作品タイトル不明
13-6 和国アマツクニ お留守番(願望)
カチャカチャと陶器の音だけが錬金室に響く。
集中しているミゼラがポーションを作っているので、俺は邪魔しないように後ろからそっと見守っていた。
「……ふう。完成」
「……今回は10本中5本か。うん。上々だな」
「はあ、疲れた……。まだまだ安定はしないけれどね。でも、覚えた事を忘れていなくて良かったわ」
「まあ、ミゼラは今まで真面目にやってきたからな。少しくらい普段より出来る時間が短くなったところで、そうそう忘れるものでもないさ」
暫く自転車に乗ってなくとも乗れるようなものだ。
もう何度も同じ工程を踏んでポーションを作っているので、体に染みついているのだろうさ。
「はあ……でも、調子が良くて5割、ね……まだまだ師匠は遠いわね」
「リートさんも言ってたけど、十分優秀だよ。自信を持ちなさいな」
「でも、その分アクセサリーはダメダメなのよね……」
「そっちも慣れの部分が大きいからな。一つ一つこなしていくのがミゼラなんだから、ポーション作りが落ち着いたら切り替えて行けばいいさ」
ミゼラは集中力も高いし手先も器用になってきているのでいずれはアクセサリーも上手く作れるようになるだろうさ。
慌てる必要はない。ゆっくりじっくりやっていこう。
「はい。わかりました。師匠は今日は他に用事はないの?」
「そうだな。今日は特に用事もないし、ミゼラの錬金を見ていようかなって思ってるよ」
「ありがとうございます。それじゃあ、今日は頑張らないと……」
「張り切るのはいいけど、無理はし過ぎないように」
「はーい。分かってます」
この子は目を離すとすぐ無茶するからね。
まったく誰に似たんだか。
その後はミゼラがポーション作りの続きをし、俺は俺で調べ物をしつつミゼラの錬金を見守っていると。
「あ、そうだ旦那様。アマツクニだけど私の事は気にせず、行って来て良いわよ?」
「へ?」
「シオンさんが言っていたのだけれど、アマツクニに行きたいのでしょう?」
「まあ、そうだけど……」
「旦那様のアクセサリー作りも落ち着いてきているのだし、私の事は気にせず行ってきていいのよ」
確かに、この間までは仕事に集中しており、オリジナルを作るのには苦労していたが、数種類作り終わった今は『 贋作(マルチコピー) 』で大量に数を増やせるから暇にはなったけどさ。
「いや、別に急ぐ訳でもないしな。どうせなら皆で行かないか?」
「でも、シオンさんの欲しい物が売れてしまっては可哀想でしょう?」
うーん……そんなにすぐに売れてしまうものではないと思うんだが……。
何と言っても5億ノール必要な超高級品だろう?
昨日今日で売れるとは考えにくい。
考えにくいが……万が一売れてしまっていたら可哀想だとは思う。
「うーん……でもきっとミゼラも見た事が無い薬草やアクセサリーがアマツクニにはあると思うぞ?」
ミゼラは帝国に行く際に薬草収集を楽しそうにしていたしな。
勿論俺も新たな発見は楽しみだし、ミゼラもきっと楽しいと思うんだよ。
「それは……気になるけど、旦那様が持ち帰ってくれればそれで済むでしょう?」
「そうだけどぉ……」
「本当に、気にしなくていいのよ。アマツクニって、帝国よりも更に西なのでしょう? 私は帝国まででもかなり疲れてしまったし、流石に体力がもたないもの」
「いや、休憩を多めにとったり、帝国で長めに一休みしてもいいんだぞ?」
立ち寄ったらガルシアやシシリアに挨拶しない訳にもいかないからな。
多分きっと、何日かは滞在せざるを得ないだろうし。
勿論『Sha LaLaLa』には寄らないぞ!
「それでもよ。体調を崩して迷惑をかけたくはないもの」
あー……うー……最近のミゼラの調子ならば大丈夫だとは思うが、絶対にない……とは言い切れないからな。
そこでミゼラが心配になるのも分かるのだが、やはりどうせなら一緒に行きたいよなあ。
「それに、ハーフの子達への仕事の割り振りが終わっても、アフターケアもあるからまだ時間がかかっちゃうのよ。それまで待たせるのは、シオンさんが可哀想だわ」
うーん……アマツクニだし、ミゼラが気になるものや気にいるものが絶対あると思うんだよ。
食材だったり、道具だったり、素材だったりさ。
ミゼラにも未知であるアマツクニを体験してもらい、何かしらの糧にしてもらいたいというのもあるんだけどな……。
「……納得いってない、って顔ね。本当に構わないのだけど……そうね。それなら、戻ってきた後にアマツクニでデートをしてくれるかしら?」
「あ……そうか。転移で行けるようにしておけばミゼラを連れて行けるのか」
「そうよ。戻ってくる頃にはハーフの子達のお仕事の振り分けも終わっていると思うしね。旦那様の空間魔法で移動するなら、私もアマツクニという国を思う存分楽しめるでしょう? 勿論。デートは二人きりでね?」
「うーんでも、一人残すのは危なくないか?」
「今更誰が私を狙うのよ……。旦那様ったら、そんなに恨まれてるの?」
「そんな覚えはない……な。うん。多分ない」
あってもあれだ。お前ばかりずるい的なものなので、ミゼラに危害を加えるとかはないはずだ。
奴らが来るならきっと、俺に来る……。
「外出は最低限にしておくし、もし何かあってもポココもいてくれるしね。敷地内にはアイリス様の館もあるのだし、警戒しているシノビの数を見れば、この家がアインズヘイルで一番安全だと思うのだけど」
「……わかった。それなら良さそうな所がないか下調べしておくよ」
「ええ。よろしくね」
こうして俺達は、ミゼラに留守番をしてもらいアマツクニに向かう事になった。
ミゼラは見送る際に、私の分もうんと楽しんできてね、と笑顔で見送ってくれたのだが……。
多分、本当に気にせずにいってらっしゃいという事なのだろうが、あれだけ言われても気にはしてしまうのだ。
まあでも、楽しみなアマツクニに行くのだし楽しんでは来ようと思う。
勿論、ミゼラが好きそうなスポットはきちんと見つけておくからな。
―ミゼラSide―
旦那様を乗せた馬車の姿が見えなくなるまで見送り、踵を返そうとしたらくいくいっと服を引っ張られてしまう。
「ミゼラ。良かったのですか? お留守番で」
「ええ。どうしたのポココ?」
本来ならばアイリス様の護衛を担うポココだけど、最近は私に付きっ切りになってくれている、護衛兼大事な友人が不安そうに私を見上げていた。
「うーん……勿体ないと言うか、出遅れるのではないですか?」
「出遅れる?」
「そうですよ! ミゼラのライバルは強敵揃い! そこにシオンまで加わったのですよ! もっと積極的に行かないと!」
「ふふ。皆素敵な人だものね」
「そんな余裕を見せていたら駄目なんです! ミゼラはとても可愛いですが、それに甘んじているだけでは後れを取りますよ! シオンは特に危険ですよ! ぐいぐい来ますからね!」
「うーん……旦那様は皆平等に愛してくれるわよ?」
「そうかもしれませんがぁ……」
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫よ。ちゃんと、私は私でしかけているからね」
「へ?」
「だって、皆で一緒にアマツクニに行くのよ? 皆は旦那様と丸一日二人きりだなんて、きっと出来ないでしょ? それに比べて私は一日旦那様を独り占めだもの」
「あ……ミゼラ。それを狙っていたんですね! 頭が良いです!」
「ふふふ。まあ、今は忙しいのも事実だけれどね。ポーション作りの方も遅れているし、皆が帰ってくるまでは頑張らないとね。それに旦那様は私がお家を守っていれば帰ってきてくれるもの……絶対に」
そう。ロウカクの時も地龍を相手に帰ってきた。
公爵の時も、英雄を相手にして帰ってきた旦那様だもの。
今回も必ず帰って来るってわかっているから、私はこの家を守り、旦那様におかえりなさいと言う特別な役目を担うの。
「おお……ミゼラ、強かだったのですね」
「ふふふ。魅力的な皆が大好きな旦那様を私も好きなんだもの。強かでないとね。さあ、ポココ。今日もよろしくね」
「勿論です! ミゼラには主さんがいますからね! 不埒な輩は近づけさせません!」
「頼りにしてるわ。それと、今日のご飯は何が良い?」
「ミゼラの作ったご飯ならなんでも美味しくいただきます! でもお肉がいいです!」
「今回も旦那様から使い切れない程のお金を置いて行かれたからね……。ちょっとだけ贅沢しましょうか」
さて……献立はっと……。
……でも、なるべく早く帰ってきて欲しいわね。
旦那様……またなにか厄介事に巻き込まれないといいのだけれど……きっと、何か起こしてくるのでしょうね……。