軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12-5 愛する人の為に 大事なお話

朝食を取り終わった後、ラズとクランの目的を叶えるために、俺達は仕事部屋である錬金室に来た。

ラズとクランは俺の生徒でその科目は錬金。

となれば、仕事場が見たいというのは必然であろう。

仕事場に人が立ち入るのを嫌がる人もいるが、俺は特には気にしないのでそのまま二人を招き入れる。

「わー! ここがせんせーのお仕事場かー!」

「わはー! 格好いい椅子だよぉー!」

「はしゃぐのはいいが、ぶつけて物を壊すなよ?」

「「はーい!」」

いいお返事。

随分と楽しそうだな。面白い物は別においてないんだけど。

ちゃんとバイブレータは隠してあるし……。

きっと帰ったらクラスの子達にも話して、他の生徒達がアインズヘイルに来た際は遊びに来るんだろうな……。

ここに来るのもじゃんけんで勝ち取ったって言ってたもんな……。

でも、ちょっとその前に野暮用を……。

「「せんせ」-?」

「しぃぃー……」

「ギルドカードで連絡ー?」

「誰に誰にぃー?」

「アイリスなんだが……出ないんだよなあ」

アインズヘイルに帰ってから何度か連絡しているんだが、タイミングが合わないのか出てくれない。

まあ、あいつの立場を考えると忙しいんだろうけど、レスポンスは良い方だったと思うんだがな……。

仕方ない、また時間をおいてかけてみるか。

「「せんせ!」ー!」

「ん?」

「「ん!」」

「……いや、無理だろ」

何故か俺の仕事椅子にラズが座り、クランがその上に乗っていて二人して俺に向かって手を広げているのだが、乗れと?

「ほらー! やっぱりラズが上じゃないとなんだよぉー! おっぱいを使うんだよぉー! 押し付けるんだよぉー!」

「クランの大きいお尻でせんせーの上に乗ればいいんだよー! クランのお尻の方が大きいんだよー!」

「そう言う問題じゃないだろ……」

「「あう」」

とりあえず、体罰チョップ。

酷いよぉと涙目を浮かべているが、愛の鞭だ。

というか、痛くするほどした覚えはない。

「ぶたれたよー! でも痛くはなかったよ!」

「お父様にもぶたれたことないのにぃ!」

「傷物にされたよー! これはもうアレだよ!」

「責任を取ってもらうしかないんだよぉー!」

「……お前ら、楽しそうだな」

「「うん!」」

途中からすっかり笑顔でこうしたからかいを続けていく二人。

なんというか、まだ教室でこいつらに教えているような時の感覚だな。

少し前の事なのに、どこか懐かしく、俺も少し楽しく感じてしまう。

「「せんせ」ー!」

「ん? 今度はなんだよ」

「私達はあれから香水を沢山作ったんだよ! だから褒めてしかるべきだと思うんだよー!」

「いっぱい成長したんだよぉー! だから、褒めてしかるべきだと思うんだよぉー!」

「あー……」

そういえば二人が来た理由は新作の香水の試作品を持ってきたんだったか。

俺がいなくなってからもクラスメイト達と協力し、順調にプロジェクトは進んでいるらしいしな。

王都では既に大盛況。

貴族用は勿論の事、平民も憧れの貴族様に少し近づける、普段の生活にちょっとした楽しみをと、話題になったそうだ。

ただ、あまりにつける人が増えたために匂いが集団化して過多になりそうなため、すぐさま新作を出して調整等も行ったらしい。

教室で初めて出会ったあの頃に比べて随分と成長したなと思えるよ。

だから、素直に褒めてやってもいいのだが……。

「褒めるって……よくやったな。で、いいのか?」

「もっとだよ! せんせーは出来る子だからもっと出来るはずなんだよー!」

「具体的には私達の頭に手を乗せて左右に揺らしてみると良いと思うんだよぉー!」

「頭を撫でろって事か? 別にそれくらいは構わないが……よく頑張ったな」

「おお……。思った通りこれはいいよー……」

「ああー……櫛も上手だったけど、撫で撫でで天下が取れる実力だよぉー……」

二人が目を細めて気持ちよさそうにしているのだが、頭を撫でているだけだ。

何というか、子供というか……むしろ小動物的な感覚だな。

うりうり。ここか? ここがええのんか?

錬金で鍛えられ、尻尾ケアで修練を積んだ俺の指先は最早長所とも呼べるほどに匠だと自負し始めたところだ。

「「あうー」」

「……あの、お楽しみのところ悪いのだけど、私もお仕事していいかしら?」

「ん? ああミゼラ悪いな。勿論構わないぞ」

「ええ。それじゃあ失礼するわね。あ、別に楽しんでても構わないから」

「あのー……もしかして、せんせーのお弟子さんですか?」

「…………ええ。ハーフエルフのミゼラです」

ミゼラの自己紹介を聞き、二人はごくりと先ほどまでの元気な様子を置いて静かになる。

ハーフエルフ……そして、彼女達は貴族である。

ハーフエルフの差別は、貴族からのお触れである以上彼女達も――。

「……じゃあ、私達の先輩だよー!」

「……え?」

「私達も先生の生徒! でも、先にお弟子さんがいるから姉弟子って奴になるんだよぉー!」

「それは……そうかもだけど……あの、私は――」

「ハーフエルフ……?」

「そ、そう……なのだけど」

ハーフエルフはこの国では格下扱いとされ、差別が日常的に行われている。

それも、貴族を主導としてだからミゼラも緊張を隠せていない。

だが……。

「「我がカラント家は騎士の家系。騎士とは王の剣であり、悪を討ち、弱き者を守る盾である」」

二人が普段の調子ではなく、胸を張り凛とした声を揃えている姿は、誇りを胸にする貴族の姿そのものだった。

まあ、この二人が差別的な行動をするだなんて想像も出来なかったけどな。

「とはいえ、貴族社会じゃあ、大手を振って言うことは難しいけどね……それでも、私達は貴方を姉弟子として尊敬するよー!」

「せんせの一番弟子……羨ましいよぉー!」

「……ふふ。それだけは絶対に渡さないわよ」

ミゼラの緊張もどうやら解けたみたいだな。

……王国の貴族が、皆こうであれば……いや、元をたどるとその原因は王国でも位の高い公爵家だから、逆らえないのも仕方がないと考えるべきか。

まあ、そんな公爵家を放ったままの王家もどうかしていると思うがな……。

しかし、大会の時に見たあの王様がねえ……。

人の良さそうな方に見えたし、現にそこ以外の政策については良い王だとオリゴールも言ってたな。

あの後、ミゼラと姉妹は仲良く錬金のお話で盛り上がっていた。

ミゼラのポーションの成功率の高さに驚き尊敬の眼差しを送る二人と、謙遜し香水を作る二人の方が凄いと褒めるミゼラ。

うら若き乙女たちはこれから切磋琢磨していこうと結束し、とても楽しそうであった。

二人は学園を休んできているので、もう数日ここに滞在した後に王都へと帰るらしい。

もしかしたら、もう一度会える機会があるかないかとのことで、次の大型連休では皆と一緒に来るそうだ。

その際は家に泊めてほしいと言われたのだが……改装して広くなったとはいえ10人も泊められる部屋はない。

相部屋になるぞと諦めさせるために言ったら、望むところらしい。

なんだか合宿みたいだなと話すと、その線で学園に打診するそうだ。

……皆、お父様やお母様から許可を取ってくるようにとお伝えしておいた。

「……で、なんでまだいるんだオリゴール」

「お子様は帰った……つまりここからは大人の時間さ!」

朝食が終わった後から実はずっといたらしい。

……というか、俺の部屋のベッドで勝手に寝ていたそうだ。

シーツを洗い、代えようと思ったウェンディが気づくまで枕に顔を押し付けてパンツ一枚で寝ていたそうだ。

その後も帰るわけでもなくまったりと過ごしていたかと思うと、ラズとクランを見送った後に錬金で仕事をするかと思っていたら入って来たのだった。

「なんだ、何か用でもあるのか?」

「……うん。大人の時間の大人のお話さ」

「話……?」

「うん。大事な大事なお話。とてもじゃないが、他人がいたら話せない大事なお話だよ」

なんだろう。

雰囲気が普段のものとは違って、年相応の落ち着きと威厳を感じる。

これはまさか……愛の告白かっ!

や、やるじゃないかオリゴール雰囲気を出してきたな。

「ん? なんだいお兄ちゃん。もしかして、愛の告白だとでも思ったのかい? 残念ながら、愛の告白ではないんだよ」

「お、思ってねえし……」

「ふふふ。なんだよ。照れてるのかい? それなら、今後の攻め方の参考にさせてもらおうかな? やっぱり正攻法に弱いんだねえ」

「……じゃあ、なんだよ。大事な話って」

楽しそうに笑うオリゴールだが、落ち着きのある大人の笑い方だ。

……どうやら、随分と真面目な話らしい。

「あのさ、お兄ちゃんはアインズヘイルが好きかい?」

「ん? ああ。好きだよ」

「そっか……それは良かった」

なんだろう。

オリゴールが領主を務めるこの街が好きかどうか聞きたかっただけなのか?

そのために、ほぼ丸一日を費やして俺が一人になるのを待っていたのか?

「ふぅ……丸一日かけて覚悟を決めたんだけど、ちょっと緊張するな……。当日まで先延ばししても良かったんだけどね……。でも、お兄ちゃんはボクの大事な人だからね。ちゃんと話しておかないとね」

「ん? なんだよ改まって……王国からアインズヘイルが独立でもするのか? それで俺に残って欲しいって? 仕方ねえなあ」

なーんて……なーんて?

ん? なんだその驚いた顔は。

え、嘘、当たった? またまたー。

「……驚いた。見抜かれてた?」

「え、まじ?」

「え?」

「え?」

少しの沈黙――。

「て、適当に言っただけかー! うわ、びっくりした。お兄ちゃん心を読めるのかと思ってびっくりした!」

「まじかよ! え、何? 独立するの!? アインズヘイルが!? 大丈夫なの!? 普通に戦争が起きるくらいの出来事じゃないの!?」

「あ、ああ、勿論そのあたりは考えてあるよ。戦争をするつもりも、死者を出すつもりもないんだよ。そのためにロウカクや共和国にまでボクが協力を取り付けて、つい先日帝国にも協力をしてもらえることになったからね」

「あ、そう……なら、良いか」

「え、いや、良いの?」

「ん?」

「さっきのは調子がいい事を言ってしまっただけだろう? だから今、ちゃんと考えて欲しいんだよ。別に、この街を出ていっても恨みはしないよ。家の代金もきちんと保証する事になっているからね。街の皆と協力して貯めてあるし……。まあ……だからお兄ちゃんに払える霊薬代が足りなかったんだけどさ……。あ、勿論お兄ちゃんがこの街に残ってくれたら嬉しいんだけど、無理はして欲しくないし、もし他国に住むようになっても遊びに――」

「いや、だから良いんだってば。俺はアインズヘイルから出ていかねえよ」

なんで途中から矢継ぎ早に俺がこの街に残らない話になっていくのだろうか。

さっきから良いと言っているんだがな?

「え……でも、王国なら隼人とか、そういえば聖女様もお友達だろう? 今日来た双子だって……」

「あのなあ……俺はこの街が好きなんだよ。ここから拠点を移す気はないし、俺の実家はこの家だ。そりゃあ、戦争が起きるって言われりゃあ困るがな。でも、そうはさせないんだろう?」

「でも、他の皆の意見だって……」

「アイナ達はアインズヘイルが拠点の冒険者だ。その冒険者ギルドでポーションを卸しているミゼラ。仲の良い買い物先のあるウェンディ、お気に入りの牛串屋があるシロ。まあ、問題ないと思うぞ」

恐らくだが、アイナは「そうか。わかった」といい、ソルテは「はいはい。別にいいわよ」と言い、レンゲは「了解っす!」、ウェンディとミゼラは「わかりました」で、シロは「ん」と答える事だろう。

「あーでも……王国に行けなくなるのは少し困るか……」

国が変わると気軽に遊びに……いや、転移で隼人の家に登録してあるし、そうでもないか。

帝国やロウカクにだっていつでも飛べるし、大した差はないだろう。

それに、王国でないのならば公爵とやらの影響力も弱まるという打算もある。

「んっと……一応話し合いはするとは思うけどね……。王がまともな思考であれば、問題なく締結できるとは思うけど……」

「そっか。ならそれに期待しよう」

「……」

「オリゴール?」

なんだ? どうした?

下を向いてぷるぷるして、もしかして泣いているのか?

そうかそうか。俺がこの街に残る事がそんなに嬉しいのか!

「軽い! 軽いよお兄ちゃん! ボク相当悩んだんだぜ!? お兄ちゃんと離れるのは辛いなーって、でもこれはボクらの悲願だし、お兄ちゃんの自由を妨げるわけにもいかないし! 今日だって話す機会をうかがってたら寝ちゃうくらい寝不足になるくらい不安だったんだぜ? それをなんと……なんという軽さ……! ボクが悩んでいたのが馬鹿みたいじゃないか!」

「いやお前、寝る際服脱いだんだろ? 余裕あるじゃねえか」

「ボクは! 寝る時! 全裸派だ!!」

それはパンツを穿いていたのが悩んでいた証拠とでもいうつもりだろうか?

そもそも人のベッドで脱ぐなよ。

「全くもう……本当に全くもうのこん畜生だよ。馬鹿お兄ちゃんめ」

「まあなんだ。これからもよろしく頼む」

しかし、独立か……通貨とかどうなるんだろうか?

お金は……結構溜まっているのだが両替とかしてもらえるよな?

まあ色々心配事はあるが、この街が好きなのは事実だし……それに。

「うん! これからもよろしく頼むぜお兄ちゃん!」

満面の笑みで言われちゃなあ……。

何か手伝えることがあれば手伝おう。

矢面に立つつもりはないが、お前は笑っているのが一番いい。

これからもこの街で……だから、今ここで服を脱ごうとするな。

それはお礼じゃなくて、お前の欲求だろうが!