軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11-25 シュバルドベルツ帝国 不穏

今日も昼間からゆっくりと寝て……という訳にもいかないんだよな……。

「ありがとうございました。お客様なのにお手伝いしていただいて申し訳ございません」

「いえいえ暇でしたので。むしろ、他に何かやることがあれば遠慮なく言ってください」

「そんな、お客様にこれ以上お仕事をさせるわけにはいきませんよ! ゆっくりしていてください!」

「そうですよ! シシリア様に怒られてしまいます! ゆっくりなさってくださいな!」

うーん……ゆっくり、ね……。

そりゃあそんな生活は俺の理想だし、鍛錬を済ませて仕事もせず寝ていられるのなら最高ではある。

だが、これ以上ゆっくりしていたら人として駄目な気がしたので、メイドさんのお手伝いをしたのだよ。

人が働いている時間帯に惰眠を貪るのは最上の贅沢だ。

……だがそれは働いている人が近くにおらず、姿が見えない事が大前提である。

すぐ近くでせっせとメイドさん達が掃除や洗濯などなど忙しそうにしている中で惰眠を貪るのは、はっきり言って贅沢どころか申し訳なさが湧いてくるので、メイドさんのお手伝いをすることにしたのだ。

「んんー……厨房覗いて皿洗いでも手伝ってくるかな……」

なんか一度お手伝いすると他にもやることがないか探したくなるよな。

それか日頃お世話になっているメイドさん達にお菓子でも作らせてもらおうか。

プリンかな? やっぱりプリンが安定かな?

Brrrrrr……。

っと、どんなプリンにしようか悩んでいたらギルドカードが震えだしたので取り出すと、そこにはアイリスの文字が。

「アイリスか?」

『うむ。わらわである。息災であるか?』

久しぶりに聞くアイリスの幼い声。

気のせいか、少し疲れている……かな?

「ああ。特に何も無く元気だよ」

『そうかそうか。シシリアに懐いてはおらぬだろうな』

「懐いてって……普通だよ普通」

『お主の普通は信用ならんからな……。どうだ? 帝国は楽しんでおるか?』

「ああ。こっちはこっちで面白いけど、そろそろアインズヘイルが恋しくなってきたかな」

帝国も良かったんだけどな。

もし最初にやってきた街がここであれば、俺はここから離れなかったかもしれないが、アインズヘイルを経験してしまうとな……。

あの街は領主はまあ……プラスマイナス半々として見てもいい街だからな。

『そうか……。すまんが、こちらも少々予定が狂ってな。動向を窺う者を潜ませようと思ったのだが、先約があったようでな……。奴はあれから家に引きこもりきりだそうだが、わらわは警戒されている故、すまんが現状得られる情報は最新とは言えぬ。他の者も選別はしておるのだが……難航しておる』

「あー……それじゃあまだ戻れないか……」

『そうでもないぞ。あやつが帰って来たからな』

「あやつ?」

『うむ。おぬしが良く知っている男よ。新たなダンジョンを踏破し、三体目の魔王をも倒した男。伯爵にして、英雄と譽れ高きあの男だ』

「隼人か!」

『うむ!』

はあああ……隼人、魔王を三体も倒してたのか……。

そういえばダンジョンの最奥に魔王がいると出ていって、そのままだったな……。

でも、無事に帰って来たのか……良かった。

『近く王都では祝いの凱旋が予定されておるので間違いない。さらに言えば、どこから聞いたのか知らぬが公爵領に向かっておるらしい。隼人が公爵領にいるのであれば手出しはして来ぬだろう』

「そうなのか……」

『うむ。英雄の逆鱗に触れたかの……まあ、自業自得じゃがな』

「そっか……隼人が……」

また世話になっちまうな……。

次に会った時はラガーで……って、未成年か。

それじゃあ、味噌を使った特製料理尽くしで労うとしようかな。

「わかった。こっちでいろいろお世話になった人達に挨拶をしたら戻るとするよ」

『うむ。ゆっくりで構わぬからな。出来れば解決してからの方が望ましいじゃろう』

「ああ。急いで帰ろうとは思ってないよ。……アイリスも、色々手を尽くそうとしてくれたんだろう? ありがとな」

『わらわは大したことはしておらぬよ。ふわぁ……それに、わらわは一度手に入れたものは手放さぬのだ。それも、特に気に入っているものほどな。だからまあ、気にするな。褒美はいつも通りアイス食べ放題で良いぞ』

大した事はしていない……とは言いつつも、欠伸をしてしまうあたり八方手を尽くしてくれたんだろうな。

それでも、普段通りに心配させぬようにと気丈にふるまってくれているのだろう。

「お腹壊しても知らないぞ? ……帝国産のチョクォを使った特製アイスを用意しておくよ」

『うむ! 楽しみにしておくぞ』

通信が切れ、ありがたいな……と、少し物思いにふける。

しかし、流石隼人だな。

魔王をまた倒して帰ってきたと……。

はは、俺の親友はすげえなあ。

でも……帰ってきてくれてよかった。

「……よし。立つ鳥跡を濁さずだ。皆にも伝えて、お別れの挨拶をしないとな。……でも、まずはプリンを作るか」

ここを離れるのであれば、尚更メイドさん達にはお礼をしないとな。

厨房にお邪魔して、プリンの作り方をメイドさんに教えつつここから近いうちに去ることを告げると驚かれ、止められたのだが、また来ると伝えると解放してもらえたのだった。

そして後日――。

「ほう。帰るのか」

「ああ。世話になったな」

メイドさん達、ミルクとココア、それに光ちゃんと真達に王国へ戻ると話をすると、『『いつでも頼ってね! すぐ駆けつけるわ!』』、『今度遊びに行きますね! その時はイツキお兄ちゃん家の自慢のお風呂に一緒に入りましょうね』『なっ……兄貴どういう事っスか!!?』『はいはい。真は静かにしてなさい。またね、イツキさん』『またお会いしましょう! アイナさん達も……その、お元気で!』と、いった次第であった。

そして、最後の最後にガルシアとシシリアへ報告に参ったのだ。

「はっ。世話をしたのは姉上であろう。余はなにもしておらぬ」

「我も世話というほどの事は出来なかったぞ。ガルシアが仕事を入れるのでな。はあ……こんなに早いのであれば、仕事などさぼって既成事実を作るべきであったわ」

「あ、姉上……? 報告ではその男は食っちゃ寝ばかりしていたダメ男では?」

「お主は、鍛錬をさぼるこの国最強の兵士がいても評価せぬのか? 勤勉である事は美徳ではあるが、実力が最優先である。それこそが、帝国であろう?」

「それはそうですが……ぐぬぬぬ! 早く帰れ! 貴様がいると姉上が余に優しくないのだ!」

顔を背け、手でシッシッと追い払うようにするガルシア。

「ははは。もう帰るって……。シシリア、ラガーとチョクォの手配、ありがとな」

「ああ、土産の話か。構わぬよそれくらい。また来たときは馳走するゆえ、必ず我が家に泊まると良い」

シシリアのおかげで大量のラガーとチョクォを確保できたからな。

恐らく個人では仕入れられない量だと思うのだが、融通してくれて助かった。

「貴様……姉上の名を呼び捨てに……! ええい、次は姉上の家など許さぬ! 貴様に姉上は渡さぬぞ!」

「はあ……我は良い年を超えているのだがな……」

呆れるシシリアと唸るガルシア。

そのそばからガルシアのお嫁さんらしき人が一人、俺の方へとやってきて何か伝えたいことがあるようなので耳を貸す。

「一応……ガルシアは姉君のお仕事を代わられていたのです。問題を解決してくれたのだし、お礼として帝国を満喫できるようにと……。ですが、大事なお仕事が続いてしまい、どうしても外せなくて、なかなかシシリア様に休んでいただく事が出来なかったようです。でも、本当はいっぱい感謝していて、あの男はやる男だと、珍しくお認めになっておられたんですよ」

「へえ……意外……でもないか。筋は通す男だもんな」

「はい。ガルシアを理解してくださる方が増えて嬉しく思います」

素敵な笑みのお嫁さんだな。

しかも流石おっぱい信者のお嫁さん、かなりでかい……。

癒し系のお顔とその大きなおっぱいでガルシアの癒しとなっているのだろうな。

「おいアルカ。何を話している!」

「いいえなんでもありませんよ。それでは、またいらしてくださいね。ガルシアも喜びますので」

「余は喜ばぬぞ!」

「我は喜ぶ故、また何時でも来るがよい」

「おう。また遊びに来るさ」

「来るなー!」

ガルシアが子供のように叫び声を上げるが、俺はまた来る。

ラガーやチョクォが無くなり次第来ようと思っているので、そう遠くはないだろうな。

「もしもし、隼人か?」

『イツキさんですか?』

「おーう。ダンジョンから帰ってきたって聞いてな。久しぶり」

『お久しぶりです』

「無事でよかったよ。それで……なんか、公爵家に向かってるって聞いたんだが……」

『……ええ。イツキさんのお話を聞きましてね。ボクに任せておいてください』

「あー……いいのか? なんか面倒を押し付けるようになっちまったが……」

『構いませんよ。っと、すみません、ちょっとこれから出ないといけないので、失礼します』

「あ、悪い。忙しかったか。それじゃあ、レティ達にもよろしくな」

『……はい。それでは、失礼します』

やっぱり、声を聞くとより安心するな。

無事に帰ってきたようで良かったが……ただ、なんでだろう、少し……具合が悪そうな、いつもと違うような雰囲気を感じた気がした。

……まあ、ダンジョンを踏破して魔王も討伐して間もないのだし、疲れていて当たり前かと、なおの事悪いな……と、その時は思う事にしたのだった。

暗い部屋、外は大雨が降っており、時折雷鳴も轟くような悪天候は、僕の心の中のようだった。

「いやあ……お見事。上出来ですな。その調子で頼みますぞ」

ねっとりと絡みつくような話し方。

暗い部屋を最低限のランプが照らし、この屋敷の主人ゲルガー・ドルガス公爵もその光に照らされて嫌悪感のある笑みを浮かべている。

「……貴方の目的はなんなのですか? どうして、このような真似を……」

「それは、傍に居るそのエルフが良く分かっている事でしょう? あの男の傍に居る女。ウェンディ・ティアクラウンが何者なのか。個人が、それも庶民が所有して良いはずがない存在だと……」

「……水の大妖精ウェンディ・ティアクラウン様……ね」

エミリーが全てを分かっているかのように名前を上げる。

……僕はエミリーからウェンディさんの正体については聞いていた。

だけど、エミリーはウェンディさんの意志を尊重し、自ら話すまではイツキさんにも話さぬようにと言われ、僕もそれに同意していた。

「流石は精霊術師のエルフ。その通り。精霊達の長にして、6人しかいない大妖精が一人。生命の源たる海の女王……そんな彼女が、個人の所有物となっているなど、許されないでしょう?」

「……では、彼女を解放するだけだと?」

「いえいえ。せっかく王国にいるのですから、王国の為に活用しないなど愚の骨頂、爵位を持つ者として恥ずべき行為でしょう。大妖精に見合った高貴な者が管理し、王国の為に貢献するべきかと私は思うのです」

……下衆が。

それが自分だとでも言いたいのだろう。

それに、貴方が王国の為に働くなどしない事はわかっている。

「……それならば、勝手にご自分ですればいいでしょう。どうして僕達を巻き込むのですか」

「貴方とて王国の伯爵。それに、譽れ高き英雄な上に私の親戚である王の娘、シュパリエと婚約もしているのです。王国の為に協力するのは当然では?」

それに……と、公爵は続ける。

「貴方と彼は親しい仲なのでしょう? 油断を誘うにはもってこいではないですか」

「っ……」

それが本命だろう。

僕とイツキさんの仲を壊す事すら、この男にとっては楽しみの一つなのだろう。

出来る事ならば今すぐこの男を切り殺してしまいたいが、僕にはそうすることが出来ない……。

「怖い顔で睨みますねぇ。ですが、貴方は私を殺せない……私に危害を加えようとすれば、頭痛でのたうち回るとは奴隷契約とは素晴らしいものですな」

「……この件が終わり次第、解除してもらいますよ」

命令を聞かせるためではなく、自らを殺させないための保険として奴隷契約を結ばせるとは抜け目がない。

「ええ勿論。英雄隼人を奴隷にしていては、流石の私もリスクがありますからね。それに、私の目的はただ一つでございますから……」

「……目的を達成したら、レティを返してもらえるのでしょうね」

「返すなどと人聞きの悪い……。元々私の婚約者ですよ? それを連れまわしていたのは貴方でしょう?」

「破棄されたと聞いておりますが」

そして、婚約の話は双星の美姫に持って行っていったと噂を聞いている。

ただ、カラントさんに体よく断られたという事も聞いてはいるが……。

「それは勘違いですな。いやはや困ったものです」

あっけらかんと言ってのけるこの男の態度に、歯を砕かんばかりに噛み締めてしまう。

僕を利用するために権力を用いてフレイムハート家に圧力をかけ、勝手に破棄した事実を無かったことにしたのだろう。

以前……レティの祖父にした時のように、法など意味を成さないかのように……。

「ですが……ウェンディ・ティアクラウンが手に入るのであれば正式に婚約は破棄しますよ。勿論、手も出しませんし、指一本触れません。目的を達成し、貴方が私を裏切らない限りはフレイムハートの家にも何も致しません」

「……約束ですよ」

「ええ勿論。貴方がこちらについてくれて、とても感謝しておりますよ。英雄、早川隼人卿」

厭味たらしく英雄とつける貴方に感謝などされたくもない。

その顔に張り付いたうすら寒い笑顔を今すぐ引きはがしてやりたいくらいだが、ぐっと堪えて睨みつける。

「……しかし、たかが女一人の為に大事な友を裏切れるものなのですな」

「……」

「本当に助かりましたよ。流石に私も帝国で何かしでかす訳にはいきませんでしたが、これで彼は王国に帰ってくる。その時点で、私の勝利は決まったようなものですからねえ」

「勝利? ……ウェンディさんを連れてきたとしても、貴方のものになるとは思えませんがね。奴隷契約は双方の同意が必要です。それに、勝手に上書きなども出来ないのでは?」

たとえ奴隷商人であっても勝手に主人の書き換えは出来ないはず。

ただし、契約を行った奴隷商人であれば可能性はなくはないが……。

「それは問題ありませんよ。どの奴隷商人が契約を交わしたかもわかっていますからね。それに……私には人の心など簡単に変える事が出来るのです。貴方にもして差し上げましょうか? 友を裏切る事への罪悪感を少しでも減らして差し上げますよ」

「……僕には洗脳も魅了も効きませんよ」

「洗脳でも魅了でもございませんよ。私だけの…… 特別(スペシャル) なのですよ。……嗚呼この力で、もうすぐ我が手にウェンディが!」

自信に満ち溢れた顔、そして歪んだ笑顔と瞳の奥の狂気。

何が特別なのかはわからないが、この自信であればその力はレティにも及ぼされる可能性がある……。

「ああ、わかっていると思いますが隠れて連絡などはしないように。私の『オボロ』がいつでも貴方達を監視していますからね。何かあれば……すぐにでもレティ嬢を――」

「わかっていますよ……」

気付いていない訳もなく、言われるまでもない言葉を背中に部屋を出る。

今はこの男のいう事に従うしかない……。

「そうですかそうですか。それと……エルフの方には別で頼むことがありますから、そちらもよろしくお願いしますね」

「……ええ」

エミリーと廊下から外に出ると、ミィとクリスが心配そうな眼差しを僕に向けていた。

だが、僕は今彼女達の瞳を見つめ返すことが出来なかった。

「隼人様……」

「隼人……」

「……雨、止まないな」

窓の外の振り続ける雨。

窓に映る僕のなんと情けない顔だろう。

そして、僕は最愛の人の顔を思い浮かべた。

家を人質に取られ、公爵の傍に行ってしまった彼女の最後の表情を……。

イツキさん……僕は……。