作品タイトル不明
12-12 愛する人の為に 全てを見通す祖の神眼
ぼんやりとして、真っ暗な世界。
暗いのは、多分目を瞑っているからだと思う。
思う……というのは、なんでだかここが夢の世界だと思えるからだ。
頭の下にある感触は、恐らくは膝枕。
誰かに膝枕され、頭頂部をお腹に当てられて頬をむにゅっとされているので、恐らく夢だと思う。
とはいえ、現状を知りたいので瞳をゆっくりと開けてみると……驚いて瞬きを何度かしてしまった。
「お? 起きたか。よう」
「……えっと」
「ああ? 覚えてねえの?」
「いや、勿論覚えてますけど……なんで、アトロス様が?」
頭頂部をお腹につけているのに、一切遮るものがなくご尊顔を拝謁することが出来るアトロス様がなんで俺を膝枕あべしっ!
「おい。随分と失礼な事を考えたろ?」
「いえいえいえいえ、そんな滅相もない……っ!」
怖い! 文字通り瞳で射殺されそうだ!
というかきっと、何人か殺していると思う。
目から見えない矢が出てるはずだ!
「そうか? まあいいや。どうせ時間もねえんだろうし……ふああ……」
「えっと……なんで落ち着いたんですか?」
「んんー? 膝枕って、する方も落ち着くだろ?」
わからな……くもないか。
結局は人のぬくもりを感じると落ち着くのだ。
なるほど。アトロス様は寂しがり屋いひゃい! いひゃいですほっぺひっぱらないれ!
「お前……すぐ顔に出るからな? ったく……相変わらず、寝顔だけは可愛いのにな……」
「可愛いとか言われる年じゃないんですけど……」
「ああ? 私から見ればお前なんかまだ大人の体をしたガキだよ。いくら立派なもんを持ってても、生きてる時間がちげえんだ」
「あー……エルフだからですか?」
「おう。エルフは長命だからな。私は150歳。エミリーだって、お前よりもずっと長く生きてるんだぜ? まあ、あいつはエルフの中では若い方だがな」
150歳……流石エルフ。
俺の5倍以上生きているとは思えない程に美しい。
……150年その大きさで全く育つ事もな、ごめんなさい! 懲りました! もうやめます!
「って、エミリーって……っそうだ! 早く起きないと!」
「待て待て。戻っても怪我は治ってねえよ。へへへ。なんだか楽しそうじゃねえか。まさか英雄が相手とは……難儀で楽しそうだな」
「っ、え、見てたんですか?」
っていうか、見れるんですか?
「おう。私の目は『 全てを見通す祖の神眼(シースルーアイ) 』だぜ? 下界くらい、見通す力は持ってるさ」
そうでしたね。
レイディアナ様の服もスケスケになる素晴らしいスキルを持っているのでしたね。
その力を使えば下界を見られるわけですか……そうですか……あの、プライバシーは守って頂けていると信じますよ?
「そうですか……あ、じゃあ今ウェンディの状態はわかりませんか? あ、ウェンディっていうのは――」
「知ってるよ。水の大妖精ウェンディ・ティアクラウンだろ? 良く知ってる顔だよ。うぜえくらいに」
「え……?」
「あん? どした?」
「水の……大妖精……。やっぱり、そうなんですね……」
銅像やら、大妖精に過敏に反応したり、エミリーが崇拝していたりと、俺は鈍くはないので予想は出来ていた。
予想は出来ていたのだし、驚きはしないつもりだったのだが……改めて女神様から間違いないと言われると驚いてしまった。
「あ? なんだよ知らなかったのか? あー……そうか。そういや……。まあいいだろ。どうせいずれ知るんだしな」
「え? それは、どういう……」
「いいんだよ。気にすんな。で、ウェンディの様子だっけっか? んんー……結界かこれ。あと、なんか魔法陣の中にいるな」
「魔法陣!?」
結界があるとはミィに聞いてはいたけど、魔法陣は初耳だ。
ミィも知らなかったのだろう。
というか、なんだ魔法陣って。
『 既知の魔法陣(エクスペリエンスサークル) 』みたいなものだろうか?
「慌てんなよ。別に危ないもんじゃねえよ」
「そうなんですか……」
良かった……一先ずは無事らしい。
でも、魔法陣ってのが気になるのだが……。
「この術式は……エミリーか。ふうん……表層術式と重ねて隠した二重の術式だな。いいねえ。腕を上げたじゃねえか。並の精霊術師じゃ気づかねえな」
「あの……二重? 表層術式ってのは……?」
「あん? 表になってる術式はフェイクなんだよ。そのフェイクの術式の中から有効な精霊文字だけを使って隠れた術式を発動するんだ。表層は精霊の弱体化だけど…………あー……悪い、本命はわかんねえや。私はエミリーと違って意外と勉強は苦手なんだよな」
意外ではないです……とは、ちゃんと口にも表情にも出さないです。
もうイメージピッタリです。前線でオラオラしてそうだとか顔に出さないですよ。
でも……表層が弱体化って事は……何かあるんだろうな。
あ、そうだ。
「あの、もう一つだけお願いします。結界の魔道具の場所って――」
「ん? あーあ……なんだよもうかよ。レイディアナもクロエミナもいねえし、どうせなら一戦おっぱじめても面白そうだったのに……」
「え? あ……」
この感覚……元の世界に戻される時の……。
あと少しだけ、魔道具の場所だけわかれば……いや、ズルみたいなもんだもんな。
ウェンディの状態がわかっただけ――。
「……おい。おいって。聞いてんのか?」
「あ、はい。なんですか?」
「聞いとけよ時間ねえんだから……。次、来た時私にサービスな」
「へ? わかり……ました?」
「ようしいい子だ。いい子には手を貸してやるよ。私は優しい女神様だろう? 60秒だ。60秒だけ、私の神眼を貸してやる。見てえもんがあるならそれで勝手に見ろ」
神眼って……あ……。
ありがとうございます!
「どうせまた来るんだろ? 来れる理由は良く分かんねえけど、またな……イツキ」
この世界から消える瞬間、笑顔を浮かべたアトロス様はエミリーに似てやっぱ美人だな……と思うのだった。
※
……っ。
なんかアレだな……痛みを感じると、現実だなって強く思うな……って、それどころじゃねえ!
「あ、目を覚ましましたか? 後輩君」
「リートさ……っっ!!」
「どうしました?」
どうしたもこうしたも全裸!
リートさんなんで全裸って、全てを見通す祖の神眼だ!
「お兄さん? 大丈夫なのです!?」
「ちょ!」
回り込まないでくれミィ!
流石に友人の恋人の裸はまずい!
誰にも気付かれなくとも後々罪悪感で押しつぶされそうだ!
「目をぎゅっと瞑っているのです。傷が痛いのですか……?」
純粋に心配されている事がとても申し訳なくなって……って、違う!
そんな事をしている場合じゃない!
「ちょ、頼む! 誰も俺の前に立たないでくれ!」
集中力が削がれてしまう!
「なに? どういう事よ主様」
「悪いけど時間がない! いいか? いいな? いないな!?」
残り何秒だ!? 40秒あるかないかか!?
見たい物……当然、ウェンディ……だが!
先に魔道具だ!
公爵領……ウェンディが中にいる結界の装置、魔道具の場所を……見せてくれ。
願い、瞳を開いた瞬間に、景色がぐるりと回りマルチタスクのように四つの光景が見える。
そこには、大きな魔石とそれを使った魔道具が見えた。
それと同時に、一瞬にしてやってきた視覚の変化に伴う気持ちの悪さを飲み込んで、瞬時にその座標を頭に記憶しようとするが、無理だ。時間が足りない。
「主君……目から血が流れてるぞ!?」
「っ……」
なんだよ。代償でもあるのか?
っ、余計な事を考えさせないでくれよ。
「旦那様!? 止血しないと……」
「っ、今はいい」
出血など、どうでもいい。
今最優先にすべきことは、結界の魔道具の位置を知る事だ。
これを知っているか知らないかで、これから出来る手段がもっと増えるはずだ。
覚えるのが無理ならば……書けばいい。
おあつらえ向きに血が流れてる上に、真っ白な包帯もあるからな。
残り……15秒くらいか。
10本の指に血を付けて、さっと書きつつ頭でも覚えておく。
字が汚くとも、俺があとで読めればいい。
焦るなよ俺。迅速に……冷静に……あと少し、もう少しだけ……出来た。
そして――。
「……ウェンディ」
時間にして数秒だろう。
見た事もない文字だらけの部屋。
二つの回るリングに囲まれた中に水球を作り、その中に膝を抱えるウェンディがいた。
表情は暗く、悲しげで……小さく、唇が動くのを確認できた。
『……ご主人様』
聞こえはしなかった呟きに、きゅっと唇が結ばれるのと同時に目の前の光景が元の錬金ギルドのものへと変わってしまう。
いつの間にか手を伸ばしていたようだが……むなしく空を切っていた。
「主、大丈夫?」
「……ああ。大丈夫だよ」
「主君……その数字は……」
「結界の魔道具の座標だ」
「なんでわかるようになったんすか? それに、なんか様子がおかしかったっすけど……」
「わかってる。後で説明はするけど……悪い、もっかい倒れる……そのまま書いた数字をメモして残しておいてくれ……。分からないところは後で……俺が……」
ああ、くそ情けねえな……。
もう少し……もう少しだけ、ウェンディを見ていたかったな……。
あんな顔させちゃ駄目だよな。
幸せにすると誓ったんだろう。
だから待っててくれ。
俺が……絶対に助けるから。
また、意識を失った。
神の力を借りた反動か、傷口が増えて血がまた流れたからかはわからないが、しばらく動けそうもないだろう。
もう一度神の世界とやらに行けるのであれば、アトロス様にお礼を申し上げたいところだ。
サービスとやらも、全力でさせてもらいます。
助かりました。恩に着ます。