作品タイトル不明
13-2 和国アマツクニ どれにします?
契約を交わしてから数日。
何故か今日も案内人さんと一緒に錬金室でお仕事中。
普段であればシロやミゼラ、ウェンディが一緒なのだが、ミゼラはハーフの子達の件で忙しく、シロとウェンディは買い物中である。
俺も買い物についていきたい気持ちもあったのだが、この間かなりお金を使ってしまったので、ちょっとお仕事を頑張らねばまずいかなと思って、毎日ちゃんと仕事をしている訳だ。珍しく。
案内人さんは邪魔をするでもなく、大人しく俺の横や後ろで錬金を眺めているだけなので問題はない。
たまにぱいを肘に押し付けてくるが、問題ない。
問題はないんだが、別の問題はあった。
「そういえばなんだが……案内人さんって呼び方もおかしいよな」
錬金で手を動かしながら当然の問いかけを行う。
ちなみに作っているものは、露店に並べるアクセサリーだ。
アクセサリーはもともと高価だし今までのアインズヘイルだと気合を入れて作れば作る程高価になってしまい、なかなか売れないだろうと思っていたのだが、最近は色々な国から商人が来ているのでもしかしたら仕入れとして買ってくれないかな? と、思い作っている。
販売先はメイラに頼んでどこかのお店に置かせてもらう予定である。
まあ、今作っているのは販売用ではないんだが……。
「そういえばそうですね。もう案内人でもないですし。どうします? 従者さんとか、奴隷さんとかにします?」
「なんでだよ嫌だよ……。なんで個人名じゃないんだよ。というか、名前も知らないまま俺は契約してたんだな……」
「あははは。まあ、そういう事もありますって」
「普通ないだろ。それで、本当に今更なんだが、名前は何て言うんだ?」
出会ってから結構経つのに名前を聞いてなかったとは盲点だった。
そういえば、副隊長も名前を知らないからずっと副隊長だな……。
覚えていたら、今度会った際に教えてもらおう。
「うーん……名前かあ……どれがいいですか?」
「…………どれ?」
名前を聞いてどれがいいかだなんて言われたのは初めてなんですけど。
流石に手を止めて案内人さんの方を見るが、笑顔でニコーっとしているだけで……どれって事は複数あるって事なの?
偽名? 偽名を使わないといけない事をしてきちゃったの君?
「前にも言いましたけど、私色々やっていまして、シノビでもあり、オボロでもあったという訳です。更に言うと、シノノメ、ヤオヨロズ、カンナギという機関の技を全て修めているんですよ」
「んー……?」
「ああ、わからないですよね。えっと、シノビは護衛や傭兵。オボロが諜報や隠密行動、シノノメは女を武器にした房中術などですね。ヤオヨロズがアイテムや武器の収集や鑑定や研究、カンナギが巫女などの呪いの解呪、祈祷などに特化したアマツクニの機関です」
「……それ全部を修めたの?」
「勿論です! 私、こう見えてもアマツクニでは才女と言われるほどにかなり優秀なので!」
「……嘘だあ」
「本当ですよ!?」
またまたあ。
案内人さんがそんな、全部修めたとか……ねえ?
そりゃあ優秀なんだろうけどさ、あれだろ? きっと全部特殊で厳しい修行みたいなのがあるんだろう?
普通ならば、一つ極めるだけでも大変なのだろう?
それを全部……? 嘘だあ。
「むうう。その顔は信じていませんね……いいですよいいですよ。いずれ証明しますから……。それで、各機関で一人前に認められると名前を頂くんですよ。なので、私の今の名はシオン・カスミ・ヨイマチ・キュウテイ・アラヤシキとなっています。シノビ、オボロ、シノノメ、ヤオヨロズ、カンナギの順ですね」
「……長いな」
「まあ、他に修めたものもあるのですが、小さな機関ですので省略してこれなんですよ。さて、このままでは長いですしどれでも一つお選びになってくださいな」
「お選びにって言われてもな……元の名前はないのか?」
「んんー私は姉と二人、物心ついた時から養成機関にいましたからね。元の名前はあったのかもしれませんが知りません」
おお……なかなか壮絶な人生を送ってきたのね。
そうは見えないくらいに明るいし、一切気にしたそぶりが無いので深くは触れずにさりげなく優しくするようにしておきます。
「ん、お姉さんがいるのか」
「はい。ちなみに姉に呼ばれている名はシオンです」
「んー……それならシオンにしようか」
「はーい。わかりました。それでは今後はシオンを名乗りますね。皆さんにもお伝えしておきます」
シオンにしないとお姉さんと会った時にややこしくなりそうだしな。
というか、お姉さんいたんだな。
……お姉さん……いやいや、今浮かんだ人ではきっとないだろう。
「ところで……他に私に聞きたい事があるんじゃないですか?」
「聞きたい事……? ああ、そうだそうだ。聞こうと思っていたことがあったんだった」
良く分かったな案内人さん……じゃなかったシオン。
くぅ、これは慣れるまで時間がかかりそうだな。
「ふっふっふ。言わずともわかりますよ。ええ。ええ。わかってますとも。ずばり! 私のスリーサイズですね? 上から80・54・85です! ちょっとお尻が大きいのはプラスポイントですよね?」
そうだね。プラスポイントだね。
今日はなぜかシノビ装束なので、太ももからお尻にかけてのラインが最高だね。
ちなみにスリーサイズについては言われるまでもなく既に分かって……じゃなくてね?
「ほらほらー! 80のバスト! 85のヒップですよ? くびれのある54のウェストと合わさってバランス良くないですかー!」
「……違う。それじゃない」
「え? じゃあ初めての希望体位ですか? 私はやはりお顔が見たいので、正常位がいいです! それか私が上に乗って――」
「……違うって」
「ええ!? じゃあ後ろからですか!? だ、駄目ですよいくらお尻が少し大きくてチャーミングだからって! 豪快に後ろから激しくだなんて流石に恥ずかしいで――」
「違う! 俺が聞きたいのは、5億ノールで何を買うのかなって話だよ!」
「ああ、そっちでしたか。まったくもう紛らわしいですねえ!」
そっちだよそっち。
初めからそっちだったんだよ。
紛らわしい事なんて何一つなかったはずだよ。
「えっとですね、武器ですよ武器。子供の頃からずっと憧れの武器がありましてね。どうしても欲しいのですがとても高くて普通に買うんじゃあどうにも手が届かないなあと、なら有能になっていっぱいお金を稼ごう! って、色々修めた訳ですよ。という訳で! 今度一緒にアマツクニに行きましょう!」
「どこのあたりにという訳があったんだよ」
「ええーだってアマツクニに売ってるんですもん! 契約した以上、私が勝手に行くわけには行きませんし」
「あーじゃあ、買いに行ってきてもいいぞ?」
「いやいやいや。一緒に行きましょうよ! アマツクニですよアマツクニ! 流れ人が大好きなアマツクニですよ? 和国アマツクニの和国は流れ人がつけたんですよ!?」
へえ、アマツクニって和国っていうのか。
和……日本の心だねえ。
そりゃあ興味が無いわけもないんだが、ちょっと今は遠出をするには心許ないの。
お仕事もっとしないと、ちょっと難しいんです。
「私色々案内出来ますよ! シノノメのお姉様達のお店とか! もう凄いですよ! 色気とかテクニックとかもう…… ぽわわわ~ん! えー!? 腕何本あるのー!? って感じですからね! まあ私も出来ますが、やはり現場で鍛えたお姉様達には劣るでしょうし、一度は体験してみるべきですよ!」
「いやいや。そんなお店行ったら、ウェンディ達に正座させられて怒られちゃうって」
「そこはお任せを。私のありとあらゆる術を使ってお館様を秘密裏にお連れしますから! ……シロさんは、ちょっと別の手段で丸め込まないとですけれど……」
あれ? やっぱりシロは苦手なのか?
そういえば、帝国でもシロから必死に逃げてたな。
シロは余裕そうに追いかけてたが……。
そういえば、案内人さんって、どれくらい強いんだろうか?
っと、それより今はアマツクニだったな。
「まあ、どちらにせよ今はハーフの子達の件でミゼラも忙しいから駄目だよ。大事な時期だからな」
「ああ、そうですね。そうでした……」
「まあでも、アマツクニには興味はあるからな。近いうちに行きたいとは思ってるから、その時は案内を頼むぞ」
「はい! 元案内人にお任せを! ……やはりシノノメのお姉様のお店にご興味が? なんなら私が先んじて実演を――」
「お留守番したいんだな。よし分かった」
「ジョークですジョーク! ええ、勿論冗談ですとも! 私が行かなかったら意味ないじゃないですか!」
まったく……笑えないジョークだよ。
……まあ、興味が無いと言ってしまえば嘘になるのだが……。
「あ、そういえばクドゥロさんのお店がアマツクニにあるって聞いたんだが」
「ああ、『Sha Lalala』の系列店ですか? 確かにありますねえ。ありますが……」
「ありますが?」
「アマツクニのあそこは……シノノメよりも怒られると思いますよ?」
「……なるほど」
せっかくVIPチケットもあるので気にはなったのだが、流石にそれはまずいかな……?
仕方ない。まずは普通にアマツクニを楽しみ、お店の場所だけ聞いておいて後日一人で伺う事にしよう。
うん。そうすれば安心だ。
……安心のはずだ。
何故かロウカクのお店に秘密裏に遊びに行った日に、気づかれるはずがないのにウェンディの笑顔が固まっていて機嫌が悪かったんだが……多分大丈夫だと思う。
「それにしても、先ほどから入念に何を作っているので? 最初に作っていた大量生産品ではないようですが、お仕事にしても大分気合の入った品ですね。プレゼント用ですか?」
「ん? ああ、案内人さんにな」
「おお? 私のですか? というか、シオンですって」
「ああそうだった。やっぱり慣れるまで大変だな……」
「まあ、今までずっと案内人でしたし、仕方ありませんよ。頑張って慣れてくださいね!」
「ああ。頑張るよ。それじゃあ……ほい。プレゼント」
「おおー! ありがとうございますー! これは、 簪(かんざし) ですか?」
そう。髪に刺す簪である。
『金茎蒼紅玉の簪 防御力大上昇 敏捷大上昇 耐状態異常大 耐属性強化大』
能力が4つも大とは我ながら成長したなと思う。
流石にこのレベルを露店には出せないが、これくらいのものを作って『 贋作(マルチコピー) 』で少し効果を落として売るのが一番良いだろう。
まあ、これは一点ものなので贋作スキルは使わないけどな。
「おお……これはまた、随分と奮発されてますね……」
「流石。良い目をしてるな」
ロウカクでの目利きも大したものだったしな。
まあそれなりの材料を使ったからこそ、能力に大が4つもついたのだろう。
「ええまあ。ヤオヨロズで鍛えられましたので。本体は金、大玉は 蒼玉(サファイヤ) で小玉は 紅玉(ルビー) ですか。石の加工も綺麗な球状、石濁りもなくカラーも良いものですね。我がお館様ながらお見事です。本当に私が頂いてしまってよろしいので?」
「ああ。案内人さんの――シオンの為に作った物だからな。受け取ってくれ」
「……」
「シオン?」
「ああ、いえ。ありがとうございます。えと、いざお館様に自然にシオンって呼ばれると少し照れますね。てれてれ」
「てれてれって言葉に出すもんでもないだろう……」
「えー可愛いでしょう?」
「……否定はしないが、否定したくなったな」
酷い! と、わざとらしくあっという間に涙目を作り出すシオン。
俺が笑うとむっとした表情を取り、結っていた髪を解いて手早く自分で髪を結いなおして持っていた簪を髪に刺した。
そして俺の両肩を掴んで顔を近づけてきた。
「どうですか? 可愛いでしょう?」
「……ああ。良く似合ってる。可愛いよ」
「にへえ」
顔が緩み、満足したようなんだが……何故か両肩から手が離れない。
椅子に座っている以上肩を掴まれると動けないんだが……そして、段々と顔が近づいてきて――ちゅ、っと口元に柔らかい感触が。
「……では、お礼を差し上げますね」
「……今のがお礼じゃないのか?」
「んー? 今ので足りましたか? もういりません?」
「……いや。どうせなら、全部貰おうかな」
「あれ? 結構すんなりですね。またこの前みたいにはぐらかされるのかと思ってました」
はぐらかされるって……。
まあ、なんというか……お客さんって関係じゃあ嫌だなとは思っていたけどさ。
「まあ……この前の帝国でシオンの気持ちがどんなものなのかはわかったからな」
「……そうですか。私の気持ちがわかるだなんて、流石は熟練の誑しですね」
思い返してみると帝国のお店で本心は垣間見たからな。
あの時、『今は……』と、言っていたけどお客さん……ではない今は、どうなのか聞きたいところではあるが、それは野暮というものだろう。
必死に普段の調子を取り繕ってはいるものの、隠しきれておらず顔を赤くしているので表情に全て出てしまっている。
これが演技というのなら、俺は大人しく騙されても構わないな。
「……では、全部差し上げますので、せっかくなので、全部貰ってくださいな」
柔らかく微笑むと、膝に座られて腕を首に巻かれ、身を寄せるようにしてもう一度、口づけをされる。
何度も啄むように短く、そして細かい間隔で唇を重ね、段々と濃く長いものへと、自分達の気持ちが上がっていくのと同様に変化していく。
呼吸が荒くなり、目をとろんとさせたシオンの腰を支え手を這わせて、柔らかい部分へと触れていく。
「あ……その……一応、初めてなので。優しくお願いしますね」
「後ろからがご希望だったっけ?」
「むぅ……いじわるな人ですね。……いいですよ。貴方のお望みのままに……」
勿論。望むままにさせてもらおう。
だが、前からでも後ろからでも、どちらもすればお互いの望みは叶うだろう?
もう一度、シオンからの唇を受け入れ、その日は当然仕事にはならなかった。