作品タイトル不明
13-24 和国アマツクニ お忘れですか!?
ああ……心地よい……まるで雲に乗って宙に浮いているかのようだ……。
最高級のモフモフベッドに乗ったまま宙に浮いており、このまま天にまで昇って……って、危ない危ない。
思考まで蕩けて昇天しかけてしまった。
ところで、この天国はどこだろう? とても眩しくて目を開けられないのだが……。
「ん。終わった?」
「はぁ……ええ……終わりましたよ……」
「おお……ククリ、凄い綺麗」
「それは……はい。本当にありがたく嬉しく思っているのですが……」
「耐えられた?」
「無理です……。あんなの不可能です……。魔族の集団に都を攻められた時の方がずっと楽です……。なんなんですかこの方は……」
「ん。流石主。獣人無双」
シロが部屋に入って来たのだと思うのだが、姿が見えない。
眩しい上に、物理的に視界が遮られているような気がするのだが、心地よ過ぎて動く気がしないのでまだいいかと横になる……。もふもふ……。
「で、何してるの?」
「これはえっと……皆が感謝の気持ちを込めて抱きしめてます……」
「……取り込んだりしないよね?」
「あうあう……どんな怪物だと思ってるんですか……。大丈夫ですよ。危害を加える事は万が一にもありません。皆尻尾の出来に満足したようで、想いが溢れすぎてこぞって抱きしめた結果繭のようになってますがね……」
ああ、なるほど。そういう状態だったのか。
つまりこの眩しさは尻尾の眩しさで、天にも昇る気持ちよさは尻尾のもふっぷりに取り囲まれているという貴重な体験をしているという訳か……。
……よし、せっかくだしもう少しこのままでいようかな!
「なに? 終わったの? わあ……本当に美しいわね。元々綺麗だったけど、主様の力で更に輝きが増してるわ……」
「あー……これは神秘的っす……憧れるっすねえ……。でもなんで丸っこくなってるんすかね……?」
獣人であるソルテとレンゲの二人も感嘆の言葉を流すほどの出来……うむ。頑張った甲斐があったな。
俺は眩しくて目を開けられないんだけどもね!
「ククリ様……素晴らしいです! まさしく神の如き神々しさです……っ! 是非これからの式典の前にお頼みしましょう!」
おお、タチバナさんも大絶賛のようだ。
先ほどはかなり心配していたようだが、何もないと分かった上にこの出来であれば文句も無いだろう。
それにしても、式典の前にグルーミング……か。
確かにこの美しさであれば、式典などで顔を出すだけでも改めてククリ様の守護神としての格が上がり、国民から今よりももっと崇め奉られそうだな。
「む、無理です! 式典のたびになど絶対に無理です!」
「ええ……そんな、勿体ない……せめて最重要の式典時だけでも……?」
「そ、それなら……で、でもでもまずは主さんに確かめませんと……」
「望むところです!!」
またあの幸せな時間を味わえるとな?
そんなのこちらからお願いしますとも!
となれば今のままではいけないな。
その日の時の為に腕を鍛え、さらには櫛もレベルアップを図るために親方の元へと通わねばなかろう。
これは腕が鳴るぜ!
「あうあう……お受けしていただくのはありがたいですが、やる気に満ち溢れているようです……。アレを知ってしまった今、怖さがより際立ちます……」
「アレですか……。うう、気になりますぅ。お館様のアレ……。どう見ても何かあったじゃないですか! 私が獣人じゃないのが恨めしいです……っ」
「ああ。わかるぞシオン。私も何度尻尾が生えないかと悩んだものだ……」
「アイナさん……では何か二人で考えましょう! 尻尾に代わるお館様を夢中にさせる何かを!」
がしっと固い握手を固めていそうな二人だが、尻尾に代わるってのはなかなか難しいと思うよ?
もう尻尾って言うのは存在自体がずるいものだからね。
「っと……そろそろ戻るか」
俺がそう言うと優しく床におろしてくれる尻尾達。
視界が眩しさから解き放たれて徐々に戻っていくなか、改めてククリ様の背後に広がる八本の尻尾の出来栄えに満足して大きく頷くが……。
「ちょいと失礼」
「ひょ!? あ、ちょっと……ふわぁぁぁん!」
俺を抱きしめた事により若干僅かに尻尾が乱れてしまっている……うん。よし、これで完璧だ!
「あうあう……主さん……いきなりはやめてくださいぃぃ……」
「ごめんなさい。少し気になってしまって……」
「あうあう……いいですけどぉ……」
ん? ああ、よしよし。あれだぞ? せっかくまた綺麗にしたんだから、今度は抱きしめちゃだめだぞ?
いや、抱きしめられるのは俺としては一向にかまわないんだが、多分無限ループになるからな。
「んん……こほん。それでは、改めましてありがとうございました」
「いえいえ。こちらも楽しかったです」
とても! 楽しかったです!!
「楽しかったでしょうね……。楽しそうでしたもんね……。まったくもう……。では、また……式典の際はよろしくお願いします。今度は耐えられるよう、鍛えておきますので」
「では、もっと腕を上げておくことにします」
「い、いえ……これ以上は上げなくても良いと思いますよ……? 出来れば手加減していただきたいのですが……」
いやいや、そういう訳にもいかないですって。
八尾達を相手にするのに手加減なんて出来ませんし、まだまだ精進が必要です。もっと高みがきっとあるはずなんです。
だから、お互い頑張りましょうね!
「それじゃあ、そろそろおいとましますか。本当にお世話になりました」
「ん。ククリ。また遊びに来る」
「はい。お待ちしております。皆様も、またアマツクニに遊びに来てください。歓迎いたします」
「ええ。皆様、またのお越しをお待ちしております」
アマツクニ……やはり良い街だったな。
トラブルには巻き込まれたが、獣人体験もできるという良いトラブルであったしな。
今度はミゼラを連れてまた来よう。
この国で一番のククリ様とお知り合いになったと話したら、きっと驚くだろうな。
こうして、俺達は城を出てアマツクニからミゼラの待つアインズヘイルへと帰るのであっ――。
「ちょいちょおおおおおおおおおい! 何か忘れてません? 大事な大事な用事をお一つ忘れていませんかお館様ぁぁぁああ!」
「うるさっ……なんだよいきなり……」
アマツクニの良い思い出を振り返りながらさあ帰るぞって流れでなんで耳元で叫びますかこの子は。
耳キーンってしてますよ。
「なんだよじゃないですよ! アマツクニに来た一番の目的! お忘れですか!?」
「一番の……? 尻尾?」
「尻尾はもういい! 私の買い物! お金の使い道ぃぃいいい!!」
シオンの買い物………………ああ、そういえば武器を買うって言ってたな。
うんうん。忘れてないぞ。ちゃんと覚えてる覚えてる。
「もう買ったんだとばかり思ってた」
「そんな訳ないじゃないですか! え? シオンちゃんずっとお館様と一緒にいましたよね?」
「そうなの?」
「そうだよ!? 甲斐甲斐しくお館様の周辺をお守りしてましたよ!」
櫛作りをしていた時などは集中していたから、ところどころ明確には覚えてないんだよな……。
まあでも確かに、ゴウキ殿の所に行く際も一緒にいてくれたな。
「悪かった悪かった。そうなんだ。それじゃあ、シオンの武器を買いに行こうか」
「ノリが軽い! もっと謝って! シオンちゃんに愛情をもって大事にして! ときめくほどに抱きしめて!!」
という事で、シオン待望の武器を買いに武具屋に来た訳なんだが……武具ならゴウキ殿の所で買えば良かったんじゃ? とも思ったのだが、訪れたのは大通りから大きく離れた町のはずれにある小さなお店。
『鑑定スキルお断り。自分の目を信じられぬ者に売る武具はない』
との注意書きが。
頑固おやじが不愛想に接客をする職人こだわりの店という奴だろうか?
余程のこだわりと自信があるのかな?
そういえば、俺もずっとマナイーターと陰陽刀-陰-だけを使い続けているが、もし良さそうな武器があれば試してみるのも悪くないかもな。
「え……? おお……」
中に入ってみると外観からは考えられない程に清潔感があり、武器の一つ一つがショーケースに入れられて飾られているという何とも武具屋のイメージとは違ったものだった。
普通はこう……何本かはケースなどに入れられず壁に立てかけられていたり、樽の中に適当に安い武器を入れられていたり、そういう武骨な武具屋を想像していたんだがな……。
武具屋……というか、武具の展覧会に近い気がする。
「ほう……溶魔岩の剣とはまた珍しい」
「ちょっと、こっちにあるのって狼燕の槍よ? ダンジョン下層の物凄く素早くて狩りにくい狼燕から稀に手に入るっていう……初めて見たわ」
「珍しい武器が多いっすねえ……。知らない武器も結構あるっすよ」
「知る人ぞ知る穴場って奴です! 見ての通り触れられはしませんが、かなりレアものや掘り出し物が沢山あるんですよー! ただし、偽物もありますがね!」
ええ……偽物もあるの?
あ、だから鑑定禁止って事?
でも鑑定なんて使ったかどうかわかるものなのか?
あるのかどうかはわからないが、鑑定に反応する結界……とかか?
まあルールに従って使いはしないけど、ここで買うのはちょっと怖いな……。
「まあ偽物と言っても完全な外れではなくそれなりの性能ですがね」
「でも偽物なんだろう?」
「ええまあ。でも、物は本当に悪くないですよ。十分実戦的なものばかりですし、作ったのはここの店主であるヤオヨロズ機関の副局長ですからね!」
ヤオヨロズ機関って、確か武具や魔道具の研究機関だったっけ?
それなりに大きな組織だと思われるのだが、そこの副局長のお店……。
それだけ聞くと信用できるお店のように思えるのだが、何故偽物まで……。
「おい……。一応それ機密事項だぞ……」
「おや副局長。お久しぶりです!」
突然現れた男性は落ち着いていて低く重厚な声で話す渋いおじさんで、どことなくダーウィンと同じような気配を感じつつ、気品はこの人のが上かなと……で、この人が……副局長?
「他に客いねえからいいけど、ダイコクと呼べよ。久しぶりだなキュウテイ。元気していたみたいだな」
「勿論元気でしたとも!」
キュウテイ……ああ、ヤオヨロズでのシオンの呼び方か。
あれ? という事はこの人はシオンの上司という事になるのか一応。
「あ、そうだ。私の名前ですが、これからはシオンでお願いします」
「シオンって、シノビ名じゃ……ああ、根無し草が主を定めたのか。という事は……」
「ええ勿論! 貴方の出した無理難題を集めてきましたよ!」
「……そうか。まあ、好きにしな」
「ええ! という事で、お館様も行きましょうー!」
なにやらシオンに腕を引かれて店の奥の方に連れて行かれると、そこには一際頑丈な透明なケースに入れられた見事な刀が……あれ? 片方見覚えがあるような……。
あれって……。
「ふっふっふー! お館様見てください! これが私がずっと欲しかった刀! 世界に二つとない一点もの! 陰陽刀の二振りです!」
……ああ、やっぱり陰陽刀だよな?
二振りあるってことは、俺が見た事が無い方はもしかして陰陽刀-陽-とかって名前だったりするんだろうか?
そしてこっちは……陰陽刀-陰-……?
いや、でも世界に二つとないって言っていたような気がするんだが……んん?