのスープに対してじゃないんだろうなあ……。
そしてこれまた精力が付きそうなものを……本当、知らないからな?
そして、温泉に行く頃にはすっかり普段のオリゴールに戻っているんだろうな。
……まあ、騒がしいオリゴールも好きなので構わないと言えば構わないんだが。
「よーし! そうと決まれば早く食べよう! 早く食べて早く温泉に行くんだ! ふふふ! さっきまでも美味しかったけど、さっきより美味しくなった気がするよ!」
楽しそうに笑い、美味しそうに食事をとるオリゴール。
興奮は収まらないようで、お淑やかな食事とはいかなくなったがそれでも今日のオリゴールは魅力的だったと微笑みを返して俺も食事をとるのだった。
うん。改めて、ここの料理は美味いな。
「この後滅茶苦茶ネチョイ事したっ!」
「だから店で叫ぶなっての!」
すみませんすみません。
こんな高級なお店で変な事叫んでごめんなさい!
ネチョイの意味がわからない? わからなくていいと思います!