作品タイトル不明
13-8 和国アマツクニ シュバルドベルツ帝国にて
シュバルドベルツ帝国、帝都リュベクへと日が暮れる前に到着したのだが……。
「よく来たな好敵手よ。残念ながら姉上はおらぬ! やーいやーい!」
と、帝都へ入るやいなや帝国兵達に城へと丁重に連れて来られたのだが、何か緊急の用でもあるのかと思ったら煽られただけである。
なんだこいつ。
「はーはっは! 残念だったな! 姉上はアインズヘイルで出会ったロウカクの女王コレンと親交を深めに行っているのだ!」
「へえ、コレンと。まあ、争うよりはいいよな」
知り合い同士が戦争……なんて、ごめんだからな。
国同士仲良くなるのは俺としても良い事だ。
「ロウカクと争う訳があるかたわけが! 一国家が龍種と仲が良いなど何のいじめだ! 女王が龍種の頭に乗っていたのだぞ……? しかも原因は貴様にあるそうだな! 余計な事をしおって! 風龍でも火龍でも水龍でも何でも構わんから帝国にも頼む!」
「出来ねえよ……」
「はっ。使えぬ男だな。まあ良い。ああそうだ。姉上から、姉上が留守の際に貴様が来たら家を使って良いと言われている故、今日は姉上の屋敷に泊まると良いぞ」
おお、それは助かるな。
まあ、帝都についてすぐに呼ばれたから宿の予約も出来ていなかったので、それくらいのお世話は頼もうと思っていたのだが。
もしかして、それを伝える為だけに呼び出した……のか?
「まったく……。余は姉上の家に入れぬというのになぜ貴様が……」
それは……シシリアがいない間にお前が何かしそうだからじゃないかな?
シスコン皇帝……いや、おっぱい信者なだけだったか。
「そういえば、何故帝国に来たのだ? 建国したばかりでアインズヘイルはまだ落ち着いてはおらぬだろう?」
「そうだな。まだまだ慌ただしい状況だよ」
「であれば尚更だ。商人も増え、錬金術師としては稼ぎ時でもあろう。まさかとは思うが……本当に姉上に会いに来ただけという事はあるまいな」
「残念だけど、アマツクニに用があるんだよ」
「ほう。アマツクニか。なるほど。流れ人は皆アマツクニに一度は立ち寄ると聞く。そして、位置的にここを通るということか」
「まあ、近くを通るのに挨拶しないのもなって思ってたからガルシアに呼ばれるまでもなく、一応挨拶はしようと思ってたぞ」
まあ、ガルシアは基本忙しいだろうから会えたら程度であり、本命はシシリアだったけど……これは言う必要はないだろう。
「ふむ。そうかそうか。それは感心である」
何故か少し嬉しそうだ。
ちょろいぞこの皇帝。
だが、男が照れても俺は全く嬉しくはないけどな。
「……で、だ。余の気のせいでなければなのだが……一人見知らぬ顔が増えておらぬか?」
「あー……うん。その、はい。増えました」
まあ、気づくよね。
人数的には今はミゼラがいないから同じだけど気づくよね。
若干シオンはおっぱいではなくぱいだから気づかないんじゃないかと思ったけど、やっぱり気づくよね。
「シオン」
「はーい! 初めまして皇帝陛下! 私、新たにお館様の奴隷となりましたシオンです! 以後お見知りおきを!」
一応ここ皇帝の御前だからね?
まあ、人を見て問題ないと踏んだからこそ、そんな軽めの挨拶を選んだんだろうけどさ。
「ふむ……。む……貴様、どこかで見た覚えがあるな」
「あー帝国でもお仕事はしていましたからね。もしかしたらお見掛けになられたこともあるかもしれませんね」
「そうか。余がおっぱい以外の女を覚えているという事は、遠目に見ても有能だったのだろう。一応聞いておくが、帝国で働く気は――」
「ありませーん」
「ふんっ。だろうな。であるなら余の好敵手に仕え、守ってやってくれ。一般庶民に護衛が多数いるなど大層な事ではあるが、まだ足りぬ。この男は阿呆だと余は思っているのでな」
「いきなり酷い」
「阿呆であろう……。英雄たる隼人と戦う錬金術師など誰に聞いても阿呆だと言うに決まっている」
「あー……確かにそうですね。私もそう思います」
確かにじゃないぞシオン。
俺だって無茶はしないって。
ただ、必要に駆られた場合はその限りではないだけである。
人ってそんなもんだと思うんだよ。
「余が認めた数少ない好敵手なのだ。つまらぬことで死ぬでないぞ」
「大丈夫だよ。そんな無茶しなきゃいけない状況なんてしょっちゅう起こるもんでもないさ」
「……貴様が言うと信用ならん」
そんな事言われても……。
いや、後ろで皆うんうんじゃないんだよ?
でもほら、最近鍛えてるからと言って調子に乗って無茶をするとかじゃあないのは褒めてもいいと思うの。
謙虚に生きてる方だと思うのさ。
だからその……うん。いや、はい。ごめんなさいでした!
※※※
シシリア邸で一泊させてもらい、せっかく帝国に来たので知り合いには顔を出しに行こうかと冒険者ギルドへ。
「あらー! お兄さんじゃない!」
「あら……いらっしゃい……」
「おお、ミルクとココア久しぶり。……で、ココアはどうしたんだ? なんか元気がなくないか?」
帝国の冒険者といえば、『 愛の蜜(ラブリーシュガー) 』のミルクとココア。
筋骨隆々の可愛らしいマッチョメン。
前回同様ビキニ? 大胸筋矯正サポーター? と、ミニスカート姿な訳だが、どういう訳かココアは椅子に座りコップの中身をかき混ぜながらため息をついていて元気がないように見える。
「あら。心配しなくても大丈夫よ。ちょっとこの前のアインズヘイルで……ね」
「え、来てくれてたのか? 話しかけてくれれば良かったのに」
というか、二人がいたら絶対気付くと思うんだが……いたのか?
「いやー……だって、何よアレ。大物が多すぎじゃない。流石にただの冒険者じゃあ気後れしちゃうわよ」
あー……言われてみれば、ガルシアにコレン、シシリアにアイリスと各国のトップレベルや貴族の人達が集まってたもんな。
この世界の常識で考えれば、畏れ多いという奴なのかもしれないな。
「それに……」
「はぁぁぁ……隼人様……格好良かったわ……。本当に素敵……貴方と話してた時の隼人様……凄く母性をくすぐられた……」
「ずっとこの調子なのよ……。隼人様と初めて間近でお会いできたんだから、挨拶くらいしなさいよって言ったのにね……。私は隙を見てガルシア様とは会話したけどね……素敵だったわ……」
あー……そう言えばミルクは金髪好きでガルシアを推していて、ココアは黒髪好きで隼人と真を推してたんだったな。
「だって……無理よアレは。貴方と隼人様の二人で完成していたのだもの……。あそこには入れない……」
あー……二人で話していた時か。
完成ってなんだ……?
「ふう……まあ、諦めるのも良いとは思うけどね」
「ええ……隼人様の素晴らしさに改めて気づけたと同時に、立ち入れない領域なのだと理解したわ……。彼は理想であって現実ではなかったのよ……。ああ、でも失恋は辛いわ……」
「って、感じで諦めもつかずにダラダラしてるわけよ」
「ちょっとぉ! ダラダラなんてやめてよね! 今の私の深く悲しみに満ちた乙女心がわかるでしょう?」
「わかるけど、わからないわね。私なら次の愛に全力で行くもの」
「あんたみたいに移り変わりの激しい愛じゃないのよ!」
「あら? 私は無駄な時間を過ごしたくないだけよ?」
「私は浅くないの。深い愛が欲しいのよ!」
「浅いですって……?」
おおおお……やばい気がする。
二人が立ち上がって近づいていき、怒気を隠そうともせずに睨みあっている。
そして、そんな二人の間にいてしまい、押しつぶされそうな俺。
抜けだそうと思ったのだが、最早濃密な筋肉に挟まれて抜け出せない!
「ん……二人ともストップ」
「そうっすよ! いったん離れるっす!」
「止めないでシロちゃんレンゲちゃん」
「そうよ。譲れないものってのが、乙女にはあるのよ」
「それはわかるわね……。じゃなくて! 主様がつぶれちゃう!」
「くっ……」
ぎええ……ぐるじいです……。
何か技をかけられているのではないかと思うほどに、全く身動きが出来ない!
初動でミスをしたせいか、腹筋と腹筋の間にがっちり挟まれてしまっているのだ。
なんとかアイナが二人を離れさせようと腕を突っ込んでくれたのだが、流石に片手同士じゃあ動かせないようだ。
「あら!」
「気づかなかったわ……ごめんなさい。貴方は隼人様を幸せにする使命があるというのに……」
はあ……はあ……死ぬかと思った……そんな使命はないっ! あいつはあいつで勝手に幸せになって行くさ多分絶対! って、言える余裕もない……。
二つのガチガチの腹筋が離れた事による解放感の何たることか!
「はあ……まあそうね。ミルクの言う通り、次の恋に生きるわ」
「そうよ。そして、あんたにはもう一人いるじゃない」
「はっ……真きゅん」
「ええ……真ちゃんは今は王国にいるらしいわよ。そうとなれば……行っちゃう? 王国?」
「ミルク……いいの? この国にはあんたの愛するガルシア様が……」
「いいわよ。ガルシア様は逃げないわ。相棒の愛のために、距離を置くことも必要だもの。それに、改めて国になったアインズヘイルの街も見てみたいしね」
「ミルク……。ありがとう。待っててね真きゅん……今、会いに行くからぁぁぁああ!」
多分きっと、真は背筋がぞくっと震えた事だろう。
それがどうか魔物と戦っている最中でない事を願うばかりである。
「それじゃあ皆! また今度……」
「ああ。アインズヘイルの冒険者ギルドで何かあったら我々の名前を出してくれれば何とかなるだろう」
「アインズヘイルの冒険者ギルドなら俺もたまに立ち寄るがこれからアマツクニに行くからな……。ミゼラが残っているから、もし会ったらよろしくな」
「ええ! ……貴方も良い男なのよね……。でも……」
ココアからの熱い視線を受け取りそうになったが、瞬時に皆が壁になってくれて防いでくれたようだ。
「壁が厚いわね……。それじゃあ皆、またね!」
こうして、ミルクとココア『 愛の蜜(ラブリーシュガー) 』の二人は王国へと旅立っていった。
その日の夜、冒険者ギルドでは歓喜の宴が一部で行われたそうだが、帝都のAランク冒険者が一組いなくなったというのは同じ冒険者にとって大打撃だったらしく、泣きを見る羽目になるのだった。