作品タイトル不明
12-13 愛する人の為に まさかの作戦
一体何回気を失うんだろうなあ俺は……。
やはり、血が足りていないんだろうか?
血……レバーでも食べるかね。
レバー……レバーか。
子供の頃は苦手だったけど、大人になったら食べられるようになってたな。
そういえば、元の世界じゃあ生のレバ刺しって禁止されてたけど、こっちの世界なら食べられそうだな……って、そんな事を考えている場合じゃないんだよな。
「あら? 気が付きましたか?」
「ん、リートさん……」
「はーい。リートさんですよー。もう慌てないのですね」
ああー……さっきはその、『 全てを見通す祖の神眼(シースルーアイ) 』で、リートさんが全裸に見えていましたからね……。
その……一瞬、一瞬だけ見てしまったのは謝ります。
何があったかは言えませんが、心の中で陳謝しておきますね。
「どれだけ寝てました……?」
「ほんの少しですよ」
「そうですか。あ、膝枕……」
「治療した功労者という事で、私が頂きました。良く眠れましたか?」
功労者が膝枕ってどうなんだろう?
余計に疲れるだけなのでは……?
感触はそりゃあもう、このままずっと寝ていそうなくらいには心地よかったです。
今なお少し冷やっこいのが気持ちいいです。
「あ、そういえばさっき、リートさんの肌が紫色に見えた気がしたんですけど……」
「え!? ええー? そんなことありましたかー? さああ? 変な夢でも見ましたか? 私は良く分かりませんねえ。あ、そうだ。そんな事よりもあっち。あっちが大変なんですよう」
「へ? あ、えっと……」
どうやら触れられたくないらしい。
俺は空気が読める大人なので触れないようにしておきますね。
で、大変って何が……ああ。
「うおおおおお! 兄貴ぃぃぃ! すまねええ! 俺が、俺が兄貴のそばを離れたばかりにぃぃぃ!」
「ちょ、ちょっと! 主様は今休んでるのよ! 騒いで起こさないでよ!」
「真。うるさい。ソルテもうるさい」
「だっでようううう! 俺が、俺がいれば兄貴を守れだのにいいい!」
「敵に気づいたと同時だったのだ。真がいても、難しかったと思うぞ。我々は傍に居ながら……だから真が気に病む必要はない……」
「ううう……でもぉ……兄貴ぃ! 死なないでくれぇ!」
「勝手に殺すな……っ」
痛っ……まだ痛みがあるのか。
回復ポーションは……リートさんが首を振ってるって事は、駄目なのな。
この毒がどれだけ性悪なのか、身をもってよくわかりましたよ。
「兄貴! 良かった生きでだぁ!」
「だから殺すなっての……あと騒ぐな。傷口に響くだろうが……」
「兄貴ぃぃすまねえ……俺が傍を離れたからぁ……」
「暑苦しいな……顔が。まあ、ダーマに連れて行かれたのを見送ってたからな俺は。気にすんな……。それに、アイナの言う通り隠密スキルが高すぎて、刺されてから気づいたようなもんだったしな……」
今思い出しても突然人が現れたようで不気味だったな……。
隠密スキルねえ……もし俺が覚えたら、小さな悪戯に使うだろうなあ。
「そう大丈夫そうなのね。安心したわ」
「美沙ちゃんにも心配かけちゃったか?」
「ええ。勿論心配くらいはするわよ。美香も話も聞かずに回復魔法をかけそうになるくらい焦ってたのよ」
「うう、ごめんなさい……。イツキお兄さんぐったりしてたから慌てちゃって、シロちゃん達が止めてくれなかったら危なかったです……」
「それだけ心配してくれたってことだろ? ありがとう。嬉しいよ」
どうやら、二人にも大分心配をかけてしまったようだ。
そりゃあまあ、俺の周囲に血に染まった包帯がこれだけあれば当然か……。
今巻いてるのも、そろそろ変え時だろう。
「兄貴……俺も……」
「わかってるよ。取り乱すほどにだろ? ありがとう。まあ、見ての通り大丈夫だ」
「そっか、良かった……。じゃあ、これからの事だよな。兄貴! 俺は、俺達は隼人を倒すのに協力するぞ!」
「はい。ウェンディさんを、取り返すお手伝いをさせてください!」
「相手は英雄隼人なのでしょう? これくらいの人数差のハンデくらいは、許されるでしょうね」
やる気満々の三人。
物騒な事になるって分かっているのに、手を貸してくれる。
その気持ちは嬉しいし、凄くありがたいと胸の内が熱くなる。
だけど……。
「……シロ。率直な意見を言ってくれ。ここにいる皆で隼人と戦って、勝てるか?」
「……勝つか負けるかで言えば良くて五分」
予想はしていたが、あいつとんでもなく強いんだな……。
まあ、魔王を倒すような英雄だもんなあ……。
じゃあ仕方ない。
「なら、駄目だな」
「なんでッスか兄貴!? 50%もあるなら――」
「ただ、ここにいる全員が相手だと、隼人も本気を出さざるを得ないと思う。勝ったとして……最低でも半分が、いなくなると思った方が良い」
「なっ……。で、でも死亡した直後なら美香が蘇生出来るし……」
以前一定条件下で蘇生も可能と言っていたけど、死亡直後の蘇生か。
美香ちゃんのスキルも十分チート能力だな……でも。
「そうなると、美香ちゃんが真っ先に狙われるだろうな」
「っ……」
少なくとも、俺が隼人ならそうする。
覚悟を決めて本当に大切なものを守るために、全力を出すならば……心を非情にし、一番厄介なものから叩くのは定石だ。
「まあそういう事だ。お前はお前の大事なもんを守る事に専念しろよ」
恐らく、シロとソルテを軽くあしらう隼人はこの世界でまさしく最強と言えるだろう。
真、美香ちゃん、美沙ちゃんの三人が加われば戦力は大幅に上がる。
だが、俺の大事な人を助け出すために、真の大事な人を危険にさらすわけにはいかんだろう。
それに、現状隼人に本気で戦われればこちらは打つ手がない。
こいつはまた、難しい話だなあ……でもまあ、手がないってこたあないな。
「でも……俺たち含めて五分なんスよね? じゃあ、俺達がいなかったら……」
「1%にも満たない。……1%を運よく引けたとしても、誰かしらは……」
「ウェンディを助けるために、誰かを失うんじゃあ駄目に決まってるだろ」
「じゃあ……そんなのどうにもならないじゃないッスか……」
「まあ……もうどうするかは決めているんだけどな」
恐らくこれが、被害を抑えつつ勝機を見出す一番の手だろう。
ミィが来てくれて、あいつの状態を知ることが出来て良かった。
それに、アトロス様のおかげで結界の場所も分かったし、隼人達もただ公爵についている訳ではない事も……。
「え!? マジッスか兄貴! 流石兄貴だ!」
「おう。賛成か?」
「そりゃあもう! 兄貴が考えた策なら聞くまでもなく賛成ッスよ!」
そいつはありがたい。
ちゃんと賛成でい続けてくれよ?
「なあミィ。さっきの……隠れてた奴について何かわかるか?」
「はいなのです! 名称はオボロなのです。アマツクニ出身の傭兵で、昔から公爵家の護衛や諜報を担っていて、30人くらいいたのです。でもでも、先の元騎士団長が襲撃した事件で10人くらいになったそうなのです! お仕事は隠密の諜報活動や暗殺なのです! 隠れるのが上手くてとっても早いのです!」
「おお……少しくらいはって思ったんだが、やけに詳しいな」
「あのあの、隼人様と喧嘩する前にエミリーが教えてくれたのです! やっぱりエミリーは頭がいいのです!」
「そうか……」
エミリーがミィにねえ……。
そこに何かしらの意図を感じるのは、都合よく考えすぎか?
とはいえ、10人くらいで既に3人は倒している。
つまり、多くても残りは一桁だろう。
と考えると、ウェンディに一人、レティに一人、アインズヘイルに一人は最低でもついているとして、隼人を相手に一人って事はないだろう。
そして残りを考えると……やはり俺の作戦が一番いいな。
「……ねえ。主様のあの顔、絶対良くないと思うんだけど……」
「そうだな……。主君のあの顔はまずいな……」
「嫌な予感しかしないのだけれど……」
「あー……今一つ思い浮かんだっすよ。うん。でもこれはありえないっすね! ありえないはずなんすけど……」
「……主。まさかと思うけど――」
「お兄ちゃあああああああん!!!!!」
ああ、また腹に響くのが来たな。
蝶番が残り一つで何とか保っていた錬金術師ギルドの扉が、終わりを迎えるように地面へと伏せ、勢い良く駆け込んできたのはオリゴールだ。
「お兄ちゃん! 起きて大丈夫なのかい!?」
「おう。だから騒ぐなよ。お前の声、物凄く傷に響く」
「そうか……そっか……良かったぁ……。話を聞いてボクは気が気じゃなかったんだからな全く! ボクは忙しいって言うのに焦らせるんじゃないよ!」
「悪かったな。こんな大事な日にさ」
「全くだよ。ボクの雄姿を見ないで……もう……頼むから、死んでくれるなよ」
近づいてきてきゅっと服の端を摘ままれる。
なんだ? 最近のオリゴールは少しだけ可愛く見えてきてしまい、ついつい頭を撫でてしまった。
「ふ、ふんっ……ボクは子供じゃないんだぜ? 頭を撫でるくらいなら尻の一つでも……って、あれ? ウェンディちゃんがいないじゃないか!」
「ああ……公爵の手の者に攫われた」
「なんだって!? すぐ助けに行かなきゃじゃないか!」
「勿論。助けに行くさ。……でも、お前の方は大丈夫なのか?」
「ん? 何がだい?」
いや、何がってお前……。
「独立を宣言したんだ。王国が軍を出してこない訳ないだろう? 何か対策は取ってあるのか?」
「ああ。そういう事か。うん……まあ、不戦を宣言しているからね。グレーゾーンの冒険者達と、兵士ではなく自警団扱いの守備兵には協力を仰ごうとは思っているよ。ただ、アイナちゃん達はしょうがないよね。んんー……まあ、何とかなると思うよ。少なくとも、時間を稼げばいいだけだし」
何とかなる……とは言いつつも、煮え切らないのは恐らく不安があるのだろう。
これだけでかい事をしているんだ。
どれだけの対策を練ろうとも、不安は押し寄せてきてしまうのだろう。
「それでしたら、私が領主様のお手伝いをいたしますよ。時間を稼ぐだけでしたら、私でも出来るでしょうし」
「リートちゃんが? やったぜ。それなら楽勝だね!」
「えっと……リートさん、大丈夫なんですか?」
リートさんって戦闘できるんですか?
普通にか弱い錬金術師の先輩だとばかり思っていたんですけど、意外と武闘派なのですか?
「あら。心配してくれるんですか? でも大丈夫なんです。ですから、貴方はこちらを気にせずにウェンディさんを助ける事に注力してください。何か手を考えているのでしょう?」
「……はい。ありがとうございます」
そうですね。
今は別の事を気にしていられるほど、余裕はない。
全ての意識をウェンディを助ける事に向けなければ難しいと思うので、そうさせてもらいます。
「私達は……どうしようかしら」
「ああ、出来れば三人にも協力はして欲しい」
「え!? 兄貴! さっきは駄目って言ったじゃないッスか!」
「隼人と戦うのはな。そっちはこっちで何とかするから、別の所をお願いしたいんだけど……都合が良すぎるか?」
「勿論良いわよ」
「はい! 頑張ります!」
「お、俺も! 兄貴を手伝うッスよ!」
「悪いな。助かる」
相変わらず俺は、他人に頼るのを良しとする男のままだな。
でも、こうして手を貸してくれるってのはありがたいし嬉しいよ。
「それで? 後輩君はどんな方法で隼人卿を倒すつもりなのですか?」
「それは――――」
俺は、思いついたことをそのまま何一つ隠さずに話しをした。
手順、目的、理由、役割分担等、それらを事細かく説明をする。
それを聞いて、口を開けたまま停止する者、目を丸くして驚く者。
呆れてものも言えない視線を向ける者、馬鹿じゃないのかと叫ぶ者多数など様々なボキャブラリーを見せてくれる。
「やっぱり、まさかだった……」
シロは、というか恋人達は皆予想がついていたようだ。
うん、予想が外れて欲しかったようだが、大きな大きなため息をつき皆が顔を見合わせると呆れるようにまた大きくため息をついた。
そして、一つだけ約束させられた。
『必ず生きて帰ってくること』
それに対して、俺は当然だと頷いて返すのだった。